異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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久々の更新となります。
散々に悩んでみたんですけど、斬新なアイデアが浮かびませんでした。


第30章

 勇者としての務めを(遅ればせながら)果たそうと思い立ち、前線地域にやってきた私たちは、魔王の住まう魔界を目指して西へ西へと西遊記みたいに旅を続けていたわけなのですが。

 

「・・・そう言えば前線地域の情報って、誰か持ってらっしゃいませんか? 私、全っ然ご当地のこと知らないまま来ちゃったんですけども・・・・・・」

『・・・・・・(フルフルフル)』

「でしょうねー・・・・・・」

 

 全員そろって首を振って答えを返してくる姿を振り返って確認し、私は大きく溜息を吐きます。

 考えてみれば当然のことなのですが、『防衛上の理由から前線の名が付けられた場所』の情報など民間には簡単に流布してくれるはずもなく。

 ましてや、『金目当てで戦うゴロツキ集団・冒険者』に渡してくれるほどバカな国なら、とっくの昔に滅ぼされていて当然ですからね-。前に進めば進むほど情報が得にくくなってくるのが自然の道理というものです。

 冒険者は冒険者で、前線地域で働くためには守秘義務を守らないと即刻処刑もあり得ますし。国防上の前線とはRPGのような穴がボコボコの警戒心では務まらないものなのですよ。

 

 

「しかし、前線であろうとなかろうと働かなきゃ食べ物さえ得られませんからねぇ。なんとかして現地の情報を最低限得ておかないと予算が・・・・・・おや?」

 

 ボヤいたとき、遠くから何かが悲鳴を上げて走ってくるのが見えました。どうやら誰かが追われているようです。

 様子を見るため一端草むらへと待避。状況を観察致しましょう。

 

 距離が近間って双方の姿恰好が見えるようになると、三人の男の人たちが二派に別れて追う者と追われる者とを形成してます。

 追われているのは、見るからに農民風の若者が一人。追っているのは見た目は紛れもなく正規軍の騎士で、でも叫んでいる言葉の内容は明らかに騎士崩れの野盗そのもの。正直、頭の中だけでも記述したくないほど下品なものばかりです。

 

「ふむ・・・・・・」

 

 私は腕を組んで考え込みました。

 さて、どうしたものだろうかと。

 

「お、セレニアさん悩んでますね!? 勇者らしく悩んでおられますね!? 権力にすり寄り民衆を弾圧する悪い軍隊から無力な民を守って戦うか、それとも人類を守る使命を帯びた勇者として国の秩序を守る方を優先するべきかと!? 異世界転生勇者らしく! 勇者らしく! 大事なことなので二度言いました!!」

「いえ、助ける役と襲う役、どちらの方が利になるのかなと。其れを悩んでいたところですが?」

「・・・・・・」

 

 久しぶりに王道勇者物語大好き病を発症した女神様の妄言に、私は切って捨てる答えを返しながら目の前の状況を今しばらく観察するため視線を戻します。

 

 常識的に考えれば当然の選択であり、他人様同士の厄介ごとに事情を知らない赤の他人が割って入っていいことなど何一つないのが当たり前のこと。

 仮に正義感から襲われている側を助けてあげたとしても、弱者が必ずしも正義であると決まっているわけでもなく、悪党っぽい人は皆悪党でなければならないとする法もない。

 口が悪いだけの善人もいれば、被害者ぶって哀れみを買おうとする加害者もいる。王道ものの基本です。安易に見た目だけで善悪を決めつけるべきではありません。

 

 そういうのは『幻想水滸伝Ⅲ』に出てきた、世間知らずで思い込みが強い英雄崇拝思想の持ち主、ワガママお嬢様のリリィさんとかぐらいで十分です。私のキャラじゃありません。

 

 ―――とは言え。

 

「ん。やっぱり助けましょう。今はそれで十分です」

「おおっ!? 遂にセレニアさんの冷たく凍った心が人の優しさに触れて溶かされて、生来の優しさを取り戻すことが出来たんですね!? 辛い過去を秘めた勇者らしく! 勇者らしく! 大事なことなので二度言いました!」

「いえ、どうせ恩を売るなら弱くて追い詰められてる方に売らなきゃ意味がないでしょう?

