異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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少し前にお伝えした『転スラ』を基にして描いた大陸中央部を適当に冒険しているバージョンのお話です。
内容自体は思いついていたのですが、忙しくて書けなかったので思い切って完成させました。本編とは関係のない読み切り短編ですので気楽に読んでくださいませ。


『大陸中央部冒険編』

「精霊王の住まう洞窟・・・ですか?」

 

 私は木製のコップをテーブルに戻して言葉を返しながら、相手の顔をボンヤリ見つめました。

 異世界に転生させられてから一年かそこら、コーヒーもカフェオレもMAXコーヒーもない異世界生活での飲料類はどうにも脳の働きに活力を与えてくれなくなって困りますね。

 

「はい、そうです。この村の近くには古くから聖地として崇められてる洞窟があって、そこには精霊王様が住まい、選ばれし者に試練を与えて魔王を倒すために必要となる伝説の聖剣を授けていただけるのだと昔から言い伝えられておりますですハイ」

 

 相手の老人は、久々に羽振りのいいお客様が来たから機嫌がいいのか、やたらに愛想良く情報を提供してくれました。山奥にある貨幣経済からも取り残された物々交換が基本の農村で店モドキみたいな商売やってるのですから、そりゃこうもなるでしょうけれども。

 

 

 ――魔王を倒すため、大陸中央部地方を適当に歩き回り始めてから早一年か数ヶ月かそこらぐらいの、年月日に意味感じなくなる程度には時間が過ぎたある日のことでした。

 たまたま立ち寄った村にある食堂モドキ(正しくは“何でも屋”です。実質には“出来ることなら何でもやる屋”でしたけれども)で食事をしながら店主さんに近くで面白い探索場所(遺跡かダンジョン)はないものかと聞いてみたところ、全然期待していなかった上にあまり聞かされたくない情報が手に入ってしまって思わず私は顔をしかめてしまいました。

 

 ・・・この手の情報に飛びつきたがる人がうちにはいますからね~。はてさてどういう反応をすることやら――

 

 

「さぁ行きますよセレニアさん! 選ばれし勇者のみが抜くことが出来るならぬ、授けられる聖剣を手に入れるため精霊王の住んでる洞窟へ! 勇者らしく! 勇者らしく! 勇者らしく!!

 大事なことなので、言ってくれるまで何度だろうと言い続けるつもりでいますけど、どうしますか!?」

「・・・わかりました。行きます。行ってあげますから、いい加減黙りなさい。そろそろ本気でウザすぎますから・・・」

 

 王道マニアの女神様が本気でウザくなり始めている私たちに選択肢などありません。嘘か誠かはどうでもよくて、ただ女神様がウザすぎるから行ってあげる。そのためだけのダンジョン探索が今始まります。

 

 

 

 んで、やってきました精霊王の住まう洞窟~。

 巨大な扉がデデン!と聳え立っており、中から鍵がかけられている気配は・・・ないみたいですね。普通に開けられてしまいましたわ。

 

「たまに思うんですけど、こういう場所に住んでる家主さんたちは皆セキュリティ面に関して甘すぎるというか、防犯意識が低すぎますよね。

 侵入者から宝物を守りたいなら、入り口を爆破して崩壊させて入れなくするか、最低でも鍵穴にガムなり何なり差し込んでおいて見た目はそのまま使用不能な状態にするぐらいしておくのが当たり前でしょうに」

「あー、確かにそういうところはありますよねー実際に。

 しかも、そういうのに限って『我の眠りを妨げるのは誰だーっ!』とか言って襲いかかってきたりしますし。

 お前がちゃんと鍵閉めとかなかったからじゃー!とか、たまに言っちゃいたくなる気持ちはよくわかりますよ、女神的に。そう、女神的にね! 大事なことなので二度言いました! 最近なんだか忘れられてる設定の気がしてましたので!」

「気のせいですよ、女神様」

 

 そう言って私は、言葉を向けた相手と目を合わせることなく入口を通過。巴さんとアリシアさんも後に続きます。・・・小走りで、逃げるように、目と目を合わせることなく一瞬の間合いによって。

 これが私のパーティー内における女神様の置かれた立場というものです。

 

 

 

 そして現在。洞窟を進んでいた私たちは奇妙なことに気がついていました。

 ――外観から見る印象と、中の広さとが全く噛み合っていないと言うことに、です。

 

「これって・・・外側はただの飾りで、中身は異次元につながってるとか言うアレでしょうかね!? もしくは空間が歪んでいるから仕方がないって感じの例の奴なんでしょうか!?

