異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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ひさしぶりの更新となります。
本当だったらもう少し長い話にする予定だったのですが、どういう訳か疲れてしまって眠いので切りがよいところで切らせていただきました。

新キャラが登場しますが、仲間には加入しません。登場するのもクエストの期間内限定です。今後も出すかはわかりません。


第20章

「・・・来客が来ている? 私にですか?」

 

 依頼を達成し報告をすませ、報酬を受け取った私たちが宿屋に帰ってくると女将さんの娘さんが伝えてくれた言伝。

 なんでも数刻前より宿屋に来て、近場の森へクエストに出ていた私を待つため居間に居座り続けている人物がいるのだとか。

 

 しかもその人物、超ビッグーネームだったのですから驚きです。

 いったい全体、何がどうなって私のところなんて超零細新人パーティーに会いに来る用事が出来るのなら、ですね。

 

「神代の時代に生きた種族最後の生き残りにして、幾度も世界の危機を救ってきた大英雄。時代ごとに現れる勇者たちを教え育てるため何処からか現れて助けに入る最強無敵の助っ人剣士様ね・・・この設定、さすがに出来すぎてません? チート転生者でもないでしょうに・・・」

「まぁ、そうですね。本物の転生者さまは弱っちくて小狡いだけのガキでしたし」

 

 うん、その通りだけどアンタが言うのはムカつきますね女神様。この姿も能力値もあなたが決めたものであって私は指定していなんですけどね?

 

「とは言え、一介の中級冒険者パーティーには国を跨いで活躍している所属なし大英雄さまをお待たせする権利も資格も自由すら与えられてはおりません。急いで帰るといたしましょう」

「「おーっ!」」

 

 どこの国にも所属してないけど、冒険者でもない。それでいて世界最強、絶対無敵の剣士様なんて普通だったら国が存在を許しておいてくれるはずがない最大級の不確定要素です。自分の国に翼の生えた人の心を読める虎を放し飼いしておける支配者なんて、実在できるはずがありませんから。

 それでも彼は厳然として実在しており、今のやりとりから国への入国も滞在中の自由もある程度は保証されていると見てよいのでしょう。

 そこにある理由がコネであろうとお金であろうと、どのみちお呼びがかかった中級パーティーに選択肢などないのです。宿まで全速力でダッシュです。きーーっん!です!

 

 

 

 

 

 ・・・そして、私たちが宿泊している二流半レベルのお宿『出会い停』にある一室で。

 

「はじまして。私はクライスラー。冒険者ではありませんが、クラスは種族特性による固有の専用職で『剣聖』・・・ソードマスターに付いているものです。

 レベルは上限突破の200オーバー。ステータスも軒並み計測不能で、使える魔法も回復系を中心に召喚獣から攻撃系まで幅広い使用が可能です。今後ともよしなに」

 

『お、おおぅ・・・・・・』

 

 私たちは田舎から出てきたばかりのお上りさんみたいに口をポカンと開けて、目の前に立つ絶世の美青年を見つめてしまいました。

 

 まず、金髪です。それに眼が蒼いです。

 背も高いですが、細身です。鎧は頑丈そうなのに、重そうな印象は受けません。希少で強力な魔法の品なのでしょう。腰にはいてる剣も立派な拵えをしております。

 

 ーーただ、私が彼を見たときに一番注目してしまったのは、それらの様な些事ではなくて。

 

「・・・山田さんのお兄さんです・・・」

 

 もしくはレゴラスさんですね、ロード・オブ・ザ・リングに出てくる奴。弓使いのエルフで王子様の。あれとそっくりな長くて細い耳をした色白の金髪碧眼青年を見て『エロマンガ先生』の山田さん兄妹を思い出さないなんて私には出来ません。不可能です。

 

 ・・・しかし、何度見ても本当に似ているなー、エルフと。

 いやまぁ、あっちと違ってこっちは本物のエルフなんでしょうけども。

 

 私たちがボケッとしたまま沈黙してると、相手のエルフさん(もしくはお兄さんのクリスさんでも可)は苦笑を浮かべ、照れたようにハニカみながら質問してきます。

 

「エルフ族をご覧になるのは、初めてでしたか?」

 

 ーーはっ!? わ、私はなにを・・・とにかく、失礼があった以上はお詫びしなくては!

