異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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先日は失礼しました。改めまして、本来のサムライガール敗北回になります。
正論に負けるサムライ少女をお愉しみ頂ければ幸いです。

なお、今話もまた女神様の出番が殆どありません。理屈っぽい回だと出すのが難しいです。なんとかせねば・・・。


第6章

「・・・ちっ。町中でいきなり刃物持ち出す冒険者か・・・イカレていやがる・・・。

 おい、どけハチ。お前は早く冒険者ギルドへ通報しに行ってこい。この場は俺が責任もって預かってやるよ」

「兄貴!? で、ですけど俺らのせいで兄貴にまで沙汰が及んじまったら・・・」

「構わねぇし、もう既に及んじまってるよ。

 奴さんはお前らと俺を区別する気なんざ、端からあるまい。自分が悪と決めつけた連中は残らず斬らんと気が済まない正義バカの目をしていやがるからな、このスリットが入った着物のポニーテール姉ちゃんは。

 たく・・・どうしてこうも世の中、正義正義と浮かれ騒ぐ馬鹿な色ガキが多すぎるのかねぇ。お色気パラメータに補正入れる前に、少しはINTも上げておいて欲しいんだ」

「武士道大原則一つ、強く美しくなければイズモ武士に非ず。

 天が与えし己が美を隠すは、天命に背く行為だからな。天子様も望んでおられぬ。美しき肉体にこそ、正しき心と強き魂が宿るのだ。貴様ら身も心も醜き者共には、とうてい理解し難きこの世の摂理よ。

 それ故に貴様と私は、共に同じ天を仰ぎ見ることは叶わないのだろう?」

「別に俺はアンタと同じモン見たって、全然気にはならんのだがね」

「私が気にするのだ!

 武士道大原則ひとつにして、この世の摂理。

 正義は勝つ! 悪は滅びる!

 故に正義の私の前に立ちはだかる貴様等は例外なく、この世の絶対悪なのだ!」

 

 

 ・・・・・・なんでしょう、この展開。

 勧善懲悪の時代劇から極道モノへとシフト変更。さらには時代錯誤などこぞの騎士道一直線な熱血少年みたいな事言い出しやがりましたよ、このエロ着物なサムライガールさん・・・。

 

 挙げ句の果てには悪役ポジのはずのヤクザ屋さんが妙に人格者風味を出し始めてるし・・・マジでどうするよこれ? 介入しても大丈夫なもんなん?

 

 会話内容が途中からヒドくなりすぎて、介入する機会を逸してしまいました・・・。

 

 

「・・・はぁ、仕方がありませんか。多少空気を読めない登場の仕方になりますが、やむ得ませんよね」

 

 なにしろ今のままだと介入する隙が生まれそうにない。私なんか必要とせず格好の良い展開になってしまいそうです。

 それで平和的に解決するなら放置するんですけどね。あの武士道バカなサムライガールさんに平和的解決とか期待するのは望み薄そうですから。

 

 やっぱりやるしかないのか・・・。はぁ・・・。

 

「ーー天下の往来で白昼堂々刃傷沙汰とは穏やかじゃありませんねぇ。

 貴女の唱える武士道とやらでは、子供の見ている前での殺人が正しく尊いとでも記されているのですか? だとしたらそんな駄作、とっとと燃やすなり捨てるなりした方がよっぽど世のため人のためになっているのでは?

 大衆から求められない作品は、すべからく呪われますよ?」

 

 無理矢理な介入のために攻撃的な論法で注意を引かざるを得えなくなり、あまり好きではありませんが、悪態じみた言い方でもって二人の間に入れる隙間を作り出すことに成功しました。

 

 立ち止まって口と動きを止めた二人の中間地点。その当たりを目安にして私はゆっくりと歩を進めていきます。

 

「君は何者だ? この戦いは私が悪と戦う正義の戦だ。無関係な奴は引っ込んでいたまえ。たとえ怪我しても治してくれる都合のいい相手は、この場に存在せぬのだからな」

「貴女はどうもでいいです。私が用があるのは貴女ではなく彼ですから。

 関係のない赤の他人はすっこんでいて貰えせんか?」

「・・・・・・」

 

 不愉快そうな表情で口をつぐまれたサムライガールさんから目線を逸らし(正確には始めから向けてはいませんでしたけど)ヤクザ屋さんっぽい人たちのリーダー格さんに声と視線を向けて固定します。この人が本命なのでサムライさんは無視してしまって問題なしです。

 

