異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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久し振りの更新です。最後ら辺で新武器が手に入ります。勇者らしく伝説の武器です。

次回は勇者らしく敵を倒しに行きます。
勇者らしく! 勇者らしくね!


第11章

「いや~、すまないねー。息子を助けてくれた命の恩人に窮屈な思いをさせてしまって。三週間近い軟禁生活は辛かったでしょ?

 おまけに政治的理由が絡んでるとは言え三週間ぶりに出られたシャバがむさ苦しい髭オヤジと相席するテラスでの食事会だなんて、これ何て拷問? みたいな~な感じー?」

「「は、はぁ・・・・・・」」

 

 めったやたらにハイテンションな自称「むさ苦しい髭オヤジ」のペースに飲まれ、普段よりかは大人しい私と女神様。いつもだったら質問責めにしていたかもしれない相手との会食ですが、今日の私は静かに出された料理を食べることに集中しております。

 

 ーーだって、めっちゃくちゃやりにくいんですもん。この“王様”。

 ノリが女子高生なのに言ってることは毒舌気味で、自虐もけっこう混じってる。諧謔を使って笑い飛ばしながら、内容はかなりダークだったり重かったりと捉え所が全く見あたらない。

 それでいて煙に巻くタイプかと言えばそうでもなくて、説明は懇切丁寧に要所要所を要点まとめながらオモシロ可笑しく解説してくれる。なんと言うか、学校の先生とかでいたら超人気でるタイプなんでしょうね、こういう人って。

 

 ・・・・・・とは言え、聞かされてる私たちが他国人な上に、お国自慢にくるんで国家機密を漏洩されまくっている身としては正直勘弁してほしいんですけどね・・・。

 

 

 

 

 王子の治療(と言うか、普通に生活させただけ)クエストを終えた後、私たちは王宮の一室に三週間もの間軟禁されておりました。

 まぁ、これに関しては仕方のないことですので気にしません。仮にも王族の治療に当たった身としては当然の義務でしょう。遅効性の毒を盛った可能性はいくらでもありますし、回復したときには人格が一変していた例も数限りなくあるわけですからね。安心安全が第一ですよ。

 国家にとっては王族に危害を加える者自体が劇薬なので、危険物には蓋の代わりに施錠しろと言った感じです。

 

 王子の体調自体は一週間も過ぎた頃には回復に向かっていたそうですが、そこら辺は政治の事情。危篤状態にあって余命後わずかと叫ばれていた王子が急速に回復したなんて知られたら何が起きるか分かったもんじゃありません。とりあえずは三週間タイムラグを置いてからようやく公表された「危機的状況からは脱した」の報。

 

 この後段階的に情報を開示していくらしいのですが、んなもん国の庇護もうけられない冒険者には関係ありません。どうぞ御勝手に~としか。

 

 

 

 私にとって目下の課題は王子の回復を担った私たちに個人的なお礼がしたいと、王様御自身からの申し出を受けてしまったこと。正直失敗だったと反省しております。

 

(まさか城のテラスで王様自身の口から謀議を持ちかけられるとは・・・・・・)

 

 国一番の美食を堪能しているはずなのに、何故だかあまり美味しく感じられない私です。

 隣の女神様も困惑気味ではありますが、出されたお肉を一口食べた瞬間には、

 

「何このお肉!? 超うめー!! うまうまマイウーっ!!」

 

 と、アッサリ陥落されてしまいました。女神って肉が主食の種族だったかな~?

 

 ・・・ああ、そうか。この人、野菜人っぽいところあるからーー。

 

 

「あ、胡散臭い笑顔のままでゴメンね? ずっと笑顔を保ってたら元に戻んなくなっちゃってて。僕って入り婿だからさ~、立場弱いんだよね。

 大臣からも「陛下は泰然と構えていてくだされば、それで良いのです。それだけで天下万民すべてをひれ伏させてご覧に入れましょう」って言われてるから」

「お兄さんが即位されたので再就職されたのですか?」

「うん、長兄が即位しちゃったから三男の僕にはスペアとしての価値すらなくなって就職先を探してた所に遠方の小国から「十歳以上年下の美姫から縁談来てます。三食昼寝付き王様の地位、お買い得ですよ?」って言われてホイホイ釣られちゃったカモネギが僕です」

 

 王様の諧謔を訊いて私は思いました。

 ふむ・・・『カモがネギ背負って来る』は異世界でも適用されてたんですね。今度使ってみようかな?