 

「大変失礼いたしました、クライスラー様。故郷の村で語り部たちから聞かされ続けた憧れの大英雄のご尊顔を拝することができ、感動のあまり言葉を失っておりました。

 礼儀を弁えぬ田舎者の不作法を、お笑いください」

 

 瞬間的に考えついた、それっぽい言い訳と嘘設定を並べ立てながらも頭を下げて表情を読まれないよう隠してしまうと、相手の方は穏やかに微笑む気配と共に私たちの非礼を笑って許してくれるようでした。ふぅ~、危なかったー。

 

「お気になさらないでください。人里で見かけるエルフの数が非常に限られているのは、紛れもない事実ですから」

 

 そう前置きした後に、彼は自分たちエルフ族について(正確には彼だけは古いエルフ族、もっとも神に近い一族と呼ばれている古代種なんだそうです。FF7かよ)詳しく教えてくれました。

 

 

 

 この世界においても他の王道ファンタジーと同じでエルフ族は気位が高く、他の種族を下に見がちな排他性を持った閉塞感のある種族として生きているそうです。

 得意な武器は弓と魔法。ここまではセオリー通りですが、職業システムが存在しているRPG風異世界においては自由度の高さ故なのか向き不向きに関係のない職業を選んで活躍するエルフさんも少数ながらおられるとのこと。

 侍エルフとか、モンクのロリッ子エルフちゃんとか見てみたいですね。

 

 彼らは国という物を持たず、それぞれの部族が聖地として崇めている深い森の中で生まれ育ち、ほとんどの人たちは一生を森の中だけで過ごして死んでいくそうです。

 原住民のようにも聞こえる言い方でしたが、彼らの暮らしは決して原始的なものではなくてクライスラーさんたち古代種から受け継いだ技術と文化(ちなみに今のエルフは古代種の末裔が交配を続けて生まれた種族なのだとか。なので能力的にも血筋的にも所謂「雑種」だったりします)をフル活用し、部分的には人間の王国よりも優れた技術を持ってるんだそうですよ。

 

 ただし、それらの多くには寿命があり、経年劣化を遅らせるためにも効率よく古代技術を節約するため自給自足を旨とする森の中で生活することを選ばざるを得なかった裏事情が存在しているそうなのです。

 

 もちろん、技術を使い切った後に1から再出発すると言う選択肢もあるにはありました。が、彼らには『神にもっとも近い一族の血を引く末裔』と言う名誉を捨て、凡俗と同じ視点に立って地べたを這いずり回る生活を送るなど不可能でした。

 結果として彼らは延命療法により種族全体の誇りと優越感を守り抜く道を選び、将来的には確定している技術の停止した後にどうするかを考えない道を選択したのです。

 

 こうしてエルフたちは、その長い一生を森の中だけで過ごし始めました。森の中にいれば外界からの情報は入って来づらく、自分たちの信じる『エルフは神にもっとも近い一族の末裔』と言う伝統を否定される心配がないからです。

 

 彼らにとって森の中とは、まさに聖域。自分たちが夢見る世界を実現させてくれるドリームマシーンのような場所なのでしょう。

 エルフたちは自分たちの誇りを守るために未来を捨て、今を生きることだけを選んだ者たち。それ故に絶望し、故郷を飛び出す若者が後を絶たなくなったのだとか。

 

 

「・・・なんだか凄く夢のない話を聞かされた気がしましたよ・・・」

 

 ゲンナリしながら慨嘆する私の横で女神様も「王道が・・・王道が・・・」と天井を見上げながら譫言のようにつぶやき続けてます。

 

 ただ一人だけ瞳を輝かせながら英雄の話に聞き入っているのは、純情侍少女のトモエさん。彼女にとっては幼い頃から寝物語に聞かされ続けた英雄殿から話を聞かせてもらえるだけでも十分すぎるほど幸せなのでしょう。内容なんてほとんど耳スルーして問題ないくらいには。

