異世界に勇者としてTS転生させられたから常識通りに解決していくと、混沌化していくのは何故なのでしょうか?   作:ひきがやもとまち

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プロローグ

「私は女神。この世界全てを統べる女神です。

 早速ですがあなたには、異世界を救って頂くために転生して貰おうと死んでいただきました。もう現世には生き返れません。

 地球とは異なる別の世界を救う勇者として第二の人生を歩む以外、あなたの人生における選択肢はなくなってしまったのです・・・・・・」

「わかりました。じゃあそれでお願いします」

 

 

 

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「・・・・・・はい?」

「ほぇ・・・・・・?」

 

 お互いに不思議そうな顔を向けあうボクたち。

 

 今ボクは雲の上に造られた古代か中世のお城のような不思議空間で、一人の美しい女の人と向き合っています。

 

 その人の外見的特徴は、まず長くて豊かな紫銀の髪が上げられるでしょう。紫色に輝いてて、とても綺麗です。アメジスト色の瞳にも同じ光が宿っていて美人さんですね。

 

 服装は今時珍しい、如何にもな女神様装束。『女神の誕生』でしたっけ? なんかソッチ系の絵画でよく使われていた衣装で、服なのか白い布切れを巻いてるだけなのか判断しづらい例の衣装です。

 その割に胸は大変慎ましく、ひっそりと存在感を主張されていますがね。しかも明らかに偽装してるし。

 でも黙っときます。女性に肉体的な質問をするのは禁忌中の禁忌です。タブーです。言ってはいけない禁呪なのです。言って悪いことは言っちゃダメなのです。

 

 だからボクは言いません。ボクは善良で無能な平凡すぎる一般人です。常識を守るしか能がないのです。ですから今も常識を守ります。これからも守り通し続けるでしょう。

 

 たとえ第二、第三の人生が待っていようとも、ボクの生き方に変化はありません。

 常識を守る。ただそれだけがボクの信じる唯一無二の正義なのですから。

 

 

 

 

「えっと・・・い、いいんですか? 私たち神の都合で天の矢を地上に落とし、あなたの住んでた家ごと吹き飛ばして家族諸共殺してしまったんですが・・・」

「そちらの方は当人たちに謝罪しておいてください。もちろん、求められたのなら賠償もお願いします。

 明らかな殺人罪、放火罪、その他諸々余罪が多そうですが、ボクは別に警察の人間じゃありませんからね。そう言うのは専門家の人にお任せしますよ。

 素人が半端な知識で事件に首突っ込んで無事に解決できるのは、フィクションドラマのご都合主義探偵と刑事さんだけです。窓際部署といいつつも、管轄違いの事件に首を突っ込みまくって責任をとらされない特権的地位にいる某警部殿みたいな人たちとかね」

「は、はぁ・・・」

 

 困ったように曖昧な笑みを浮かべる女神様は、いったい何に困っておいでなのでしょうか? よく分かりません。

 とにかく今のボクは死んでしまった身。生きている生者たちの住まう現世のことは、今更気にしなくても良いのでしょう。案外と気楽なものですね、死ぬというのは。

 

「え、えっと・・・あなたの生前の名前は抹消され、もう思い出すことさえ出来ません。

 ですので新たな名前が必要になります。その際には女性として生まれ変わっていただくために女性名を付けて頂きたいのですが、なにかリクエストはありますか?

 何でもいいですよ? 神話系や伝説系、ファンタジーからSF、史実からフィクションまでなんでもオールオーケー!

 死なせてしまった身として、このくらいのサービスは当然のことーー」

「ではセレニアで。名字とかは何でもいいので、適当にそちらの方で決めてください。

 正直なところを言えばゲームで普段から使っているPC名『ナベ次郎』を採用していただきたいのですが、多分ダメなんでしょうからね」

「ダメに決まっているでしょう!? なんですかナベ次郎って! どこの世界にそんな名前の美少女勇者がいる!?

