異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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インターバル回です。ギルドに行くためには町に着かねばならないので入れた回です。
戦記物のノリですが一応ファンタジーです。
次回こそ、正統派ファンタジー展開を書いてみたいです!


第3章

 鬱蒼とした木々の葉に覆われた森の小道。州都アイントフへと続く一本道を武装した軍隊に守られながら、数輌の馬車がゆっくり進んでいく。

 護衛の兵士たちは全部で60人。そのうち専業戦士の職業軍人はそれぞれの小隊を指揮する部隊長だけで、兵士は全員部隊長たちが治める領地の農民だけで構成されている。

 数は多いし訓練も行き届いてはいるが如何せん、元となる素質が絶対的に足りていない。圧倒的に不足しすぎている。

 少なくとも彼らを襲撃しようと牙を削いで待ちわびている救国革命軍の勇者たちより弱いことは確実だ。負ける道理はどこにもない。

 

 ーーだと言うのに彼らのリーダー、アランは決断するのを躊躇していた。

 

(おかしい、違和感を感じる。これは何度か味わったことのある罠の臭いだ。今はまだ、攻め入るときではない)

 

 歴戦の雄である彼をして苦戦を確信させるナニカが、今回の税金輸送馬車には間違いなくあった。それが理解できるからこそ、憂国の志の元集まった仲間たちも自制してくれているのだ。

 

 ーーそれに何より、護衛隊の中に冒険者の姿が一人も見えないのが気にかかる。

 

 確かに有り得ない話ではないし、これまでも全く前例がない訳でもない。とは言え珍しいのも確かではある。

 事態の曖昧さがアランに決定を躊躇わせている最大の要因であり、連絡用の水晶球を使って事の次第を伝え聞いた革命軍本部が決断を下せずにいる理由でもあった。

 

「おい、リーダー。奴らがヒッポクリ街道に入った。このままじゃあーー」

「ああ、わかってる。待てるのは最大で、後半刻ってところだな・・・」

 

 不安顔の仲間から齎された報告に、彼もまた顔をしかめながら返答を返す。

 

 この任務に厳密な時間制限があることなど端から分かり切っていたことだった。なにしろ、それを前提として襲撃計画を立案したのだから。

 

 先の小道はアイントフへと続く三本の街道すべてに通じている。途中で必ずヒッポクリフ街道に入らなければならないと言う条件付きではあるが、それ以外ではメリットしかない利便性の高い道だ。

 

 だがその一方で、利用客が自衛行動をとるのには余り向いていない。幅が狭く、兵力を展開できないのだ。一般人や一般兵で構成された集団には、戦うのに不向きな地形と言えるだろう。

 だからこそ質では勝り数では圧倒的に劣る革命軍には、このポイントでの襲撃以外に選択肢がなかったのである。

 

 だがしかし、その小道はすでに通過されてしまった。もはや革命軍の一方的な圧勝は難しいと言わざるを得ない。

 それに手古摺って敵に余計な時間を与えれば、州都からの援軍が参戦する事だろう。

 彼らと違い、革命軍の目的は活動資金の強奪ーーいや、国が市民から不正に奪い取った汚れた金の奪還なのだ。官憲どもの処理など二の次以下にすぎない些事だと言い切れる。

 そんな雑魚どもを相手にしていて大物を取り逃しでもしたら、市民の盾たる正義の剣の名が廃る。なんとしても成功させたい作戦なのだが、本部からの作戦決行の指示は未だ届いてはいない。

 

「限界だな」

 

 アランがそう判断したのは先の宣告どおり、半刻の時が経過した後だった。

 

 

「いくぞ、仕掛ける。このまま手をこまねいて待ち続ければ、兵どもは殺せても物資が奪えない。

 あれは飢えた子供たちを養うために必要不可欠なものだ。断じて王国の犬どもに渡すわけには行かない。間違いは正さねばならんのだ」

『応。すべては我らが掲げる正義の旗のために』

「よし。良い覚悟だ。では行くぞ、抜刀ーーーーっ!!!!」

『うおおおおおおおおっーーーーー!!!!!!』

 

 全員が一丸となって輸送馬車隊へと襲いかかる革命軍に対し、王国軍は壊乱はしないまでも微妙に統制が崩れた。

 無理もない。彼らは全員が同じ部署に配属された兵士ではないのだ。それぞれの部隊長が持ち回りで役割を担っていて、各部隊長毎に自分の治める領地から精鋭と見込んだ若者を従者として従軍させているだけの存在。