 

 私がどうでも良いことを(本気でどうでも言い内容でしたね)考えてる間にも、王様の昔語りは続いてます。

 

「いや~、あの頃は僕も若かったんだろうなー。美味しい話には裏があるって常識に思い至らず喜び勇んでやってきたんだけど来てみてビックリ、この国の王様って本当になにもしなくていい仕事だったんだよね。

 偶に式典とかに出席させられて「うむ」「ほう」「そうか」「大儀であった」「よきに計らえ」を適当な順番で言ってるだけで後はどうにかなっちゃうの。会食とかでも美味しそうな料理を食べてる連中見ながら勲章だらけで重そうな服着た貴族たちに囲まれて「年頃になった娘の縁談がどうたらこうたら」本気でどーでもいい話に付き合わされ続けるの。もう、お腹グーグーだよ。腹の音が鳴ってるのに気を使って無視されちゃうし、王様って意外と飢えるお仕事だったんだなーって現実の厳しさを思い知りました。甘い話には乗っかるもんじゃないよね、本当に」

「「そ、そうですね・・・」」

「しかも! 王様の仕事って王座に座ってこなすじゃん? 年がら年中座ってばっかりじゃない?

 だからさ~、痛いのよ。お尻が。痔のせいで。

 他国を侵略するため陣頭に立ってる覇王以外の王様にとって、痔は職業病なんだと僕は思う」

「・・・・・・夢が・・・私の思い描いてきたファンタジーなドリームが・・・」

「あんた、まだそんなの保持してたんですか・・・」

 

 いや、気付よふつうに、無理だって。この世界見たら分かるでしょ? そんな甘っちょろい異世界ファンタジーワールドじゃないことくらい。

 そう言うのが好きなら『いせスマ』とかの超面白い異世界転生ファンタジーに飛ばしてくださいよ。その方が私も楽できましたし、主に胃痛の問題で。

 

「おまけに先代が亡くなる寸前に魔王が代替わりにして今の強大な魔王軍が爆誕しちゃったもんだから、さぁ大変!

 歴史と伝統で糊塗された悪習は大昔の大国時代に基礎が造られたもので、衰退と縮小と妥協と譲歩と挫折の繰り返しが近代における国の歴史の全てだって言うのに偉大なご先祖様を持つ門閥貴族たちは緊急時における改革案を全然受け入れてくれなくてさ~。

 ひとつでも法律変えるためには彼らに甘い汁を舐めさせてあげなくちゃいけなくて、お墓参りを盛大に執り行うようになったのもその一環なんだよね。あれって明らかに必要経費が過剰に算出されてて、毎年かならず何割かは冒険者ギルドと癒着してる貴族たちの懐に収まっちゃってるんだよねー。

 ああ、ちなみに今年のお墓参りは例年にない規模で行われる予定だったから予算も倍増。君たちみたいな新人でお皿洗いしかできそうもない子供でも雇えたのは、それが理由です。闇へと消えた予算は僕の死後に発生する継承者争いで勝利するための裏工作費用として犯罪組織に回されました」

「「うわ~・・・・・・末期だぁー・・・・・・」」

 

 冒険で最初に訪れる国が意外すぎるほど重い事情を抱えていてドン引きしてる異世界転生勇者の図(+女神様も)。のほほんとした雰囲気の国で王位継承争いが勃発中という設定はよく訊きますが、流石にここまで末期な国からスタートする異世界転生ファンタジーも珍しいのでは?

 てゆーかおい、そこのボンクラ駄女神。あなた王道のファンタジー異世界を味わいたいなら、こんな世界選ばないでくださいよマジで。本気で凹むわ。つか、死ぬわ。胃痛だけで余裕で死ねるわ、この異世界。

 バッドステータスに『胃痛』と書かれてた場合どの回復魔法で治せますかね、全てを司ってる女神様?

