異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか? 作:ひきがやもとまち
無理やりにでも1話内に纏めようとしたら文章を削り過ぎて地の文が殆どない回に・・・。次回はもう少し気を使おうと思います。
前回で「はじまりの王国編」が終わりましたので今回は次章へと繋げるための回です。
要するに伏線回収回ですね。物語の矛盾を無理やりにでもこじつける回とも言いますが。
久し振りにセレニア節が発揮されまくるイカレタ国を舞台にしたお話の、はじまりはじまり~♪
飛沫をあげて進む船。
ファンタジーRPGにおいて定番の移動手段ですが、たいていの場合プレイヤーの自由に海を行き来できる個人所有の物が手にはいるのは中盤以降で、序盤に乗れるのは行き先が限定されてる定期便ぐらいでしょうね。
実際、私たちが今乗っているのも定期便です。
この前の一件で王都にいずらくなった(と言うか居たら捕まりますよね絶対に)私たちは追い出されるようにして(表向きはそうしてもらいました。真相は居座られ続けると面倒だからと支部長殿直々の指名で馬車の旅です)隣国の交易都市まで逃げ延びてきて、「訳ありな乗客だろうと金さえ払えばOKよ」な船の船員さんに賄賂を渡して荷物代わりに貨物室で寝泊まりです。
「・・・ここが貨物室ですか。セレニアさんの御実家はさぞかし裕福だったんでしょうね、羨ましいです」
「・・・・・・皮肉はやめてください女神様。先日の件で迷惑をかけたことは謝りますけど、私も恥をかいたんですから、いい加減水に流してくださいよ。女々しい方ですね本当に全くもう」
水筒から水を一口飲んで乾いた唇を潤し、初の船旅が貨物室生活であることを苦痛に感じている私の苦言に対して女神様は、
「こ・れ・の・どこが貨物室だって言うんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
叫び声をあげてお茶を飲み干し、高価そうなマイセン風のティーカップを乱暴な仕草でソーサーに戻されました。
「・・・あまり乱暴に扱わない方が良いですよ? それ、1セットで女神様のお給料三ヶ月分以上するそうですから」
「私の婚約指輪代はティーセットにも劣るんかい! てか、今認めましたよね!この部屋が貴賓室だって遠回しな表現で!
明らかにこの船って、最大の収入源が亡命希望の密航者な非合法船ですよね確実に!
私のファンタジーに対する憧れを考慮して嘘ついてくれる気持ちだけは嬉しいですけど、現実と乖離しすぎた理想を思い知らされる心の痛みを少しは理解してくださいよ! いい加減、私だって泣きますからね!(>_<)」
・・・青い海~♪ 白い雲~♪
そんな私の邪魔をするのは、船が港に到着したことを告げる鐘の音~♪
「ーーと言うわけで下船の支度を。この国はあくまで通過点であり、中継地点にすぎません。明日には出国するのですから今日中にすべき事を全部終わらせておきますよ。
ノンビリしている暇はありません。四十秒で支度を終えてください。遅れたら置いていきますからね女神様?」
「空賊の名台詞つかえば逃げられると思うなよーーーっ!!」
逃げます。逃げ切れますし、逃げ切ります。何故なら空賊だからです。
襲って逃げるのが仕事の空賊は、逃げ上手なのですよ女神様。
ーーさてはて。所変わって国も代わり、今私たちが来ている場所は「サン・タ・マリノア共和国」。評議員による議会政治をとっている国ではありますが、実のところは教会のひとつに属している宗教国家です。
説明が遅れましたが、この異世界における教会とは特定の神様を崇める統一宗教団体すべてを指して使う単語。
同じ神様さえ崇めていたら問答無用で教会と言う一つの単語にまとめられ、一括りにして表記されちゃいます。
が、言うまでもなく教えは宗派ごとにバラバラで、国との宥和政策を推奨している商売系の教え、異教徒滅ぶべしと唱えて軍国主義に協力的な軍神系の教え、戦争とは縁もゆかりもない平和国家で崇められてるラブ&ピースな教えなど、実に様々な宗派が混在しており「もうこれいっそのこと、全部別の宗教にした方がよくないか?」な状況が何百年も前から続いているそうです。
これは大昔に宗教の開祖が現れ、彼の死後に後を引き継いだ弟子たちが教えを広めていく過程で様々な政治的問題に直面し、乗り越える度に変質と変貌を繰り返していった結果として今の歪んだ統一されてない統一宗教になったのだとか。
なんだか、どこかで聞いたような話ですが国ごとに崇めていた土着の神様と「名前が違うだけで同じ存在だよ?」と言うことにして名前だけ受け入れてもらい、短期間の間に宗教“組織”だけは世界規模にまで膨らんだのだと言われております。
まぁ、内実はどうあれ数さえ揃えば力を持つのが政治家ですし。署名をたくさん集めて国家に対抗していると思えば抵抗感も少なく済むでしょう。・・・多分ですけどね?