 軍隊ではなく軍集団。それ故に統制がとれるのは各個の集団毎にであり、全体が組織だって動くのには熟練度が足りなすぎる。全員が一個の生物として指揮官が手足のように動かすなど、夢のまた夢だろう。混乱して逃亡兵を出さなければ御の字のレベルだ。

 

 そして事実として、そうなった。

 

 王国軍は混乱はしても統制は崩さず、奇襲に体する防衛本能から一カ所に集まって亀のように丸くなり、各部隊毎の方円陣形もどきを形成し始める。アランの読んだとおりの展開になった。

 

(これで良い。俺たちの狙いは物資だけだ。お前らの相手をしている暇はない。軍事教練の教科書通りに動いたのは失策だったぞ?

 ーーいや、それよりも早く目的を達成して、一刻も早く離脱しなくては!)

 

 途中までは余裕綽々な態度でせせら笑っていたアランだったが、冷静さが戻った瞬間に自分たちが決して一方的に有利な立場では無くなっていることを思い出して僅かに慌てた。

 急いで税が積まれているはずの輸送馬車へと向かう。

 探すまでもなかった。荷物の重要性上、どうしても偽装が必要不可欠となる今回のような任務で使われる馬車は、得てして見窄らしいナリをさせて豪奢な馬車たちの最後尾近くへ配置される。今回はその典型だった。

 

 まさに教科書通りの配置。アランは王国軍の時代錯誤ぶりに内心苦笑しながら馬車へと入り、貨物をどかし、巧妙に隠されていた税の満載されているはずの巨大な箱たち、その最前列に位置していた確認用の一箱を開けてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・? おい、アランはまだか? いくら何でも遅いような気がーー」

 

 各所で戦力を分断、封じ込めに徹していた革命軍戦士の一人がリーダーの遅すぎる帰還に疑問を感じて呟いた、丁度そのときーー

 

「敵の首魁は討ち取った! 残りの連中に用はない! 全員、突撃ーーっ!」

『なっ!?』

 

 敵司令官とおぼしき立派な体格の騎士の叫びに革命軍戦士たちは、揃って愕然とした。

 

 そんなバカな、有り得ない、あのアランが!?

 

 そう言った疑問で頭が埋め尽くされた瞬間を待ちわびていたかのように息を吹き返して襲いかかってくる王国兵たち。

 思っていた以上に激しい敵の勢いに多少飲まれながらも、彼らは猛然と言い返す。

 

「デタラメを言うな!貴様ら肥え太った国の飼い豚どもに、我らが誇り高きリーダーが討ち取られることなど有り得ない!」

「ならば何故、貴公らの大将自身がそれを否定しない!?」

「それは・・・」

 

 こういう時、口を濁して言い淀んでしまった方が敗けである。

 そのことを知っているのは清廉潔白を謡う誇り高き革命軍戦士たちではなく、薄汚い王国貴族たちとの会食で毒を飲まされ慣れている王国騎士隊長の方だった。

 

 彼は好機を逃すことなく発破を掛ける。なにしろ数では勝っていても質では大きく劣るのだ。少しでも戦力差を埋められるよう工夫するのは指揮官としての義務であり、果たすべき責任である。

 卑怯だなんだと言う弱者の戯言は、敗北した負け犬が自己正当化のために使うものだと言う事実を彼は知っていた。

 

「見よ!王国の勇者たちよ!敵は怯んでおるぞ!所詮は飢えた餓狼が徒党を組んで王国に牙を剥き、正義を唱えて民を苦しめる口実に使っているだけの無法者の集団! 恐れるに足りぬっ!」

「貴様っ!我らを愚弄するか!」

「敵を愚弄してなにが悪い! なにを勘違いしているのかは知らんが、ここは貴族の礼式に則って行われる決闘遊びの場ではないのだぞ!?

