異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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昨日今日と更新しましたが、やはりブランクがありますね。ノリで書き過ぎました。反省。
次回はもう少し落ち着いて大人しく書こうと思います。


第12章

「・・・しっかし、今回のは冷や汗ものでしたね。さすがはセレニアさんです、えげつない」

「・・・はい?」

 

 城下町にある食堂の一角に座って食後のデザートを平らげたばかりの女神様が、よく分からないことを言い出しました。

 

 えげつない? ・・・何についてのお話で?

 

「いやー、さっきのは女神の私でさえドン引きしましたよ。まさか人の命を数量で捉える思想をあそこまで徹底できるとは。

 いよっ、マイン・ヒューラー! ジーク・ハイル! ハイル・セレニアー!!」

「・・・はぁ~・・・」

 

 毎度の事ながらアホなこと言ってますね、この人は。

 

 ーーなのに、やたらめったら純粋な性格なのはどうしてなのでしょう? 謎です。

 ハッタリかまして逃げ出してきた人間が、脅迫相手と交わした約束なんて守るはずがないでしょうに・・・。

 

「何を考えてるのか分かりませんが、落ち着いてください。追っ手を撒くときまで体力を温存しておきたいですから」

「ハイルハイル、クリーククリーク♪ ・・・はい? 追っ手を・・・撒く?

 ーーあの、セレニアさん。もしかしなくても、また腹黒いこと考えたりとかしていませんよね・・・?」

「してないから安心してください。ただ、セオリーを守って密約を利用するだけです。

 明文化されてない約束なんて口約束ですよ。相手との信頼あっての賜物です。初対面の相手と交わした密約が遵守されると思う方がどうかしている」

 

 (゜д゜)ポカーンと、口と目を真ん丸にして私を見つめる女神様はやはり良い人ですね。私と違って。さすがは腐っても女神様という事なのでしょう。

 

 彼女と違い、私は人間。

 欲に塗れて俗界に生きる、七つの大罪を背負った罪人たちの末裔です。親の罪が子に及ぶのは非民主的ですが、ここは中世的な専制国家。貴族によって支配される差別を制度化した前時代的で文明未発達の異世界ですからね。郷に入っては郷に従うのが筋と言うものでしょう。

 

 ところでーー

 

「女神様は、鉄砲の本質というのを聞いたことがあったりしますか?」

「ーーほへ?」

 

 いや、「ほへ?」って。仮にもあなた美人さんなのですから、もう少し言葉遣いをですね・・・まぁいいか。それより今は鉄砲についてです。

 

「私もマンガでしか読んだこと無いので実際にどうかまでは推測の域を出ないのですが・・・銃の本質は『恐怖』なんだそうです」

「恐怖?」

「はい。音と光と衝撃と畏怖、それらを『初めて見て聞いた事による』未知への恐怖心。

 人は本能的に『知らないと言うこと』を恐れますからね。なにがしかの理由付けを求めるでしょうし、与えられれば何にでも飛びついて信じたがる。

 欲しいのは真相ではなく安心であり、『心の平穏』である以上は致し方のないことですけどね」

 

 女神様に説明しながらも、私の視線は火縄銃に固定されてまま。バレルとストック、ブリーチプラグを外して拭いたり磨いたりのメンテナンス作業に没頭中です。

 

 ーーなにしろ火縄銃ですからね! 戦国スリップ物好きで、信長作品好きの人の中で夢中にならない方は皆無だと信仰している代物ですよ! 心躍らない方がおかしいでしょう!?

 

 来る途中で買ってきた布と細い棒。魔法で出した水と、魔法で沸かした熱湯。これらを使って鼻歌交じりに分解作業と整備を行います。

 

 あ~、やっぱり一部は錆び付いていますね。このままじゃ撃てないので、魔法も併用しながら補修しときましょう。説明し終わるまでには作業も完了しているでしょうから。

 

 え? 持ち主に選ばれたんだから撃つ方法わかるんだろうって?