 

「とりあえず僕の代でいくつかの新興国家と通商条約結んで軍事大国とも同盟締結しといたけど、僕が死んだ後どうなるかまでは自信ないだよねぇー。ほら、僕って一応良いとこの三男坊じゃない? 意外と融通利いたり、公式発言じゃなければ家の名前を出すだけならできるのよ。

 そのおかげで『現在は小国、されどかつては大国だった国に対する安っぽい投資』って名目をギリギリで買わせてもらってたんだけど、それが却って大貴族たちの自尊心をくすぐっちゃったみたいでさぁ~。「我が国の威光におそれをなした属国を併合するには今が好機!」・・・みたいなノリになっちゃっててねー。挙げ句の果てには都合良く「陛下の御命は長くても半年未満です」って宣告されちゃって、もう踏んだり蹴ったりです」

「・・・医師が買収されてる可能性は?」

「無いと思うよ? だって意味ないからね。僕が生き長らえたら医者だけ死んで他は誰にも沙汰はなし。いっくら謀略好きな貴族たちでも、流石に無駄金すぎるでしょ。

 彼らは楽して儲けたいのであって、ドブに金を捨てるために策謀練ってるわけじゃないからねー。

 なにしろ暗殺者と押し入り強盗を区別する必要がない国だから。どっちに依頼しても同じ事しかしてくれないし、テロ組織よりも救国革命軍の方が遙かに強いし強すぎるし。

 テロ組織がレジスタンスに恐れをなして活動辞職してる国なんて、なかなか希少価値ありそうなんだけどねぇ~。残念ながら骨董商にすら見捨てられてる古ぼけた老廃国家に銅貨一枚払う気ないそうで~す。あはははー」

「あはははーって、いいんですかそれで!? あなたの国でしょ!? 王様なんでしょ!?

 だったら死ぬ気で守りなさいよ自分のためにも! そして結果論で私の夢も命かけで守り抜きなさい!!」

「女神様・・・本音が後ろに付随しちゃってますよ・・・」

 

 ほんとうに駄女神な人だなぁ、この人。・・・アクア様かエリス様にトレードできないものなんでしょうかね? 同じ女神で僧侶系なんだし行ける気がしなくもないような?

 

 具体的にはサンダーとフリーザーを取り替えっこするみたいな感じで。物理系最強ポケモンは誰だったか忘れたので、覚えてる二匹の名前を挙げてみました。

 どうでも良いことですが、サトシ君。君、そろそろ自分のポケモンたちに名前付けてあげなさいよ。いつまで経っても「行けっ! ピカチュウ! 十万ボルトだ!」なんて種族名で呼ばれて命令されてたら可哀相じゃないですか。毎日足で蹴られて遊ばれてるキャプテンさんの友達みたいで。

 

 昔のアニメが再放送しているたびに主人公の友達に同情していた私は、たぶん悪い子なんだろうなと思ってます。

 

「お飾り国王が残り半年でできることなんて、何もないからね。大人しく王座を尻で暖める役割に徹するつもりだよ。

 ーーでもまぁ、なんにも残さないで終わってしまうのも勿体ないって思ったからこそ君たちをここに招待した訳なんだけど・・・ね?」

 

 ーー来たよ! やっぱり来たよこの展開! 絶対王位継承争いに巻き込まれる流れですよこれ! やだーーっ!帰りたいよー!お母ちゃーーっん!!

 

 ・・・・・・私の母親って、なんて名前でしたっけ? いかん、思い出せない。

 異世界生活始まってから激動続きで、思い出してる余裕なかったからなー。そのうち思い出すかも知れないし今は必要ないから、とりあえずは別にいっか。

 

「この国が昔大国で、衰退と縮小を繰り返して今に至るって話はさっきしたよね?

 その程度の国がどうして大国にまで成り上がれたと思う? 歴史ある大国になるまでには征服と侵略で領土拡張していく必要性が必ずあるんだぜ? その過程をすっ飛ばして大国から歴史が始まる国なんて実在しない道理だよ?」

「・・・新兵器。それも画期的で誰もが使えて大量生産が利く時代を超えた発明品が、何者かによってもたらされた。それを造れた唯一の家系が国王に徴用されて国を乗っ取り、正当なる支配権を主張した。

 彼らはその武器を神からの賜り物とすることで神の代理人を自称し、自らこそが全人類の頭上に君臨すべきだとして武力侵攻し続けた。

 ーーそんな感じでしょうかね。お約束的展開で行くならば」

「まさしくその通り、お約束通りの事が起こっちゃった訳だね。いや、この場合は使いやすいからお約束になって確立されたと言うべきなのかな?

