異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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チート展開の話、1話目です。魔王軍の内情とかに関しても描かれております。
あと、王道ファンタジー大陸へ移動している最中でのお話でもあります。


第26章

 ざぶ~ん。波しぶきを上げながら、私たちの乗る船は進んでいきます。

 現在、私たちセレニアパーティーは大陸間を移動しております。

 目指す目的地は東側の大陸。

 魔族軍の主力と人類側が対峙している主戦場からはもっとも遠く離れた、謂わば戦時中に平和を謳歌できる楽園とも呼ぶべき土地。

 

 この異世界で一番はじめに到着した国より更に東へ東へ、海を渡った先にまで行くと東大陸が存在しており、西側の大陸にある列強が中心となって設立されている諸王国連合の影響力が乏しく、弱いくせに戦ったことないから強いと思いこんでいるデカいだけの大国さんが乱立している地なのだとか。

 そんな場所に私たちが向かっている理由はただ一つだけ。

 

 ーーーー強くなったら、ゲームバランス崩壊したのでパッチ当てたい。

 

 それだけでした・・・・・・。

 

 

「まぁ、エクストラなジョブですので世界的に見ても想定外な存在なのです。そこいらの一般人相手にすること前提で戦い挑んできているザコモンスターさんたち相手に無双できてしまうのは致し方ないかと」

 

 ヨヨ姫様から有り難~いアドバイスをいただきましたので、移動している私たち。

 ・・・ちくそぅ・・・。ステータス低いままでもスキルを覚えさえすれば勝ててしまう、通常攻撃ばっかしかしてこない普通のモンスターなんて嫌いです。

 

 

「しかし、それでは何故に戦場から離れた土地に向かっているので御座るか? 普通逆では?」

「良い質問ですわねトモエさん」

 

 調子よく笑顔で相づちを打ってくれる王女様は、確かに人好きするタイプなんですよねー。中身にさえ気づかなければと言う前提条件付きではありますが。

 

「ですが、その質問にお答えする前に魔王軍と魔界について説明しておきたいと思います。魔界のことはご存じですか?」

「拙者が父上たちから聞かされた寝物語によると、百年以上前にあらわれ魔族を統一し、人間種族へ征服戦争を挑んできた最強最悪の悪魔と言われている存在では御座らなかったか?」

「正解です。ですが正確さを期すためにも多少の補足が必要になりますね。

 ーーもともとの魔界は魔大陸と呼ばれていた不毛の土地で、そこでは無数の魔族たちが好き勝手に生活しており、互いが互いを食い殺し合い、生を謳歌している野蛮な大陸だったのです。

 ある時に魔王が現れ大陸を統一し、武力によって魔族に秩序をもたらし、東から西、北までの広い範囲にわたって人間国家に侵略戦争を仕掛けてきたのですが、これは当初の時点で大きな計画失敗を招いてしまいました。

 内陸で生まれ育った魔王は海を知らず、人間側の大陸のいくつかに巨大な山脈や断崖絶壁があって、陸上兵力を運び込むのが思っていたより困難だったのです」

 

「魔王は当初の予定を繰り上げて、クラーケンなどの大型海王類の背中に乗せるか、ホークマンたちに一人一体運ばせることにより何とか奇襲に成功して複数の国を落とすまでは成功しましたが、その直後からは失敗が続いています。

 その理由は、人間国家群の王たちを甘く見過ぎていたからだと世間では噂されているそうです」

 

「魔王軍はオークやゴブリンなど弱いくせに繁殖力ばかりが旺盛な亜人たちを捨て駒として先兵に用い、犠牲がでること前提で数の上での主力に使うことにより人々の恐怖を煽り立てることで自分たち魔族に寝返ろうとする者を増やしていき、徐々にそして確実に勢力範囲の拡大を目論んでいたそうです。それが、魔王が当初たてていた世界戦略だったのです。