 いや、だからハッタリですって。あれ全部が。嘘八百で適当な出任せ並べただけですよ。当然じゃないですか? 千年以上も秘匿され続けた兵器なんて入り婿が撃ったことあるはず無いですし、説明書読んだだけで分かった気になってる素人さんを騙すぐらいなら私でも出来ます。

 

 騙し合いの場においては、騙される方が悪いのですよ。

 

 

「当然の認識として政府は民衆の集団心理をコントロールする術に長けています。それが一番楽に支配する方法ですからね、支配階級なら民を治める術として代々伝えられていても不思議ではない。

 いえ、歴史ある大国で神の名を政治に利用したことさえある国ならば、知ってない方がおかしいと考えるべきでしょう。

 ですから、未知の恐怖で民衆が混乱したとしても即座に神の御名でも持ち出せば混乱を収められてしまう。脱出の機会をみすみす取り逃してしまう。

 それは余りにも惜しい時間の浪費です。偉大なる戦術家を師として崇める私としては看過できない」

 

 幸いにもブリーチプラグ・・・ええい呼びづらい。尾栓ねじは固着を起こしておらず、更には引き金の構造も単純な作りであったことに内心で喝采を上げながら上機嫌に整備を続ける私です。

 火縄銃の引き金は特注品の物がほとんどと聞いていましたので、正直これは大助かりです。おかげで昔から足繁く通い詰めてた火縄銃の解体ショーで得た知識と経験が役立てられる。

 

 異世界転生後、初めて役立った現代知識が火縄銃についてって言う現実には色々物申しあげたいのですが、まぁいいですよ。今のところはね?

 貸しと言うのは、返してもらわない方が役立つ場合もありますので。

 

「このとき重要なのは情報伝達手段の有無と、その速度と規模です。

 どれほど的確な命令も避難指示も、届かなくては意味がない。聞こえなかった救いの声が人を救うことなど出来ないのですから当然です」

「・・・つまり?」

「然るに、本来なら数をそろえてナンボの火縄銃を一丁だけで活用するには、こういうやり方が一番有効だという事。

 ちょうどお客様が全員出そろったみたいですし、派手に活きますよ。

 女神様、ご準備を」

「へ? へ? あの、いったいなにを・・・・・・」

 

 

 

 

 ずたぁぁぁーーーーーーっん!!!!!!!!

 

 

 

 

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 な、何いまの音!? 爆裂の魔法!?』

『ち、違う! あんなスゴい轟音は城攻め用の代儀式でも行わないと使えない! 俺、魔術師だから知ってるもん! 見習いだけどさ!』

『じゃあ、なにか!? おまえは国の首都に敵国が攻城魔法をぶっ放してきたと、そう言いたいのか!?』

『知るかそんなもん! 上に聞け上に! 俺みたいな下っ端が奥の院を覗けるとでも思ってんのか、この考えなしで筋肉だるまの脳筋野郎!』

『んだとコラァ! 俺のどこがダルマだって言うんだよ! つか、ダルマって何だ!?

 誰か俺に教えてくれぇぇぇぇぇっ!!!!』

『うおおおおおおっい!? なんか変な理由で収拾つかなく成っちまったんですけどぉぉぉっ!?』

『なんでもいいから、誰か何とかしてちょうだいよぉぉぉぉっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ーーこれはその・・・なんと言いますか・・・・・・。

 

 

「ヨソウガイデス・・・」

「犬を父親に持つ色黒の日本人男性みたいなこと言ってる場合ですか!?」

 

 ソフトバンクぅぅぅ・・・・・・。

 

「いや、正直こういう形での混乱助長は予想してなくて・・・騒ぎを起こしたら乗じる形で逃げ出して、走りながら発砲しまくり自分たちで混乱を助長する予定だったんですけど・・・」

「どんだけ危険人物なんですかアンタ!? もう既に、あるく迷惑発送装置になっちゃってるじゃないですか!」

「いやその・・・呪いの影響か、弾は百発ぐらい連射できそうだったので・・・・・・ちょっとぐらい撃ってみたいなぁ~って・・・」

「かわいく言ってもダメ! 許さないし許されません! 『かわいいから許してね☆』で許してもらえるのはフィクションの世界だけだと自覚しなさい!」

「う、うぐぅ・・・」

 

 き、今日の女神様は手厳しいですね。返す言葉がありませんよ・・・。

 

 とは言え、起きてしまった混乱は致し方ありませんからね。今更私たちで止めることなど出来るはずもなし、混乱に乗して脱出する方針に変わりはありません。

 

「こうなったら行けるとこまで言っちゃいましょう女神様。賽が投げられたのなら進むだけです。止まったところで待っているのは死刑台だけですよ?」

「ああもう! なんでこの人選んじゃったかなー私! ぜんっぜん救う気ないじゃないですか! むしろ救われるべき人々を生み出す側の人じゃないですか!