 ファンタジーらしく! 王道らしく! 幻想的に! 具体的には神話的設定として!」

「・・・そうかもしれませんが、多分それの元ネタはファンタジーはファンタジーでも結構新しい気がしますし、ついでに付け加えるなら同じ神話でも前につく単語はクトゥルーな奴でしょう」

 

 も一つ付け加えさせてもいいのであれば、『ルルイエランド』な『ニャル子さん』で使ってた設定だと思います。アレも一応は神話なので有りっちゃ有りなんでしょうけども。

 

 所詮、幻想は人が生み出す物語。英雄も英霊もサーヴァントでさえも、その原則からは逃れられず、神が先か人が先かのロジックエラーでさえ結論は2000年代の末に『神による世界創造論』が人類の過半から支持を得たことで決定づけられてしまうほど。

 結局は、人が生きる人界の摂理は人間社会の都合と主観で決定してしまっていいという答えの出し方なのでしょうね。神や悪魔が実在しようとするまいと、知覚できない人にとっては認識できて関係がある事柄までを定義づけできさえすればそれで良い。

 

 ・・・勝手な理屈ですが、人にとってはそれが真理。なんとも嫌な結論ですが、不完全な人類にそれ以上の答えが出せるとも思えませんしね。それ以上を求めるのは、今以上に進化した後の世を生きる人類たちに任せると致しましょう。今を生きる私たちは間違いながらも歩み続けるしかないのです。

 

「とは言え、どうしようもない現実に抗ってはいけないというのは、それを決めた圧制者のご都合主義ですからね。私たちは私たちなりに出来ることをしてみましょう。――えいっ」

 

 ズダァン!!

 

 私は呪いの火縄銃をダンジョンの一角目掛けて問答無用で撃ち放ち、遠くからナニカが「パリーンッ!」と砕け散る音を聞きながら、再び歩を進め出すのでした。

 

「??? い、今何をしたので御座るかセレニア殿? なにか今、なにか今「ぱりーん」って・・・」

「いえ、なんかダンジョンの構造的に違和感がある箇所がありましたので撃ってみただけです。もしかしたら認識阻害の魔法陣かナニカが設置されてる可能性がありましたのでね。

 ――まぁ、罠である可能性も少なからず有ったわけでもありますが・・・・・・」

「ダメでは御座らんか!?」

「どうせ考えていても悩んでいても、自分たちだけで出した答えに現実が合わせてくれる義務はない類いの問題でしょう? こう言うのって。

 だったら結果から答えを逆算した方が手っ取り早いですよ。

 自己満足の試行錯誤は自分の成長を促しはしても、現実的問題の解決に役立つとは限らないのと同じ事です。

 物質界で起きている物理的な問題は、行動という物理的結果を伴う答えだけが解決しうる類いの物。最初から最後まで自分の中だけで始まって終わる心の中だけの問題なんて意味はなし。行動だけが他人と世界に影響を与えられるのが現実という物でしょうよ」

「うわー、勇者が絶対しちゃいけない類いの思想と価値観を当たり前のように持ってる人だなー相変わらず。女神の私もたまにドン引きです」

「さすがですわ、セレニア様・・・」

 

 なんか失礼なこと言われた上に、異世界人から「さすおに」口調で評価された元地球人になっちゃった気もしましたけども。

 気のせいだという事にして前を向いて歩んでいけばダイジョーブ。「そんな気がしても」確認取らない限りは自分が勝手に感じてる疑惑。自分の中だけで起きてる問題。

 勝手に決めつけて、勝手に答えを出しちゃっていいご都合主義万歳な自己満足世界での出来事です。そう思ってることを口に出さなきゃダイジョーブ。

 自分の中で出した答えを、口に出す行動さえ取らなきゃ結果には行き着かないからダイジョーブ。

 