 まっ、既に死んで墓の中の人がどういうつもりで言ってたかなんて心底どうでもいいんだけどさ。とりあえず彼らはーー僕の養父で先代の国王様のご先祖様たちは画期的な新兵器を使って侵略戦争し続けて、広大な版図を持つ大帝国を築くに至ったんだけど如何せん。征服者から支配者の側になったことで謀反や反乱を警戒しなくちゃ行けない立場に立たされちゃって武器の扱いに困り始めたんだよ」

 

「なにしろ、誰でも使えて大量生産が利いて威力も絶大。こんなの持ってる軍隊なんて独裁者にしてみたら怖くて怖くて仕方がない。

 初代皇帝がストレスの余り胃に穴が空いて死んじゃってからは「これは神より授かりし聖なる武器。資格なき者には使いこなせない。資格とはすなわち王の血を引く王族のみ」って事にして秘匿兵器扱いしてみたらしいんだけど、今度は身内の裏切りが怖くなったらしくて「この世が闇に覆われた時、いずこから現れた勇者が必ずや国難を救ってくれるであろう。その時にこれを渡すことこそ我らが神より賜りし神聖な責務。子々孫々に至るまで、決して他言せぬままに一子相伝で教え伝えるのだぞ? 良いな?」って風に改変しちゃって、武器の存在自体ほとんどの人の記憶から自体忘れ去られちゃいました。ちゃんちゃん」

「「うわ~・・・・・・もう本当に最悪だぁ~・・・・・・」」

「本当だよねぇー。勇者に渡すため、神より授けられた伝説の聖剣を守り抜く一族って、無理がありすぎる存在だからねぇー。

 百歩譲って一族の全員が長命種でエルフとかだったら分からなくもないんだけどさ、人間種で国王の一族が代々役目を引き継ぐって無理じゃん絶対に。

 だって、何代かに一度は必ず王家に別の王家の血が混じるんだぜ? 敵対国家の王子を婿に迎えて終戦条約結んだ時にはどうすりゃいいのさ? しかも王位継承時に王様の意識があるとは限らないんだよ? 毒飲まされたり呪われてることだって少なくないんだから、千年以上も続いてる勇者の導き手の家系なんて無理無理絶対に無理、少なくとも王家じゃできません。

 なのでお荷物引き受けてくださいお願いします。王様の命令なので断ったら死刑ですが、どうされますか? はい/いいえ」

「「選択肢が選択肢になってなーい!

  レヌール城の王様幽霊より性質悪いですね貴方!?」」

「はっはっは。政を行う権力者にとって、勝った後に聞かされる「性質悪い」と言う言葉は勝ち鬨だからね。人が嫌がることを合法的におこなうためにはどうするかで無い知恵ひねり出すのが政治家と呼ばれる生き物なのさ。

 君たちも将来、世のため人のために成りたいと思うなら、絶対に政治家と医者にはなっちゃいけないよ? 教師もダメだ、過激思想に走る学生を育てるだけだからね」

「・・・なんで革命家の重要な供給源である上位四つを・・・」

「王様だからだけど?」

「なるほど・・・」

 

 いくら何でも説得力ありすぎるだろ、このオッサン。マジで帰りたい。凹んでるから・・・。

 

「とまぁ、快く快諾してもらえたところで今回のクエストの追加報酬です。王家の家宝で一子相伝してきた負の遺産でもある伝説の武器ですが、歴代の王が王位を譲る際に口伝形式で伝えてきてしまったから現在、僕以外に存在していることを知る人は誰もいません。

 伝説とかだと偶に見かけるらしいけど、色々あって変質しちゃってますから全くの別物になっちゃってます。説明書は付いてるけど変質前に書かれたものだから、役には立ちません。取り扱いには十分に注意してください。よく注意して使わないと死にます」

 

 呪い! 呪いのアイテム! 積もり積もった恩讐が聖なる武具を変質させちゃった系の武具だ! 神とか人を恨んでる、持ち主の身体を乗っ取っちゃう系のアイテムだ!

