異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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ようやくの正式更新です。侍ガールが仲間に加わった事で話の展開に幅が広がりましたし、これからは更新速度を優先した短い話を短期間で連続してと言うのも悪くないかと思い、今回のは短めです。

容赦ない子セレニアの暴君ぶりをお楽しみください。


第14章

 横暴な領主に仕える部下の兵士に追われている少女なり子供なりを助けてあげて、悪徳領主の不正を暴いて勧善懲悪。

 王道展開であり、物語の基本ではありますが・・・。コレって結構ヤバい展開ですよね。王国正規軍の兵士と剣を交える国籍不明、身分不詳の冒険者たち(場合によっては異種族もいたりします)どう考えても事案です。むしろ嘘偽り無く、正真正銘の武装テロリストではないでしょうか?

 

 その上、追われている子供なり少女なりはたいていの場合スリや万引きなどの現行犯として追われていることが多く、実際に相手から盗んだ財布を懐に隠し持ってたりします。「悪徳領主が重税をかけるせいで家が貧しく、親が病に冒されたので薬代ほしさに・・・」そういうのが定番ですよね。比較的まっとうな理由だとは思いますし。

 

 ただねぇ・・・だったらなんで盗む対象として外国からきた冒険者を選ぶんでしょうか? 法律で守ってもらえる立場でないのは同じですし、相手の方が強いし武器も持ってますよ?

 法に縛られない無職のフリーターで、腕っ節だけが自慢の冒険者から財布盗むぐらいだったら隣家の貧乏人一家でも皆殺しにして財貨を奪い、奪った六割を役人に献上した方が安全だと思うんですけどね。

 

 

 

 

 さてはて。ここまでの件で皆様方にはもう状況は概ね、おわかりになられているのでしょう?

 そうです。ここ最近ではすっかり定番化しているセレちゃんの回想説明からスタートする「実際に私たちが今現在体験している真っ最中です」な展開ですね。

 今回の主役は、この前の国でパーティーに加入した(奴隷として買い取った)侍少女のトモエさん。

 宿場町に到着した早々、走ってきた子供と正面衝突しそうになって避けたら財布スラレていることに気づいて慌ててらしたので、奴隷契約魔法で私の所有物に持たせている手荷物扱いの彼女の財布を検索したら直ぐに見つかりました。

 

 怒り顔で走っていった彼女の後を歩いてついて行ったら、この始末です。

 

 

「お主等! この様な子供に寄ってたかって恥ずかしくないので御座るか!? 国に仕える兵として、王に忠誠を誓った士として義にもとるとは思わぬのか!?」

「へっへっへ。俺たちゃ、領主様に仕える私兵さ(ようするに民間から雇い入れた足軽です)国だの王様だのとは縁遠い。

 それにだ。この地方を支配する地位と権力を領主様に与えたのは王様なんだから、領主様の命令に従うことが王様へ忠義を尽くすことに繋がるってぇもんじゃねぇか」

「戯れ言を!」

 

 いや、めっちゃ正論でしたよ今のは。だって封建制ですからね、この国。地方を納める貴族は、貴族領の王様で合ってます。

 

「お嬢ちゃん、犯罪者を庇い立てすると只じゃあすましてもらえねぇぞ? ましてやアンタは見たとこ、この国の住人じゃあねぇ。法で守られてねぇ外国人が国に仕えてる兵士と事荒立てたなんて知られたら、こりゃあ大事だぜ?

 悪いことは言わねぇから、大人しく家に帰って糞して寝ろ。子供はベッドで夢寝る時間が大人よりも多く必要なんだよ」

 

 ・・・なんでかなぁ~。

 この異世界の悪人さんって、態度と口調が荒いだけでめっちゃくちゃ言ってる事まとも過ぎてて反論できねぇー。勧善懲悪どこ行った?

 

「五月蠅い!聞く耳持たないで御座る! 正義の役目は悪を切る! それのみで御座るよ!」

 

 うん。ものすっごい人切り思想だこの人。例えるなら、狂信的な正義の味方思想を持った人切り以蔵。実際の彼は思想を持たない暗殺兵器みたいな人だったらしいので。

 

 え? 新撰組? 京都の治安維持部隊が「正義のために!」と問答無用で殺しまくってたら首になっちゃうじゃないですか物理的に。

 彼らは所詮、雇われ者の喰詰め浪人でしかないことをお忘れなく・・・って、あれ? それだと今まさに私の目の前で新撰組VS人切り以蔵のバトル展開に・・・ヤバいですねこれは。トモエさんが本格的に正義を自称する狂ったテロリストに見えてきちゃいましたよ。どうしましょう・・・?