「と言う感じでサン・タ・マリノア共和国は宗教色が強い割に商売っ気も強く、『お金が人生の全てではない。八割ぐらいだ!』が信徒たちの守るべき基本教義なのだそうです」
「・・・それ、本当に宗教の教え?」
知りません。私は聞かされたことを、そのまま語ってるだけです。彼らが宗教の教えだと言うなら、宗教の教えなんじゃないですか?
ぶっちゃけ無神論者の国から転生してきた日本人である私に、宗教なんて興味ないですしね。通り過ぎるだけの国で何があがめ奉られていようと構いやしません。お好きにどーぞーな感じですよ。
「とりあえず大聖堂に向かいますよ。
評議会によって統治される交易国家だけあって、国一番の港町であるここが事実上の首都であり、本当の首都には便宜上の意味しかないそうですから、国教としている宗教の大聖堂も首都にある奴よりデカいそうです。
当然、ハイレベルのプリーストなんかも多く在籍しているそうですから生傷の絶えない冒険者にはありがたい存在なんだそうです」
「いや、待って。それはおかしい。
だって私、前に聞かされてますもん! 冒険者ギルドと教会と国が世界を三分割してるって! 教会はギルドと冒険者を目の敵にしているから気をつけろって言われてますもん私!
女神ちゃんは汚い大人の嘘に、もう騙されないですからね!?」
「幼児退行したフリしてないで早く歩きなさいよ・・・。普通に考えたら分かるでしょう?
一般市民が日常生活で負う怪我の割合と頻度よりも、冒険者が日常的に負わざるを得ない深手の傷を回復したり呪い解呪したり毒の治療とかをこなす方が遙かに楽で確実に儲かる商売なことぐらい。
ーー所詮、神の信徒であろうと銭の亡者であろうとも。人はお金がなければ飢えて死ぬ生き物なんですよ女神様・・・?」
「そんな生臭い話、女神である私に聞かせないでもらえません!?」
お金で買えないからこそ買う価値がある。プライスです。
「迷える子羊達よ。ようこそ、我が教会へ。今日はどのようなご用件で参られたのかな?」
「実は、とあるアイテムにかけれれた呪いを解呪していただきたくて・・・」
「ふむ・・・呪いの解呪か・・・本来我ら教会の門扉はすべての者に等しく開かれており、異教徒たる冒険者であろうと例外ではない。組織間による政治の都合など末端の信徒である我らには関わりなきこと。
故にできるのであれば直ぐにでも解呪の儀式を執り行いたいのだが・・・この状況ではな・・・」
「すごい行列・・・何百人待ち? 番号札配った方が効率的じゃありません?」
「ご覧いただいた通り、毎日のように冒険者が列をなして治療を待ち続けている。重傷者であるなら優先順位として最優先に選ばれるべきだが、解呪の必要な呪いの多くは遅効性で緊急性には乏しい。
申し訳ないが、しばし宿屋に腰を落ち着けて順番がくるのを待っていただいても構わないだろうか?」
「・・・わかりました。そういう事情であるなら止むを得ませんね。ではこちらの用件では後日改めて参らせていただこうと思います。
ただ、代わりにこれをお渡しさせていただきたい。隣国の冒険者ギルド王都支部の代表殿より預かってきた書状です。これをお渡しするのが本来わたくしめに与えられたクエストでありましたので、受け取っていただかなくては国に帰れません。
どうか、何卒お受け取りくださいますように・・・」
「・・・左様か。致し方ありませんな。では、すぐさまお返事を書かせて頂きたいので、聖堂の中へ。他の治療を待つ者達の順番を遅らせることがないように、聖堂の主で通常の治療は施されない主教猊下の元へご案内いたします」
「お手間をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「どうですかセレニアさん! あの模範的な信徒っぷりを見ましたか!? あれこそが神を崇める信徒の在るべき姿ですよ! やはり私は間違ってなどいなかった!