「ちなみに私、女神ですから人の心を読めたりしますよ? 読心しちゃってもいいですかセレニアさん?」

「いいですよ? その前に私が貴女を撃ち殺す覚悟を今決めましたから」

 

 そして始まるダンジョン内での仲間同士の啀み合いと一触即発な剣呑すぎる雰囲気。・・・王道ですね。こう言うのがきっと女神様の求めてらした展開なんですよきっと。

 

 

 

 

 ・・・・・・クスクス・・・、・・・くすくす・・・・・・

 

「ん?」

 

 再び通路を進んでいくと、どこからともなく声が聞こえてきた気がしました。

 声というか、笑い声と言うべきなのか。

 とにかく幼い子供たちの声音で笑い声が響いてきたのです。

 

 ・・・・・・フフフ・・・あははっ・・・クスクスクス・・・・・・

 

 ダンジョンには似つかわしくない幼い子供の、酷薄そうな笑い声。

 当然ながら周囲を見渡しても人影はなく、子供の姿は見つかるはずもありません。

 

 

『なんだなんだ、つまらぬではないか人間たちよ。久しぶりの客人だと思って迎えに来てやったと言うのに、一向に驚かぬでは張り合いがなくて愉しめぬではないか』

 

 

「子供達の笑い声のようですわね・・・わたくしの纏っているオーラに吸収されないところから見ても、悪意や恨み辛みが込められた魑魅魍魎、ザコ悪霊の類いではないようですが・・・」

「頭の中に直接声を届かせる術を使っているみたいで御座るな・・・」

 

 アリシアさんと巴さんが、それぞれの感想を口にします。・・・アリシアさんの方は察した理由がアレ過ぎましたけど、いつもの事っちゃ何時ものことでしたので今更です。

 

 

『もっと怖がれ。もっと怯えよ。

 もっともっと怖がってくれないと、我はつまらない・・・っ!!』

 

 傘にかかったように声の方は仰ってきますけど・・・しかしですねぇー。

 

「怖がれと言われましても・・・笑い声が聞こえてくるだけの状況下で、一体なにをどう怖がれば宜しいのでしょうか? 出来れば具体的に怖がる理由をご教授していただけると有り難いのですが」

『――へ?』

「たとえば、こう・・・笑い声は誘い水で、それに誘われていくと落とし穴が隠してあって穴の底には突起状に加工された木が上向きで埋められているベトコン戦法パンジステークとかが仕掛けてあるというならスゴく怖いと思えるのですけど・・・有ったりしませんかね? ダンジョン内にそういうトラップ」

『ある訳ないじゃろ!? お前人が住んでる場所をなんだと思っとるんじゃ!? そんなヒトデナシトラップを我が家に設置しておくキチガイなど居るかボケ―――ッ!!!!』

 

 失礼な、ベトナムの人たちだって好きでこの手を編み出したわけではありませんよ。数が絶対的に足りなかったからこそ、環境に即した地形に合った戦い方を考案しただけです。人類史における戦術の成り立ちと発展の仕方から見て非常に正しい理由であり思想です。ベトコン戦法はキチガイなどでは絶対にありません。

 

 ・・・ヒトデナシ戦法であることまでは否定しきれませんけれども・・・。

 

 

「実を申せば拙者の故郷、ヒノモトの国にも『小豆荒い』という名の夜中に川縁で小豆洗ってるだけの無害な妖怪がいるので御座ってなぁー・・・」

「わたくしの実家は王宮でしたので、誰からともしれない笑い声が聞こえてくるなんて日常茶飯事でしたわ。その程度で怖がっていては王族の端くれなど務まりません。恐怖より先に、気が狂って暴君になるだけですわ」

「私は女神ですからね! 怪談話なんて聞いても『ご愁傷様!』と言って浄化するだけです! なんたって私、女神様ですからね! 私、女神さまですからね!