 

「いや、どうしましょうもなにも、助けに入る以外にはないんじゃありません? 今のあの人って、セレニアさんの奴隷で所有物待遇なんでしょ? 奴隷が仕出かした不始末は持ち主に帰せられちゃうんじゃありません?」

「私もそう思っていたので予め調べておいたのですが・・・どうにも中途半端な感が否めないのが現状の異世界な様でしてね・・・」

「と言うと?」

「奴隷は持ち主の所有物で財産で道具扱い。生き物ではないですし、人間様扱いでは断じてないんです。極端な例を挙げるなら出入国の検問時に奴隷の項があって、剣や薬草と同じ《道具》の中に入れて書き込んでも咎められない国まであるらしく・・・

 まぁ、端的に言っちゃいますと忘れてしまって宿に置いていった奴隷が人を殺したとしても置き忘れられてたナイフが偶然刺さったような扱いであり、持ち主が名乗り出さえしなければ忘れ物のナイフをどう扱おうと取得者の自由と言うことに」

「・・・自転車の防犯登録より適当じゃないんですか・・・」

「ですよねー。ちなみに奴隷の料金は日本円に概算しますとおおよそ二万五千円くらい(超どんぶり勘定)で、奴隷登録料はタグ付けるだけだから二百五十円くらい(超適当)に・・・」

「ちょっ!? シティサイクルより安いんですか彼女の命って!? マウンテンバイクやロードサイクル、BMWとかなら二十万円近くするんですよ!?」

「現代日本は飽食の時代、中世ヨーロッパ風異世界は飢餓で日常的に人が死ぬ時代」

「現代日本の文明パネェーーーーっ!!!!!」

 

 いや、全く以てその通りだと私も思います。物で満ちあふれた現代日本の資本主義経済と民主主義に乾杯。

 

 ーーとは言え、そのどちらともが近代まで時代を下らなければ発生しえない代物ですからねぇ。無い物ねだりをしても仕方がないので、一先ずは有る物で急場を凌ぐといたしましょう。応用もまた、近代に至るまでの過程で生み出した人類文明の所産です。

 

 

 ばーーーーーーーーーーーーっん!!!!

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!

 魔法の爆発並にデカい音と光が俺たちの間近でーーーーーっ!!!!!

 い、いったん退却ーーーーーっ!!!!!!!』

 

 

 

 ・・・・・・そして、誰もいなくなってもらいました。

 

「・・・あれ以来、味を占めましたね? セレニアさん」

「いずれは通じなくなるんですから、使えるうちに最大限使っといた方が元取れるでしょ?」

「元て。あんたそれ、タダでがめてきた代物なんですけどね・・・しかも王族から脅し取った挙げ句、偽物かえして本物をガメると言う横領によって・・・」

 

 あー、あー、私はなんにも聞こえなーい♪

 

 

「・・・で? トモエさんは、その子供をどうなさるおつもりですか? 軽犯罪とはいえ、罪を犯した罪人ですよ彼は。貴女の正義に悖ること甚だしいと言うことに成りはしませんので?」

「子供を襲う大人がいたら、大人が悪で、子供はかならず被害者で御座る!」

「あ、そう」

 

 もう知らん。どうにでもなーれ、と。

 

 

 

 

 

 時と場所が移り変わって、宿屋の一室に今の私たちは宿泊中です。

 

「ほら、お腹が空いているので御座ろう? スープだけでも飲まないと体を壊すで御座るよ?」

「・・・・・・(ふるふるふる)」

「でも・・・」

「いいじゃないですか、トモエさん。食べたくないと言っている子供に食べなきゃ体に悪いからと無理矢理食べさせようとするのは、大人の傲慢と言うものですよ?」

「されどセレニア殿! このままでは坊が・・・!」

「食べれる物があるのに食べないで死ぬのは個人の自由。自ら死を選んだ人に掛けるべき言葉は『愚か』の一言だけでよく、感じる感情は『理解できない』だけでいい。それが生きると言うことですよ」

