異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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活動報告の件ではいろいろご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。今出来ましたので投稿いたします。
久し振りの更新なので上手く出来ている自信はありませんが、出来る限りで頑張りました。

今回はセレニアが本当に英雄になる話です。ただしセレニアらしい形での英雄ですけどね。
世知辛さだけは人一倍の異世界ファンタジー最新話をお楽しみください。


第10章

 ある日突然王族の誰かが倒れ、高レベルの回復魔法を使っても一向に治らない。

 そこで昨今、名を馳せだした冒険者の主人公に治療を依頼し、治した暁には王家の娘を嫁に出して未来の婿とする。

 異世界転生に限らず王道ファンタジーの基本的な展開です。実績のある冒険者、すなわち何でも屋に病の治療を依頼するのは不条理なようでいて案外理に叶ってる。だって何でも屋ですからね。

 人知れず咲いてる万能薬の材料や、それを処方できる人嫌いの名医と知り合いだったとしても不思議ではない。

 だから凄腕冒険者への病気治療依頼は決してご都合主義的展開ではないと私は信じてます。信じてますが、しかし。しかしです。

 さすがに凶悪なモンスターを倒して名を上げた“だけ”の冒険者に治療を依頼するのは無理があるんじゃないですかね? 殺しの実績しか持たない奴に、人助けを依頼するなよ。なに飲まされるか分かったもんじゃねーぞ?

 最悪、治ったは良いけど前より異常行動が増えて、ある日突然ナイトゴーンドに・・・とかもあり得るんですよ? 王族が患った病の治療は、どんなに切羽詰まっていたとしても素人に任せるのはいけないとボク思います。

 

 

 

 ・・・・・・なぜ突然、何の前触れもなくこの様な話をし出したのかというと・・・・・・。

 きちゃったんですよ!実際に!王城から王様の病の治療依頼が名指しでね!

「悪名高きネクロマンサーを退治した若き英雄に期待する」って、絶対不可能じゃアホーっ!! こちとら昨日まで三ヶ月間バイト生活送ってたフリーターなんじゃい! 実質的には三ヶ月間ずっと毎日毎日トムじいさんを家まで送ってやってただけの若造が、初陣で大将首穫ったぐらいで英雄になれれば苦労せんわい! 銀河の英雄舐めんな!

 

 

 

「どうされたんですかセレニアさん? なんだか、前回と出だしがソックリですよ?」

「・・・なんですか? その“前回”って・・・? この世界は本当にフィクションのRPG内だったとかいう設定ですか? だとしたら今すぐ帰りたいんですけども。この際リセットでもいいので」

「いやですねー、冗談ですよ。じょ・う・だ・ん☆ ほら、私って一応は女神ですから神様視点で物語り読んでる風に語りたくなる時だってあるんですよー♪

 もう、イヤですねーセレニアさんは夢がなくて。せっかくファンタジー世界で生きてるんですから、もっとファンタジーな展開を望みましょうよー」

「・・・・・・・・・」

 

 いや、女神様。『一応』って。あんた歴とした女神様でしょ本物の。なんで自分の正体に自信なくしてきちゃってるんですか貴女。

 ただでさえパチモン臭いのに、これで自ら「私の名前は自称女神!」とか言い出したらフォローできません。全力で彼女の痴呆症を治してあげなくては・・・。

 

「・・・? どうかされたかセレニア殿? なにやら気分が優れぬ様子だが・・・」

「・・・いえ、お気になさらないでください子爵様。生まれながらにして貴き身分である貴族の方と馬車をご一緒できて興奮しているだけです。

 一介の平民が抱きやすい無意味な劣等感故の挙動不審ですので、どうかお気にされることなく無視していただければ幸いでございます」

「その言い回しで口先だけの謙虚さを発揮されても、説得力に欠けること甚だしいのだがな・・・」

 

 苦笑しながら微笑も浮かべ、困った孫を見るような目で私を見つめてくる口髭子爵様。すっごく気まずい・・・。って言うか、居心地が悪い。自分が目上に逆らいたいだけの子供に逆戻りしてしまった気分になって、めっちゃ恥ずかしい。

 早く着かないかなぁー、目的地に。着いたら即座に宿屋へ直帰する、盛大なピンポンダッシュができたら文句なし。無理ですけどね?