 最近なんだか忘れられてる設定の気がしてましたので以下同文!」

 

 

 アリシアさんと巴さんも似たような理由(?)で困った風な表情を浮かべて笑うだけ。・・・そして、女神様はウザいです以下同文。

 

 相変わらずマイペースな人たちだけで構成された私たちのパーティーに、笑い声だけで怖がれというのは無茶振りだったと言わざるをえませんので先を急がせてもらいましょう。

 

 ダメだったら笑い声以外の形で意思を示してくるはずです。気持ちは声に出して言わなきゃ誰にも伝わらない――現代日本人こそ大切にしなきゃいけない基本的な常識です。私もう日本人じゃないですけどね。

 

 

 

 

「・・・とは言え、まさか本当に深奥部まで着いてしまえるとは思っていなかったわけですが・・・」

 

 やや呆れ気味な口調で私。

 いや、本当にあのまま素通りして問題なかったとは思いもしなかったものですからねーハッハッハ。・・・割と本気でどうしましょう、この状況。想定してなかったから全然考えてなかったですわ。

 目の前にデデンと大きな扉が聳えちゃってるんですけど、入っちゃってもいいもんなん? それとも大人しく引き返したほうがいいもんなんですかね? こういう状況ってあんまし経験ないからセレちゃんわかんな~い。

 

 

「・・・どうします? 入ってみますか?

 正直、別に欲しくもなんともない聖剣だかなんだかのために危険を冒す必要性はないんじゃないかと今更ながらに思い始めてるんですけども・・・」

「本気で今更ですねその言葉・・・。て言うか、ここまで来て引き返すぐらいなら何のためにダンジョン潜って来たんですかセレニアさん!」

「女神様が『行ってくれないと駄々こねる宣言』したからですが、それが何か?」

「・・・あ~、あ~、私はなにも聞こえていませ~ん。

 神は悩める子羊が答えを求めるときに限って人々の声が聞こえなくなる難聴系ヒーローおよびヒロインなのが基本でーす」

 

 相変わらずな女神様の応対に溜息を吐きながら、それでも発言自体には一理あるにはありましたので私は覚悟を決めて扉に向かい。

 

「では、開けますので下がってください」

 

 皆さんが三歩後ろに下がったのを確認してから、火縄銃の弾を扉の蝶番に二発だけ撃ち込み、扉を蹴破ってから中へとパーティーメンバーをバラバラに潜入させたのでした。

 

「・・・ふむ、どうやら待ち伏せもされていなければ、扉にトラップも張られていなかったようですね」

「・・・そりゃそうでしょうよ・・・。と言うか、なんでダンジョンにあるボスの間に対テロ特殊部隊みたいな潜入の仕方で突入させてんですかアンタは・・・」

「念のためです」

 

 石橋を叩いて叩いて叩き壊して『ほら、やっぱり落ちたじゃないですか』と言えるぐらいの人が銀行員に向いていると、前世のラノベで読んだことがある私としては忠実に実行したいときもある『フレイム王国興亡記』が突然読みたくなってる今この時の私でした。

 

 

『――よくぞ来ましたね、人間達よ。いくつもの試練を乗り越え、ここまで辿り着いた勇気ある者たちに敬意を込めて歓迎しましょう』

 

 

 うおっ!? なんかいきなり出てきましたね!

 背中から後光差してる神聖そうな精霊っぽいナニカが!

 

『私の名は精霊王オベイロン。精霊達の王にして、聖なる者の導き手。・・・来たるべきとき、然るべき勇者に対して試練と聖なる剣を与える役目を担いし者・・・。

 人間よ、久しく現れなかった勇気ある若者よ。あなたが世界の危機に立ち向かうため選ばれた伝説の勇者であるならば、私はあなたが世界を救うのに必要な最後の試練を与えましょう・・・。

 さぁ、こちらへ。あなたが聖剣を手にするための最後の試練が待っていますよ・・・』

 

 聖なる精霊っぽいナニカさんはそう言って、私たちを部屋の奥へ誘います。

 よく判りませんが、どうやらこの部屋に着くまでに起きた諸々は聖剣入手イベントに必須な『見えないだけで普通に渡れる通路』みたいなものだったみたいです。

 