 どうすんですか! どうする気なんですかこの状況!? 絶対に地方全体まで波及しますからね王都で発生した大混乱は!」

「・・・・・・この海は、まだ若いのです。波が穏やかになるには時間が必要です。

 ですから私は、ただ駆け抜けるだけのことです」

「ガトーーーーーーーっ!!!!!」

 

 アホなやりとりを交わしつつも、混乱する群衆の中で冷静に状況を判断し混乱を沈めようとしていたウェイトレスさんや商人さんや店の前に座ってた物乞いさんたち等、明らかに一般人と異なる反応を示した人たちだけを背後から襲って首筋にナイフを突き立てながら行動不能にし終えると生死の確認をすることなく全速力で逃げ出します。

 

 道中、適当な場所で適当なことを叫びつつ混乱に拍車をかけながら、人々に流れがない道を選んで走り続けて、人混みを避けまくります。

 混乱する中で人が押し寄せるのは避難に向いてる場所と、公的機関、権力者の屋敷などがメインです。比較的安全な貧民街へと逃げだす人は余りいません。

 まぁ、貧民街は貧民街で危険なのですが、この場合私たちが向かっているのは貧民街ではないので別に構わないでしょう。

 

 

「ところで私たちはどこに向かってるんですか!? なんだかどんどん市街から遠ざかっていますけど!?」

「墓地です。あそこなら今、誰一人として民間人は来ていないはず。混乱のただ中であろうとも命令をこなさなければ消されてしまう諜報機関の人たちは私たちを補足、抹殺するのを諦めてはいないはず。

 誰も巻き込まずにすむ場所まで誘い込んで決戦に及び、この国との因縁に決着をつけますよ」

「了解です! ・・・って、あれ? この国の暗殺家業はチンピラと大差ないって王様が・・・」

「ええ。ですから王様配下の諜報機関の方々と決戦するんですよ? あんな狸親父の言葉を本気で真に受けてどうすんです? なにか企んでいるのであれば、火縄銃を頂いたお礼として銃火で薙払って差し上げるまでです」

「・・・・・・・・・」

 

 なんだかんだと言いつつも王道展開好きな良識人である女神様は、王様と一戦交えることを良しとは思えないようですが、これは必要なことなのです。

 だってこのまま行くと私たち指名手配されちゃいますし。どうせ悪いことして捕まるなら、国で一番の権力者に喧嘩を売るという大逆罪で捕まりたいのが私という民主主義者です。

 

「急ぎますよ。数で負けてるのはこちら側なのですから、罠でも張って待ち伏せするより他、勝つ見込みはありません。勝敗は実際に戦いが行われる遙か以前より決まっているものなのです」

 

 足を早めた私たちは墓地へと急ぎ、到着してから準備を始めました。

 

 

 ーーが。

 

 なにぶん初めて訪れた王都ですから“少しだけ道を間違えてしまったり”馬車で送り迎えしてもらう予定だったので存在自体を“今このとき知った場所”など、よけいな手間暇かけたあげく時間を大きくロスしてしまい、現場に到着したときには完全に出遅れてました。

 

 結果、待ち伏せして迎え撃つはずの私たちが待ち伏せされて迎え撃たれるという体たらく。やれやれです。

 やはり私のように無能な小娘が一人で何とかしようとするよりも、多勢を頼って数の力でねじ伏せた方が良かったみたいですねぇー。勉強になりました。参考にさせていただきますね。

 