・・・あ、そう言えばさっき彼に渡してた書状って何時の間に預かってたんですか? そう言う大事な物を受け取るイベントの際には私を同席させる様にって、いつも言ってるじゃないですかー!ぷんぷん!」
「?? 便宜を図ってもらうための賄賂だったんですけど、受け取りの手続き時には同席させた方が良かったですか? 良いと言われるなら、次からそうしますけど?」
「・・・・・・」
「正直なところ、前の国で儲けすぎましたからねぇー。千枚以上の金貨なんて二人だけでは持ち運べません。と言って低ランク冒険者が保有している資産なんて、いつ組織に召し上げられるか分かったもんじゃありませんからね。
ある程度影響力なり実力なりを手に入れるまでは常識的な額を銀行に預けて、持ち歩いても不便にならない分だけ現金で持ち歩いた方が安心だと思いましたので代表殿にお願いして経理部に試算してもらったんです」
「・・・・・・・・・」
「で、旅にでるのに必要な装備を調えるのに必要な物をそろえられる場所の情報と直筆の紹介状。それが前回の犯罪組織に関するタレコミへの報酬とさせて頂きました。
最初に提示された額が高すぎたのと、王様から頂いた報奨金でスゴいことになっちゃってましたからね」
「え。あのときの報酬って火縄銃・・・」
「あれ? あの王様、追加報酬って言い足してませんでしたっけ? ちゃんと金貨でも支払っていただきましたよ依頼の成功報酬。火縄銃で脅して密約結ぶ際に為替発行書でね」
「為替!? 発行書!? え、ちょっと、あれ? 王様の子供を救った褒美として宝物庫の鍵を開けてもらい、部屋の中に置いてある宝箱から1000ゴールドを手に入れたんじゃなくて!?」」
セントシュタイン城・・・。
ーーぜんぜん関係ないですけど、黒騎士さんって格好良かったですよね。あの作品で一番性格が美形だったのが骸骨顔の騎士ってなんだかなぁーと思いました。
「女神様、ゲームと現実を一緒くたにしてはいけません。1000枚の金貨なんて算盤もなければ数えられないことくらい、少し考えれば子供でも分かることじゃないですか」
「・・・またしても、身も蓋もないこと言い出しやがりましたね! この、エロおっぱいな銀髪ロリ娘が!」
「だから、胸のサイズは私のせいじゃないと前にも言ってあるでしょう!?
・・・こほん。と言うか金貨1000枚なんていう大金を王城から自然に持って帰るには貴族にでもなるしかありませんが、なりたかったんですか? あの内乱勃発寸前になってる伝統と格式最優先で新入りには厳しすぎる門閥貴族の見習いとして?」
「・・・・・・・・・為替発行書で・・・いい・・・です・・・!!!」
「・・・いや、血涙で悔し涙の滝を流さなくても・・・」
プレイしていた時に少なく感じた1000ゴールド。今思うと結構な高額報酬だったんだと思い知らされますね。
本当の価値は、持ってる人より持ってない人の方がよく分かる。
つまり、輝かしい理想の未来よりも、今日寝る寝床や温かいスープを欲しがった骸旅団副団長の思想は正しかったという事。
お金で買えても買えなくても、買うお金がない人には価値がない。プライスです。
「ようこそいらした旅の方。
して、今回解呪をご依頼する品とは?」
「これです」
「ほほぅ。これはなかなかに珍しい形をした杖ですな。私でも見たことがないとは大変希少な品です」
「そうでしょうね。なにしろ隣国秘伝の家宝ですから」
「ちょっ!? セレニアさんそれ、この前自分で壊した火縄銃じゃないですか!?
なんで残ってるんですか!? 壊したんじゃなかったんですか!? 王様の元に届くよう裏工作してもらったアレは偽物だったんですか!?」
「偽物でしたが、それが何か?」
「王様だました罪悪感、微塵も存在してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
ほえ猛る声の女神様。・・・相変わらず純粋な人ですねー。あんな狸おやじを相手にでも真っ正直に本物を返却すると思いこむなんて・・・。
「どうせ撃てなくする代物です。本物だろうと偽物だろうと大差ない。呪いさえ解けば使いこなせそうなお気に入り武装を、自分の手で壊すはずがないでしょう?
