異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか? 作:ひきがやもとまち
なんだかオリジナル世界観の作品って楽でいいですね、自由度が高くて。色んな人が書きたがる気持ちがようやく分かりましたよ。
――尚タグに書いてある通り、今作はギャグ作品です。ダークファンタジーではありませんのでお間違えの無いように。
ーー目を覚ましたとき、私は男の人の背中におぶさって運んで貰ってました。
「・・・ここは・・・」
「お? 気がついたか。良かったよ、安心した。これで俺の“背中に背負った幼女の胸が当たってニヤケていた最低男”という不名誉な烙印を取り消す生き証人を確保できた訳だ」
「ーー失礼ですが、貴方は・・・?」
「俺はリュテッヒだ。アンタらに助けられた女の子リュシカの兄貴さ。
妹が世話をかけてしまい、申し訳なかったな」
淡々と話される口調がなんとなく既視感を感じさせて、私的には安心できる人だと思いました。・・・無論、人間性と信頼性はイコールではないので油断はできませんが。
「アンタは連れの美人さんにアッパーカットされて気絶して、今の今まで俺が背負って運んでやってたんだよ」
「それはそれは、ご親切にどうも」
「いやいや、こちらこそ。お陰でご立派なモノを目一杯堪能させていただいてますから」
おどけた口調で軽く自虐り、彼リュテッヒさんは私に色々と教えて下さいました。
この世界のことについて・・・は、無理ですね。いくら何でも不自然すぎます。
比較的人里近い森の中で女の子を襲っていたモンスターをナイフで背後から刺し殺した幼い少女が記憶喪失なんて設定は、猟奇的すぎるので即却下です。
なので無難に、都会へと出稼ぎにいった両親の元へ向かう途中の女の子設定を採用してみました。着ている服を誕生日プレゼントに送って貰ったお礼を一言言うためにです。
一人なのは家が貧乏なのでお金がないから。女神様は道中で偶然出会った旅の道連れ。ナイフを扱えるのは祖父が猟師で狩りの仕方と『食べさせてもらう事への感謝』を教え込まれたからと言う事にしておきましょう。
色々矛盾だらけ穴だらけ、突き詰めていけば切りがないご都合主義設定でしかありませんが、所詮は一期一会の赤の他人です。旅人にとっては旅先で出会ったすべての人がそうなのです。
ならば余計な感傷は無用。ビジネスライクに徹して、去る者は追わずの精神を相手にも期待すると致しましょう。
「なるほどね。じゃあ君は冒険者には成らないのかな?」
「冒険者ですか・・・恥ずかしながら田舎者なうえに貧乏なこともあって真っ当な教育が受けられず、どのようなお仕事なのか詳しく聞いたことがないのです。
リュテッヒさん。できればで良いので、私に彼らのことを教えていただけませんでしょうか? もちろん、イヤなら拒絶していただいてかまいませんから」
「う~ん、女の子にそういう言われ方をされて教えなかったら完全に俺が悪者だからねぇ。教えざるを得ないよね、絶対に。
さすがに俺も嫁さんもらう前から社会的に抹殺されたくはないからねぇ~」
やれやれとでも言いたげな態度と口調で軽く了承してくれたリュテッヒさんに、心底から感謝です。
「彼ら冒険者たちは生まれも育ちもバラバラで、目的や職業、戦い方にすら統一感はない。しいて共通点を上げるとしたら彼ら全員が冒険者ギルドに登録していて、正式に冒険者であるという身分を国から認可されていること。この一事に尽きるだろうね」
「ギルド? それは国が運営している冒険者互助組織かなにかなのですか?」
「うん、近い。
もう少し細かく言うと、ギルドは国と直接関係してはいない。あくまで代表が国から正式な依頼を受けたときだけ協力する形を取ってるし、事実として冒険者には国から受けられる支援や保証は存在してない。それらはギルドの管轄だからね。
でも冒険者ギルドを建てるには建物の機能上、どうしても一定以上の大きさが必要になってしまう。受け持つ仕事が多岐に渡るから当然なのだけれども。
でもそうなると広大な土地面積が必要になるし、利用客の生活環境なども考慮すると、どうしたって都市部の中心地近くに建てざるを得なくなる。
交通の便はなによりも重要だ。どんなに設備が充実した豪華で安い高級ホテルを建てたところで、立地が悪けりゃ誰一人として客は来ない。来たとしても半年に一人くらいさ。閑古鳥だよ」
「無人島に最強武器防具のみを取り扱う超高級武具店があっても、買いに行けるのが達人級だけじゃあねぇ。武具屋はともかく彼らが宿泊するのに使う宿屋などの関連施設が成り立ちません。
周辺環境が整っていなければ、都市計画は失敗に終わる道理です」
「まさしくその通り。だから国が都市計画を立てるとき、あらかじめ考慮されて設計されているのが冒険者街。所謂、冒険者御用達店が立ち並ぶ街の大通りだね。
ほら、この時点でギルドと国が癒着しているのは誰が見たって自明の理だろう?」
「まぁ、確かにそうですね。
とは言っても国とギルドの関係は、今までずっと上手いこと廻して来たのでしょう?」
「うん、そうだよ。
それが社会という化け物の背中の上で暮らしてる人間たちの強さであり、したたかさでもあるんだろうなぁ」
苦笑しながら彼が語ってくれたのは、国とギルドと教会の歴史。
