異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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新作と言うか昔書いてた物を完成目指して途中まで書き進めたところで想う所があり、こちらを優先させて頂きました。

次話からは一応ストーリー性を持たせようと思い、セレニアが戦いに出る前の心境変化、もしくは戦士としてのセレニアの考え方を説明する回として書き直したのが今話となります。

戦いに出られるようになる理由はシンプルに、上位職へのクラスチェンジです。
今まで『尉官』だったのが『佐官』に昇進したから権限が拡大し、指揮下にある兵力が増えたのだと解釈しといてください。・・・ファンタジーはどこ行った?


第24章

「国と民の信頼を裏切った悪徳冒険者セレニアっ! 貴様に殺された兄の無念を晴らすため! 復讐の鬼と化した私自身にケジメを付けるため! 今こそ我が全てを正義の刃として悪鬼外道に振り下ろさん!

 悲劇の賞金稼ぎミリィ・ワイルダー、いざ尋常に勝負!」

 

 

 

 パァンッ!

 

 

 

 ・・・・・・・・・ぱたり。

 

 

「・・・私が攻撃して悲劇の賞金稼ぎを倒しました。悲劇の賞金稼ぎをやっつけました」

 

「チャッチャラ~♪

《勇者セレニアたちは敵をやっつけた!

 それぞれ 2ポイントの経験値を獲得! 5000ゴールドを手に入れた!》」

 

「ちょっと待つで御座るーーーーーっ!?」

 

 異世界に暮らす冒険者らしく通常業務に勤しんでいた私と女神様の二人にたいして、久しぶりにトモエさんが常識的反応でツッコんできてくれました。

 懐かしいな~、本来ならこれが普通なんだよな~と思いつつ、私たちは真顔で彼女へと振り返ってこう言うのです。「なにか問題でも?」・・・と。

 

「いやいや、大有りで御座ろう!? むしろ、問題しか無いで御座ろう!?

 だって、今、人間が! 女の子が! 殺してたのをやっつけたって・・・!!」

 

 

「「ええ、そうですね。それがどうかしましたか?」」

 

 

「ええぇっ!?」

 

 

 驚愕のトモエさん。今まであんまりこういうイベントが無かったから仕方がないのですが、一般的な正義思想の持ち主から見ると、やはり異常な光景として映るんでしょうねー。

 

「敵が殺意を以てこちらに刃を向けてきた。

 私は死にたくないから、殺されないために銃の引き金を引きました。

 ・・・これのどこに矛盾があるのです?」

「有りまくるで御座る! 剣を相手に飛び道具を使うなど卑怯卑劣! 許し難い武士道違反に相違御座らん!」

「はっ」

 

 私は悪意たっぷりに笑い飛ばし(そう見えるよう努力はしました。動かない顔で。結果的にどう見えてたのかは知りたくありません・・・)彼女の傲慢すぎる正義感を完全否定して差し上げます。

 

「では、トモエさん。貴女はこう言いたいのですか?

 剣を得物として扱うソロの賞金稼ぎを相手に、接近戦が超苦手で遠距離から隠れ撃つぐらいしか取り柄のない私が剣をもって戦い、正々堂々斬り殺されることこそが正義であり正しい結果なのだと・・・貴女の主張は詰まるところそう言う意味合いを持っているのでしょうか?」

「そ、そこまでは言って御座らんが・・・しかし! しかしで御座る! 正々堂々ひとりで挑みかかってきた勇気ある者にたいしては相応の対応をもって接するのが礼儀と言うものだとお考えにはなれませぬか!?」

「剣士が銃を相手にしたとき、卑怯だというのは当然です。届きませんからね、自分の持ってる剣の刃が。

 一方的に殺されてしまう位置にいる人物が、こちらの有利な間合いにまで敵が降りてくることこそ正しく正義であると主張するのは至極当然。戦争の基本でしょう。なんら珍しいものではありませんし、別に特別視する必要性はないのでは?」

「そ、それは・・・」

「では逆に、立場を入れ替えた場合を例にして考えてみましょうか。

 接近されては使い物にならなくなる飛び道具しか持ってない相手が、目の前に突きつけられた刃を前にした時にこう言ってきたら、どう答えますか?

