異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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サブタイトルから見ても解る通り、本来のストーリーとは一切関係のない「もしもセレニアがRPG世界のキャラだったなら」をテーマに書いた話です。

本当はもう少し夢が無いのを想定してたのですが、やり過ぎるとドギツクなるのでこの辺でと言った感じです。


第19章「セレニRPG」

「ーーちっ。お前の辛気くさい顔を見てたら酒が不味くなる。俺ぁ、帰るぜぃ」

「お父さん! お願い待ってお父さん!」

 

 バタンっ!

 

「う、うっうっう・・・・・・・・・」

 

 泣き崩れる娘さんと、先程叩きつけられて割られた酒瓶。残された中身があふれ出して床の絨毯に染みを作りながら浸食していき、かつては偉大な鍛冶師だったお爺さんは父と娘と孫娘との関係性を拒絶するかのように堅く扉を閉ざしたまま出てきません。

 

 

 ーーそして、

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 唖然としたまま見ていることしかできなかった、状況がよく分かっていない私たち部外者三人です。

 

 え? なに? 何が起きたの? なんでお爺さんいきなり怒り出して飲んでたお酒を瓶ごと壁に投げつけて割ってしまったんです!? まだ半分近く残ってましたのに!

 

「・・・申し訳ありません、旅の御方。せっかく来ていただいておきながら不愉快なものをお見せしてしまって・・・お気を悪くされたでしょう?」

「いえ、私たちは別に何とも。むしろ、ドアをノックしたのに出てこないし返事もないからと強行突入しちゃった私たちの方こそ不快な思いをさせてしまってごめんなさいでしたよ?

 なのでお灸は、このエロ服きたエロいお姉さんに据えて上げてください」

「は、謀りましたねシャリア! 私の想いを、恋人にしてくれるという約束までして裏切ったのですか!?」

「・・・アホなこと言ってないで、謝ってあげてくださいよ女神様。

 貴女が強行突入してもしてなくても、今の事件を見ているだけだった私たちが何にも出来なかった役立たずであるという事実に変わりないんですから・・・」

 

 いや、もう本当に何にも出来ていないと言うか訳すら分からないまま見ていただけの私たちに謝られても困ると言うべきでしょうか、とにかく本気でこちらが困る。困りすぎる。

 

 ーーつか、私たちって依頼されて訪れてきただけの部外者に過ぎないんですよね。なので渡すもの渡したら帰りたいです。ソッコーで。

 

「ああ、そうでした。これを貴女のお父上にお渡しするよう、領主様から個人的にお願いされてきたんです。ただそれだけの身ですから、どうぞお構いなく家にも上げていただかなくても構いませんよ? では、さようならーー」

 

 ガシッ!!

 

「・・・旅の御方。今夜はもう遅いので、せめて一晩だけでも泊まっていってください。見ての通り貧相な掘っ建て小屋で満足なオモテナシもできないのですが・・・」

「・・・この小屋に近づくまで真昼だったのに、なぜだか峠を越えた瞬間から急に日が落ち始めて気づけば夜になっていましたが・・・?」

「山の天気は変わりやすいですから」

「・・・・・・小屋から遠ざかったら時間が逆戻りしていたように見えましたけど・・・?」

「山の中にいると、時間感覚が狂いやすくなるものですから」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・(ぐぐぐ・・・*逃げ出そうと力込めてる音)

「・・・・・・・・・(ギチギチギチ・・・*逃がすまいと引っ張ってる音)

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

「「ふぅ・・・・・・」」

 

 一息ついて。

 

「「・・・五分ですね」」

 

「「なにが!?」」

 

 

 久しぶりに私がボケてお二人がツッコむ展開に。

 偶にはこう言うのも悪くはないと思うのですよ。

 

 

 

 

 

 

「ーーそもそも父が槌を置いたのは、中央にいる貴族社会が鍛冶技術を戦争に悪用しだしたからなんです」

 

 そう言って彼女ーー山奥に隠遁して引きこもってしまった伝説の鍛冶師の孫娘で、毎日酒浸りになってる父親の面倒を一人で見ているよくできた娘さんです。私とは大違いですね。さすが。

 

 あれから私たちは、どうしても泊まっていって欲しいらしい彼女の誘いに乗るより他に選択肢がなく、合ったとしても絶対レヌール城の王様幽霊になりそうだったから諦めて誘いを受けたら歓待されてご馳走を振る舞ってくれました。

