【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Funeral of the Dead Butterflies_9

杖から放たれたビームは確かにその巨体にダメージを与えたのだと思う。

しかし、倒すまではいかなかった。

塊は私の方を向く。そうして、私の姿を捉えた時。真っ直ぐと突進してきた。

思わず私は情けない悲鳴をあげて、後ろに逃げてしまう。震える足は上手く動かなくて、その場で転んでしまった。

葬儀さんが私の前に立って、庇ってくれる。

でも私のところに来る前に、アイが私を庇ってくれた。

 

……私、狙われてる!

 

それは周りから見ても一目瞭然だったのだろう。

「逃げて!」誰かが私に叫んだ。「早く!!」「走れ!!」と。

私は逃げ道を探すけれど、人が多すぎるのと、この塊が壊した壁の瓦礫などで道を見つけられないでいる。

 

どうすれば、どうすればいい!

 

混乱する頭に泣きそうになっていると、インカムから声が聞こえた。

 

『エージェントユリ、聞こえますか?』

「え、誰……!?」

 

その声は聞いたことの無い男性のものだった。

こんな時に、とも思ったが、こんな時だからこそ指示が必要なのだ。

インカムのイヤー部分を強めに耳に押し付ける。指示を聞き逃さないように。すぐに、対応できるように。

 

『……俺はA。一時的に指揮を任されている。

貴女にアブノーマリティの鎮圧を命じます。そのアブノーマリティの収容室を用意しました。指示に従って、誘導してください。』

「わかりました!誘導の方法は、」

『あなたが囮になってほしい。』

「………え、」

 

え?

 

……囮。おとり?

 

「お、おとり、えっと、それは……策は……、」

『場所は下層。レティシアの隣に用意してます。見る限り、対象の動きはそこまで早いとは言えない。全力で走れば、どうにかなる。』

「でも、せめて、誰か協力を、」

 

そう言うと、分かりやすくはぁ、とため息が返ってきた。

 

「ユリ・クロイ。……貴女を特別扱いするつもりは無い。」

「え、」

 

一瞬。何を言われたか分からなかった。

……なんて、冷たい声。

それはただの声でしかないのに、睨まれる痛みを感じる。

汗が出てくる。

私は何も、言い返すことが出来ない。

 

「何してるんだ!!早く逃げろよこの馬鹿!!」

 

打撃音と共に、誰かの叫び声が聞こえる。

考えなくても、それは私に向けられたものだと分かる。

見上げるともうすぐの所にその塊はいる。それでも私が無事なのは、他のエージェントさんが止めてくれてるからで。

 

……恐怖を。

考えてる暇なんて、感じてる暇なんてない!!

 

「……なり……ます、」

 

傍の葬儀さんの手を掴む。さっき走ってくれた彼なら、きっと上手く、私を運んでくれる。

 

「私が!囮になります!!みんな逃げて!!葬儀さん!私を抱えて、走って!!」

 

ごめんね、葬儀さん。でもどうか、助けて!

 

ふわっと浮く感覚。葬儀さんは私の言葉を聞き返すことなく抱えてくれた。

 

「ごめんね、私の言う通り走って欲しいの、……お願いっ!」

「わかりました。」

「まずは、壊れてるドアの反対側。……開いてくれたみたいだから、」

 

私がそう言うと、アイは悲鳴のように叫んだ。

 

「ユリ!!何言ってるのよ!!貴女は私がっ、」

 

でも私は、その綺麗な顔に付いている傷を黙って見ていることは出来ない。

 

「アイも逃げて!!……大丈夫だからっ!!蝶男さん、お願いっ!」

 

ドンッ、と、目の前に先程と同じ壁。そうして、開く音。

 

「人は死んだら、どこに行く?」

 

その台詞は。

 

「……否、どこにもいけないのだろう。だからここには、数えきれない蝶が眠っている。」

 

そして────、また、白い花弁のような何かが視界を埋め尽くす。

葬儀さんはそれを目潰しにつかって、扉に走っていく。

私は大きく、大きく声を上げる。見失われてはいけない。

 

