異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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久しぶりの更新となります。
あれから色々な異世界転生モノを視たり読んだりしながら自分でも書いたり考えたりしたんですけど、どうにもシックリくるのが無くて結局は原点にと言う流れになってしまいました。
なので、それらを参考にセレニアが勇者として異世界を救う旅に出た後の話を書いてみた次第です。

魔王討伐編として再スタートした『お約束へのツッコミファンタジー』である今作を改めて宜しくお願い致します。


第28章「魔王討伐編のはじまり」

 異世界転生から約一年かそこら。私たちのパーティーは、のんべんだらりと適当に後方地域をあちらこちらへ移動しながら旅を楽しんできたわけですが。

 

「異世界転生勇者なんですから、そろそろ魔王軍の侵略うけてる人類国家のある前線に赴いてくださいよコラ」

 

 と、唐突に使命と役割を思い出したっぽい女神様から怖い顔してスゴまれてしまったので、致し方なしに魔王軍に所属しているモンスターとエンカウントする前線地域にある最初の国を目指して(ようやく)勇者らしい世界救済旅に出たのでありました。

 

 

 

 ――――のです、が。

 

 

「おお、そなたらが賊の手から娘を守り抜いてくれた勇敢なる若者達だな! この国の王としてではなく、一人の父親として礼を言わせてもらいたい。ありがとう。

 ・・・王女を警備していた部隊の隊長から聞いたところによれば、其方達は魔王を討伐するため旅に出た勇気ある者達だとのこと。そんな其方達を見込んで折り入って頼みたいことがあるのだが―――」

『はぁ~~・・・・・・』

「王様が心の底から礼を言っている最中に盛大すぎるため息を吐くのは、流石にどうかと思うのじゃが!?」

 

 王様激高。・・・まぁ、気持ちは分からなくもないんですが・・・・・・ただねぇ~・・・・・・。

 

「・・・そうは仰いますけどね、国王陛下? 私たちは次の国へ向かう途中の森の中で偶然あなたの娘さんが襲われてるところに出会して、これから行く先の国の貴人を見殺しにする訳にもいきませんから助けに入らざるを得なくなって加勢したら、なぜだか護衛の方々まで守らされる羽目になり、勝ったら勝ったで護衛の方が一人残らず負傷してて任務続行は不可能な状態。

 重傷者から『自分たちの代わりに姫様の護衛を』って弱々しい声で言われて断れるほどヒトデナシにはなりたくないからイヤイヤ引き受けて馬車の周りを固めながら歩かされて、ようやっとお城に着いたと思ったら『王様から話があるとのことです』と呼び出しをくらい、満足な小休止も与えてもらえない状況では、このような態度になる事情も多少は大目に見ていただけたきたいなと思う次第なのですが・・・?」

 

「あ、うん、えっと・・・・・・スマン・・・・・・・・・」

 

 こうして私たちは、人類国家と魔王軍が戦争している地域への第一歩と一日目を記したという訳なのです。

 

 んで、次の日の朝。

 

「と、言うわけで、この国から街の外を歩いていると魔王軍に所属している兵士としての魔物と戦う可能性が出て参りますのよ、セレニア様」

「・・・“この国から”? 今までの国の荒野で襲ってきていた魔物たちは・・・?」

「野生化した元魔族軍所属の雑魚モンスターか、野生の獣が魔力とかの影響受けて凶悪化しただけの魔獣がほとんどですね。魔王軍との関係性はほぼ皆無な、野盗さんたちの又従兄弟みたいなものですわ」

「・・・・・・・・・」

「まぁ、普通に考えて魔王軍から侵略受けた人類国家が同盟組んで防衛戦してる世界でしたら、私たちのいた後方地域一帯は敵国内の最深部みたいなものに当たるわけですからねー。

 戦争している国の首都に魔王の側近クラスが入り込めてるんでしたら前線突破されてるでしょうし、後方攪乱するためにもっと暴れろよサボってんじゃねぇ重臣ども、ってぇ事になっちゃうわけですので、穴を抜けてきたアリンコ達と便乗して騒ぎまくってる不平分子なゲリラ共って言うのが現実だと私は思いますよ? セレニアさん♪」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 アリシアさんと女神様から、この世界についての有りがたーいアドバイスをいただいた私でした。

 ・・・一年間ずっと一緒にやってきたお陰で、二人ともすっかり逞しくなられたみたいで何よりですね・・・。

 