 羨ましい精神性です。私も彼女のように斯くありたい。

 

 

「・・・とまぁ、ここまでが近年までのエルフ史なのだけどね。ここからは今を生きるエルフ族について知っておいてもらうためにも、近況話に入らせてもらうが構わないかな?」

「・・・? 何故わざわざ確認を? 地続きで話してしまっても問題ない話題なのでは?」

「確かに関連付けられる話ではあるよ。ただし、凄惨というか生臭い方向に話が飛んでしまうけどね」

 

 そう言って苦笑してから話し始めてくれた近年エルフ族に生じている問題は、確かに生臭いことこの上ありませんでした。

 

 近年、エルフ族が抱えている問題点。

 それは長すぎる寿命が招いた社会の歪みだったのです・・・・・・。

 

「森の中で部族ごとに固まって暮らし、他の部族との交流も限定的。さらには閉塞的で高貴な血を持つ者を重視する制度化された階級社会がエルフ族の特徴だ。これだと結婚して子を産み続けていけば必然的に集落は、身内以外に存在しなくなってしまう。近親婚が多発してしまうんだよ」

「「「・・・うぇ~・・・」」」

 

 これまた初っ端からお茶の間に流してはいけない話題を・・・。続きは大丈夫なんでしょうね? チャンネル変えた方がよくありませんか? どうもそう思われまーー

 

「その結果、昨今では同じ森に住まうエルフ同士の間に生まれた子供が奇形児である確率が飛躍的に高まってきてしまった。

 誇り高い血筋を尊ぶエルフの里に奇形児が生まれたなど知られるわけには行かないから、産まれた子供が奇形児であった場合には親を含む村全体が全会一致で『生まれてないから存在してない子供』を作り出すことに躍起になる。

 一方で優れた才能を持つ奇形児が生まれた場合には神子として拝み奉り、神殿の中に幽閉して一生を門外不出の切り札としてしまい込ませる。教育で洗脳された彼ら彼女たちに意志など無く、自分だと思いこまされてる偽物の神を演じ続けることに生涯を費やすんだ。くだらないだろう?」

 

 ーー変えて! 早くチャンネル変えて! 一秒でも早く! 光よりも速い速度でリモコンまで駆け続けてーーーーっ!!!!!

 

 

「ちなみにだけど、ドワーフ族の体が頑健なのは、暗い穴蔵で日光も浴びずに半生を過ごす生活が体に異常をきたしてしまうから耐性を付けなくては生き続けられなかったからだと言う学説があってだね・・・」

「もういいです・・・おなかいっぱいです・・・これ以上は無理なんで、勘弁してくださいよ本当に・・・」

 

 うう、吐きそうです・・・気持ち悪い・・・。

 ーーあと、女神様ー? 帰ってこーい。そっちから落ちたら地獄ですよー?

 

「エルフ族についての説明はこんなものかな。どうだい? なかなかに興味深くて楽しめただろう?」

「・・・ええ、まぁ・・・ある意味ではでしたけどね・・・」

 

 それは良かったと、快活に笑う英雄様ですが肝心の来訪目的については一言も説明されておりません。ここまで嫌な話を聞かされたのですから、本命についても聞かせていただかなければ困ります。

 

「・・・それで? 今のお話はあなたの来訪目的と関連性があるものだったのですか?」

「いや? 全くないが? ただ、楽しんでくれるといいなと思って言ってみただけさ。気に障ったのであれば失礼」

 

 ーー唐突に口調が砕けたものに変わったことで、私の警戒感は一気に高まります。

 勝てないと分かり切ってる相手を前に警戒もなにも有ったものではありませんが、念のために位なら・・・ね?