「こっちだよ!!ついてきなさいっ!!」

 

重い足音がついてくる。

それはもちろん恐ろしくて。でも泣いてはいけない。

私は、この会社の一員で。

 

この未来を選んだのは。誰でもない私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い昔、人々は死後、小さな翼をもった美しい存在になれると信じていた。

 

愚かなことだ。本当に。

 

けれど、生きていればそうなれるのかと言われれば、決してそんなことはないのだから。

 

結局人は死に向かって歩むことしか出来ない。

 

翼があれば、ここを去ることができるのか?

死ねば翼を得ることができるのか?

 

答えはない。生きてるうちはそれは分からないことだから。

 

 

なら死ぬしかないのだろう。

 

 

葬儀屋は、自身なら全てを救えるなどと大きな夢を背負ってここに来た。

優しい、優しい哀悼者。

 

彼の背負う棺は、死者のゆりかごであった。

 

しかし、その夢は叶うことは無かった。

その優しさも、棺も。この会社にとっては不十分な、気休めにもならないものだったのである。

 

優しさは虚しさに塗り替えられた。

 

それでも彼が葬儀屋を名乗るのは、彼の中にまだ小さな希望が灯っているからかもしれない。

 

 

明けない夜は無いのだろう。

なら、この闇もいつか太陽が焼いてくれるはずなのだ。

 

 

棺の中には、蝶に姿を変えた魂が眠っている。

朝が来るのを、まっている。

 

 

小さな小さな白い蝶。

それは美しいのだろう。彼らが持っているのは、翼ではなく羽だけれど。

天を飛べることには違いないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葬儀さん……!このまま、真っ直ぐ!!」

 

足音は聞こえるが、追いつかれてはいない。

これならきっと、上手く行く。

葬儀さんのおかげで、頭を動かす程度には余裕が出てきた。

恐怖を拭うために、私は何度も同じことを考えていた。それは収容室に入った時のシュミレーションだ。

 

収容室にはいったら、すぐ逃げないといけない。

収容室にはいったら、すぐ扉のよこにに行って、突進してきたら私は出る!

 

それを何度も、何度も。

 

きっと、大丈夫。

……ただ、葬儀さんの足が心配だ。誘導するために階段をいくつも下らせてしまった。

 

「ごめんね!もうすぐ、もうすぐだから……!」

 

もう何度目の謝罪か、葬儀さんは何も言わない。もしかしたら喧しく思われてるかもしれない。

それがわかってるのに、どうしても謝ってしまう。……ごめんなさい……っ!

 

「ユリさん、」

「!なに!!」

 

返事が返ってきたのはそれが初めてだった。

私は勢いよく返事をする。

早く動く足とは裏腹に、葬儀さんはゆっくりと、一字一句はっきりと言葉を続けた。

 

「夜が明けたら、どうか、私を貴女の目で私を看取ってほしい。」

「へ、」

「いつからか私も、蝶になってしまった。

でも私は飛べないから。

貴女に看取られたい。貴女が涙を一滴でも零してくれた、私はきっと、とても幸せだから。」

 

葬儀さんはそう言って、また何も言わず走り続ける。

私はその言葉の意味を考えて、返事を探す。

考えて、考えて……。

 

「ごめん、どういう意味?」

 

……考えてもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




死んだ蝶の葬儀_蝶男を捕まえろ!





葬儀さんタイトル出しましたがまだこの事件は続きます(めちゃくちゃ中途半端だから当たり前)




【以下あつ森の話になるすみません】

Twitterの方にあつ/まれどうぶ/つの森の魔弾さんとアイちゃんのマイデザのせました。反応してくれた人ありがとう。本当に親切で優しくて大好きです。

Twitterやってないけどどうぶ/つの森やってて気になる!!って人が万が一いたら活動報告に乗せておくのでぜひ使ってください。

島で流行ると虫も殺せない皆がエージェントみたいになってくれます。きゃわわ。


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