 これに対して人間側は徹底的な対応策を実行し、個の力で勝る魔族に数の力で対抗できているのです」

 

「守れない町は即座に見捨てる代わりに、守るべき土地は死んでも守る。裏切り者には死あるのみ。なれど従う限りにおいて国は諸君等平民たちを全力で守り抜こう。

 それが西側諸国の対魔族軍基本戦略であり、この策が徹底していることによって西側の主戦場は一進一退・・・・・・と言うよりかは一歩も進んでいないし戻れもしない泥沼な戦況を続けることになってしまいました。

 その結果、力付くで成立させていた魔王の地位は絶対的なものではなくなり、あちらこちらで魔族たちは己の配下である魔物たちを使い、好き勝手に振る舞うようになっていきます。

 当初は魔王も見せしめによる粛正で対処していたのですが、さすがに軍として勝利できるのが魔王本人が出馬したときだけの状態で軍としての統制など効き続けられるはずもなく、徐々に魔王軍は結果主義、成果主義、終わりよければ全て良しの独断専行が当たり前の組織となってしまい、今では軍とは名ばかりの強者たちが徒党を組んで功を競い合い騙し合う、互いが互いを隙あらば殺して席を奪おうとしている烏合の衆に成り果ててしまったのです。

 ――これが主戦場地域での実情です。まぁ、もとが欲望全肯定の秩序とは完全に無縁な化け物たちの集団ですから当然の結末かもしれませんけどね♪ うふふ」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 いや、アンタ「うふふ」て。そりゃ完全に軍として末期状態ですぜ? 軍として機能できてすらおりませんぜ?

 

 あ~・・・、なるほど。だからフィールドでエンカウントするモンスターの中に動物タイプ以外の「明らかに軍に所属しているはずだよなコイツ」みたいな見た目と設定が交じっている場合があるわけですか。納得です。

 

 

「魔王軍結成以来、魔王に忠誠を誓っている者たち同士の間でさえ派閥争いが絶えたことがありませんし、もとが犬猿の仲の種族同士だと上の統制が弱くなっただけで独断専行が増えてもいきます。

 おまけに魔王によって統一されて魔界と改名された魔大陸から海を渡って送られてきた多数の兵士たちのほとんどは、数だけは多いザコ部族の出身者たちばかりですからね。現地に到着した途端に野盗同然となって村々を襲い、派遣軍司令官は国との戦いと占領後のことで手一杯になり、許可なく越境しては各地に散ってしまって離散していく始末。

 草原などで現れるモンスターの内、『大ガラス』などの巨大動物系は野生の獣が何らかの影響により悪性変異しただけの生物ですが、それ以外のよく分からない生き物たちのほぼ全ては彼ら元魔王軍兵士たちが野盗化したものか、あるいは彼らが軍馬代わりに騎乗していた魔獣が戦場で乗り手を失い野生化したものと考えられている程ですわ」

 

 ・・・・・・適当に考えただけの推測が当たっちまいましたよ・・・。どこの百年戦争時代に生まれた武装集団『コンパニー』ですか、その方々は・・・。

 そりゃ、裏切り者予備軍ばかりになりますよ魔王軍も。寝返り組が続出するのだって納得です。中には魔王の恋人を殺すことで再利用して、魔王様を大魔王に改造しちゃおうなんて輩な大魔道師さんも出てきちゃうでしょうよ。だって末期ですもん。

 

 

 

「まぁ、そんなわけで魔王ご本人としましては目の前の強敵よりも先に、どこかの弱小勢力を倒して成果見せないと軍組織が維持できそうにありません。

 かと言って山脈を沈めてしまう力なんて持っているなら、軍組織そのものが世界征服には必要ないわけでもありますしね。

 この二つの問題を解決するには、列強たちに警戒されにくい半端者を人間に化けさせることで監視網を抜け、人間国家の遙か後方にある平和ボケして驕り高ぶった諸王国連合に非協力的な貴族制国家を内部から乗っ取るか崩壊させるかするしかないと言う理由から、魔王は後方地域一帯で破壊工作を展開させ続けるようになったのです」