 

「貴方いったい、何者なので・・・?」

 

 私の問いかけに対して英雄様は「ふふん」と鼻で笑い飛ばした後に足を投げ出し、椅子にふんぞり返って偉そうな態度で座り込みながら、私に対しては親しげに懐かしそうな声音で癖のある笑顔とともに話しかけてくれたのです。

 

 

「なぁに、同郷のよしみで先輩様から後輩に対して情報提供してやってただけさ。

 尤も、俺はアンタと違って神様にも女神様にも拾ってもらえなかった平凡きわまる凡人の魂に過ぎんがね」

「あなた・・・」

「俺の名は英雄クライスラー・・・を、守護者として機能させるために必要だからと適当な魂を拾ってきて入れられただけの『サブで出てくる最強英雄キャラクターの、中の人』さ」

 

「世界からの指示があって掃除人としての仕事をしなきゃならなくなったが、サブキャラなんでな。自主的に介入することができん。

 魔王を倒せる最強なのに世界を救わない英雄キャラには援軍として参戦するしか救い方が存在しないんだ。悪いがアンタら俺の仕事を手伝ってくれ。問題起きてる国いって、介入さえしてくれたら後は俺が一人で無双するからよ」

 

 ーーあまりの事態に脳の処理速度が追いつかなくなっていた私は、分かり切っている戯けた質問をしてしまいました。

 

 

「えっと・・・つまり貴方が私たちにしたい依頼というのは・・・」

「おうよ。

 世界の秩序を守り、事が起きたときだけ行って暴れて力で解消してしまう、悪者をやっつけるだけで飢餓も貧困も解決してはくれない、戦争は止めるが止めるだけ、戦後処理は他人に押しつけて自分は悠々自適に戦争で傷ついた心を癒すためにも旅にでる、人間の人間による不幸なんざ知ったことか自分たちで何とかしろよを地で行く存在ーー

 人々のため敵と戦い守ってくれる、勇者様ご一行として内乱勃発寸前の国まで俺を連れてってくれて「怪しい奴め!止まれ!」と槍先で脅されてくれればいいだけの簡単なお仕事。要するに・・・」

 

 ポンっと、彼は私の小さな肩に右手をおいて。

 

「おめでとう。最強英雄が同行者枠で押し掛けパーティー加入を強制してきたぜ」

 

 ーー魔王よりも英雄こそが地獄に落ちるべきだと思った、今日この頃な私です。

 

 

つづく




キャラ紹介:

英雄クライスラー。職業『剣聖(ソードマスター)』
種族:古代種(エルフの祖先で正式名称はエノク語っぽい神様の言語なので人語では表記しようがない。便宜上『ハイ・エルフ』と自称しているがディードの真似したいだけである)

神ではなく世界によって招かれた『守護者』の中の人。守護者そのものはシステムでしかないため人の世では上手く機能できないと適当な魂を見繕ってきた。セリフなどは自動変換されるため本人は本当に中の人でさえあればいい。
世界の危機ではなくて、世界の秩序を守るための存在なので常時現界したまんま。

勇者が人を救う存在『人界』を守る者なのに対して、英雄は『世界』を守る存在。個ではなく全体を守る存在でもある。それ故にひとつの国に属することができない。

魂がなくては動かない自動人形の限界故に必要だった人柱の青年で、生前はセレニアと同世代人で日本人。死後は時間とか関係なくなるので異世界の数千年前まで戻されている。
脳が万年単位で生きれるハイ・エルフの物に置き換えられているので、前世の事は忘れていない。ただし性格が適当なので興味ない事はすぐ忘れる。女の子の事は忘れない。

「最強チートが自主的に介入出来たら秩序が保てん」と言う理由からスポット参戦でしか介入できない。最強剣技で誰にでも勝てるが、止めはさせない。必ずHP1で止まる。
これは剣聖の固有スキル『活人剣』によるもので、手加減はしなくても強制的にできてしまうが殺しはできない。

まさに『英雄と言う名のシステム』でしかない存在だが、本人曰く「素を出してもモテない。何もしないでモテるのはありがたい」と気楽に自分の境遇を受け入れている。

ちなみにチート英雄の血を引く最強なんて生まれたら秩序がヤバいので子は成せない。でも、行為自体はできる。

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