メンテナンスした時に何十年間も倉にしまいっぱなしだったのは判別できてましたからね。最後に分解整備したのが何百年前だかも判然としない代物なんですから、本物とすり替えたところで誰も見破れやしませんよ。本物を見たのが持ち主だけでは証拠能力もありませんしね。
偽物と見破られない限り、偽物は本物と同じ価値を持つ。政治の場では特にその傾向が強い。本物を欲する私の元に本物をおいて、偽物でも問題ない王様には偽物を送った。それだけのことです。気にする程のことではありませんよ」
「・・・悪魔や・・・この人やっぱ勇者じゃなくて魔王軍側の人間やわ・・・・・・」
お金で買えない偽物がある。プライスです。
「さて、それでは解呪の儀式を始めるとしますかな。
ーーああ、もしもワシらが壊したり盗んだり掠め取ったときのために保証書でも書いておきますかな? それとも血判書の方がお好みか?」
「ずいぶん古風なことを・・・いや、この時代的には妥当なのかな・・・?
ーーまぁ、それはともかくとして。
無用の気遣いですよ主教さま。ここがそう言う場であることぐらいは承知しておりますから、ご安心を」
「ほっほっほ。若いのに聡い娘じゃな。よかろう、ではこちらへ。解呪の儀式をしている間、隣室でお茶でも飲んでお待ちなされい」
「ありがとうございます主教さま。お言葉に甘えさせていただきますね」
「ちょっ!? なんで隣国の家宝を他国の要人に預けちゃうんですか!? 最悪私たちを抹殺して政治闘争に利用されかねませんよ!?」
「・・・女神様、率直さは美徳だと私は思っていますけど、そう言うのはせめて本人の居ないところでですね・・・」
「ほっほっほ。よいよい構いませんよ旅の方。貴女のおっしゃるとおり、率直さは美徳。美徳が正しく報われない世の中だからこそワシ等はこの様な行為に手を染めているのですから、こちらのお嬢さんの誠実さと愚直さには聖職者として正しく報いさせていただきましょう」
「・・・すいませんが、ご面倒をおかけします・・・」
「詮無きことです。
ーーさて、お嬢さん。ワシ等が隣国の家宝を盗んで政治に利用するか否かという話じゃったが・・・ハッキリと断言させてもらおう。ない。その可能性は限りなく0以下じゃ。あり得ない。
天地がひっくり返ろうとも、それだけは決して起き得ない」
「・・・なんでですか? 理由を聞かせてください」
「簡単な話じゃよ。ワシ等の国サン・タ・マリノアは“こう言った商品の取り扱いを”主産業としておる。要するに訳ありの品じゃな。
表沙汰になったら持ち主どころか大勢の人間が処罰される品物をワシ等はふつうに使える武器や防具、道具などにして世に送り返している。
“世の不浄により穢された清きものたちを禊ぎで洗い落とし、清浄なる楽園へ導かん”・・・。教会の理念にもかなった立派な人助けじゃろ?」
「ただのマネーロンダリングでしょ!?」
「“まねーろんだりんぐ”と言うのが何かは解らぬが、ワシ等の尊い信仰を理解し模倣してくれている存在が他にもいてくれたとは実に喜ばしい福音だ」
「駄目だコイツ等! 神様! この罰当たり共に天罰覿面を! ホーリースマイトを!」
アンタだよアンタ。神様はあんた自身だってば、女神様。
「ほっほっほ。若さ故の元気があるのは羨ましいですなぁー。
・・・それにまぁ、ぶっちゃけてしまいますとサン・タ・マリノアは教会の中でも外様でしてな? 手柄を立てても横取りされて損な役回りを押しつけられ、こき使われた末に捨て駒として使い捨てられるのは確実なので本国である教皇領には然したる忠誠心も抱いていないのです。
どのみち組織の都合で使い捨てられる中級幹部のワシとしては、奉仕に対して相応に報いてくれるお金の方がありがたい。
お金は、持ち主を裏切りません。持ち主の方から裏切らない限りは絶対に。これだけはどうか、どうか心に留めておいて頂きたい・・・!!!」
「ちょっ、なんで辛そうな顔しながら号泣してるんですか腐れ爺! 離しなさい! 尊くて綺麗な私の汚れてない手を、金に塗れた薄汚い手で触らないで握らないでやめてやめてやめてたーーーすーーーけーーーてーーーっ! けーがーさーれーちゃーうーっ!」
いや、元から綺麗なのは外面だけだったんですし、別にいんじゃね?