三者三様の都合で表面上いがみ合いながらも、予定調和で決着する人類三大組織の間で行われてきた闘争の歴史についてでした。
「国と教会と冒険者ギルド。どの組織とも管轄している仕事内容による利権が一部他組織と被さってしまう。そうなると当然もめ事が起きるんだけど、正直な話内輪もめで戦力を消耗できるほど俺たち人類には余力がない。
だから毎回、出涸らしを何割か生け贄に差し出したり、古いだけで利便性が低く収益よりも維持費の方が高い大聖堂を敢えて襲撃させたり、問題児どもを纏めて処分する口実に使ったりして、後は過大な宣伝工作とプロパガンダと情報遮断と情報統制で巧みに乗り切ってきたんだよ。
なにしろ人類を代表する三大組織が水面下で手を結んでいるんだ。出来ない事なんて人類社会内部に限定してだが、存在しないんじゃないかな?」
「世界の全てが共通する利益を守るために手を組んだら、そりゃ何でも出来るでしょうね。
跳ねっ返りの原理主義者たちがレジスタンス活動や、パルチザンを行ったりしなかったのですか?」
「したねぇ~。て言うか、今もしているね~。
完全に予定調和に組み込まれて、無駄に足掻いているだけなんだけどさぁ」
「ご苦労なことですねー・・・」
「まったくね。
ーーああいう連中は世の中を変えるとか言ってるけど、本当に世の中と向き合う気があるんだろうか? ただ自分の見たいものだけ見て、聞きたいことしか耳に入れたくない、そんな子供じみた連中としか俺には思えない。
何も知らない純真無垢な子供が唱える綺麗事は、説得力があるからねぇ~」
・・・世知辛い話になってきたな~。なんでファンタジー異世界に来てまで現実の地球と同じ様な事を話さなければならないのか。
所は変われど人は変わらないし、変われない。
美しさが不変なように、醜さもまた不変。
ーーそう言うことなんですかねぇ・・・。
いやー、世知辛いなー、いやマジで本当に。
「まぁ、その分だけ冒険者ギルドに登録してある冒険者は人々から信頼が得やすい。登録してないもぐりなんて、ならず者と大して変わらない扱いしかして貰えないからね。必要なときだけ誉めそやされて、要らなくなったら乞食扱いさ。
だからもし君が冒険者になると言うなら、ギルドに登録することをお勧めしておくよ。
ちょうど明日には州都から乗り合い馬車がくる。乗せていって貰えば冒険者ギルド支部がある州都まで約半日ぐらいだよ」
「なるほど、参考になります。
では更なる参考のためにも、乗り合い馬車の運賃についてご教授いただければ幸いなのですが?」
「基本料金は銅貨50枚だが、ツケが利くし実際には払う必要性すらない場合もある」
「と言うと?」
「乗り合い馬車がくるのは半年に一度だけだ。
これだけ言えば、君なら予想がつくだろう?」
なるほど、確かに。
私は大きく頷いて了解の意志を伝えると、彼の笑顔が詳しい解説を求めているのを察して御要望にお応えすべきだと思いました。
「乗り合い馬車に乗って州都からやってくるのは税金を取り立てるための徴税官。当然のように護衛が大量に付いてきますが、彼らに使った分を少しでも補填するために微々たる額でも払ってくれる貨物を載せたい。
中身は人でも法的には貨物です。道中なにか事故が起きても保証は受けられず、国が責任を問われることは決してない。
更には盗賊や野党、モンスターの襲撃に際しては自衛のための出動を無償で要求することが出来る。
逃げたければ逃げてもいいぞ、どうせお前らの荷物は馬車の中だ。財産を投げ出して生きていけるかな?と言うわけですね。
しかも彼らは法的には貨物です。税金を守るための兵を割いてまで守ってやる義務は兵士にも徴税官にもありません。すり減らして肉の盾扱いしても法的には裁かれないのです。
よしんば撃退した中に目立った功績を立てる者がいたならば、特別報酬として撃退料を払って恩を売っても良い。どのみちモンスターなり野党なりは減ったのです。その分の報酬を払ってやったと思えば損はありません。
それにまぁ・・・どうせ報酬として支払われたお金は、街にある娯楽施設などで消費され尽くすのでしょう? 街を治める領主様にとっては、最後には自分の元に戻ってくるお金を渡した。その程度の認識しかないのでは?」
「世知辛い世の中だよね~」
「・・・まったくですね~・・・」
孫を背負ってなんとやらと言う歌を昔聞いたことがありますが、お婆ちゃんの背中でこんな話を聞かされて育った子供がいたらどの様に育つのか興味がありますね。一度でいいから見てみたいものです。
「ほら、もうすぐ村に着くよ。今日はもう遅いから、うちに泊まっていくといい。妹の命の恩人を夕暮れ間近な田舎の農村には放り出せないよ。
これで結構、治安は微妙なんだ。どこにでも跳ねっ返りは入ってきてるから」
「・・・ああ、なるほど。明日が半年に一度の国へ納める納税の日だから・・・」
「清潔な政治を理想に掲げるテロリストにとって、国軍に関わり合う場所はひとつ残らず徹底的に、標的にする気満々なんだよねぇ~」
「ーー本っっっっ当に、世知辛い世の中ですねぇ・・・・・・」
軽く異世界に絶望を覚えながらも、私の異世界生活一日目は終わりを迎えました。
願わくば明日の二日目はファンタジー世界らしく、夢のある展開を期待したいものです。
つづく