【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
※人外×少女感がログアウトしてます。
もう少し、もう少しで人外×少女のターンになりますのでお付き合いお願いします……すみません……
時間は少しだけ戻る。
管理人室でXはモニターを睨んでいた。
集中しなければいけないとわかっているが、どこに集中すればいいのかわからない。
画面のどこを見ても、大変な事が起こっている。
「X、落ち着いてください。いつも通り管理人の仕事をすればいいだけです。」
「わかってる!わかってるよ!!」
「私にはとり乱してるように見えます。あなたはこういうの得意だったじゃあないですか。」
「はぁ!?」
「ほら、わざと収容違反を起こさせて、様々な検証もされていたでしょう?あの時と同じです。」
アンジェラが言っているのは、ゲーム〝legacy〟のプレイ時の記録のことだ。
ゲームプレイ時の行動、指示のデータはインプットされているはず。
勿論今の状況と全く同じとは言わなくとも、複数のアブノーマリティ収容違反なんて何度もゲームで経験済のはずだ。
それを思い出して欲しくてアンジェラは言葉を並べる。あの時と同じだ、その時のようにすれば。
そんなアンジェラにXは苛立って怒鳴った。
「この世界は!!ゲームとは違うんだぞ!!」
その言葉にアンジェラは目を見開く。
Xの人格は確かにゲームをプレイをした人間のデータが元にはなっている。
しかしそのデータをXには入れていない。
──その事実を知っているのは。
Xの声にはハッキリとした嫌悪が含まれていたし、瞳には確かな激怒を感じた。
これではまるで別人のような。
アンジェラはため息をつく。このXも、そろそろ交換の時期かと。
しかしそれにしても今の状況をどうにかしてもらわないといけない。
モニターを見つめる。エネルギーは確かに溜まっているが、まだ少しだけ業務終了には足りないのだ。
当たり前だ。作業出来るエージェントが少ない上、何も無いと魔弾の射手らで道が塞がれ移動効率がとてつもなく悪いのだから。
エージェントの犠牲を気にせずに指示を出せば直ぐにでも溜まりそうなものを。
処理が面倒くさい上、人を集めるのも大変なのだ。
Xを見る。頭を掻いたせいで髪はボサボサで見苦しい。
もはやこちらもパニックになっている。こんなでは正常な指示は送れないだろう。
代わりにアンジェラが指示を出すか?しかし彼女は所詮はAIだ。それも効率よくエネルギーを溜めるために作られたAI。
効率を意識すれば、人の被害は増えるだろう。やはりどうしても生身の人間が必要だ。
「俺がやるよ。」
「……!」
「誰だ!?」
管理人室入口から声が聞こえた。
突然のことにXは勢いよくそちらを振り返る。そこには見たことの無い男が立っていた。
「A、起きていて大丈夫ですか? 」
「あぁ。今はだいぶ楽だ。」
しかしアンジェラは彼を知っている。
「君、席を譲ってくれるか。指示は俺が送る。」
「だから!誰だお前は!!」
「……プログラム〝player〟強制停止。」
「っ……!?」
アンジェラがそう呟くと、Xは意識が遠のくのを感じた。
そうしてその場に倒れ込む。受け身の取れなかったせいで、随分痛そうな音がした。
しかしアンジェラは気にする様子もなく男を見つめる。
「A、お願いします。」
淡々と告げるアンジェラにAと呼ばれた男は苦笑いする。
「相変わらずだな。」
「何がですか?この席は元々あなたのものです。さぁ。」
アンジェラに促されるままAはモニターに近づく。
倒れ込むXを起こそうと手を伸ばしたが、アンジェラはそれに怪訝な表情をする。
「そんなの構ってないで、早く指示をお願いします。」
「そんなのって。」
「それはあくまであなたの代わりです。ただの道具。この会社の本当のトップはあなたなのですから。」
アンジェラの言葉にAは些か嫌なものを感じたが、モニターから聞こえた破壊音に慌ててそちらを見た。
Aは倒れるXが心配ではあるものの、結局手を伸ばすことはなくモニターに向かった。