「はじめまして、ヤクザ屋さん。私はセレニア。今さっき冒険者ギルドに登録してきたばかりの新米冒険者です。

 ーーさっそくですが、ヤクザ屋さん。私を護衛に雇いませんか? 今なら開店セールということでお買い得ですよ?」

「・・・なに?」

「見たところお困りのようですからね。彼女が冒険者ならば相対するのに冒険者が必要なのは自明の理。そして今この場であなた方に雇われても良いと言ってくれる奇特な冒険者さんは私だけ。

 どうです? 双方にとって望ましい商談だとはお思いになられませんか?」

「・・・・・・」

 

 思案するように腕を組んで考え込むリーダー格さん。

 言うまでもなく、これは些か以上に無理がありすぎる言い分です。見た感じだけでなく実際の実力的に私と彼女の力量差は一目瞭然。少なくとも彼女と事を構えても良いとした彼なら、それが分かるはず。

 

 だからこそ、この取引の裏話には直ぐに気付くはず。なにしろ普段からやっている事でしょうからね。いつも通りのセオリーを守れるならば、そっちの方がいいに決まっているのです。

 

「・・・いいだろう、アンタを雇おうじゃないか。是非とも護衛として、俺たちを守り通して見せてくれ。

 それと今は緊急事態だ。報酬などの話は後にしてもらうぞ? 無論、正当な代価を支払うことだけは確約させてもらうがな」

「ご契約いただき有り難うございます。契約書などの手続きは事務所がない身ゆえ省略させていただくことを御了承ください。

 代わりと言ってはなんですが、契約は必ず遂行させていただきますよ。

 絶対にあなた方には、掠り傷一つ付けさせやいたしません」

「・・・・・・随分と大風呂敷を広げる女の子だな・・・」

 

 不意に正面から危険さを感じさせる女声が聞こえ、振り返ればそこに、怒りに震えるサムライガールが。なんかのCMみたいで良い響きでしたね、今のナレーション。

 

「念のために聞くが、君は正気か? 言っておくが私は強く、君は弱い。勝敗など戦う前から、火を見るよりも明らかだ。

 わざわざ悪党をかばって痛い思いをする必要は無いと思うが?」

 

 呆れたように首を振りながらも、諭すように語りかけてくるお侍お嬢様。

 

 確かに彼女の言ってることは正しいのですが・・・前提が違いすぎます。話も理論も成立していません。

 

 だからこそ彼女は負ける。確実に。

 

 

 

 

 ーーもっとも、私が勝つわけでもありませんけどね。

 

 彼女の敗けは、私の勝ちを意味していません。これは勝つための戦いではなく、負けることで彼女を負かす為の戦いです。

 ややこしいですねー、まったくもう。

 

「・・・返事はなし、か。少なくとも覚悟はあるという事かな。

 それならば良し。我が正義の刃でもって君の間違いを修正してやろう。

 子供であることを考慮して峰打ちで済ませてやるが・・・多少痛いのは我慢するのだぞ? 良薬口に苦しという奴だからな。

 この痛みが、君の将来を守ってくれるのだ。この身は未来ある君を守るため、自罰を込めて刃と成らん! チェストーーっ!!」

 

 刃を返して私に向けられていた彼女の刀が、気合い一閃に放たれました。

 私の右手首に峰打ちが叩きつけられ、激痛が走ります。一応は取り出して構えておいたサバイバルナイフを取り落としてしまった程ですよ。

 

 ・・・もっとも峰打ちなので痛いだけなんですけどね。

 時代劇に出てくるヘッポコ侍じゃあるまいし、この程度で死んだり気絶したりする程か弱くもありません。

 

 

 ーーあまり知られていませんが、本来の峰打ちは相手に「斬られた」と本気で思いこませなければ効かない技だったりします。

 峰打ちだと知られてしまえば木刀で叩くのとなんら変わりがない。胴払いや袈裟懸けで倒されるお侍さんなんて、現実には実在しませんよ。

 なので本当に峰打ちを使う場合、構えたときには必ず刃を相手に向けます。そして斬檄を放つ際に相手の身体に刃が触れる直前、一瞬で柄を握り返して棟で打つ。

 当然、再び構えなおした時には刃は相手に向いています。これが出来ねば成立しないのが、峰打ちという剣術の奥義。達人だからこそ出来る剣の極みの一つです。

 

 

 峰打ちとは謂わば『気合術』です。相手を生かす“尊い剣”でこそあれ、相手を格下と見下し手加減する“傲りの剣”でもある。

 殺す覚悟があって初めて成立できる剣の極みの一つ。

 

 端から殺す気のないことを意思表明するド素人侍なんかに使いこなせるほど柔な技ではないんですよ。べーだ。

 