「くっくっく。今この場で死ぬ人間には将来のための参考資料など必要あるまい?」

「あら、サキュロン。それだと流石にかわいそうだわ。せめて冥土の土産ぐらいに持たせておあげなさいな」

「はっ、ストリームは優しいな。同じ女同士、情でもわいたか? 俺なら新しい毒の実験材料としか思わんぞ?」

「マルムスティーン、貴様の毒マニアぶりにはアンデッドの私でさえドン引きさせられる。同じ種族である人間に思うところはないのか?」

「それこそ、レバーノック。人間であるからこそ無意味な感情なのさ。俺たち人間は他人を食い物にして肥え太る生き物なのだからな」

「くっくっく、まったくだ。ペシュロンも偶には良いことを言う。

 ああ、最初に戻るが俺はサキュロンだ。殺すまでの短い間、覚えておいていただこう」

 

 

 

『くっくっくっくっくっくっく・・・・・・』

 

 

 

「ーーその辺にしておけ、野郎ども。仕事は手早く片づけちまうもんだ」

 

『こ、これはボス・ザ・ゼロ!! し、失礼しました!』

 

「ふん。ーーところで小娘、おまえの推理力はなかなかのものだったぞ? 子供にしてはだがな?

 国王配下の諜報機関・・・確かに子供が好きそうな単語だ。貴族たちの目にも魅力的に映ることだろう。

 だが、現実は物語じゃない。夢など何処にもありはしないのさ。国王の下で諜報を担っていたのは俺たち国内最大の規模を持つ犯罪集団『六本腕』。手段を選ばず確実にをモットーとする現実主義者の集まりだ。第三王子の昏睡も、それを回復したお前らを使った第一・第二王子失脚計画もすべて腹グロ国王の掌の上。アイツは俺たちにも劣らぬ悪だからな。それぐらいは容易い。

 どうだ? 驚いたか? 自分の浅知恵を思い知ったのなら疾く死ね。特別に自害を許してやる。なぁに、今回は時間がないんでな。特別扱いさ。これから俺たちは市街各所で火事場泥棒をしなけりゃならん。貴族様の屋敷から金銀財宝をごっそりと盗んで半分は俺たちの懐に、残りは国王陛下で山分けだ。

 どうだ? 羨ましいだろう?

 羨ましいと言ってみてから死にさらせやクソガキャーっ!!!」

 

「よーし、ボス・ザ・ゼロが片手をあげたぞ! 戦闘開始の合図だ!

 総員! ばっーー」

 

 

 

『抜刀ーーーーーーーっ!!!!!!』

 

 

 

「「「「「・・・へ?」」」」」

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国の裏社会を支配してた六腕だったか八本指だったか、とにかくそんな感じの方々と見た目だけは酷似しすぎた下位互換の犯罪組織の幹部さんが、自分たちの背後に控えた百人の部下の方々(たぶん、途中まで私たちをつけてた方も混じっているのでしょうね。何回か交代してたので見分けがつきませんが、鏡に映ってた顔が何人か見受けられましたから)に命令を下そうとしたところ途中で横入りされ、みな驚いておられます。

 

 だから言ったんですけどね~。一人でやると待ち伏せされて失敗に終わるのを学んだから参考にさせていただきます“ね”って。

 

 ーーこれでも、教えてもらったことは実践する質なんですよ? 恩を徒で返すようなひねくれ者じゃありません。恩は恩として同じ形で返させていただきます。

 

 ・・・この様にして・・・ね?

 

 

「後はお願いして構いませんか? 冒険者ギルドの王都支部の代表殿」

「ああ、任された。王都内の混乱は依頼がないから介入できなくて困ってたところなんだ。このままだと、おまんまを食いっぱぐれちまう。緊急時に備えてギルドが依頼なしに市民の安全確保のため駆け回れるよう、法改正が急務だな。奴らを片づけたら直ぐに取りかかるとするかい」

「今回の件で王国政府には、相当な貸しが作れることでしょう。どうか有効に利用してください。明日明後日に出国してしまう私たちには関係のない事柄ではありますが」

「おうよ、あんがとさん。お礼はきちんと現金で即日払いだ。後腐れ無く縁を切れるのが冒険者の強み、せいぜい俺たちのことも利用しちまいな。俺たちもお前さんらを利用させてもらうからさ」

「では、さっそくに」

「ああーー掛かれ野郎ども! 犯罪者どもを皆殺しだ! 指名手配されてる奴は首だけ残して後は好きに奪い尽くせ!