 子供同士でママゴトがしたいのであれば、早く家に帰ってかわいい娘たちと遊んでやればいい! なにせ子供は成長が早い、愛でられる期間はそう長くはないのでな!」

『!!!!』

 

 革命軍戦士たちの表情に迷いが走る。

 それは別に騎士長の挑発によるものではない。我が子を思いだし、郷愁に駆られたためだ。

 もとより彼らの大部分は、国のため、世界のため、人類存続のためにと立ち上がった救国の士。その志の根本には、愛する家族と愛する子供たちに正しき未来を残してやりたいがため。

 その想いがあるからこそ、彼らは泣いて縋りつく家族の制止を振り切って家を飛び出し、こうして密かに仕送りを続けながらも革命のために命を懸けて戦っていられるのだ。

 その覚悟に今、大きな罅が入った。彼らの家族愛が救国の志に一時的な勝利を収めたのだ。

 

 これは状況が成せた技だった。

 

 彼らの覚悟は常に想いに勝利し続けてきたし、これからもそう在り続けたはずだった。それが崩されたのは単純に、信じて付き従ってきたリーダーが敗れたと言われたこと、それをリーダー自身が否定してくれず未だに何の音沙汰もないまま返事もしないこと、そして自分たちの不利な体勢が否応もなく敗北を意識させられたことなどが理由だ。

 

 信じていたものが失われたと言われ、さらには否定材料となるべきリーダーは未だに帰らない彼らには信じるものが必要だった。

 即ち、自分たちが敗れる正当な理由付けが。

 

 ーーもしかしてリーダーは自分たちを見捨てて逃げ出したんじゃないか?

 ーーあるいは、リーダーが俺たちを売ったから敗け掛けてるんじゃないのか?

 

 これまで勝ち続けてきた彼らの心は、僅かな敗北で途端に惨めさの方が勝ってしまった。勝ちに慣れすぎていたのと、敗けを経験したことのある古参の人間が指揮官のアラン一人だったことが裏目に出過ぎた。

 若くて血気盛んな救国と革命の志の燃える彼ら戦士団は、勝ち戦以外の戦を知らない。総大将が彼らに若くして死ぬことを許さなかったせいでもあるが、王国軍の最近の惰弱ぶりも大きな要因の一つと言える。

 弱くなった王国軍は敗北して志気が下がり、勝利した革命軍は逆に上がる。士気の低下した軍隊は必然的に弱体化し、次の戦いでも負けた王国軍はまた志気が下がって革命軍はまた上がる。

 その際限ない繰り返しが今日のこの状況を作り出したと言えるだろう。まことに皮肉きわまる話ではあるのだが。

 

 ちなみにだが、この場に投入された革命軍戦力は優秀な若手たち、ほぼ全てと言って過言ではない。もちろん王国支部が保有している戦力の中限定ではあるが、未来ある指揮官候補たちは全て投入して安全な勝ち戦で経験を積ませている最中だったため、指導役のアラン亡き今彼らは自らの誇りと戦う意義を守るため虚像に縋りつくより他に手はなかったのだ。

 

「くそぅ!こうなれば我ら全員この場で討ち死にし、後世に名を残そうではないか! 

 それ以外に道はない!」

「そうだ!その通りだ! 我ら誇り高き革命軍に敗北と撤退の文字はない!」

「死ぬは今ぞ!散るべき時は今ぞ!総員、我に続けぇぇぇぇっ!!!!」

 

 意気上がる革命軍戦士団の若者たちを見ながら、王国騎士長の胸に去来する想いは只ひとつ。

 

(真性のアホかこいつら)

 

 ーーであった。

 

 古参であり経験豊かな彼から見て革命軍戦士団の言い分は、戦場を歌劇場かなにかと勘違いしているとしか思えない、青臭すぎて草生える三文芝居でしかなかったのだ。

 

(剣もって喉笛突けばいつでも死ねるだろうに・・・。なんで今でなければ駄目なのだ? 全く理解できんのだが・・・。

 あと、死んだ敗者に生き残った勝者が与える名誉は、そこに利用価値を見いだしたからだ。別段貴様等の死が綺麗に飾られて残るわけではない。脚色されて政治に利用される形で無理矢理に残されるだけだ。

 そのくらい歴史の授業聞いていれば、子供でもわかる事だと思うんだがな~)

 

 内心で嘆息しつつも騎士長は、謹厳実直な態度を崩さない。

 指揮官は常に役者であるべきだ。演技ができて部下を騙せなければ、人の上に立つ資格などない。正直さが美徳とされるのは政治的アピールの場だけで十分すぎるだろう。

 

「その心意気やよし! されど我ら王国軍は国のため、民のため、この身を張って盾とせねばならぬ身。申し訳ないが騎士の誇りを捨てて、保身に徹しさせていただく!

 者共!方円陣形を崩すな!味方同士で互いの背中を守り、支え合いながら確実に一人ずつ、仕止められる敵から仕止めていけ!