 

 なので彼女が自らの口で「峰打ちで済ます」と言い、本当に刃を返した時点で分かる人には誰でも分かるだろう事実。

 このサムライガール、偉そうに悪人成敗とか言ってる割に人を斬り殺したことがない。完全なる殺人処女です。お話になりませんよ。

 

 町中で人を切ったことが無く、本気で人を切り殺そうという意志も覚悟もないから知識も身につかないし覚えられない。

 

 正義を信じ、自分を信じる。

 自分の正義で世を変えたい、正したいと願いながらも世の中について学んでいない。変えたいと希っている現在の社会の社会システムを、まるで理解できていない。

 

 ーーその程度だから、私みたいな小策士のつまらない詐術に引っかかるのです。

 

 

 ビィィィィィィィッ!!!!!

 

 突如として鳴り響く警告音。

 

『警報発令!警報発令!

 市街地13番地において攻撃によるダメージを感知しました。周囲の人々は避難してください。

 避難場所が分からない方は、青い魔法光の灯った街灯の下で待機を。見回り中の警邏隊各班が、避難誘導に向かっています。

 繰り返します。攻撃によるダメージを感知しました。周囲の人々は避難してくださいーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーダメージ認定警報。一定量の数値を超えたダメージを負った場合、問答無用で発令される魔法の装置だ。最低でも都市にひとつは必ずある。

 攻撃であれなんであれ、危険と判断されたダメージには即座に反応して周囲に避難を呼びかけるんだ。

 まさかとは思うがアンタ、これだけ大きな都市部の治安を現役引退した爺さん婆さんたちだけで守り切れてるとでも本気で思っていたのか? だとしたら呆れるしかないぜ、本当にな」

 

 鳴り響く警報と逃げまどう人々。その光景が心底意外であったらしいサムライガールさんは、あんぐりと大きく口を開けたまま茫然自失と化していました。

 

 その醜態を冷ややかな目で眺めやりながら兄貴さんが丁寧にも、彼女の対して状況解説して上げています。見かけのよらず、優しい人みたいですね。素直に好感が持てますよ。

 

 ・・・まぁ、打たれた右手首を押さえてうずくまりながらも痛みに呻き声を上げてる女の子をガン無視して、タバコを吸いながら敵に対して解説役やるのは正直どうかと思うんですけどね・・・。

 

「都市部の人口比率は通常の村落と比べて大凡九十倍から百倍以上。文字通り、桁が違う。とうていカバーできる数値じゃない。

 それでも限られた人員でカバーし尽くすには、タネも仕掛けもなけりゃダメなのさ。あの警報みたいにな」

 

「あの警報は、純粋にダメージ量だけに反応する。攻撃であれ事故であれ病気であろうと一切合切関係なく例外なく問答無用で鳴り響く。『攻撃ダメージ』と判断してな。

 これぐらい過剰な基準を設けないと、剣やら槍やらブラブラ持ち歩いて買い物してる冒険者から平民が身を守るなんて出来ねぇだろうが」

 

「攻撃と判定されるダメージ量は、新米の成り立て冒険者が戦闘力を損失する辺りまでに設定されている。

 なったばかりで職業にもついたばかり。当然ながらパラメータも手には入ったばかりの冒険者たちに、さほどのステータス差は生じていない。魔法使いと戦士でさえ大人と子供ほどの差はないくらいさだ。

 ま、装備可能な防具で防御力には大きく差が開いてるがな。そこら辺で職業選びに偏りが出過ぎないよう配慮されているんだよ」

 

「冒険者になろうなんて奴は大抵、故郷の村や町なんかから飛び出してきた命知らずな若造さ。熱意はあるが金がないし、その上経験も少ない。

 故郷から飛び出してきた奴に幼馴染みなり友達なりが付いてきてくれてるのは、幸運の部類としちゃ恵まれすぎだな。大半の連中は慣れない都会で右往左往して仲間を集めることすら出来やしない。

 同期と言っても出立地が違いすぎてるからな。到着した日が遅いか早いかで、そりゃ普通に格差くらいは容易に付くさ。実際に中堅どころが、成り立て魔法使いなんて仲間にするのは死んでもごめんだと断った話は有名だからな」

 

「だからこその冒険者システム。職業を選んだ際に、必ず一定数までステータスが上がるよう工夫されている。逆に成り立てで強すぎる奴には、若干上がり具合を落として微調整される。それによって冒険者ギルドは、冒険者の質と量の確保を両立させていられるんだ」

 