 ドロップアイテム欲しさに王家の墓さえ盗掘する冒険者の意地汚さを半端者共に思い知らせてやるのだぁぁぁぁっ!!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!

 クリーク! クリーク! クリーク! クリーク! クリーク! クリーク!

 犯罪者どもを食らって換金するのが冒険者の仕事なり! 恨むなら俺たちを敵に回したテメェらのボスを恨めぇぇぇぇっ!!!!』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 お、王都中の冒険者が一同に会しやがってるーーーっ!?

 も、もうダメだ! 逃げるしかねぇぞぉ!?」

「狼狽えるな雑魚どもが! 質では俺たちに分があるのが見てわかんねぇのか!?

 見てやがれ! 溜めは必要だが威力も効果範囲も絶大な、俺の超必殺技で敵が紙屑のように吹き飛ぶ様を! 『シャーマニーック・アデプーーーート』!」

 

 

 

 

 ずだんっ!

 

 

 

 

 

 ・・・がく・・・ぱたり。

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

「失礼。デカい的が動きを止めたので、当たるといいなぁと思って撃ったら当たっちゃいました。当てるつもりで撃ちましたけど当たるとは正直思ってなかったんです。

 誤射でボスさんを殺しちゃって、ごめんなさいでした」

 

『ぼ、ボスがやられた! もうダメだーーーーーーーっ!!!!!!

 総員たいきゃ・・・・・・』

「遅せぇぇぇぇぇっ!!!」

「ぎゃぁぁっ!?」

「よっし、指揮官撃破。これで撤退命令はくだせねぇ。逃げる敵を背後から追い討てるのに、みすみす逃してやるお人好しがいて堪るかよ。常識で考えろ常識で」

「大声上げてる奴から先に倒せ! 混乱を纏めさせるな助長しろ! 組織が組織として動けなければレベル差なんて関係ねぇ! 三人一組でかかって確実に仕止めろ! 一人仕止めたら次の奴に配分するんだ! 略奪は勝ってからだ! 死体からでも宝は取れる! 味方は信じなくていいから互いの損得勘定を信じろ! この世で最も固い絆だ!

 絆の力で我らに勝利をーーーーーっ!!!!!」

 

『うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!

 金の光は絆の力! マネー・イズ・マイホーム!!

 配当金を貰うゴロツキと、本物の拝金主義者の差を思い知らせてやるぅぅぅっ!!』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーこの日、王都において発生した暴動の原因は未だ解明されていない。

 確かなのは暴動発生直後、国王の腰が普段以上に重く判断と指示が遅れに遅れ痺れを切らした第一・第二王子が手勢を引き連れ待機の王命を無視して出動し、共同作戦により混乱の鎮圧に成功したことだけである。

 

 この時、対立する二人の王子は一時現場で睨み合う場面があったそうだが、第三王子派に属する中堅貴族で髭子爵とも揶揄されてきた『シュトライト子爵』の仲介によって事なきを得て、この功により子爵は伯爵に階位を進め国の重鎮として辣腕を振るい王国中興の祖と称えられる逸材として王国の歴史に黄金の文字で名を刻んだ。享年91歳。

 短命が当たり前だった時代において、誰よりも天に愛されたが故に天寿を全うできたのだと世の歴史家は語り継いでいる。人生の最期まで国のために尽くした偉人であった。

 

 第一・第二王子は暴動の鎮圧指示において己の未熟さを晒け出しあったが、事後処理が続くなか二人の守護天使が突如として勤労意欲に目覚めたらしく、以降二人はいがみ合いながらも協力しあって混乱と衰退から国を再生させることに尽力した。

 王位は第一王子が正王、第二王子が副王の地位につく形で落ち着き、派閥争いはそのまま内部の腐った貴族どもとの宮廷闘争へと装いを変え、守旧勢力の旗頭である父王との抗争の末、勝利を収めた。

