【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※ダニーとリナリアしか出てきません。







That's all for today._19

ダニーの言葉にリナリアは目を見開く。

真っ直ぐな瞳。しかし揺れる波の眼差し。

強い意志を感じる、その願いを。

 

「……嫌だけど。」

 

リナリアは当たり前に断った。

何をそんな、嫌に決まっているだろうに。

何故自ら死に近づこうとするものか。

リナリアは半ば呆れながら、ダニーの手を振りほどこうとした。

 

「っ、」

 

しかしその腕の強いこと。

離れようとする手はギリッと掴まれて、痛みにリナリアは顔を歪める。

怒ろうと顔を上げるも、それは叶わない。

 

「……なんで、」

 

そんな、泣きそうな顔。

ダニーの表情は非常に珍しいものでリナリアは戸惑う。

思わずその顔に手を伸ばして、頬を撫でた。冷たい。冷えきっている。

 

「どうしたの……?ダニー、おかしいよ。そんなこと言うやつじゃ、ないじゃん。」

 

リナリアは不安に、ダニーを見つめた。

ダニーは元々一人でなんでも決めるタイプだ。いつだって結果誰かを巻き込んでいるだけで、人を引くことはあれど共に歩むことはない。

それなのに何故、一緒に来て欲しいなんで言うのだろうか。

 

「俺のためじゃない。ユリさんの為だ。」

「どういうこと……?」

 

その言葉にリナリアは首を傾げる。

ユリさんの為、とは。

彼女もまた、自分のために着いてきて欲しいなんて言うような人ではない。

それに加えて、仲が悪くないとは言えど、大親友と言われるほどの仲でもリナリアはなかった。

眉をひそめたリナリアにダニーは顔を悲しげに歪める。何度も口を開けては閉じ、言うのを躊躇っているようだった。

しかしリナリアの手を離すことはなく。むしろ腕の力は強まっている。

痛みは勿論増すが、リナリアは今度は離れようとしない。ただ、ダニーの言葉を待った。

 

「ユリさんの……監視役に、なって欲しいんだ。」

「……は?何それ?」

「そのままの意味だ。ユリさんを監視して欲しい。」

「……いやいや?ちょっと、理解できないんだけど?」

 

ダニーの言葉にリナリアは引きつった笑みを浮かべる。

監視とは。ジョークにしては趣味が悪い。

 

「言い方悪くない?目をかけてあげてって事だよね?」

「違う。……ユリさんの行動、言葉、情報を収集して管理人に提示する。」

「それは、教育係のダニーの仕事でしょ?新人の育成報告だよね?」

「……。」

「確かに監視って言える……かな?いや、でもそれは言い方悪いって。気分良くないよ。」

「……体調、昨日見たテレビ。」

「は?」

「彼女の過去。何時に寝たか。それによる気分の変化。」

「え、ちょ、ダニー?」

「……生理周期。」

「いい加減にして!?なんなの!?」

「それを報告するのが、監視役の仕事だ。」

「は……。」

 

ダニーの言うことにリナリアは言葉を失う。

よく頭が回らない。その代わりにぐるぐるとダニーの言葉が頭を巡る。

 

体調

昨日見たテレビ

過去

何時に寝たか

気分の変化

……生理周期?

 

「仕事に関係ないじゃん。」

「……。」

「プライベート、だよ。それ。」

「……わかってる。」

「本当に?」

「……。」

「あんた、本当にそれ私にやれって言ってんの!?」

 

リナリアの怒りは一気に頂点に上り詰める。

掴まれてる腕を思い切り引いてやった。すると自然に前に来るその身体の、襟足を掴んでやる。

引っ張られてダニーの喉はしまった。ぐっ、と変な声がでる。

リナリアは強くダニーを睨んだ。その瞳は怒りに燃えている。

 

「最低なこと言ってる自覚ある?」

「……。」

「何か言ってよ!!」

「俺だって好きで頼んでるわけじゃねぇよ!!」

 

ダニーは怒鳴った。

彼もまた、怒っているのだ。何かに。

 

「……このタイミングでの異動。」

 

「なんでか分かるか?ユリさんも俺も、担当するアブノーマリティは中層にいるんだぞ?なんでわざわざ異動させる?」

「それは、ユリさんの力を下層に使いたいんじゃ、」

「そんなの下層に行く指示を出せば良いだけだ。現にレティシアは下層アブノーマリティでもユリさんは作業してる。」

「それはそうだけど……。じゃあなんで?」

 

「……まず、入社二日目からユリさんが中層に配属された理由を知ってるか。」

 

「え?静かなオーケストラが理由が中層にいるからでしょ?」

「なわけねぇだろ。なら最初からそうなってる。初日ではなく、入社二日目。ここが重要なんだよ。」

「……?」

 

「ユリさんを監視するためだ。監視役が中央本部チーム2にいるから。だからそうなった。」

 

「そんな。監視って。……?、え……??なんでそんなこと知って……。」

 

そこまで言った時。

嫌な予感がリナリアの頭をよぎる。

まさか、とダニーを見つめた。そう出ないことを願ってリナリアはダニーを見るのだけど。

 

「……俺がその、監視役だからだよ。」

 

その願いは、簡単に破られる。

 

「嘘、でしょ……?ねぇ……?」

「本当だ。」

「あんた、本当にそんな、最低なことずっとしてたの……?」

 

しかしそれなら全て納得が行く。

ユリがいきなり中央本部チームに配属されたこと。

教育係が急遽ダニーになったこと。

ダニーの口から、〝監視役〟なんて言葉が出てきたこと。全て、全て。

目眩がする。ショックがあまりにも大きい。

 