 弓兵隊が主力だ!それ以外の者は彼らを死んでも守り抜け! 彼らさえ生き残れば勝利は我らのもの、故郷で帰りを待つ家族の笑顔を守り抜けるぞ! 放てぇぇぇぇっ!!!」

『おおおっ!!! すべては偉大なる王国のため、家族のため、生きて故郷の土を踏むために!!』

 

 

 

 ーーなんかどっちが正義でどっちが悪なのか解んなくなってきたが、とりあえず戦闘は血気にはやり剣で攻め入ろうとする革命軍戦士団と、冷静で巧遅さと臨機応変さを崩そうとしない騎士長率いる弓兵隊との戦いに様相を変え、終結までに三時間を要する長期戦となった。

 

 その結果は、王国軍の被った被害数が重軽傷者12名に死者0名。革命軍戦士団は一人残らず全滅。

 最後の一兵まで戦い抜き、「神、よ・・・我らに勝利を、与え・・・たまえ・・・」と末期の言葉を呟きながら果てた、身なりの良い富裕層出身と思しき若者を最後の犠牲者として戦闘ーー途中から一方的な虐殺になってはいたがーーは終結した。

 

「ようやく終わったか・・・やれやれ、この死体の山は誰がどうやって処理すればいいのだ? 埋めるにしても州都の目の前だぞここ・・・」

 

 騎士長が疲れて凝った肩をグルグル回しながらぼやく。彼はいわゆる中間管理職に当たる地位の人物だ。事が終わった後は事後処理のことで頭がいっぱいにならざるを得ない。なにごとも後始末が一番大変なのだから。

 

「お疲れさまでした騎士長様。一人も死なせることなく無事に終わって良かったですね」

「卿か・・・今までどこに行っていたのだ? どう考えても逃げ回っているだけで保身を図ろうとする、素直な御仁とは思えんのだが?」

「どこか適当にそこいら辺へ。まぁ要するに、戦場の外周をうろつきながら陣を離れて傷の治療をしようとする人たちに背後から近づき、一撃で殺して回ってました」

「・・・」

「いやー、本当の戦場って怖いんですね。初めての実戦が楽勝な任務で助かりましたよ。改めてお礼を言わせてください騎士長様。

 おかげで私たちは無事に州都までたどり着けそうです」

「・・・・・・」

 

 騎士長は目を眇めて目の前の少女を見やる。

 銀髪を頭の上で結わえた青い瞳の少女だ。

 

 貴族令嬢と見紛うほどに可憐で気品ある美しさだが、その中身は紛れもなく魔王。

 わざわざ敵に見せつける様に行軍することで敵自ら位置的優位を捨てさせ、奇襲に対して慌てふためく芝居などせず可能な限り適切な対処を取ることで敵を油断させ、民兵組織故にあやふやになりがちな指揮系統のなか唯一確かな指揮権を持ったリーダーが中身を確かめるであろう、税の入った箱の中にジッと隠れ潜んで開けられた瞬間リーダーにナイフで切りかかる。

 ナイフの刃には猛毒が塗ってあって本命はこちら。油断していたとは言え子供に殺られる俺ではないと、掠り傷で済ませた自分に驕り高ぶって油断した相手の背後には伏兵。

 

 エロい衣装を身に纏った怪力無双な自称超僧侶の美少女が、税の満載された箱を掲げて頭から一撃。総重量1トンにも及ぶそれを食らって生きていられる人間などいない。

 

 おまけに村に住む若者が手土産にと持たせてくれた半径20センチ以内だけ音声を外に漏らさないマジックアイテムのお札(格安。村の道具屋でも銅貨3枚。子供のおもちゃ)を箱の底に貼ってたお陰で馬車内で行われていた諸々は最初のリーダーが箱から出てきた少女の一撃を避けるまでしか聞こえておらず、その程度は古い木造馬車ではよくあること。気にしないし、気にされない。

 

 ーーつまりは最初から最後まで革命軍は“自称”無学な小娘に踊らされて果てたというのが事の顛末だった。

 

 

「いつか地獄に落ちても知らんぞ・・・」

「私は常より、死後のことは死んでから考えればいいと思っていますよ」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 見た目は天使、中身は魔王。職業は異世界からTS転生してきた美少女勇者。

 

 転生勇者セレニアの伝説が今、始まってしまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

自称女神「私の出番が少ないですーっ!」

自称凡人「次回は多いといいですね」

 

 

つづく




注:流石に矛盾してるかなーと思ったので、途中の「5センチ」の部分を「20センチ」に変えときました。

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