 

 

「数年前より、あちらこちらで悪徳領主の圧政や大臣の謀反。頭のおかしそうな新興宗教が勃興したり、国教の地位をねらう第二位の宗教勢力で中堅幹部たちが悪巧みをしていたりと言った風に混沌とした世情になっているんですよね。ですから腕試しというか、試し斬りと言うべきでしょうか。とりあえず悪者さん退治の対象には困らない状況に陥ってるのです。

 列強は役立たずの癖して態度だけは大きい、歴史が長いだけしか脳のない弱小国家集団のことなんか興味ないそうですしね。何年か前にも王たちの集まる会議場で「自分のお尻も自分で拭けない老廃物を助けてやるために、私が愛する国民たちを戦場に赴かせねばならない理由がどこにあると?」って発言された老王さまがいらっしゃったそうですから、助けがくる見込みもありません」

 

「ですので、セレニア様が活躍なさるには持ってこいの戦場かと思われました。

 だからこそ後方大陸ーーーーもとい、東側の大陸へと向かう船に便乗させて頂いているというわけなのです。御納得いただけまして? トモエ様☆」

「・・・なんと・・・なく・・・?」

 

 絶対に分かってなさそうだなー、この人。戦士系ジョブの知力は低いのです。

 

「しかし、そうなると少しだけ気がかりなことが出来ましたね・・・。後方を扼するのであれば前線との連絡網を絶つのは基本中の基本のはず。

 漁船まで襲ってしまったら住人たちが餓死してしまうので占領する必要なくなりますし、この船なんかの大型帆船とかを襲って沈めるのが一番効率宜しいのではないですか? 見栄え的にも宣伝に使えそうで効果は倍増しそうなのですが?」

「・・・・・・・・・(に~っこり☆)」

 

 あ。ものすごくヤな予感。

 このパターンはひょっとして、ひょっとしなくても・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 カン!カン!カン!カン!カン!!

 

 

「海賊だーーーーっ!! この船は海賊船に狙われているぞーーーーーっ!!!!」

「違う! よく見るんだ! あれは海賊船じゃねぇ! 幽霊船だ!

 元は人間たちの乗る海賊船だったのが、魔物に殺されてアンデッドとして再利用された幽霊海賊船なんだよ!」

「それって、普通の海賊船とどこが違ってるんだ!?」

「元はただの一般人だろうと、海賊幽霊船の乗船員に殺されてしまえばアンデッド化して海賊幽霊に変えられちまうのさ! 場合によってはオール漕がせるためだけに奴隷として飼われることがあるんだけどな!」

「ヤベェじゃねぇか! ヤバすぎるじゃねぇか! 生きてる間は傍迷惑な連中だった海賊たちが殺されたことで迷惑度が急上昇しちまってるじゃねぇか!畜生!」

「アンデッドの糞野郎どもめ! この世を恨んで人殺したいなら、自分を殺せよ社会のゴミ虫野郎めらが!

 つまんねぇ自己満足による個人的復讐に巻き込もうとしてんじゃねぇ! ブッ殺されてぇのかアニサキスども!」

 

「・・・て言うか、さっきの説明してたお前。よくそんなことに詳しかったな~。どこで覚えてくるもんなんだ? そう言った知識って」

「ふっ。なにしろ俺は500回幽霊海賊船に捕まって奴隷として飼われ、500回脱走に成功してきた男! たとえ五百回が501回に増えようとも502回脱走してみせるまで!」

 

『か、カッケェェェェェ!!! マジ格好良いぜコイツ!