お金で買えない美貌を無駄遣いする。女神様です。
「さて、次はサン・タ・マリノアの冒険者ギルド支部です。前回のクエストでなんやかんやあったとは言え、とりあえずは高難度の依頼を無事達成したのは事実ですからね。冒険者ランクの更新申請をしませんと」
「・・・依頼を・・・“無事”に達成した・・・?」
何ですか女神様? そのもの凄く物言いたげな顔は?
言っときますけど私、嘘ついてませんからね? ちゃんと“王子の病を治療せよ”のクエストは無事に達成してます。それ以降のは王様から個人的に依頼されたクエストなので冒険者ランクに影響しません。
記録上存在してないものは、評価基準に影響しないのです。
「ようこそ、サン・タ・マリノア唯一の冒険者ギルド支部へ。今日はどのような御用向きで入らしたのでしょう?」
「冒険者ランクの更新手続きです。先日、こちらの方へ隣国の王都支部から使いが来ているはずなのですが・・・」
「少々おまちください。ーー確認がとれました。セレニア様とメガミ様ですね。ギルド支部長がお待ちです、そこの階段を上がって三階の会議室へどうぞ」
「ありがとうございます。お手数おかけしてすいません」
「いえ、こちらも仕事ですのでお気になされずに。
ーーただ、冒険者ランクの更新には基本的にプロセスがあり、それを経ずに飛び級でランクを引き上げるには特例事項第三条を適用する必要があり、有権者であるギルドの重鎮六名のうち四名の賛同が必須となります。
それを決めるための更新決定会議ですので、決定までにはそれなりの時間がかかると思われます。予めご了承頂きたく存じます」
「ご親切にどうも。こちらはゆっくり待たせていただくつもりで居ますから、お気になされずに。
特例で出世したりすると嫉妬やヤッカみを買うのは当然ですからね。配慮するのがギルドとしての仕事です。なので、端から気にするつもりはありませんよ」
「お心遣いに感謝いたします」
がちゃ。
「失礼します」
「ん? 来たか。君が隣国からランク更新に訪れたセレニアだな? ほれ、更新決定の書類。受付に持って行けば後は自動でやってくれる。
いらぬ手間を省いてくれて、その上見た目もいいのだからホムンクルスというのは最高だな。発明者には金一封を贈呈したいくらいだよ。無論、ギルド支部の経費でだがな?」
「あ、あれ? 更新決定会議は・・・? あと他の五人は何処に・・・? ギルド支部長っぽい髭で小太りのオッサンが一人しかいないように見えるんですけど・・・?」
「ふん。そこの踊り子装備のプリーストは見た目は良いけど頭は空だな。私は断然ホムンクルス派だが、一応支部長としての義務だけは果たしてやろう。説明してやるから、耳の穴かっぽじってよく聞くのだぞ?