 享年51歳と53歳。この時代において平凡きわまる寿命であり、能力と相まって彼らの凡人さが際だたされた結果と言えるだろう。一説には凡人の身でありながら過剰な期待と責任感が彼らの胃を圧迫したのだとも言われている。

 二人は遺言で「神格化するのだけは止めてくれ。死んだ後まで働きたくない。とにかく疲れた」と同じ文言の文章を別々の場所で書き記しており、一言一句過たずに同じ内容の遺言を残した二人は実は仲が良かったんじゃないのか?と言う疑問について、後世においても結論が出る兆しはない・・・。

 

 国王はそれまで必ずしも評判の悪い王ではなかったが、この一件によって馬脚を現し、様々な不正が明るみに出たことににより息子たちの手によって失脚させられた。

 が、彼は権力の座を捨てたわけでは決して無く、退位したあと余生を過ごすために選んだドラン湖に浮かぶ湖城において、自らを王国が帝国時代に君臨していた皇帝の血を引く庶子であり、国の支配権を神より授かった正当な継承者であると主張した。

 これは暴論であってが、新政権から除外された旧来の貴族たちからは支持され勢力を増強していくことには成功する。

 彼は血筋の正当性を証明する証拠として皇帝が使っていたと言う『火を噴く魔棒』を示したが、それは何者かによってへし折られた後であり火を噴くことが出来ず、決め手とするには説得力に欠けていた。

 その結果、内乱のはじめにおいていくつかの勝利を収めるまでは加速度的に増えていった味方の貴族が敗けを喫し始めた途端に離反を始め、急速に勢力を衰えさせて行く事となる。最終的には僅かな供回りを率いて新王都と定めたドランの街から逃走。

 追っ手に追われ、逃げきれないと観念した彼は帝国時代の貴族たちにならい、呪詛の言葉を並べ立てながら手首の血管を切って自殺した。

 享年108歳。一時は余命幾ばくもないと診断された身でありながら時代を超越した長命ぶりであり、生への執念と死への恐怖の象徴として後世には語り継がれている。

 

 

 

 尚、一連の内乱は「一発の銃声からはじまった」と書かれた文献が近年発見されたのだが、筆者が無名の冒険者であることと、そもそも中世期の王国に銃が実在していたのか等の理由によって公開は保留とされている。

 

 

 なんにせよ、この事件が発端となって国が生まれ変わり、立憲民主制へ移行していく切っ掛けとなったのは間違いない。現代に生きる我々にとっては喜ぶべき慶事であり、当時の人々にとっては呪わしき災厄だったのも確かだろう。

 

 教わったことを書き写すだけでは、学んでいない。

 自分で考えるための教材が教わった内容であり、書き写すのは覚えるだけの行為である。この本を読み終えたちびっ子諸君には是非とも本を本棚に戻して、勉強をはじめて学んでもらいたい。

 本は作者の出した答えであって、君たちの出すべき答えは載っていない。私の本を読み終えた読者たちが、私と異なる答えを出してくれることを切に願う。

 

共和国国立中学校・歴史学の教材『ドラン紛争から共和国に至るまで』より一部を抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・話し合えば解決できる問題を、戦争で血を流すことでしか分かり合えないなんて・・・人の歴史とはなんて愚かしいーーあ痛っ!? ちょ、女神様ぶたないでくださいぶたないでください! 私が悪かったですからお願いぶたないで!

 いつも計画練って動いてたから、初っ端がノリで始めちゃった今回は暴走するしかなかったんです! 臨機応変とか苦手なんです! 深慮遠謀タイプなんですよ私は! 一応ですけどね!

 だからお願いそれやめて! おててを開いて笑顔を浮かべながら私の腰を抱え込まないで! 明らかにこれ、お尻ペンペンの態勢ですから! 子供向けのお仕置き姿勢ですから!

 私これでも前世は高校生なんです! これやられると洒落にならない恥ずかしさで死にかける年頃なんです! お願いやめて! ごめんなさいごめんなさいごめんなさ――」

 

 ペチーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!!!

 

 

つづく


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