「今回の異動。ユリさんがなんで、福祉チームなんかに異動になったか。」

「……。」

「恐らくそこには、また複数の監視役が用意されてる。」

「は……?ダニーみたいなのが沢山いるってこと……?」

「いいや……恐らく今度は俺も、監視の対象だ。」

「え?何?どういうこと?」

「監視役はクビになった。もういいってな。まぁ信用はされてなかったし、やったことがやった事だから、当たり前だけどな。」

「何したのあんた……。」

「今度は、なにかしないように監視される側ってわけだ。」

「いや、本当に何したの!?」

「より、ユリさんに近い監視を。俺の代わりを管理人は作る。お前がやらなくても誰かが監視役をやる。」

「……それは。」

「なら俺は、お前にやって欲しい。俺も協力するから。」

 

もうダニーの言うことについていけなくて、リナリアはため息をついた。

言っていることは筋は通っていてもめちゃくちゃだ。

エージェントを使って、監視なんて。この研究所のやりそうなことではあるが。

 

「まるでユリさんを、アブノーマリティみたいに扱うんだね。」

 

呆れと怒りが含んだ声に、ダニーは何も言えない。

 

「ダニーはなんでユリさんの監視役になったの。」

「え。」

「ダニーだってそういうの嫌いでしょ。……元々あの時から、会社自体嫌いみたいだけど。」

「それは……。」

「目的があるんだよね?教えてよ。そうしたら私も、考えてはあげるよ。」

 

リナリアの言葉にダニーは目を逸らした。

腕の力も弱まって、リナリアは自身を捕まえてた腕を思い切り振り払った。

ただ捕まっているだけになってやるかと。リナリアはダニーを睨む。

 

「……人を、」

「?」

「人を、生き返らせる方法が、知りたいんだ。」

「…………は?」

 

しかしダニーの口から出てきた言葉はあまりにもメルヘンな、ファンタジーな。

リナリアは巫山戯ているのかと怒りそうになるも、あまりにもダニーの目は真剣で、嘘をついていなくて。

 

人を生き返らせる方法。

 

それは例えば、王子様のキスで呪いが解けるとか。

お姫様の涙で息を吹き返すとか。

はたまた魔女の秘薬で蘇生を図るとか。

そういう次元の、話だ。

 

「そんなこと出来ないよ。」

「出来る。この会社なら、出来るんだ。」

「ダニー、」

「本当だ!それをこの会社は、〝記憶貯蔵〟と呼んでいる。方法は分からないが、それさえ使えばきっと、」

「スグルは死んだんだよ。」

 

リナリアの言葉に、ダニーの動きはカチンと止まった。

 

「目を覚まして。……死んだ人は、生き返らない。残された私達は前に進まなきゃいけない。だから、」

「煩いっ!!」

 

ダニーは怒りを顕に、思い切りリナリアを突き飛ばした。

予想してなかった衝撃にリナリアは倒れ、ガタンとサイドテーブルにぶつかってしまう。

その際にお見舞いの果物が床に落ちた。幾つかは零れ、それはリナリアの身体にぶつかる。

 

「あいつを生き返らせる可能性が少しでもあるなら、俺はやる!!」

「だから、そんなの無理だって、」

「お前は今の管理人を見てないからそんなことが言えるんだ!!」

 

ダニーはただリナリアを怒っていた。

その表情にリナリアは怒りどころか、悲しくなってくる。

あまりにも哀れで。

できるだけ優しい言葉をリナリアは探した。それはダニーを慰めるためでもある。

 

「……仮に出来たとして、それを触れるのは危ないことだよ。禁忌とも言える。ダニーだって、危ない目に合うかもしれないんだよ!!」

 

これは、リナリアの本心だ。

万が一それが出来たとして。ダニーが無事である保証などない。

リナリアにとって、先に逝ってしまった人のことはもちろん悲しい事だった。

けれど残された人がいるのなら、リナリアは生きている命こそ大切にして欲しかった。

それに引きずられて、自ら命を落とす同僚を何人も見てきている。

それこそが一番無意味で悲しいことだとリナリアは感じている。

 

だって、何も残らない。

 

人がまた一人、いなくなるだけだ。

そうして今日も、チームには穴が空いて。

それをぼんやりと悲しみにくれる暇すら与えられずに眺めて。

いつか他の人で埋められる。

寂しさすらも他で埋められるその虚しさといったら。

 

「俺の命なんていいんだよ!!俺は、あいつが生きてくれるなら!!」

 

「……は?」

 

バチンッ!!っと、乾いた音が。

何か思う前にリナリアの身体は動いていた。

全身全霊の力を込めて、感情に、怒りに任せて。

リナリアはダニーの頬を叩いたのだった。

その衝撃は大きく、ダニーの上半身はよろめいた。

直ぐに立て直してリナリアを睨む。しかし、言おうとした罵声は出てこない。

 

「せっかく助けてやったのに、簡単に死ぬとか言うな馬鹿っ!!」

 

リナリアの、その表情と言ったら。

リナリアはそれだけ言って、病室を走って出た。

ダニーの声が聞こえる。呼び止めているのだろうか。止まってなんか、やらない。

 

 

 

 

 

ただただ走って、途中院内を走るなと注意されても止めることが出来なかった。

苦しくて仕方ない。心が痛くて。

息が上手く出来なくて、走るは辛かった。酸素が入ってこない。

 

ようやく会社外に出た時。

外の空気を吸って、目に映った赤く燃える太陽に。

どうしようもなく悲しくてリナリアは泣いた。

 

「馬鹿、馬鹿。」

 

ボロボロと涙が零れてくる。

ダニーが撃たれた時。必死に応急処置したのはリナリアだった。

その時の最善を目指して、あるだけの材料でただひたすらに生きてと願って。

 

「……本当に、馬鹿……。」

 

どうにか、生きれたのに。

 

 

 

 


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