「……何も無い、か。プランはBだな。後は大鳥。とりあえず魅了を避けたい……。近くのエージェント達は他アブノーマリティ収容室に避難させる。アンジェラ、避けた方がいいエージェントとアブノーマリティの組み合わせはあるか。」
「いえ、この付近だと指示さえ間違わなければどこにいかせても大丈夫かと。」
「了解。」
モニターに映るエージェント達がそれぞれ動き出す。
一つ一つ見逃さないように気をつけながらも、特にAは何も無いの鎮圧作業に向かう者たちを見ていた。
「……頼むぞ。」
その声は願いに近い。
最初に何も無いへ向かうエージェント二人が、ついに現場に到着した。
そうして、話は繋がる。
エレベーターの扉を開くと、地下四階通路なのだが。
不自然な程に静かだった。ユージーンとノックスは注意深く外に出る。
二人は持ってきた道具のうち、一つに手を伸ばした。
ゆっくりと通路を進んでいく。できるだけ足音はたてないようにするが、こうも静かだとそれすら耳に入る。
「……!」
それはいた。
四つん這いの後ろ姿。しかし後ろ足は一本しかなく、形も赤いブヨブヨとした、例えるなら人の腸のような見た目。
基本移動を続けるそれが止まっているのは、攻撃の時だけである。それを証明するように、床には血溜まりが出来ていた。
なんの音もなかったあたり、悲鳴すらあげられずに死んだのだろう。
ユージーンは息を呑む。
「行くぞ!!」
そして、ノックスは叫んだ。
高らかに大きな、目立つ声で。
何も無いが、振り返る。
ノックスのそれがユージーンには有難かった。勢いでやらなければ、怖気付いてしまいそうだったから。
声に気がついた何も無いが振り返る。その巨大な身体を器用に反転させて。
こちらに走り出す前に、二人はその道具を投げつける。
何も無いはそれを見ると、床に落ちたそれに飛びかかった。
それとは、人の腕足である。
麻袋から取り出したそれ。何も無いは頭の手を伸ばして投げられたそれをキャッチした。
口にそれは放り込まれる。
胃も腸も、食道すらない体内にそれが入っても、箱にしまったのと同じようなものだ。栄養にも老廃物にも毒にもならない。
いや、ある意味は毒なのだろうか。
ユージーンとノックスは口端をあげた。計画通りだ。
何も無いは気が付かない。気付いていたとしても気にしないのだろう。
その腕足に、爆弾が括り付けられているなんて。
強い光と
爆発音が。
ゴォッ、と二人の身体に風があたる。
思わず目をつぶりたくなるのを堪えて、腕で顔をガードした。
目を逸らすな。それは決して死んではいない。
二人はありったけ用意した、腕足を何も無いに投げつける。
手榴弾のピンを外す時間があるため、爆発は少しずつのずれがありながらも一つ一つ破裂していく。
全てが何も無いの身体に入った訳では無いだろう。
しかしこれは今しか出来ない。何も無いが二人にターゲットを定めたら、終わりだからだ。
全て投げ終えたところで二人は機関銃を構える。その間にも爆発音は続く。
ドォッ。ドォッ。ゴォッ。音すらも二人の耳に刺さる。まるで花火のようだ。そんな美しいものではもちろんないが。
ユージーンとノックスは歯を食いしばる。足の甲にできる限りの力を入れる。
目の前の景色は白い。爆発によって煙がたっているせいだ。人工的な霧は二人の視界を潰す。
気配を探る必要がある。
少しの音も見逃さず、影のひとつすら動きをよんで。でも決して惑わされずに焦らずに。
手元が狂うなんてことないように。
心臓が恐怖に騒ぐ。手は震えそうになる。少し息をすると肺に煙が入って苦しい。
けれどそんなこと、知ったことない。
霧が、晴れてきた。
薄らと姿が見え始める。何も無いの身体は確かに損傷している。所々身体だったパーツが剥がれて、赤くぐちゃぐちゃとした何かが空気に晒されている。
それなのに、それは立っている。
表情ひとつ変えずに、舌をだらしなく垂らして。
ユージーンと、ノックスを見たのだ。
アンケートありがとうございました!すごい僅差でアイちゃんになりました。やはり人気ですね……!