 つか、そんな名前の勇者に救われる世界の方が可哀想だろが! 少しは気をつかえや糞ジャリ!」

「美人なのに素はこんなか~」

 

 残念美人の典型みたいな人ですね。見た目は本当に悪くない、むしろ可愛らしいのに・・・。

 

「・・・こほん。ーーそれにしても落ち着いていますね。

 他の普通に死んだ魂たちは自分たちが死んだと聞かされたとき、驚き慌てて泣き叫び『生き返らせてください!お願いします!』と懇願してくるので私もついつい遊び心から無茶振りしてしまい、終わった後で天使長に怒られたりするのですよ?」

「子供が蝶の羽をもぎ取って地に落とし、足で踏んだり花火で燃やしたりバケツに沈めて眺めるのを悦しむのと同じ感覚ですか?」

「・・・・・・」

 

 すぃっと、目線を逸らした女神様はそのままの体勢で話を進められます。あまり聞いてほしくない内容を突っ込んでしまったようですねぇ。気を付けなければいけません。

 女性を傷つけるのは男として問題ありありなので。

 

「こほん。

 ーーあなたに女性として生き返り、救っていただきたい世界は剣と魔法のファンタジー世界です。あなたたちの世界で言うところのロープレワールドだと解釈してください。

 本来であるなら勇者らしく、様々なチート能力を授けて転生チート無双して頂きたいところなのですが、あいにくとそれをやるには天界の方に余力がなく・・・その・・・予算的な事情で?」

「近年のアニメ業界みたいなものですか?」

「こほんこほん。

 ーーとは言え、です。さすがに何も与えないで住所不定無職の少女を異世界に身一つで放り出し、路頭に迷わせるような無法は許されません。

 これでも私、女神様ですから」

「そうですね。女神様ですね。一応は」

「こほんこほんこほん。

 ーーそこでですが、まずあなたには最低限の装備として剣と鎧、そして転生先の異世界に関する知識を与えましょう。それだけあれば何とかなるはずです」

「最弱装備と知識だけ与えて冒険の旅に出発ですか。

 なんだか始まりのお城の王様みたいですね」

「ぐぇほぐぇほ!

 ーー勿論それだけではありませんよ? ちゃんとステータスも上げられる様にしておきました。これであなたは敵を倒せば倒すほど、経験値を手に入れれば手に入れるほど強くなる、最強勇者への道を歩めるようになったのです」

「つまり最初の段階、レベル1の時点では今のままの身体能力というわけですか。

 ーー最初のエンカウントバトルで殺されませんかね?

「・・・・・・・・・我が聖なる力を持って彼の者を勇者として転生させたまえーーっ!!!」

「最後は強引に力付くで締めたなー」

 

 

 

 

 こうしてボクは私となって、異世界に降り立ったのです。

 

「・・・で? 何でいるんですか女神様?」

「ーーアンタのせいで懲罰人事されたのよ! 責任とって天界への帰還を手伝ってもらいますからね! 死ぬまで私にお付き合いしてもらいますから覚悟するように! いいですね!?」

「イヤなプロポーズだなぁ~」

 

 “私”が心底から迷惑さを込めて言って差し上げてるとーー

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 何処かからか女の人の悲鳴が聞こえてきました。

 ーーまぁ、どうせ何処かの誰かが魔物に襲われてでもいるのでしょうがね。

 

 なぜ魔物が住み着く森の中に一人で侵入し、生きて帰ってくることが出来ると思うのか。せめて護身用の短剣でも持っているなら話は別ですが、それすら所持せずバスケット片手に「森の中へ薬草探しに」とか自殺志願者かと思いますよね全くもう。

 

「ま、いいです。どうせ女の身一つで行ってもミイラ取りがミイラになるだけ。犠牲者の数は少ないに限るとも言いますし、ここは素直に森を抜けて街への街道を探した方が賢明でしょう。

 若い女性の悲鳴が聞こえてくるのであれば、人里までそう遠くはないはずですからーー」

「ダメェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 

 女神様、激オコ。

 いったい何に怒ってらっしゃるのでしょうか? 理解できません。

 

「なんてこと言ってんですか貴女は!? 転生直後の主人公がいきなり現地人見捨てる異世界召喚モノなんて聞いたこともないですよ!?