『安心しなさい。私は全ての者に平等な者・・・。

 誰も覚えていない遙かな昔、神が見捨てたこの世界のバランスをずっと保ち続けていたのは私なのですからね。

 魔王の力が増大して世界のバランスを崩そうとしている今、貴方たちが魔王に対抗するため力を欲し、正しく振るう心と意思を持っている限り私はあなたたちを決して見限ることはありません・・・』

 

 へー。この聖なる精霊っぽいナニカさんが、神様のいなくなってたこの世界をず~っと守り続けてくれてた存在だったのですかー。へー、ふーん、そう。

 

「で? 何か仰るべきことはあったりしませんか? この世界全てを統べる女神さま?」

「フッ・・・甘いですねセレニアさん。その程度の口撃では、私を傷つけることはできませんよ?」

「いつから悪の帝王にジョブチェンジしてんですか貴女は・・・」

 

 いや、最初っからそうだったような気もしないわけではないのですが。

 

『勇者よ。この部屋まで来るのに、あなたの勇気は十分に試させてもらいました。ですから最後の試練はあなたの力を試させてもらいます・・・。

 ――いでよ! 遺跡の守護者にしてガーディアン! あなたが作られた務めと役割を今こそ果たせ! 《サンダー・サーペント》!!!』

 

 フシャァァァァァァァッッ!!!!

 

 精霊っぽいナニカさんが呪文を唱えて魔法陣から召喚したのは、巨大な白蛇さん。

 日本でも白蛇は聖なる動物扱いされてましたので、蛇さん自体が聖なる存在なのは不思議じゃ有りません。・・・サーペントって名前は変えてあげた方が良いと思いますけどね。

 

『このサンダー・サーペントは、とぐろを巻いて相手を圧迫してくるサーペントに対して、雷で相手を麻痺させ弱体化させることが出来るサンダー系の魔法をスキルとして使用できるよう進化させた上位種です。

 圧倒的な力で押し包んでくる強大な敵を、力だけで押し返すことは難しいでしょう。ましてや雷の麻痺という支援もあるとなれば尚更です。

 この試練は文字通り、試練。あなたがこれから立ち向かう困難に打ち勝つことが出来るよう、力だけではない。心だけでもない。心と力の双方を兼ね備えた真の勇者となるため潜り抜けなければならない重要な関門です。

 立ち向かいなさい、勇者セレニアよ。あなたの勇気と力が今、試されるのです』

「ではまず、わたくしから参りましょう」

 

 精霊っぽいナニカさんから試練開始の合図が出た途端、自分から立候補して試練に挑むことにしたのはアリシアさんです。

 

「わたくし一人だけの挑戦で始めさせて頂きますが・・・よろしいでしょうか? 精霊王様」

『構いません。勇者にとって越えられない壁を仲間と共に乗り越えるのは必要なことですが、そのためには一人で出来ないこともあるのだと心の底から自覚することもまた必要なもの。

 あなた一人が成せるのならば、それもまた良しです。あなたをその域に至らせるため、この試練はあったと言うことも出来るからです』

「ありがとうございます。・・・それと今ひとつ確認なのですが・・・」

 

 一度深くお辞儀をした後、アリシアさんは相手の顔色を覗いながら放言されたのでした。

 

「別にあの蛇さん。わたくし一人で殺してしまっても構わないんですわよね?」

『・・・ご自由に。困難を知るため、己の知ることもまた戦士の資質であり、勇者を支えるものには必要なのだと理解していますから・・・』

 

 ややムッとしたような口調で精霊様が言い終えた後、試合ならぬ試練開始。

 最初に仕掛けてきたのはサンダー・サーペントさん。いきなり初手から麻痺効果を持つ雷攻撃を広範囲に撒き散らし、アリシアさんの動きを遅くさせてから飛びついて尻尾を巻き付けて締め上げ始めたのです!!

 

 それだけではありません。

 

 

 ――キシャァァァァァァァァッッ!!!!

 バチバチバチバチバチィィィッッ!!!!