 『飛び道具が使えない間合いで接近戦を仕掛けてくるのは卑怯だ』ーーと」

「・・・・・・・・・・・・」

「卑怯という言葉は、本当に卑怯な言葉だと私はずっと思ってきました。

 不利な体制下にある時に口にすれば、問答無用で相手を卑怯卑劣な悪者に仕立て上げられ味方を得やすくして裏切りを誘発できもします。

 数の差を頼んだ力押しを卑怯だなんだと罵ることで味方を増やし、敵を減らす。それによって数の差を逆転させて敵を追い込み増えた数によって包囲殲滅する。

 やってることは変わらないのに自分の方が先に敵を「卑怯だ」と罵ったことで正義の立場を得て、敵には悪のレッテルを貼れる。大義名分として用いるには最高の言葉ですよ、反吐がでますがね。

 先に言った者の勝ちとは本当によく言ったものですよ、貴女もそう思われてるでしょうトモエさん? ・・・いいえ、正義の味方をすることで悪者と言う名の人間たちを切りたがる、正義の味方の人切りさん?」

「違う・・・違うで御座る・・・。拙者は・・・拙者はただ正義を・・・武士道を・・・正しき道を歩みたかっただけで・・・だからこそ拙者はお主のことをーー!!!」

 

 

 

「・・・よしっ! 長ったらしい詠唱完了! 瀕死の重傷全回復魔法《キュア・オール・ヒーリング》! 相手は生き返る! これで万事オッケーです!」

 

 

 

 ーー遠くでと言うほどではありませんが、私たちが無駄話して暇潰しをしていた場所よりかは少しだけ離れている、倒したばかりの敵少女さんの傍らで立ち上がりながら女神様が元気よく手を振ってらっしゃいます。

 

「・・・回復は終わりましたか? ドロップアイテムの回収と、賠償金の接収は?」

「モチのロンですよ! まぁ、さすがに5000ゴールドは盛りすぎでしたけど、そもそもゴールドって貨幣単位が意味不明なんでオールOKと言うことにしておきます!」

 

 倒した敵の懐を漁り終え、意気揚々と凱旋してきた女神様から戦果報告を受け取りつつ、私は再度出発する準備をはじめました。

 

 ふぅー、出発準備終了直前に変なのが襲ってきたときにはどうなるかと思いましたが、何事もなく誰一人怪我することなく終わって良かった良かった。

 

「・・・へ? あの、ごめんで御座る。ちょっと意味が・・・・・・」

 

 と思ってたら、トモエさんが変ま顔して私たちに問いかけてきてます。

 一体なんでしょう? 急いでるときに全くもう、困った人ですねー。

 

「どうしましたトモエさん。鳩が豆鉄砲食らったときのような顔してと、表現すべきなのだろう表情になっておられますが?」

「細かい描写説明をありがとうで御座る! でも、違くて! そうじゃなくてそこじゃなくて! 細かい説明がいるのはあれ! あそこで倒れ伏してる賞金稼ぎの女の子!

 セレニア殿、さっきあの少女を撃ち殺したはずなのでは御座らぬのでしたか!?」

「は? なにを言ってるんですか、トモエさん。そんな事あるわけ無いじゃないですか、バカバカしい」

「だって、現にさっき撃ってたで御座るもん! 拙者見てたで御座るもん! ばーんって音がして敵が倒れてセレニア殿が戦の現実について拙者に語りきかせて来くれてーっ!」

 