 せめてそこはほら、『助けてやるから情報よこせ』あるいは『悪いが金がない。一晩泊めてくれるなら力を貸すぜ?』的な台詞を言って助けに入るのが、正しい異世界召喚系勇者の在り方というものでしょう!?」

「いや、助けようにも武器持ってないですし。仮に持ってても使い方分かりませんし。

 ・・・と言うか、与えられるはずだった武器防具は何処に・・・?

 そもそも民間人で冒険者に登録したわけでもない私が果たして武器を買ってもいいのか否か、それすら定かでない初めての異世界生活です。

 用心するに越したことはないでしょう?」

「だぁぁぁぁぁぁっ! この勇者、マジ理屈臭くて面倒くさい!

 だったらコレ! コレ貸してあげます! 魔王を倒すために作り上げられた伝説の聖剣です! これさえあれば相手がゴブリンだろうがオークだろうがコボルトだろうが、チョチョイのチョイで片づけられますよ!

 さぁ、TS転生した美少女勇者セレニアよ! 助けを求める弱き人々を救いに行くのです!

 未知の世界と果てなき冒険が貴女を待っている!」

「・・・・・・すみません、重くて持てないです・・・。

 せめて初心者用に毒が塗られたショートソード、もしくは毒牙のナイフあたりを貸して頂けませんか? あれなら弱い人でも強い相手に時間稼ぎぐらいは出来そうだ」

「この勇者、夢とロマンがねぇーーーっ!!!!」

 

 夢とロマンで人は生きれません。死なないためには最低限度の装備は必要なのです。

 毒がないならせめて痺れ薬を。刃に塗って切りつけて、逃げながら痺れて動きが鈍くなるのを期待しながら、ひたすら逃げまくります。

 

 子供は魔物に勝てない。基本です。ファンタジー世界だろうと肉体限界はあるのです。リーチも違いすぎますしね。

 大人しく逃げ延びて、装備を調えた後にでも再挑戦するのが吉でしょう。

 

 無理はしない。勝てる戦いのみ戦う。

 世界を救わせたいなら、それ程度の安全策は取らせて下さいよ女神様。基本ですよ?

 

 

 

 

つづく

 

主人公の容姿設定

 身長:140センチ未満。体重:約45㎏(巨乳補正入り)。ウェストとヒップは秘密だが、バストはやたらに豊か。所謂ロリ巨乳キャラ。

 

 表情は常に茫洋とした無表情を保ち続けて、どこを見ているのかよく分からない。口元や目元は垂れてもないが引き結んでもいない。ごく自然に柔らかい印象を与える角度に調整されている。

 

 髪型:頭の後ろ、やや上あたりで結わえられたポニーテール。体格の割に極端に多い量の髪を持っている。色は混じりっけのない、純粋な銀。

 

 目の色:青と言うよりかは蒼。海の色よりかは澄んで濁りのない湖の色。魚も住めない淡水の色。何を考えていても何も写さない純粋な蒼色。

 

現在の装備

 防具:おしゃれな服。ごく普通に可愛らしい女の子用装備。女の子と呼べる年齢でなくとも性別が女性なら装備できるが、多少痛い。

 あくまでも可愛らしい年頃の女の子が着ること前提の装備である。

 防御力は布の服よりかは高く、旅人の服より低い。ただし値段は、銅の鎧の二倍。

 

 武器:サバイバルナイフ。なんの変哲もない、ごく普通のサバイバルナイフ。日本のサバゲーショップでだって手に入れられます。

 聖剣が重くて使いこなせそうにないので女神に借りた短剣系武器。女神が持ってた理由は「護身用」とのこと。

 ちなみに女神は能力的に僧侶系であり、本来刃物を持ってはいけないし傷つけてもいけない。

 

 ・・・これは懲罰人事と言うよりも追放ではないだろうか? もしくは異世界と言う名の刑務所。

 

 

つづく


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