ーーただ通り過ぎるだけで国内のクエストを受ける気もない余所者の為なんかに、誰が好き好んで手間暇かけて集まるか。こっちだって暇しているわけじゃないんだ。冷やかしなら帰って貰いたいくらいだよ全く。
わざわざ事前に白紙の招待状ばらまいて、変装して会議室はいってトイレに立って変装して戻ってくるのだけでも手間だったんだ。これ以上タダ働きさせられて堪るかってんだ」
「・・・・・・(死んだ瞳の女神様)」
「他の冒険者共のやっかみなんかも気にせんで良い。もともと奴らが気にしてるのはメンツであって、自分たち下っ端がどう足掻こうと決定が覆らないことぐらいは承知の上さ。形ばかりでも抵抗して見せたという事実さえあれば十分なのだ。
・・・まぁ、あまり悪く思わんでやってくれ。新入りや低ランクの冒険者たちにとってメンツは死活問題なのでな。同ランク同士で仕事を奪い合うときに、人気と評判で決められてしまうのは仕方のないことなんだ」
「・・・・・・???」
「仕事を奪うために同ランクの同僚を殺すのはリスクと釣り合わんしな。相手より強いのであれば、依頼されたその時に示せばそれで済むのだし。
同程度の強さで圧勝しようと思うと犯罪行為に手を染めざるを得ず、討伐対象にされかねんのだ。
結果、合法的に低ランク冒険者として生きていくためには、メンツを守ると言う形式を守ることが必要になってくる。弱肉強食の社会でも“社会”である以上ルールはあるし、破れば罰される。どこの世界でも変わらぬ現実だよ。
迷惑をかけられる側の君たちに分かってくれとまでは言わんが、多少は大目に見てやってくれ。「負け犬が吠えていやがるぜ」ぐらいの気持ちで無視してくれればそれでいい」
「了解しました。こちらは先刻承知で来ていますのでお気になさらず。
ーーそれより、もう一通の書状のお返事は?」
「ん? ああ、これか。腕のいい武器改造専門の鍛冶師を紹介してくれと言う話だったな。注文にぴったし合う店がこの街にはある。まぁ、それを承知で選んできたのだろうがな。ここに紹介状と地図を用意しておいた。
行けばすぐにわかる作りーーいや、着けばすぐにわかる作りの内装になっておるよ。せいぜい度肝を抜かれてこい。グッドラック」
その後、私たちは会議が続いている風を装うためいったん裏口からでて鍛冶屋へと向かいます。更新手続きは帰り際にでも。
「お、おおおおお!? こ、これは如何にも名工の住まう住居って感じがするボロ屋じゃないですか!
息子に先立たれて酒におぼれる毎日を過ごしている年老いた伝説の鍛冶師が住んでそうな潰れかけの家屋! くぅーっ!燃えてきたぜーーっ!!」
「アホやってないで早くはいりますよ女神様。置いていかれたいのですか?」
「あ~ん、待ってくださいよマイダーリン♪ 私をパライゾへ連れて行ってー♪」
「・・・なんだい、お前さんらは・・・。なに? 儂に武器を打ってほしいだと・・・?
帰ってくれ! 儂はあのとき全てを失い、槌を打つ気力も無くなったんじゃ・・・。今の儂は伝説の鍛冶師などではない。ただのシワガレたろくでなしに爺に過ぎんのじゃ・・・」
「きゃーっ♪ 私好みの超王道テンプレ台詞キタ━(・∀・)━!!!!
聞きましたかセレニアさん、今の台詞!? 「今の儂は伝説の鍛冶師などではない」ってこれ、完全に歴史上の偉人だった過去を隠してる人の台詞ですよね!?
私はこういう展開を待っていた!」
「お爺さん、これをどうぞ。ギルド支部長さんからの預かり物です」
「ん? これは《メンバーカード》・・・ふ。成る程そうかい。お客さん、《そっち側》の人間かい。
いいぜ、ついて来な。案内してやろう」
「あ、あれ? なんかお爺さんが本棚の本を一冊引いてから花瓶を傾けてベッドをずらしたら地下へと続く階段が・・・まさかこれは!?」
「ああ、そっちは官憲に見つかっても良いように作った偽装だ。本物はこっちの裏口からでて少し歩いた高級ホテルの地下にある。この業界もいろいろ規制が厳しくなってきててな、地下に潜ったモグラとして細々とやっておるよ」
「本格的な闇市場の気配キタコレー!(>ュ<。)ビェェン」
「さあ、サン・タ・マリノア・アンダーグラウンドへようこそ! どんな訳あり商品だろうと誰にも難癖付けられない完全な別物に生まれ変わらせて見せますぜ!
マネーロンダリングの本場の力、お見せ致しやしょう。うえっへっへ」
「ああ! さっきまで伝説の鍛冶師っぽかったお爺さんが別の意味で伝説に名を残しそうな極悪人顔に!?
て言うか今、マネーロンダリングってハッキリ言いましたよね確実に!」
「これなんですが、改造できますか? 一応こちらの注文としましては着火と弾込めの手間さえ軽減できれば十分すぎるのですが・・・」
「ふーむ、これはなかなかに珍しい品ですな。少なくとも私には無理そうですので、サン・タ・マリノア1腕のいい違法改造の達人職人をお呼びしましょう。街の至宝であり、この世に二人といない凄腕なんですが特別に。
ただ、その分お値段の方が少々・・・」
「船旅の途中、私の見た目だけを評価して奴隷売買を持ちかけてきた奴隷商人さんを担保にしたのでは足りませんか? 支払い用の金貨が詰まった袋の横に置いてある箱の中で宝石だらけの服を着たままモガいてますけど?」
「毎度あり! 金貨に色は付きませんからお気になされずに! 直ぐにでも職人を参りやす!しばらくお待ちくだせぇ!