 はぁ・・・。この人はまったく・・・まだ戦場のリアリズムというのが理解し切れていないようですね・・・。仕方ありません、最後にもう一度だけ教えといてあげましょう(フラグです。これ言う人はまず間違いなく何度でも同じ言葉を同じ相手に言い続けます。なので意訳すると「これからもよろしく」です)

 

 

 

 

「いいですか? トモエさん。

 そもそもーー銃弾一発で人を殺すのは難しすぎるのです。

 私じゃ無理です。だから撃たれた彼女は死んでませんでしたから、回復させていただきました。この説明でご満足できましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「うっわー・・・セレニアさん、自分が今まで当ててきたこと全否定しちゃいましたねアンタ・・・」

「仕方がありません。当たってしまうのだから、私の腕ではどうすることも出来ませんでしたのでね。神様か世界の都合で当たっては殺せていたのでしょうよ。

 運だけで勝ててきたのが今回は運に見放されたみたいなので殺せず生き残り回復させた。以上です。何か残りの質問はありますか?」

「・・・・・・・・・・・・何もないで御座る。ないったら無いで御座るよーだっ!」

「・・・子供ですか貴女は・・・」

 

 私は、涙目になって頬を膨らませているトモエさんに手を返して立ち上がらせてから、女神様に顔を向けて入手したばかりのドロップアイテムリストを確認させてもらい

 

「あ、この辺りの地図が入ってましたね。ラッキーです。

 ・・・どうやらこのまま行くと盗賊団のアジトとやらに行き当たるそうですので大回りして避けて進み、次の町の役所なりギルドなりに通報しておくといたしましょう。面倒事はゴメンですから」

「イエーイ! セレニアさんの民主主義的個人主義キタ━(・∀・)━!!!! 今日も狂信的な民主主義者は絶好調だぜイエイ!」

「・・・ううう・・・今日はとんだ赤っ恥をかかされたで御座るよー・・・(T-T)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー兄貴! 奴らまだ到着してませんぜ! 勇者の野郎が気絶して倒されてただけでさぁ! これで後は待ってるだけで俺たちの大勝利は確実です!」

「よーし、よくやった馬鹿野郎ども! 到着するまではゆっくり待つぞオラー!」

 

 

 ・・・数時間後。

 

『・・・・・・来ない』

 

 

 

 

 盗賊団のアジト:倉庫の中で。

 

「・・・・・・あふ・・・ぅ・・・ん・・・(縛られて気絶中の辺境勇者)」

 

 注:彼女は後ほど陵辱予定のためにトップレスで机の上に拘束されてますが、寸前で討伐隊が到着するはずですので問題なしです。

 本気で何のために出てきたんだか分からない役所のキャラになってしまいました・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ:彼女たちにとっての敵とは何なのか?

 

ト「先ほど敵を『やっつけた』と表現したのは、殺してなかったからなので御座るな! さすがはセレニア殿。奥が深い」

セ「いいえ? たとえ殺しちゃってたとしても『やっつけた』と表現しましたよ? 当たり前の常識でしょう?」

ト「え・・・。だって、あれ、人殺しとやっつけるは全然違う・・・」

セ「同じです。焼き殺そうとも斬り殺そうとも串刺し刑でハリネズミ状態にして殺そうとも、全部まとめて同じ表現『やっつけた』が適用されるのが世界の常識なのです。基本ですよ?」

ト「そ、そう言うものなので御座るか・・・?」

セ「そう言うものなのです。

 また、倒した敵を表す言葉も『個体名』か『敵』のどちらかであり、複数で現れた際には『魔物の群れ』で統一されてます。

 神だろうと魔王だろうと天使だろうと悪魔だろうと一切合切関係なく敵は敵、魔物の群れは魔物の群れ。

 これには例外が存在しておらず、人間もまた例に漏れていません。人間が敵として襲ってきたら、その存在は『人型モンスター』であると認識して起きなさい。それがファンタジーと呼ばれる世界の鉄則です」

ト「ファンタジーなのに、夢も希望もない!(>o<)」

 

つづく


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