 

「なんにせよ、殿下を治療するに当たって必要な物があったら言ってくれ。状況が許す限りにおいてはと言う条件付きだが、我々に可能な限りで最大限の便宜を図るよう陛下から直々に命を受けている。遠慮はいらん」

 

 王宮から派遣されてきた使者の髭子爵は誠実な口調で告げた後、やや表情を改めて背筋をただし真面目な口調と態度で声をひそめます。・・・イヤだなー、この展開。モノすっごく陰謀のにおいがプンプンするから。

 一介の平民如きを王族の権力争いに参加させないで。お願いだから冒険者らしく、場末の酒場で飲んだくらせて。宮廷闘争はイヤなの嫌いなの無理無理無理なのー!

 セレちゃんお家へ帰りたいよーーっ!!

 

「ここだけの話だが、宮中では気の早いことに陛下が崩御した後の王位継承者について語り合う者が日に日に数を増してきている。病にかかったのは末息子であらせられる第四王子殿下であるにも関わらずだ。まったく、話にもならん。

 しかも、殿下の病を癒すためとはいえ冒険者ギルドに借りを作ってしまうのは如何なものかと主張する勢力まで台頭してくる始末。後継者争いに勝つための裏工作で多額の金が市井と裏社会に出回っているのも大問題だ。

 正直、今の王城は安全な場所とは言い難くなっていると言うのが現実だな」

 

 ほら、やっぱりーっ! こういう話にシフトしていくから王様からの依頼は受けたくないんですよ! RPGとかでもトップクラスの面倒くささを誇るイベントなんだからー!

 後継者争い反対! 御館の乱は嫌い!大政奉還の方がいい! 慶応維新で平和的に日本の民主化を成し遂げよう!

 

「だが、それ故にこそ殿下には病を治して再起していただきたい。

 既に始まってしまっている継承者争いには、陛下を蔑ろにする第一王子と第二王子が最有力候補として名が上がってしまっている。どちらも国政より自身の趣味を優先される愚鈍な方々だ。王位に相応しいか否か以前に、国難に立ち向かう気概がそもそもあるまい。苦労知らずの宮廷暮らしに危機対処能力など、誰も期待してはおらんのでな」

「え・・・・・・」

 

 ・・・あれ? なんかこの人、めっちゃくちゃ貴族らしい見た目なのに言ってることが実利主義っぽいぞ? 権威主義じゃないの? 世襲貴族なのに?

 

「第四王子は年若く幼いが、そのぶん何の益体もない王家のプライドに囚われず他者から学ぶ姿勢を重視しておられる。

 おそらく王位ともっとも縁遠い順位に位置しておられたから追放同然に送られた中立都市国家『魔法学術都市ガリアンド』で同世代の若者達と触れあいながら幼少期を過ごされた故なのであろうな。

 周囲に魔法使いばかりがいる環境を一流貴族の方々は良く思われてはいなかったし、当時の私もどちらかと言えば彼らよりの考えであったのだが、こうして国難を実感するまで戦乱の影響が出始めると嫌でも思い知らされるのだ。王侯貴族としてのプライドなど、平民達には糞以下の価値しかないのだとな」

「・・・・・・・・・」

 

 思わず唖然としてしまう私。

 あ、あれ? あれれ~? おっかしいなー。この世界って中世風ファンタジー異世界なはずなのに、貴族の考え方がすさまじく荒んじゃってるぞ? ほんとに大丈夫なのこの国? 滅びたりしない? リップシュタット連合軍が門閥貴族だけで形成されて、残った貴族は全てローエングラム候に味方したら勢力図が一変しちゃうぞ?

 

 現実主義が貴族の間にまで広がったファンタジー異世界って、なんかイヤですね。思いっきり。

 

「えーと・・・貴族様はもう少し王様に対して忠誠心持ってるもんだと思ってたんですけど、違うんです? なんか今、ものスッゲェ夢のない発言をダンディなお髭のお貴族様の口から飛び出してきた幻聴を耳にしたんですけれども・・・?」

 

 おお、女神様がテンパってる。スゴいぞ子爵、そのイキだ。もっとやっちゃえ。

 たまには女神様にも地獄を見せろーーっ!