サン・タ・マリノア1腕のいい違法改造の達人職人たちを“十人ばかし”呼び集めてきやすので!」
「職人・・・たち!? 十人!? この世に二人といないって今さっき言ってましたよね!?」
「いやその・・・へへへ、あれはまぁ、宣伝広告とでも言いますか・・・。値上げ交渉では最初に手の内全てを誤解させるのが基本ですぜ?」
「聞きたくない! もう聞きたくないし居たくない! この国イヤ! もう女神ちゃん国に帰るーーっ!!」
国って・・・どこの? 女神様の国だから天国? それとも惑星ベジ○タ?
もしくは・・・M78星雲とか?
「ふーむ、これは凄い。こいつを作った奴は間違いなく天才ですぜ旦那。とうてい俺たちの腕じゃ手に負えやせん」
「・・・おい、まさかお前ら、ここが“出来ませんでした”の通用する世界だなんて思っちゃいねぇだろうな? 払って貰った分の仕事が出来ない場合はお前らだけの死体じゃ済まされないんだぜ? わかってんのかアアん?
裏家業は信用が全てなんだ。一度でもできないと言ってしまえば直ぐにも廃れる。
サン・タ・マリノアが、俺たちの故郷が無くなっちまうんだよ! お前らそれを分かっていて本気で言ってやがるのか!?」
「へっへっへ。勘違いしねぇでくだせぇ旦那。俺たちゃ道をはずれた鍛冶師集団だ。まっとうな仕事では素人さんにだって勝てるかどうかわからねぇ。
ただし、それは正攻法で挑んだ場合はの話だ。違法鍛冶師が合法的な武器作りで勝てる道理がねぇ。蛇の道は蛇使いが誰よりもよく知っているもんですぜ?」
「・・・なるほどな。ーーそれで? 蛇だけが知ってる道を蛇を利用して案内させて一網打尽にするお前らから見てそいつはどういう武器なんだ?」
「端的に言えば、《人を殺すためだけの兵器》ですね。それ以外に言い様がねぇ。
もちろん、人を殺せる以上はカモだろうと鷹だろうと当たれば殺せるんでしょうがね。それでもこいつの真価は人殺しに使われてこその物だと俺たちは確信してます。
正直、模倣して大量生産出来れば大もうけ間違いなしだと思ってるんですがね・・・。俺たちみたいな外法の徒じゃ無理そうなのが残念でなりませんよ」
「ふん。そうだろうさ。鍛冶の里から追い出されたり牢屋にぶち込まれてたのを無理矢理引っ張り出してきただけのお前らにそこまでは期待しちゃいねぇよ。
ーーで? どうなんだ? ハッキリ答えて見せろや」
「では、ハッキリとお答えしてーーめちゃくちゃ俺たちみたいなのと相性が良い武器です。使われてる技法はもとより、使い方が世界中のどの武器とも違っているから違法に当たりようがねぇ。いくらでも禁忌の技法や製法が使いまくれる。これほどやる甲斐のある仕事は滅多にありやせんぜ? 全力で殺らせて頂きやす!」
「よし! この俺が許してやる。遠慮なく殺れ!」
『ヤー・ヘルコマンダール! クリーク! クリーク! クリーク!』
「大丈夫ですか、女神様? 顔色が真っ白ですよ? ・・・灰みたいに・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・(真っ白な灰になって燃え尽きてます)」
さて、旅立つ準備は完了。後もう一つだけ欲しいのは馬車なんですが・・・無意味でしょうねぇ。だって私も女神様も御者役がこなせませんから。
あー、誰か適当な御者役の仲間キャラクターが加入しないもんですかね?
「そこ行く二人! しばし待たれよ!」
「「・・・へ?」」
不意打ちでかけられた声に振り向けば、そこには何となく見覚えがある気がしなくもいない風貌の侍っぽい雰囲気をまとった女の子が、ボロボロになった着物を着て立っていました。
「某は、東の果てより武者修行のため旅にでた正義の武者! 訳あって路銀を奪われ汚名を着せられ獄中の虜囚となっていたのだが、国の混乱に乗じて脱出に成功したばかりの身!