「話が逸れたが、つまりはそう言うことだ。あの警報が鳴り響くのに必要な条件。

 『新米冒険者が戦闘続行不可能』として認定されるほどのダメージ量、これを食らって『死亡判定』までは受けていない奴は間違いなく平凡な民間人じゃない。

 最低でも訓練か、実戦経験を経ていないと不可能だ。それくらい絶妙な計算が、あの警報を開発するときには必要とされている」

 

「警報が鳴った地域に派遣するための人員。定期的に町中を巡回するいくつかの部隊の人員。そしてギルド支部に残って集められた情報を精査し、分析する僅かな人員が居れば、この町の治安は確実に守れる。

 なにせ冒険者ギルドが対応しないといかんのは、冒険者がらみの事件だけだからな。本来であるなら過剰な人員と定数だが、都市部に支部を置いてる手前もあって住民たちには決して悪印象を持たせるわけにはいかねぇのよ。下手すりゃ町から追放されちまう。

 民間からの依頼を受けることで勢力と特権を保てている組織だ。それ故の縛りが、この過剰すぎるまでに徹底された未然に犯罪を防止するシステムな訳だな。

 平民と書いて依頼主と読む、すなわち金になる。そう言うことさ」

 

 

 

 兄貴さんの解説が終わった丁度その時、折りよく駆けつけてきた警邏隊か老冒険者さんたちによる出動部隊が到着し、未だに動けずにいるサムライガールさんを取り囲んでしまいました。

 

「な、なにをするのだ! 離せ!

 貴様等! 組織などに迎合しおって・・・正義をなんだと心得ているのだ!」

「国にとっての正義は法さ、お嬢ちゃん。法を守る奴が正しくて、守らない奴は悪者。

 そして、力付くで守らせてる方が正義の味方なんだよ。

 国家の許した範囲内で振るわれる暴力、人はそれを軍事力と呼んでるのさ」

「!!!!!!」

「国内にいる限りにおいて、王と政府が正しいと言ったことが正しくて正義だ。不満があるなら教師にでもなって、啓蒙運動でもするんだな」

「な、なぜだ! なぜ貴様ら冒険者は力を持ちながら正義のために戦おうとはせんのだ!

 か弱い民草を守ることこそ、冒険者の果たすべき正義ではないのか!?」

「いや、そう言われても。自分より弱い女の子を切りつけといて、正義もなんもないだろうに。正義を守る前に、社会的なルールを守った方が良くはないか?

 社会生命終わらせられた奴が大声だして「間違っているのは俺じゃない!世界の方だ!」とか罵ってたら、率直に言ってどこからどう見ても人生終わっちまってるだろ」

「な・・・あ・・・・・・」

 

 目と口を(゜д゜)ポカーンと開けて、真っ白に燃え尽きて灰となったサムライガールさんがしょっぴかれていくのを見送った後、老冒険者さんたちのリーダー格さんが一応といった体をとって、私にも声をかけてくれました。

 

「君が彼女と揉め事を起こしていた冒険者かな? だとしたら済まないが、ギルド支部に来て事情を説明して貰いたいのだがね?」

「その必要はねぇよ」

 

 ぶっきらぼうな声がして、背後から私を擁護してくれたのは兄貴さんです。

 老冒険者さんとリーダー格さんは特に驚いた様子もなければ意外そうでもなく、むしろ慣れた様子でいつも通りに確認作業を始められたようでした。

 

「なぜかね? 理由を聞かせてもらえると有り難いのだが」

「そいつは俺が雇った護衛だ。護衛対象である俺を守り抜いたし、町民に被害が及ばないよう最大限留意して逃げも隠れも、攻撃を回避すらせず我が身で受け止めたんだ。

 俺たちの組はこれに感謝の意を表し、報酬として支払う予定だった銀貨40枚を60枚に増額して渡すことを決定した。

 これで支払いが済むまでにしょっぴかれたら、組の沽券に関わる問題になるんだがね・・・」

 

 ぷはぁ~、とオヤジ臭いしタバコ臭い息を盛大に吐いた後、

 

「ついでに言やぁ、奴さんと俺が交わした契約の内容は『護衛クエスト』さ。俺を守るために敵を殺せと契約事項にない命令を下したのは命惜しさで目が眩んだ、俺の違約違反だよ。賠償せんといかんのだから、連れてって貰っちゃこちらが困る。

 誠実な商売を心がけてる表の看板に、泥塗りつける訳にはいかねぇのよ」

「・・・・・・ふむ・・・・・・」

 

 老冒険者さんは周囲を見渡し私を見つめ、考え込むフリをしてから兄貴さんに視線を戻します。

 