 

 私の心の声に呼応してくれたのか髭子爵は、女神様からの質問を「ふん」と軽く鼻で笑い飛ばします。

 

「貴族などいなくても人々は困らない。国がなくなれば、新たな王朝が生まれるだけだ。

 人々が個人でできないことを我々がやっているだけのことで、貴族は選ばれし者だ等という戯言は、国父様に王権を授けられた教会の権力至上主義者どもが勝手に作り上げた妄想だ。初代教皇の名前など聞いたこともない世代の私にとっては、むしろ邪魔でしかない。

 やれ魔王だ、革命軍だと民衆は騒ぎ名門貴族は弾圧し、不況に喘ぐ王都で政治改革すれば権威への冒涜だなんだと不平ばかりを口にする。

 おまけとして、何故かは知らんが平民たちまで政治についてにわか知識を振りかざし、井戸端集会をそこいら中で開いているから物流が影響を受けて経済が悪化してと、踏んだり蹴ったりの悪循環だ。経済官僚としては堪ったもんじゃない。

 こんなバカ騒ぎはさっさと消火してしまいたいぐらいなのだから、冒険者に頭を下げるくらい訳ないさ。所詮、貴族なんて平民が税を納めてくれなければ飢えて死ぬ生き物に過ぎないのだぞ?

 あまり過大評価され過ぎるとこちらが困るので辞めてもらえんかな、美しいお嬢さん?」

「え、ええぇぇ~~~・・・・・・」

 

 あまりにもあんまりな言い分に女神様もげんなり気味。斯く言う私もげんなりしてます。夢でお腹は膨れませんけど、もすこし夢があってくれてもさー。

 

「お、話をしている間に着いたようだぞ。あれが我が国の王城『ビッグブリッジ』だ」

「・・・しまった。話に圧倒されてるうちに逃げそびれました。どうしましょうか女神様?」

「??? 普通に病気を治せばいいのでは? 転生者の主人公らしくこう・・・「リカバリィ!」みたいな感じで」

「職業『指揮官』が上位回復魔法を使えるのであれば、『軍医少佐』ぐらいに転職できるのでは?」

「ペニシリンを製造するのは?」

「仁かよ。無理ですから、それ。一般人が幕末時代にタイムスリップしたってペニシリンは生み出せません。

 転生者でもないのにチートを発揮するスーパードクターの猿真似を、平凡な元男子高校生に期待しちゃダメです」

 

 いやほんと、今思い出してもスゴいですよね仁先生。スゴすぎます。あれ見てから他の異世界転生主人公が医療知識でチートしても「ふーん」としか思えなくなる自分がいるくらいでしたからね。J●N・・・恐ろしい子!

 

「じゃあ、あれやってくださいよあれ。現代知識で技術チートする、転生モノの王道展開。アレならできますよね、セレニアさんにも? だって転生者で勇者で女神に選ばれし者でもあるんですから!」

「じゃあ貴女が治してください。この世界全てを統べられているのでしょう?

 だったら世界の理も真理の扉もガン無視して、問答無用で対価なしの賢者の石生成ぐらいはやってくださいよ。あなた一応は女神様なんですから」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・くっ! ガッツが足りない!」

 

 這いニャルかよ。やっぱりこの人、光の女神じゃなくて邪神だったわ。見た目に騙されなくてよかったー。

 

 ・・・いや、よくはないな全然。むしろ状況が悪化しちゃってるわコレ。

 万能の存在であるはずの女神様が真性の役立たずであることが判明した今、王族の治療に望んでも確実に失敗することは明らかです。

 依頼の失敗は自己責任。冒険者の基本理念がそれである以上、牢屋送りは避けられません。そうなっては断頭台まで秒読みが開始してしまいます。

 

 ふ~む・・・。そうなった時の対処法としましては・・・。

 

1、城に放火して火事を起こし、混乱している中を脱走する。

2、看病するフリをして第四王子を人質にとり、部屋に立てこもるフリをして脱走する。死体だろうと弾避けの楯ぐらいになら使えるでしょう。子供ですがサイズ的に私を守るぐらいは可能なはずです。

3、とにかく暴れまくって城内を混乱に陥れ、適当な王侯貴族を殺して回れば指揮系統を分断できる可能性が無きにしも非ず? ・・・いかんな~、思考が完全にテンパっちゃってます。少し頭を冷やしましょう。

 

 幸い廊下は涼しいので、王子のいる病室までにはクールダウンが可能です。あー、涼しくて気持ちいい~。

 

「・・・セレニアさん、今一瞬私の脳裏にあなたの思い描いていた思考が伝わってきまして。

 女神らしいことを言わせてもらえば、貴女は最低です! 悔い改めてください!