「しかし、その理屈でいくなら人類国家側の前線地域に至るための入り口に当たるこの国に出てくる魔王軍所属のモンスター達って・・・」

「魔王軍に参加を表明した地元の豪族魔族達ですね。主にコボルトやオーク、ゴブリンにリザードマンなどの『先祖が当時の魔王に仕えていた』系の子孫達が人間族と戦うため普段は仲の悪い者同士で手を組もうと魔王という絶対強者を大義名分として欲した結果ですわね。

 基本的には本国からもらえる援助は、部族の幹部クラスが上位種族へ進化させてもらえたぐらいで、後は現地調達してまかなうよう命じられているらしく物資の面で不足しがちで、町や村を襲っては補充し続けないと飢えて死ぬしかない現地徴用兵の寄せ集めです。ですからこそ逆に容赦がありません。

 ですのでワタクシ達も彼らに対して情けなどかけることなく、生きるためには仕方がないと割り切りまして、遠慮容赦なく皆殺しにして人間種族を邪悪な害獣たちの魔手から守り抜きましょうね♪ セレニア様♡」

「・・・・・・・・・」

 

 ねぇ、この人って一応は“元”お姫様でしたよね?

 ・・・・・・ゲーム三大悪女の名前すべてを受け継いじゃってる方ですけども・・・・・・。

 

 

「・・・で? この国で王様から直接よそ者になんとかして欲しいと頼み込むほどの問題になってる豪族モンスターはどの種族なんです? ゴブリンですか? オークですか? それとも少し強くなってオーガとかでしょうか?」

「アンデッドみたいでござるな。南方にある古い時代に戦争で滅ぼされた国の王都があった場所にダンジョンがあり、その国に仕えていた高位の司祭が外法によって不死化した魔物が魔王への忠誠を示すため国中の人間をアンデッドに変えようと内乱に近い状態に発展しかかっているらしいでござるぞ? 前線に派遣してしまっているせいで現在この国にはアンデッド対策の専門家たるハイ・プリーストが不在らしく、決め手に欠けている故に犠牲を抑えるためにも時を待つよう、国王陛下から下々の者に通達が言っておるらしいとのこと。

 それから、現場指揮官の元司祭は『不死王』と名乗っているそうで御座るよ」

「種族がアンデッドで、名前が不死王ですかー・・・・・・」

 

 微妙だな~。モモンガさまだったら出会った瞬間に全滅ルートが確定するでしょうし、デイバーノックさんだったら正直よく分かりません。セバスさんが強すぎて基準にならなかったので。

 後の候補は思いつかん、最近の(転生前に見れていた最後のアニメ事情です)作品でアンデッドはオバロ以外だと悪ではなくてヒーロー側にいることの方が多かった気がしますのでね。

 

「ま、いいでしょう。とりあえずは一度向かうだけ向かってみて、危なくなったら逃げ帰ってきて、無理そうだったら諦めてレベル上げに勤しんでから倒すという方針ということで」

 

 無難ですが、別に魔王を倒したいと願う特別な事情もない『勇者の役割押しつけられただけ』の私としては、急ぎたい理由もないので適当なのが自然なのです。

 

 さて、それではフィールドに出て最初のエンカウントバトルを待ちましょ――――

 

 

「フハハハハハッ! 我こそは『魔王のシモベ』成り! 勇者セレニアよ、貴様のような者が異世界から呼び出されるであろうことを魔王様はとっくの昔に予測しておられ、その時のための対策として幾重もの罠を張り巡らせてある! お前の未来は既に閉ざされたのだ! 諦めるがいい!

 しか~し、魔王様は慈悲深き御方。たとえお前が下等で下劣な人間種族に類する猿の仲間であろうとも、女神とやらの都合で異世界から呼び出されて自分と戦わねばならなくなったことを甚く哀れまれており、特別に俺を派遣して苦しまぬうちに楽にしてやるよう命じられたのだ。

 光栄に思えよ? この俺様の手にかかって死ねるなど魔王軍広しと言えど候補は百匹ぐらいしかいない大変な栄誉であるのだからな!」

 

 モンスターさんが現れたみたいですね。

 

「はぁ、なるほど。・・・・・・で? お話は今ので終わりでよろしいのでしょうか? こちらは戦闘を始める準備はとっくの昔にできているんですけども・・・」

「ていうか、セレニアさん。準備できてるんでしたら、先手必勝でさっさと袋叩きにして仕留めた方が楽だったのでは? 一匹できたみたいですし、一人一方向から襲いかかれば四方を取り囲んで逃げる隙も与えることなくタコ殴りにできたと思うんですけども」

「やめなさいって、そう言う現実論で最初から飛ばしまくるのは・・・。旅の始まりくらいお約束を守ってあげるのが様式美というものなのです。

 あなたも一応は女神様なんですから、弁えて下さいよ本当にもう・・・」

「貴様ら――っ!? この俺を無視して雑談とはいい度胸だ! よろしい、ならば戦闘開始だ! この俺様の必殺技でお前達を一瞬にして全滅させてやるぜ! 食らえ!