 ・・・でも、戦う前から負けること前提の話をするのは止めような? 戦意落ちるから』

 

「あい・・・・・・(しょぼーん)」

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 なんか、いつも通りに平和的で殺伐とした名前なしのモブキャラさんたちによる面白トークが展開されてるみたいですねぇー。今日のは船員さんたちかー、はじめてだなー、面白いなー。

 

 ・・・などと現実逃避をしていたところ・・・

 

 

 

 

『その船に勇者って奴が乗ってるはずだーーーっ!! 出てこーーーーーい!!!』

 

 

 ・・・名指しで指名されてしまいました。団体客様に。観光業界だったら売れっ子になれてたかもしれませんけどねー。

 

 

「フフフ・・・お初にお目にかかります、勇者ご一行様。私は魔王軍配下の私略船団長タタリと申します。先ほどは部下たちが大変な失礼を働いてしまい申し訳御座いません。何分にも生前は、誇り高き海の荒くれどもが中心で御座いましてね。何卒よしなに」

 

 なんか、芝居がかった嘘丁寧臭い態度の悪徳海賊らしいキャプテンさんが出てこられましたね。

 

「ああ、勇者という存在そのものを隠されても無駄ですから、お止めになった方が宜しいですよ? 見苦しいだけですからね。

 ーー魔王様はご自身の計画を妨害するため神とやらが送り込んでくる勇者の存在に早くから警戒されておられました。故にあなたが東大陸行きの船に乗るであろうことは予測がついておりました。

 後は餌を蒔いて獲物がかかるのを待つばかり。簡単な作業でしたよ、クククク・・・」

 

 ・・・餌?

 

「ヨヨ姫様、何かご存じだったりされますか? 彼が言ってた餌のこととかについて」

「さぁ? それについてはわたくしは何も。わたくしとしましてはセレニア様に魔王軍が保有する海の戦力について知っておいてもらおうと思っただけでしたので・・・」

 

 困惑顔のヨヨ姫様。この人の場合、本気の本音で嘘はけそうだから信じていいのかどうかよく分からんとです。

 

「魔王様が東大陸に派遣された上級幹部を倒しに行く途上なのでしょう? ちゃんと分かっておりますよ・・・なにしろ噂を流させたのは私なのでね、クククク・・・。

 どうやら知恵比べでは私に及ばないようだ、勇者様方は・・・ふぇっふぇっふぇ・・・」

 

 ・・・・・・その噂、今はじめて聞かされた初耳なのですが?

 

「まぁ、侵略戦争始めるまで大陸から出たことない内陸の民である魔族のなかで海に住む方々は外様ですからねー。

 噂を流してくれるよう協力してもらうために払ったお金を持ち逃げされた詐欺に引っかかった類のアンデットたちなのではないでしょうか? アンデッド化した海賊たちは海に縛られてしまい、陸には二度と上がって来れなくなりますから世情に疎くなるのは止むを得ませんし」

 

 ・・・魔族さえも世知辛い異世界なんですね、ここって・・・・・・。

 

 

「早速ですが、あなた方には船と共に海に沈んでもらいます。否やはありません。私どもの手柄となるため、海の藻屑となるのです。

 ーーそう! 我らが悲願である魔王軍海軍を設立するための人柱となってもらうために!」

 

『うおおおおおおおおおおおおっっ!!! くたばれ陸の豚ども! 俺たち海賊船はお前たちを乗せて大陸間を運んでやるための輸送船なんかじゃねぇーーっ!!!』

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 

「あなた方を倒せば手柄となり、目出度く海軍を創設させていただける件を魔王様からご承認いただけた直後に本人の乗る船とかち合えるとは! 私は邪神様に愛されているに違いありません!

 野郎ども! あの船にカタパルトを使って大石を投げ込み、早く沈めてしまいなさい! 手加減は無用です! ファイヤーです!」

『せ、船長! 大変です! 空からバードマンどもが・・・・・・ぐふはぁっ!?』

「『艦長』とお呼びなさいと何度言ったら分かるのですか!? この脳味噌なしのスケルトンパイレーツどもが! 少しは覚えることも覚えなさいよ役立たず!」

『す、すいやせん艦長サマ・・・。ーーじゃなくて! 空から! 空からバードマンどもが俺たちの手柄を横取りしに来たんですよ!