 でないとお仕置きしちゃいますよ! 女神らしく! そう、女神らしくお仕置きを!」

「・・・すみませんが、自分が女神であること再認識したいだけなら他当たってくれません? 私いま結構な割合でテンパっていますので」

「セレニアさんのイケず~。女神、もう知らない!プンだ!」

「・・・・・・」

 

 ・・・うぜぇー・・・この女神様超うぜぇー・・・水銀並にウザすぎます。誰か早く引き取ってー。

 

 そうやって私と女神様がしょうもない漫才を繰り返しながら髭子爵の後について城内を歩き続けていくと、徐々に風景が移り変わって天井も床もすべてが石で、明かり取り用の小さな窓以外には光源のない、灰暗くて空気のひやりと冷たい場所へと進んでいきます。おそらくは、守城戦を想定しているのでしょう。

 

 患者である第四王子のいる病室は、二十畳ほどの広さで一番奥には大きな暖炉があり、赤々と炎が燃えて部屋を暖めています。

 全体的に薄暗く、室内の素材はすべて石。壁はさすがに剥き出しではなく、ビロードや絵画で装飾されています。

 高貴な者の住む部屋らしく、清潔の保たれてる上に良い香りのお香が炊かれて日の射さない部屋独特のかび臭さが感じられません。

 

 王子は天蓋付きのベッドで寝込んでおり、先ほどからうめき声が響いてきてうるさいです。背中を丸めて寝込んでいるせいか猫背になっており、脊椎が変形してしまっているようです。

 

 宮廷魔術師を名乗る若い女性が進み出てきて私たちに挨拶し、患者の様態について手短に説明してくれました。

 

「殿下は幼い頃に兄である第三王子を亡くし、それ以来一日の大半を勉学に捧げ、その甲斐あって大陸でも最難関と目される魔法学術都市の入学試験にも最年少で合格され、都市内部では私とともに同じ師のもとで魔法を学び研鑽に励んでまいりました。

 しかし、ある時から慢性的に頭痛と目眩に襲われるようになり、大事をとって清潔で安静な場所での療養を勧め、この部屋に移られはしたものの一向に病状は改善に向かわず私どもの魔術でも直る見込みは毛頭見いだせません。

 今現在、使いの者が古代図書館に魔道文明時代の文献を漁るため出向いておりますが、果たして間に合うものかどうか私は気が気でなりません。

 どうかお願いします、冒険者様! 王子だけでなく、わたくしのことも助けると思って治療依頼をお引き受けいただけませんでしょうkーー」

「うん、とりあえず日光の当たる場所に患者を移して、青魚とか卵とか豚の肝とかを食べさせてください。そうすれば治ります。

 ーーて言うか、国一番の知恵者だったらこれくらい知っときなさいよ。どう見たってこれ、日光とビタミンDの不足による骨の発育不全クル病でしょうが」

 

 時代遅れの異世界転移ものに出てくる知識を、現代日本人に披露させるなよボンクラ賢者の給料泥棒めが。

 

 

 

 目をパチクリしている宮廷魔術師さん(と、女神様)のお尻を蹴飛ばすようにして治療に当たらせ(ただしくは「調理に」ですけれども)食事療法というか、ふつうの食事をふつうの場所で食べるようにしただけの王子様は一週間が経つ頃には病状も回復に向かい始めており、無事に事なきをえられたようで何よりでしたね。

 

 

 ーーつまり、傷ついたのは私のファンタジーに対する憧れだけと言うこと。

 

 

 本当もう、マジで勘弁してくださいよ。異世界転生した勇者がクル病治した話って聞いたことないんですけど? どうなってるんですかこの世界。

 あれですか? 現代の発展途上国と同じ様に風邪や下痢で死んでしまう子供たちを救うために経口補水塩を作って、ひたすら量産する経口補水塩大量生産マシーンになれとでも? 三ヶ月だけで済んだトムじいさんのお水サーバーをワールドワイドに一生やれと?

 HAHAHA、絶対にイヤです。ごめん被ります。それぐらいなら二度目の死を実体験した方が百万倍もマシな行為ですよ!

 

 

 

 中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーの文化レベルは、本気の本気で中世レベルだった件について。

 

 

(たぶん)本当の英雄になれた時点でつづく




経口補水薬ではなく保水塩にしたのは簡易版だからです。セレニアの知識量じゃこれが限界でした。
所詮は内政チート作品が好きな読書家です。現実に異世界行って役立つと保証できる知識なんてこの程度しか持ち合わせていません。

知っているのと作れるのは違いますしね。
知ってるだけの物を土壇場で確実に成功させる主人公たちは、知識よりもラックが凄いんだと私は思う。

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