 ダークネス・ファン――――」

 

 

 ズダァァァァァァッン!!!!!

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・パタリ。

 

 

「勝ちました。魔王軍との初戦は、私たちの勝利です」

 

 う~ん、やはり使い慣れた武器を撃つのは気分いいですねぇ-。苦労して伝説の鍛冶屋さんに直してもらっただけのことはありましたよ! 『呪いの火縄銃』!

 

 ・・・まぁ、苦労と言っても偶然訪れた町中で酔っ払いが喧嘩しているところに巻き込まれて家まで連れて帰ってあげたら娘さんから勝手に家の事情を話し始められて、家を継ぐのが嫌になって飛び出していった碌でなしの息子さんを探させられる羽目になり、その時の目的地に向かう道の途上にあった三つ目ぐらいの街で襲ってきたチンピラが息子さんで、とっぽい人生に憧れて家を出たけど才能無くて故郷に帰りたくなっていて、でも一度入っちゃったら抜け出しにくい裏家業に手を染めてたから抜け出せなくてどうしようとか言っていて、結局最後は悪の側の方々が全部裏でつながっていたから一つを潰せば芋ずる式に全滅させられる都合のいい悪役連合だったお陰でアッサリと解決。

 

 強ささえ持ってりゃどうとでもなる程度の簡単なクエストと言えなくもない、時間と手間暇だけが無駄にかかりまくる精神的疲労度の高いイベントをこなして直してもらった火縄銃は私の宝物です。一生大事にすると伝説の鍛冶師さんの前で誓いました。

 名前も覚えてない彼らの想いとは関係なしに、私個人が気に入りまくっていますから・・・(ピト~♡)

 

 

「うわ。この人、性格悪くて友達いないからって火縄銃相手に抱きつく奇癖を身につけ始めましたよ。マジでキモい」

「末期で御座るな・・・。これならまだ拙者が目覚めた刀収集と、刀大好き癖の方が遙かにマシで御座るよ。――この波紋の揺れ方と刃の反り具合がなんとも言えず絶妙で・・・グヘヘヘ・・・」

「はぁ・・・♡ いつかワタクシも火縄銃のようにセレニア様に抱きつかれてみたい・・・。

 そして××を○○して、△△を□□□――――」

 

 ・・・・・・貴女たちがそんな風に変わっちゃったから、心の拠り所を無機物に求めるしかなくなっちゃっただけでしょー!? 他人の欠点だけじゃなくて、少しぐらいは自分が良いと思い込んでる奇癖を疑う癖を身につけなさーい!!!

 

 

 こうして私の、異世界転生勇者としての旅が新しく始まったのでした。

 

 

つづく

 

 

 

 

「・・・・・・あれ? 私は前と全然変わってないのに、どうして拠り所にしてもらえてないの?」(事の発端な自覚なし女神のつぶやき)




*前線地域の設定説明(忘れてたのを思い出したので書いておきますね)

『前線地域にある最初の国』と言う表現の通り、今いる国は前線と後方との間を繋ぎでいるいくつかの国の一つに当たります。
これ等の国の王たちは、国自体を関所兼通していいかどうかのレベル判定係を担っておりまして、今回の件での報酬がそれに当たります。
また、前線と後方では冒険者関連の法律にも違いがあります。これはメインで相手にするのが魔族軍か魔獣かによって同じ基準が使えなくなるからです。

それから、前線地域にも革命軍は存在しており少数精鋭で各地を転戦しながら支持を訴え続けてます。彼らは民衆のためにある組織ですので、民衆を害するなら魔族軍だろうと王国軍だろうと関係なく敵対して、王国軍とは極稀に共闘してたりもします。

後方よりも危険な分、不足な事態が起こり易く選択肢には自由度が高い反面、何かあった時の危険度と自己責任の判定基準がメッチャ厳しくなるため報酬も上がります。
危険手当と言うより、「そのために金を与えた。金で解決じゃ」なグルグルの王様理論がまかり通ってしまう場所、それが前線地域一帯です。

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