 勇者を倒した功績によって、魔王軍空軍を創設してもらうために!』

「な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?」

 

 

 

 バッサ、バッサ、バッサ、バッサ、バッサ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『ゲハハハハハ! 俺たちは海に縛られてる不自由な奴らと違って、本当の自由を愛する者たち空の民バードマン!

 勇者よ! 空のモンスターと言えばグリフォンだのドラゴンだのガーゴイルだのと言った有名どころしか重宝してもらえない現状を打破するために犠牲となってもらうぞ!

 死にさらせ陸の豚ども! 俺たちはお前たちを持って運んで大陸間移動してやるための運送屋じゃねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!』

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 バードマンの宅配便。もしかしたら魔女さんとかが宅急便のアルバイトしている気がしなくもない、異世界の種族問題です。

 

 

 

 

 

「くぅっ! 美味しいところだけ横取りしようとは所詮、海鳥の同類どもですね! 実に意地汚い!

 ーーはっ!そうか! さては奴ら陸軍が自前で建造中とか言う空中戦艦の噂を耳にして焦りだしたのですね! ならば仕方がありません、攻撃開始です!

 野郎ども! お邪魔虫どもから先に消えていただきなさい! どのみち最終的には敵になるのですから遅いか早いかの違いだけが問題。潜在的な敵は、殺せる内に殺しておくに限るのです! ファイヤー!」

 

『おおおおおおおおおおおおっっ!!!! くたばれ!苦労知らずの鳩に鴉ども!!』

 

 

 

 ブォンッ! ブォンッ! ブォォォォンッ!!!

 

 

 

『うおっ!? 海のハイエナどもが撃って来やがったのか! あん畜生・・・!!

 手柄を他人にも分けてやろうとって気概すら持ってねぇから、海の野蛮人は嫌いなんだよ! こちとら海と違って空飛んでくる手柄首なんざ噸とご無沙汰だってぇのに!

 ーーはっ!そうか! さては連中、陸軍が自前で建造中だとかいう海上要塞の噂を聞きつけて功を焦りやがったんだな!

 ちくしょう! こうなったら反撃だ! どのみち人間どもを滅ぼした後には敵になるんだ! 今の内から殺して滅ぼしちまったって問題はねぇはずだ!

 てめぇら! 石落とせ石! 奴らの頭の上に、思いっきり熱いのぶちかましてやれ! ファイアーッ!』

 

 

 ヒューッン! ヒューッン! ヒューッン!

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 ・・・・・・え、なにこの末期状態を越え過ぎちゃった日帝軍みたいな状況。て言うか魔王軍、いくら何でも陸軍国家過ぎるでしょう・・・もう少し新興の海と空にも優しくして上げましょーよ、いやマジで。

 

 

「てゆーか、この状況。私が一方的に殺しまくれるんですけど、本当に大丈夫なんですかね? 画的に悲惨な状況を展開してしまうと思うのですが・・・?」

 

 一応、女神様に選ばれた転生勇者らしく配慮してみます。一応は。

 

「大丈夫ですわセレニア様。古今東西、あらゆる伝説において勇者とは一方的な殺戮者のことを指して用いられてきた言葉なのですから問題なしです。

 たった一人で一国を相手取る力を持ち、世界を数人で救ってしまえる超人類にしてバケモノども。雲霞のごとく押し寄せる敵軍を一騎当千して無双して千切っては投げ、吹き飛ばしては猛追撃。

 それが勇者と呼ばれる存在の英雄譚です。ただひたすらに敵を斬り殺し続ける、敵軍にとっての死神のことを人々は昔から勇者と呼んで崇め奉ってきた伝統が人類にはあるのですから大丈夫です」

「・・・・・・」

「さぁ、どうぞセレニア様。レッツ・ジェノサイドですわ!」

「・・・・・・・・・はぁー・・・」

 

 私は覚悟を決めて銃口を向け、一言だけつぶやきました。

 

 

「ファイエルボール」

 

 

 シュゥゥゥゥ・・・・・・ズドン!!