「セレニア殿・・・! 流石にそれは・・・!」

 

 トモエさんが気色ばんで詰め寄ってくるのを手で制してから、私は女神様へと片手をかざし、

 

「ちなみに食べたいなら急いで食べ始めた方がいいですよ? 躊躇ってたら二人の分まで全部平らげちゃう戦闘民族な女神様がいらっしゃいますからね。

 食べてるときの彼女に弱者救済の概念など期待しても無駄です、万人平等の早い者勝ちが食卓という戦場での彼女が貫く信念です」

「・・・・・・(ガツガツガツガツガツ!!!!!)」

「「・・・・・・」」

 

 真っ青な顔して慌ててテーブルへと向かうトモエさんと、斜に構えて厭世的な態度と表情を保ち続けていたお子さまも大急ぎで自分に割り当てられてた取り分を確保するためテーブルへと駆けつけました。

 

「ちなみにですが、あなた方がノロノロしている間に半分ぐらいは奪われてしまった後ですよ?」

「「・・・・・・(; ;)ホロホロ」」

 

 食料を奪い合って戦争していたのが中世ですからねー。早い者勝ちは現代日本でならともかく、中世ヨーロッパ風異世界では生きていく上での真理です。

 

 慣れてる私はさっさと食べ終えていましたので、食後のお茶の香りを楽しみながら飢えた彼女らが目に涙を浮かべながらも食べ終わるのをのんびりと待ち、最後の一切れまで胃袋に収め終わるのを見届けてから食休み時間に入ったのを見計らって声をかけて話を振ってみました。

 

「・・・それで? 君はどうして盗みなどに手を染めたのです?」

「・・・・・・」

 

 途端に彼の顔に警戒の色が浮かび、「自分以外は、この世すべてを信じない」とでも言いたそうな雰囲気を全身から発散し始めました。

 良いですけどね、彼の都合なんか別にどうでも。私は聞きたいことを聞くだけであり、答えるか否かは彼の自由であり勝手。好きにすればいいんですよ。

 

 でもまぁ、ただしーー

 

「・・・どうせお前等も他の大人たちと同じで、最後には俺を見捨てるんだろ?

 だったら俺は何も言わない教えない。俺は一人で生きていくんだ。もう二度と大人なんて信じないーー」

「では、先ほどの食事代を払ってください」

「信じる前に裏切るなよ!? 今まで会ってきたどの大人よりもえげつないなアンタ!?」

「情報料として払ったつもりで食べさせてあげただけですからね。奢ってあげたつもりは微塵もありませんので、払う気ないなら帰ってください。私たちは宿と役所に食い逃げ犯の捕縛願いを届け出なくてはなりませんので忙しいのです。

 ああ、もちろんですが捕まったときに支払う保釈金がなかった場合は奴隷として他国に売り払うつもりでいますので、そのおつもりで」

「こいつヤバい!マジヤバい! 俺なんかより全然ヤバい!下手したら領主よりも外道な奴が、どうして美少女冒険者なんかやっているんだよーーーっ!!!!」

 

 知りませんよ、そんなこと。隣で食べ残しがないか眼を皿のようにして探し回っている、私を転生させた女神様にでも聞いてください。

 

「さ、奴隷として売り払われたくなかったら、ちゃっちゃと吐くもの吐いちゃってください。こっちは何時までも暇してないんですからね。

 ーー言っときますけど、私は善良な類の人間ですよ? 魔術師たちの中には物好きが多いらしくて新鮮な死体が欲しいとか、違法にならない人体実験の材料を提供して欲しいとか、そういう依頼も冒険者ギルドのボードには貼ってあるんですからね?」

「喜んで知ってること全部吐かせていただきまっす! だからお願い、売り飛ばさないで!」

「はい、良い子ですね。人のお願いを素直に聞いてくれる男の子は将来女の子にモテるようになりますよ? 都合が良いですからね。

 利用されて捨てられないよう気を付けながら、上手い具合に世渡りしつつも幸せに長生きしてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鬼だ。鬼の生まれ変わりがいるで御座る」

 

 注:地球から異世界を救うために転生召還された転生勇者です。

 

つづく


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