 いやだ! もらいたくない! 超怖い!

 

 なにが怖いって、一番怖いのはオッサンが言った最後の言葉! なんだよそれ!すっげぇ聞き覚えあるから止めてくださいよそう言う言い方!

 騎馬とかパカラッてる所を皆殺しにしたり、麦畑に火をかけて笑ってる髭おやじを連想させられちゃうじゃん! 超イヤだーーっ!

 

 

 

 

 

「んじゃ、はいこれ。『ヒナワジュウ』って昔は呼ばれてたらしい武器。今は変質して別物になってるから好きに名付けて呼んじゃって。

 ちなみに性能とかは分かりません。最後に撃ったのがライバル国の王様で、決戦を前にして夜の散歩中に月見てたら撃たれたらしくて、無念の余り今でもその地はアンデッドの巣窟になってるらしいのでホント注意してね? マジでやばいよこれ。持ち主として認めてもらえなかった場合は呪い殺されるだけじゃすまないこと請け合いだよ?」

 

 そんな物騒すぎる代物を、恩人に渡すなクソボケーーーっ!!!!

 恩賞でも報酬でもなくて罰則だよ! 厳罰ものの処罰だよこれ! 牢屋に入れられるよりも辛いじゃん! 死後も魂が囚われ続ける系の呪われた武器じゃん!

 

 冒険で最初に訪れた国の王様から、王子を助けてお礼として渡される呪いのアイテム『火縄銃』! もうヤダこの異世界! ホントの本気で帰りたいよーーー(>o<)

 

 

「あっと、そうだったそうだった。ついでとして教えとくけど、今回の件で君たちの命狙われてるよ? 第一王子と第二王子の取り巻き貴族たちからね」

「セレニアさんが第三王子お命を救ったからですね!? 継承争いでせっかく築いた優勢を覆されたのを逆恨みしての襲撃!

 くーっ! 燃える展開ですーー! 王道ファンタジー万歳!!」

 

 女神様・・・。仮にそうなったとして、私が敵を撃退するには今手に入れたコレを使うしかないんですけど、そのこと自覚してますか? パーティーだから一緒に戦うんですよ? 巻き込まれない保証0なんですけど、本当に王道ファンタジー展開で襲われたりしたいのですか・・・?

 

「まっさかー。たかだか死にかけの第三王子が助かったぐらいで覆される優勢なんて砂上の楼閣じゃん。だいたい一回の失敗で破滅が確定するのは、謀略じゃなくてギャンブルでしょ。保身に長けた貴族の取るべき手段じゃないよ。当然、三男が死ななかったときのことも踏まえて二の手三の手は用意してあるんだろうなと思う」

 

 カタン、と。肩を落としながら女神様が、先ほど勢い余って立ち上がった席へと座り直します。

 ・・・そんなに継承争いに巻き込まれたいのかなぁー。ドロドロしてるだけだと思うんですけどね・・・。

 

「でもね、こう言うのはメンツの問題だから。これから王位に就こうって連中が余所者に邪魔されて泣き寝入りするなんて示しが付かないでしょ? だから狙うの、君たちを取り巻きの中でも小物に類する雑魚たちが。失敗したら切り捨てれば良いだけだしね。

 壁を何枚も通してあるから、本当の依頼人は雑魚たちでさえ知り得ていない。場合によっては敵対勢力に捜査の手が及ぶように細工されてると思う。

 こう言った点で彼らはプロだ。蓄積された謀略の知識と技術とノウハウと、それをやり易くなるよう少しずつ整えてきた法整備。それら全てが敵となれば、勇者にだって勝てやしないさ。数の差で押し切れずとも、法律で勝てるように出来ている。

 正義の味方は大義名分を取り上げられた途端、無法者へとランクダウンしちゃうからねー。やっこさんらは自分たちが悪だと自覚してるから容赦ないぜ?」

 

 ・・・ふ~む。結構やっかいな状況ですね。そうするとコレがああなってこうだから・・・ああ、面倒くさい。手っ取り早く簡略化してしまいましょう。その為の道具が手には入ったばかりなので試し撃ちで性能テストです。

 