 

 ヒュルルルルルルル・・・・・・・・・どっかーーーーーーーーーっん!!!

 

 

 

「うおっ!? な、何が起きやがりましたか!? 者共、報告を上げてきなさい!」

『か、艦長! 砲撃です! 船の甲板からファイヤーボールによる砲撃を受けてます!』

「なんですって!? ・・・ですが、あの魔法は連射が利かず、詠唱時間が長いうえに魔力消費も激しい・・・。魔法使い系の上級職に就いている者でさえ、今の威力で使い続けては体が保ちません。その程度の被害なら幽霊船と化した海賊船が沈む心配はありませんから気にせず空への攻撃を続けなさーーーーーー」

『続いて第二射きます! 後ろからは第三射も!』

「なっ!? し、しかし船そのものが巨大なアンデッドモンスターである点こそ幽霊船が浮沈である理由。

 巨体にふさわしいHPを誇っているのですから、火がついたくらいで沈むことなど心配する必要はありませんよ・・・」

『敵弾が着弾いたしま・・・・・・・・・』

 

 

 ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーーっん!!!!!!!

 

 

「ーーーなんですか、この爆発は!? 火薬など船倉に入れてなかったはずなのに、どうして火球が当たっただけで船が爆発するのですか!?

 理解できない・・・ありえません! こんなこと絶対にあってはならない!」

『艦長! 直撃弾がこちらに向かってまっすぐ・・・・・・か、艦長ーーーーーーっ!!!』

「か、か、神さぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 

 チュッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッン!!!!!

 

 

 

 

「族長! 奴らの船が勝手に沈みましたぜ。火薬か油でも満載してたんでしょうか?」

『さぁな。それよりお前ら、オードブルが海の底に逃げちまった以上は本命を頂くぞ。勇者狩りだ! 抜かるなよ!』

「「「応っ!!!」」」

『よーし、いい返事だ! それじゃあ、行くぞ・・・・・・』

「族長ーーーーーーーーーっ!!!!! 勇者の乗ってる船から火球が次々と打ち上げられてきます!」

『!!! 勇者のパーティーには魔道師が入ってやがったのか! 散会しろ! 大きく距離をとって火球には掠り傷ひとつつけられるんじゃねぇ!

 こちとら海鳥のと違って、海水に塗れたら飛び立てなくなる羽根の生えてる種族。火傷一つでもして飛べなくなったら落ちて沈んで死んじまうぞ!

 一発だけか、多くても二、三発しか連射しずらい火球魔法による対空砲撃は、やり過ごした後から反撃に点ずるのが基本よ』

「ぞ、族長! 火球の数が一気に倍増! し、しかもこの火球、普通のと違う気がするーーー」

 

 

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・どっかーーーーーーーっん!!!!!

 

 

 

 

『誰にも当たってないのに爆発するだとぉぉぉぉぉぉっ!?

 たたたた、助けてがみざブバハアバァっっーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・敵部隊、全機撃墜を確認。敵の母艦(?)も沈められたようです。海に落ちた中には生存者もいそうな気もしますが、ほっときゃそのうち死ぬでしょう」

 

 私が少し疲れ気味に報告し(《ファイエルボール》の魔力消費は0じゃないだけで、消耗はするのです)背中にあった手すりに寄りかかりました。

 

 ヨヨ姫様は「お見事です」と褒め称えてくれて、

 

「では、次はわたくしの番ですわね。アンデッドは殺しただけでは、いずれ復活してしまいますので、完全に消滅させることを狙わないといけません。その為の、これです」

 

 そう言って、手袋をつけてないし拳ダコもできてない白魚のように美しく細い右手をスゥッと前方に翳します。

 

 

 

 

「死者たちの無念よ、わたくしが美しく生き続けるための糧となりなさい。

 《ソウル・スティール》」

 

 

 

 ・・・海に沈んだ幽霊船からだけでなく、海上を漂っていた羽の生えた死体たちからもエネルギーっぽいナニカが飛び出してヨヨ姫様の右手の中に。

 

 背中が凍えるような悲鳴の嵐が聞こえたような気もしましたが、まぁハガレンの『お父様』がやってたことと比べたらこれぐらいはね。

 

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・・・・。

 

 やがて吸収(食事?)が終わって一段落したらしいヨヨ姫様も「ふぅ」と軽く肩をすくめられてから感想を述べられました。

 

 

「やはり穢れた魂では数だけ集めても大して呪いの蓄積には役立ちそうにありませんね。

 次に拳を放つ際には、最優先で相手の体内に流し込むことで使い捨ててしまうと致しましょう」

 

 どうやら魔拳士の拳は『気』ではなくて吸収した魂を『呪い』として打ち込むことで相手の体を内部から破壊してしまう系の、現実に世界救済の旅する勇者が仲間に入れちゃうと不味いタイプみたいでした。

 

 

「何で御座るか、この史上最低最悪の組み合わせコンビ・・・・・・アンデッドにとって最悪の相性過ぎるで御座ろう・・・・・・」

 

 トモエさんに呆れられてしまいました。

 無理もありませんが、私単体でならそれほど大したホラー要素ないことだけはお忘れなく。

 

 

「ん? そう言えばメガミ殿はいずこで御座るかな? 戦闘開始よりずっと前に甲板の隅っこに移動して行ってから、一度も声を聞いていないで御座る故、いささか心配が・・・」

「女神様ですか? 彼女だったら、ほら。あちらにずっと居られましたが?」

 

 私はそう言って船の舳先辺りにいて、うつむいている女神様の後ろ姿を指さしてあげました。

 

 

 

「お、なんだ居たのでは御座らんか。心配かけさせるで御座るなー、もー。

 メガミ殿ーっ、敵は全て倒し尽くされました故、もうこっちに来ても大丈夫で御座るよー・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウゥゥゥエェェェェェッっ‼ ・・・ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・。

 て、天にまします神様である私が下界のアビスで水遊びとか、世の中狂っているとしか思えませ―――ウウウウェェェェェェェェェッッ‼‼‼」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「(ぽんっ)そっとしておいて差し上げましょう、セレニア様。新しい冒険の舞台へ胸を弾ませながらの移動中に夢を壊されたのです。彼女の受けた心の傷は、計りしれません。今は、そうっとしておいて上げるのが一番の優しさというものです・・・」

「ヨヨ姫様・・・」

「・・・・・・(こくり)」

 

 

「さぁ、セレニア様。傷心中の女性にヘタな慰めなどしようとは思わずに、わたくしと二人で夏の海での一時を満喫いたしましょう。大丈夫ですわ、安心してください。

 ーーー天井のシミを数えているほど暇な時間を送る心配はしなくても良いのですよ・・・? さ、わたくしにセレニア様のすべてを預けて身も心も楽にして・・・・・・」

 

 

「そのお言葉はお色気ネタなのでしょうか? それとも真摯に思いを伝える愛の告白なのでしょうか? それによって対応と結末が変わると思うのですが?」

 

 

 セレニアヒロインの百合AVG。

 最後の選択肢で告白した場合には『ミンチよりも酷ぇやEND』

 「冗談だ」を選んだ場合には物語は終わることなく続いていきます。

 

 

なので『うふふ、冗談ですわ』を選んで続く、と。


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