 

 

 ・・・相手の身体に巻き付いた状態での放電攻撃。これでは確かに防ぎようがありません。作戦面ではアリシアさんの完敗です。

 もっとも、“作戦面では”と言う前提条件は付きますけどね。

 

 

 キシャァァァァァァァ!!!!! ―――シャ・・・?

 

 

「……ふふふっ」

 

 

 ぐぐっ!!

 

 キシャァァッ!?

 

 

 なんとアリシアさんは、巨大な蛇に巻き付かれて身体から雷発して直接電撃攻撃くらわされながら右手を繰り出し、至近距離まで近づいてきていた白蛇さんの(たぶん)首の辺りを握りしめると力一杯握りしめて圧迫し始めたのです。

 

「えーと・・・あれってもしかしなくても、遺跡の守護者さんを窒息死させようとしていません?」

「いや・・・あれはそんな生易しい握力では御座らん! 相手に首の骨をへし折るつもりで御座る!」

「どこの新撰組三番隊組長になる気なんですか!? あのキチガイ悪女お姫様は!!」

 

 こっちの世界の事情しか知らない巴さんが解説してくれて、あっちの古い事情に詳しい女神さんが全力でツッコんでるのを脇に見ながら、私は別のものをイメージしており、それが「なんだったかな―?」と名前が出てこずに考え込んでいたところ。

 

 

 キ、キ・・・キシャァァァァァァァァッッッ!!!!!

 

 

 死に物狂いになったらしいサーペントさんが、殺される前に殺ってやろうと更に力を込めてアリシアさんを締め上げながら、放電する電気の量も増加させていくのが傍目に見ていても判るレベルになっていき、

 

 

「ウフフフ・・・・・・♪」

 

 

 アリシアさんはサディスティックな微笑を浮かべながら、相手の首を絞める右手により力を込めていって、そして。

 

 

 キシャアアアアアアアアッ!!!!!(グシャッ!!)・・・・・・バタリ。

 

 

 最終的に、ナニカが凄まじい力によって握り潰される時特有の嫌な音が部屋中いっぱいに響き渡ると、力が抜けて動かなくなった蛇さんは大きな音を立てて床に倒れ、痙攣すらしないまま白目を剥いて永遠に覚めない眠りへと落ちていったが一目で分かる状態となり。

 

 そこまで来て私はようやく彼女が、誰の何に似ているかという記憶を思い出したのです。

 

 

「そうでした。ブルー将軍が海賊のアジトで自分を絞め殺して食べようとしていて電気鰻さんの首を握り潰して倒しちゃった姿に少しだけ似てたんですね、さっきのアリシアさんて。

 つまり――」

 

 ――世界最悪の軍隊で最強の軍人やってた人の同類が、私のパーティーでも最強の主戦力キャラになっているという現実があるわけで。

 ・・・これのどこが世界を救う選ばれし勇者のパーティーなのか、本気で聞きたくなってきましたね・・・誰か答えて・・・。

 

 

 

『しゅ、守護者の首が・・・選ばれし者かどうかを確かめるためのガーディアンが首の骨を片手でへし折られて殺され、て・・・』

「あらあら、ウフフ♪ イヤですわ、わたくしったら・・・拙い技を披露してしまってお目見汚しでしたわね。お恥ずかしいですわ。

 次からはもっと修練を積んで技を完成させ、はしたない女と思われないよう留意致しますので、どうかご容赦の程を。精霊王陛下」

『・・・・・・・・・(ぷるぷるぷる・・・)』

 

 

 

 ――こうして、魔王退治に必須となる武器『伝説の聖剣』を手に入れるために訪れた、精霊王様の住まう洞窟探索は終わりを告げたのでした。

 

 尚、余談ですが伝説の聖剣は『くれる』と言われたのですけど謹んで謝絶させていただいた次第です。

 

 ・・・剣使える人がいないのでね、私たちのパーティーメンバーには・・・。

 

 使わない剣もって旅するのは邪魔なだけでしたので謹んでお返しして、私たちはまた次なる冒険の旅へと出発するのでした。

 

 めでたし? めでたし?


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