【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
家帰って充電できたらコメント返します。申し訳ありません(´;ω;`)
女性の後ろをダニーさんと着いて歩く。
私に話しかけてきた声は今は聞こえない。先程の耳を痛める高音も。
「ユリさん、ひとつ伺ってもいいですか。」
「なんですか?」
「どうしてリナリア……前を歩く女性が私達に害を与えないと思ったのですか。それにメインルームへ行かなければいけないとは?どうしてわかったんですか。」
「……誰かに呼ばれたんです。」
「呼ばれた?」
私の隣でダニーさんは首を傾げる。予想はしていたけれど、呼ばれたのは私だけのようだ。
「なんか、脳に直接話しかけられたというか……。私をメインルームで待ってるって。その声に敵意がある感じもなかったので、多分大丈夫かなーって。」
「話しかけられた……。アブノーマリティからの交信……?」
「……あの、ダニーさんは今どういう状況かわかってるんですか?もしそうなら、教えてもらいたいんですけど。」
「……少し、待ってください。」
また、〝待て〟。いい加減、イライラしてくる。
さっきから私には聞いてくるのに、ダニーさんは何も言ってくれない。企業秘密というやつだろうけど、流石にここまで巻き込んでいて黙りなんて酷いだろう。
苛立っている私の隣でまたダニーさんは通信機で誰かと話している。つい、ため息が出た。
「ユリさん、その声ってどんな感じでしたか。」
「……わかりません。」
「では、何を言われたんですか。」
「メインルームへ来てってだけです。」
「他に何も言ってませんでしたか?例えば……音楽、とか、ステージ、とか。」
〝最高のステージをお約束しましょう〟
それは呼ぶ誰かに確かに言われた。
「……やっぱり、ダニーさんはわかってるんですね。誰が私を呼んでるのか。」
「え。」
「それなのに、何も教えてくれない。」
「ユリさん、それは。」
「脅すみたいに私を連れてきて、巻き込んでおいて。知ってるのに何も答えない。随分勝手ですね。」
「……申し訳、ありません。」
――――怒っているのですか?
「え、」
「ユリさん?」
―――――何かされたのですか。
――お可哀想に。
―――――その隣の人間ですか。
―――許さない。
「……殺す。」
そう声を出したのは、前を歩く女性だった。
「っ?!」
女性はこちらに振り返って、腰の警棒に手をかけた。今度ははっきりした殺意を持ってこちらに襲いかかってきた。
いや、こちらとは違う。ダニーさんにだ。女性はダニーさんを、殺そうとしている。
とっさの事でダニーさんの反応は遅れ、右腕で警棒を受ける。
ダニーさんの顔が痛みで歪む。目の前の暴力に、私の心臓は一気に冷えた。
女性がまた襲いかかってくる。今度はダニーさんも警棒で受ける。けれど負傷した腕はそこから伝わる衝撃すら辛いだろう。
「やめて!!!」
非力な私はただ無力に叫ぶ。そんなことで止まるわけないのに。と、思いきや女性の動きは本当に止まった。
そのすきを付いてダニーさんは女性を床に組み敷く。動けないようにがっちりホールドしていて痛そうなのに、女性は表情ひとつ変えない。
――どうして止めるのですか?
――――その男に怒っているのでしょう。
そう言葉が頭に流れてきて、ようやく理解する。
私が怒ったから、ダニーさんに対して怒りを持ったからダニーさんは殺されそうになったのだ。
頬を冷や汗が垂れる。私の感情で、ダニーさんは怪我をした。
私は口を開く。声の主に応えなければいけない。けれど何を言えばいいのだろう。どうすれば止めてくれるのだろう。
私の言葉一つで、この状況が動く。
「……暴力は、恐い、の。」
震える声でやっと紡いだ言葉はそんな頼りないものだった。
―――恐がらせてしまいましたか。
――申し訳ありません。
――――では、違う方法で。
「!ゆ、許したから!もう怒ってない!!」
返ってきた言葉に慌てて否定する。方法を変えれば、なんて捉え方をされてはまたダニーさんが危険になる。
声は暫く聞こえなくなる。私は返答を待った。沈黙は何か考えているようだった。
―――わかりました。
――貴女はお優しいのですね。
――――私もその人間を許しましょう。
「!あ、ありがとう……。」
――――さぁ、早くいらしてください。
――メインルームへ。
――――待っております。
満足したようなその声に、私はただ安堵の息をはくのであった。
そして、ただ廊下を歩く。
ダニーさんも、私も、呼んでいる誰かも何も言わない。
その廊下の先に、扉。鉄で出来た機械的な扉。
この先だ、と思った。この先にいる。
この先で、誰かが私を待ってる。
女性が扉横の電子盤にパスコードを入力する。ぴ、ぴ、と音がして、その近未来的な扉は上にスライドして開いた。
開いた先、私を待ってる誰かが、この目に映る。
フロア中心に、社員さんに囲まれるように立っているその姿は。
「マネ、キン……?」
もうちょっとだけ続くんじゃ。