名も知らぬ旅人よ! 突然で驚いているだろうと思うが・・・頼む! 拙者を次の国まで供として連れて行ってはもらえまいか!?
某には倒さねばならぬ二人組がいる! 決して許せぬ悪逆の徒がいるのだ! 奴らをこの手で裁くまで某は国へと帰るわけにはいかぬのだ! それでは朝令暮改の度が過ぎている!
それ故に・・・後生だ! 頼む! この目的を達成した暁には某はお主の下僕にでも奴隷にでもなる覚悟は出来ているのだ!
御者でも荷物持ちでも何でもやるから何卒・・・・・・・・・」
ガチャン!
「ほい、終了。奴隷票と《服従の首輪》を付け終わったよ。これで、この嬢ちゃんはお前さんの所有物だ。命令には逆らえんし、復讐なんて論外だ。
大昔に奴隷制度のあった時代に使用されてた呪法で、文明国では違法とされてる類の魔法だが、日陰者の冒険者が奴隷を持ってようが誰も気にしない。
そもそも奴隷制度が残ってる国からやってきた凄腕冒険者だって少なくないからな。文化の違いに関して多国籍な冒険者に理解を求める方が今時だと珍しい。せいぜいが内心で見下されたり陰でヒソヒソ笑われるぐらいだろう。
つまりはいつも通りって事だな、気にするだけ損だ」
「どうもです。お代はこれだけで宜しいですか?」
「毎度。・・・しかし、この嬢ちゃんはアホなのかね? 街から一歩でも出たら無関係、全ては自己責任の冒険者同士の問題に街と教会と職人組合が関わってくるはずないなんて言う建前を本気で信じきって戦闘を開始するなんてな」
「まぁ、少しだけ驚きましたね。・・・彼女が刀を抜いた途端に頭を殴られ気絶させられ、人畜無害そうな若い衛兵さんに片足を捕まれたままズルズルと街中へ引きずられていく彼女を見せつけられた時にはね・・・」
「へっへっへ。建前ってのは平等に守られるもんじゃねぇのさ。高い買い物して気持ちよく送り出したお客様と、禄に買い物もしないでゴミ箱漁りながら食いつないでた浮浪者の若い女。
同じ権利が保障されてると思う方が、頭がおかしいってもんよ」
「なるほどね。所変われば品代わり、国が変われば法律も倫理観も価値観も変わるものですねぇ。ーーあ、馬車の準備は整いましたか?」
「おうよ、準備万端。いつでも行けるぜ。もう行くのかい?」
「ええ、余計な時間を浪費してしまいましたので次の街まで急ぎたいんですよ」
「そうか、元気でな。達者で暮らせよ。生きてさえいれば再会できる可能性は幾らでもあるからな。その時お互いに覚えていたら酒でも飲みかわそうや」
「なかなか夢のある話ですね。では」
「おう、良い旅を。ーーほらっ! 早く発車させねぇか!役立たずの愚図めが!
今のお前はいつ売り飛ばされても文句は言えねぇ立場なんだぞ! 分かってんのか!? 分かったらさっさと行きやがれ、この雌豚侍がぁ!」
「ううう・・・拙者は正義の侍のはずなのに・・・正義が、正義がぁぁぁぁぁ・・・・・・(ToT)」
「早く行けってんですよ、この奴隷。あ、私のことは偉大なる尊い女神様って敬意を込めて呼ばないと駄目よ? 少しでも生意気な口聞いたらお仕置きだからね?」
「うううう・・・・・・・・・正義が悪の女王に支配されるなんて~・・・・・・」
「おーほっほっほっほ! 負け犬が吠えてるわ! すっごく気持ちいい! 久しぶりの万能感よ! 気晴らしに何も失敗してなくても、お尻叩きのお仕置きをしてあげようかしら? おーっほっほっほっほっほっほーーーごえっほごえっほ・・・む、咽せました・・・」
セレニアのパーティーに新たな仲間が加入した(奴隷を購入した)!
セレニアは《違法改造火縄銃》を手に入れた!
銀行預金がだいぶ減った! その分、持ち歩ける所持金が増えた!
次なる冒険の舞台へ続く!