 

 罠である可能性もなくはないので、女神様に出された料理すべてに魔法をかけて害をなくしてから食べ始めました。

 相手の娘さんも、

 

「用心するのは大切なことです。山奥の宿屋で毒料理を出し、泊まった宿泊客を襲って殺す山賊もいると聞いたことがありますからね。用心するにしくはありませんよ」

 

 と、物わかりが良すぎる事を言ってくれたので有り難く言葉に甘えさせてもらったと言うわけです。

 

 ちなみに料理は鹿肉の足と温野菜。それにシャンパン。・・・完全に山の中で暮らす収入なし老人で出して良い料理じゃねぇな。何があったんだオヤジ。

 犯罪だったら、お姉さんじゃなくても許しませんよ?

 

 

「父は名のある鍛冶職人から工房を受け継いだ鍛冶の達人で、当時は多くの弟子たちに囲まれながら毎日を笑顔で楽しく過ごせていたのです。

 ですが、それも隣国との戦争が始まるまででした。各地へ召集されていく弟子たちに父は国への怒りと不満を溜めていき、最終的には工房を閉め、家を飛び出し、この山奥の小屋へ隠遁してしまったのです。

 それ以来、父は酒浸りの毎日を送るばかりで仕事をしようも致しません。鍛冶職人としての父は、戦争によって殺されたのです」

「なんと下世話な! 職人にとって槌とは、武士の刀のようなもの! 侍の魂でござる!

 魂を穢され踏みにじられた老巧の苦しみは如何ほどか・・・察するに余りある!

 セレニア殿! 拙者、この依頼は降りさせて貰うでござるよ! とてもではないが、このような悪行をなす領主の依頼など信用できーー」

 

 

 

「はい、合い言葉の確認終了です。お疲れさまでした。最初合ったときは言動が怪しすぎたので疑っていましたが、貴女が本物みたいで良かったですよ」

「いえいえ、こちらこそ。それから父の年金を送り届けていただき有り難うございました。大変だったでしょう? こんな山奥の掘っ建て小屋まで登ってくるの。

 それから、本来であるなら部外秘にして秘匿して、独占維持をしていくべき軍需技術である鍛冶の技を祖父のわがままで散逸しそうになるのを防いでいただけるだけでなく、こうやって魔法で結界まで張っていただき領主様には感謝の言葉もございませんとお伝えしてもらえませんでしょうか?

 なにぶん、私は飲んだくれの父が貧困生活に嫌気がさして、他国へ鍛冶技術を売り飛ばさないかを監視して、国民の皆様方と祖国の安全を守る義務と責任がある身なので・・・」

「承諾しました。依頼料の半分は成功報酬として領主様の館へ戻ったときに貰う約束でしたから、ついでとしてお伝えしておきますよ。

 それでは、私たちは街へと戻りますので貴女もお身体にはくれぐれも気をつけて。山の中だと病気になっても医者にはなかなか掛かれませんのでね」

「お心遣い、ありがとうございます冒険者様。

 ですが、ご心配なく。そう言うときの為にこそ、仕事をしない穀潰しの父親を持った若い娘は「やくそう」を森へと取りに行くのを日課としているのです。モンスターに襲われる可能性なんて、日々の日常を山の中のボロ小屋で過ごす家事炊事担当の若い娘から見れば、雷に当たって死ぬよりも低い確率です。問題ありませんよ」

「なるほど、頼もしい。それでは、良い人生を」

「ええ、貴女たちも良い旅を。結界に守られて異界化した山奥から祈っておりますわ」

 

 

 きぃぃぃぃぃ・・・・・・バタン。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ーーで? 今回の仕事降りるって? 別に私は良いですけども、報酬はセレニアさんと私で山分けしちゃいますけどOK?」

「・・・・・・・・・・・・・・・もらえるはずだった分の、三分の一だけでも欲しいでござる・・・」

「五分の一よ。これ以上は負けてやらないわ」

「くっ! ならばせめて四分の一に!」

「五分の一プラス、街に戻ったら供される約束の豪華な食事のローストビーフ。

 ここの娘さんも、昔は領主様の屋敷で働く使用人だったことがあるらしいからスゴいんだって聞いたわよ?」

「その話・・・乗ったぁぁぁぁぁで御座る!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あの・・・早く来てくれません? 私一人で山降りるの無理なんですけど・・・?」

 

つづく




勇者セレニアの特徴:弱い。

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