 

「相分かった、委細は承知。こちらから後日改めて連絡して、ギルド支部に来て貰うこととする。沙汰は追ってその時に。

 ああ、当然のことだが冒険者は自営業の風来坊だ。不定期な仕事のために時間の都合は付けづらいだろう。

 拠点となるホームを持てるような大手だったら話は別なのだが、君のような駆け出しには無理に引き止めて破産させるつもりはないから安心してくれたまえ。好きなときに仕事を受けて、好きなときに帰ってくると良い。

 今回の件では任意同行なのだから、遠慮はいらん。仕事を果たしただけの日雇い労働者に過剰な義務を押しつける趣味は領主様にもないよ。都合が良ければ参加してくれる程度で十分だ」

 

「加えてだが、君の負傷はクエストを遂行中に起きた民間人を守るための事故犠牲と判定させて貰う。

 労災などの補償制度はない故、私からの個人的感謝の気持ち程度になるが、これを受け取って欲しい。何かの役には立つはずだ」

 

 

 そう言って渡されたのは冒険の途中で起きる戦闘イベントなどで手に入る貴重なアイテム・・・ではなくて、単なる小切手。

 冒険者カードと同じく魔法紙が使われていますが、こちらの方が高級品の風格を醸し出してます。

 

 ・・・あれ? これってもしかして・・・・・・。

 

 

「冒険者には金品だけでなくトレード用のアイテムや、調合などに使われる高級素材の方が喜ばれると聞く。

 もし金額に不満があるか、もしくは物々交換しか応じていない辺境地域で使う場合には、その紙自体を交換材料にしてもらって構わない。

 記載されている数字と等価値を持つ魔法紙を素材に使っているから、場所柄を問わず交換が可能だぞ?」

 

 ーーやっぱり古代貨幣かよ! 一体この世界は、どこの国の何時の時代をモチーフにしているんだ!?

 古代から中世まで飛び飛びだなぁおい!

 

 

「ーー蛇の道は蛇、か。暗黙の了解で事が進むってのは気分がいい。

 民から嫌われてる以上、国に守ってもらうには国の定めたルールを守っておくのが一番手っ取り早く、なおかつ費用が安く済む。

 お互い、持ちつ持たれつってことかね」

 

 混乱していた私を置いて老冒険者さんは去り、現在は女神様に傷の手当てをしてもらってる最中です。

 回復魔法は高レベルなのに、やたらと下手な包帯の巻き方のせいで大変な見かけになっていく右手を見下ろしていると、兄貴さんからお声がかかりました。

 

「ところで、報酬に関して確認を済ませておきたい。

 さっきも言ったとおり、こちらはお前さんに慰謝料も込みで金貨六枚を支払うつもりでいるが・・・どうするよ? 旅を続けていくのなら正直、銀貨での払いはお勧めしないぞ?

 所詮は信用で成り立っているのが貨幣だからな。容易に額面以上の価値を持たせられるが、その逆も然りだ。人気次第で額面なんかいくらでも変動しちまう。

 そうだな・・・もし仮に南の方へ向かう気があるんだったなら、胡椒とかどうだ?

 軽いしかさばらないし、冬には肉料理が増えるから値段も上がりやすい。お勧め品だぞ?

 ーーしいて問題があるとするなら、最近聞いた南の方の戯曲だな。

 大商人の前に悪魔が出てきて、こう言うんだ。“ここで最も美味い人間をーー”」

 

 やめて! 『狼と香辛料』ネタはやめて! RPG風ファンタジー異世界の雰囲気壊しまくる作品はやめて! 思い出したらなんだか、この世界にいろいろ変化もたらしちゃいそうだから本気でやめて!

 

 だいたい、お金の話しでファンタジー世界なら『ログ・ホライズン』でしょう!? なんで『まおゆう』素っ飛ばして『ホロ』に行くの!?

 魔王様が泣いちゃいますよ! メイド長に泣きついて盛大にね!

 

 

 

 この異世界の法則がますます分からなくなる中で、(おそらくは)主人公ポジにある勇者の私は痛みに震えて未だに声が出せていません。おかげで好き放題に語られて、世界観崩壊待った無しです。

 

 

 

 だれか、この人の語りを止めて私を助けてくださーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄「ちなみに塩を報酬として支払うのもありだぞ?」

セ「もうそれ、古代ローマじゃないですか・・・」

弟分「貝殻もありやすぜ?」

セ「いりません!」

女神「?????(全てを統べる者だが、世界史は苦手な女神様)

 

 

 

つづく


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