 手を貸さなくても勝てる方に味方したところで感謝なんかしてくれませんからね。実績も名声も持たない立身出世系の主人公が最初にやるのが人助けなのと同じですよ。まずは弱者に恩を着せるところから始めなければ何一つ始められませんから」

「・・・・・・・・・」

 

 王道ものであれば何でも良いらしい女神様の妄言を再び切って捨てて、私は思います。

 きっと正義の味方が弱い側に付き続けるのも、同じ理由なんだろうなぁ―と。

 

 同じ量のパンしかあげられない懐事情の時、あげる相手は余裕のある町人ではなく、飢えた難民にするべきなのです。その方が同じ量でも得られる感謝の念が強くなるからです。

 

 人とは自分勝手な生き物です。困っているときに助けられて感じた恩は長続きせず、苦しんでいるときに救ってくれた相手に一生感謝し続けられる人は珍しい。苦しくなると恩人であろうと二束三文で売り飛ばす人の方が多いのが、人間というものの現実。

 

 ですが、そんな人たちでも助けられた直後に捧げる感謝は嘘偽りなく本物です。心の底から相手に感謝し、誠心誠意できるかぎりのことをしてくれる人が多くいるもの。少なくとも好き好んで敵対するよりかは、手心を加えた対応で恩着せがましくされないよう配慮するぐらいのことは期待しても良いはずです。きっとね?

 

 

「どうせ行きずりで助ける一期一会の相手でしかないのです。感謝を永続してくれる必要性は微塵もない。もしも非合法任務だった場合とかには目撃者として私たちも一緒に殺されかねませんしね。

 この国が通過点に過ぎない私たちにとっては、今必要な分だけ情報をくれたらそれでよく、それならば国の内情までは知らない農民の知識で十分事足りる。

 名前も知らない初対面の相手を助けてあげたぐらいで、本当のこと言ってるかどうかだの裏切られる可能性がどうだのと議論する方がおかしいのですよ。教えても問題ないと思った部分だけ信じてあげれば良いだけですから」

「・・・・・・・・・」

「ああ、それから兵士さんたちを生かして返さないでください? 捕縛もダメです。一撃必殺、不意打ちで確実に息の根を止めて死亡を確認すること。これが絶対条件です。

 捕まえたあと逃げられでもしたら堪りませんし、魔物に殺されたことにして助けるためには余計な痕跡は残さないに越したことはありません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なぜだか女神様の視線がどんどん暗~くなっていって、ドヨ~ンとしたものに変わっていってる気がするのですが・・・気のせいだと思っておきましょう。何も言ってこない限りは気づかないフリしてればそれでおK。

 

「あのー、セレニア殿? 拙者には一応武士道というものがあって御座ってな・・・?」

「では、トモエさんは追われている人を守ってあげてください。私たちは悪漢を殺す野盗役に徹させてもらいますから」

「!!! 相分かった! 委細承知! この正義の武者トモエにお任せあれ――っ!!!」

 

 そう叫んで飛び出していくトモエさん。

 

 

「やぁやぁ我こそは東方の国ジパングから来た正義の武者トモエなり! 悪党どもよ! 覚悟するで御座る! お主たちの命運は今このとき、拙者の前で乱暴狼藉を働いた瞬間に終わっていたので御座るから!!!」

 

 

 勇ましく名乗りを上げるトモエさん。・・・よし。

 

「これで後は私が火縄銃の狙撃で倒すだけですね。目立つ囮役がみずから立候補してくれたので大分楽になりましたよ」

「ウフフ・・・♡ 鬼ですわねセレニア様・・・でも、そんな貴女様がわたくしは好き・・・(ピトッ♡)」

「アリシアさん、アホなこと言ってないで早く回り込んでくださいよ。敵は二人いるんです。一人倒せば、もう一人が反対側に逃げようとする可能性は極めて高い。逃げ道に先回りして可能な限り証拠を残さないで倒して来ちゃってくださいませ」

「あら、わたくしとしたことが失態。では早速行って参りますわね?

 ・・・まぁ、見たところ心が弱そうな方ですから、怨霊の百ばかりを体内に流し込んであげれば勝手に心が壊れて体の内部から破壊し尽くしてくれると思われますし、楽な相手ですわ。ご安心を」

「お願いします」

 

 パーティー内で一番身体能力が高い(ステータス的な意味では女神様なんですけどね。使いこなせないので意味ないのです)アリシアさんが地を這うように低い姿勢で足音も立てずに移動していき、残ったのは私と女神様の二人だけ。

 

 

 

「では、始めますか。私たちの冒険を・・・・・・」

「・・・・・・なんっっっっっっか、思ってたのと全然違う展開にいくんですよねー・・・この人たちは本当に・・・・・・(T_T)」

 

 女神様のボヤキ。

 思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくはありませんが、現実です。

 ―――受け入れなさい。乗り越えられる強さを持たない普通の人たちにとっては、それが全てです。

 

「では、撃ちます。ファイエル」

 

 

 パァン!!!

 

 

つづく

 

次回は前線地域の情報紹介回を予定中♪

 

 

セレニアのパーティー紹介:

女神の女神(言語的矛盾?)。

職業:女神

 更新ステータスおよびコスチュームチェンジの有無は、

 

 

「神は永久不変の偉大なる存在です!」

 

 

 …要するに、何一つとして変わった箇所が存在しない。


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