「黒幕の予測は付きますか?」

「え? そりゃまぁ勿論だけど・・・って言うか、第一・第二王子の取り巻き筆頭が主犯で決まりなんだし考えるまでもないけどね。

 でもなぁ~。こいつらは君たちの襲撃には無関係なんだよねー。ただ「メンツを傷つけた奴らが居るので始末してきます」って部下から言われただけの老人二人で、ついでに言っちゃうと、どっちの派閥から派遣されてきた小物か分からない。小物すぎて双方とも眼中にない雑魚だし捨て駒だし覚えておく価値ないし」

「構いません。根を絶てば葉は枯れるものです。大元の二人を始末すれば派閥は瓦解して離散し、第三王子勢力が王位を継承されるのでしょう?」

「え、うん。そうだけど大義名分が・・・」

「安全第一。自分の身を守るためにも、大貴族の屋敷を焼き討ちするだけですよ。逃げ遅れた老人が火に巻かれて死ぬくらい、珍しくもない事故でしょう?」

「事故・・・なのかなぁ~・・・?」

「いくら大貴族でも死んだ後まで権勢は振るえません。跡取りが後を引き継ぐとはいえ、王様が崩御しようと言う時期に家臣たる身で、盛大なお葬式や継承の議を執り行うわけにも行かないでしょうし、燃やしたらさっさと出国するだけです。

 継承争いで生じる犠牲は、老人の焼死体が二つだけ。後ろ盾を失った第一・第二王子の勢力は衰えて、第三王子勢力がその隙に乗じる。問題は解決して王様も満足の内に成仏できる。

 たった二人の犠牲でみんなが幸せになれるのですから、最善の結果と呼ぶべきですよ」

「そ、そうなのかなぁ~? なんか微妙に間違ってる気がするんだけど・・・?」

「老い先短い老人の命で大勢の人が救われるのです。国家主権者として喜ぶべき吉日なのでは?」

「・・・奴らはクズだけど、クズにだって家族に看取られながら逝く権利ぐらいあってもいいんじゃない?」

「国家の存亡は一個人の権利というレベルで語りうるものではないと聞いたことがあります。私にとって国家とは国民のことを指して使う言葉ですので、大貴族二人の平凡で幸せな死を迎える権利を無視しようと言うだけです。大したことじゃない」

「・・・権力者は国民を犠牲にして利益を得る役柄なんだよ?」

「見ている観客としては詰まらないのでシナリオの変更を要求させていただきます。

 たとえばーーこのようにして」

 

 

 

 

 がちゃ。

 

 

 

 

 火縄銃の銃口を王様の眉間に押し当てながら、私は普通に説明して差し上げます。

 

「どうやら私は持ち主として合格らしく、使い方が頭の中に入ってきました。撃てますよ、これ。

 弾が込められてなければ大丈夫だとでも思っていたのですか? ご自分で変質してしまった別物だとおっしゃっておられたではないですか。もう少し自分の発言には責任をお持ちください、国民を束ねる王としてね」

「・・・・・・・・・」

「では、先ほどの質問を私なりに改造して返させていただきます。

 選択肢1:大貴族二人を殺した後で私を指名手配し、自分は無関係を決め込む。

 選択肢2:今ここで私に撃ち殺されて、後からやってくる後輩二人をあの世で雑用にこき使う。

 さて。あなたは、どちらがお好みですか?」

 

つづく

 

 

セレニアは『呪いのヒナワジュウ』を手に入れた!

真名と性能解説は、また次回!

 

メガ「でも、スゴイですねセレニアさん! その銃ほんとに撃てるんですか!?」

セレ「撃てません。ハッタリです。とりあえず急場しのぎの出任せで一任されましたから、ぶっつけ本番での性能チェックになりますね。王道展開で嬉しいでしょう? 女神様」

メガ「嫌みか、このロリおっぱいーーーっ!!」

セレ「む、胸のサイズは私のせいじゃありません!(真っ赤)」




書き忘れてた次回の軽い予告です。

「ハッタリかまして国家権力が介入して来るまでの時間的猶予が得られました。これで大貴族の屋敷に火が付いても憲兵隊は即座に出動してきません。安心してボヤ騒ぎを起こせます。
 何でもいいから屋敷へ捜査の手を入れる口実さえ出来れば、それで良しとしましょう。
 勢力バランスさえ崩せれば、後は流れでどうにかなりますよ」

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