【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
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どうして上手くいかないのだろう。
どうして。
また外れた銃弾に舌打ちをする。エド先生は「目を閉じなくなった」と笑ってくれたが、流石にそれで喜んではいけないと私はわかっている。
すぐに上手くなるものでもないのはわかっているけれど、こんなに時間をとってもらってるのにここまで進歩がないのはどうしてだろう。
焦る気持ちを抑えきれないまま撃った弾は、さらに大きく的からズレた。あぁ、もう。
「ユリさん、少し休憩しましょう。」
「いえ、もう少しやります。」
私はもういちど構え直して、的へ銃を向ける。
先程は上にずれたから、今度はもう少し下を狙おう。しかしそうすると次は下になりすぎる。そうして次は上に───、さっきからそれの繰り返しだ。
「うーん、でもずっと撃ちっぱなしですし。集中力も切れているようです。お客さんもいらっしゃることですし、一度手を止めましょう。」
「お客さん?……あっ!アネッサさん!!」
エド先生の言葉に振り返ると、そこには見知った顔が。
優しく笑う女性が私の視線に気が付いて手を振ってくれた。アネッサさんだ!
久々に見た顔に私は嬉しくなって駆け寄った。アネッサさんとエド先生は可笑しそうに笑うものだから、少し恥ずかしくなってしまう。
エド先生はお茶を淹れてくれると部屋を出ていった。
「アネッサさん、お久しぶりです。すみませんすぐ気が付かなくて。」
「いいのよ。頑張っている証拠だわ。」
アネッサさんの言葉に私は肩をすくめた。頑張ってはいるのだろうけど、全然進展がない。むしろ頑張っている分その結果はどうなんだろうと思ってしまう。
マイナスな言葉はいくらでも出てきたが、なんとか飲み込んで笑った。
「そういえばヘルパー君、すごい大人しくなったみたいですね。」
「……えぇ、そうね。最近じゃあ研究所の清掃もしてくれてるみたいで、とても助かってるわ。」
あれ。と思う。
話題を探して振った話なのだが、アネッサさんはなんだか嬉しそうではなかった。
リトルヘルパーは、あの後別物のように変わったのだ。
時折逃げ出してはエージェントを襲っていたリトルヘルパーだが、解体作業後、とても大人しくいい子になっている。
もちろんたまに収容違反することもあるが、人を襲うことはなくただひたすらに廊下を清掃してくれるというお掃除ロボットとなった。
壁や床の血のシミが、最近綺麗になったのはそのおかげだ。
Xさんはより、解体作業中に何があったか気になって頭を抱えてるらしいが。私達は何も覚えていないのだから仕方ない。
「ねぇ。ユリさん。」
「はい、なんですか?」
「その……。」
アネッサさんは何か言いたそうに、苦しそうにしている。
その理由がわからなくて。でもそんな顔は見たくなくて、私はできるだけ優しく笑顔を作った。
「なんですか?なんでも言ってください。私が力になれることなら、やりますよ?」
「……っ。」
「アネッサさんは優しいから、遠慮されるかもしれませんが……。ほら、ダニーさんとかユージーンさんとか見てくださいよ!私の事大いに利用してるじゃあないですか!」
「それは……。」
「でもそうすることで、少しでも研究所が安全になるなら私は嬉しいんですよ。アネッサさんにはたくさん良くして貰ってるので、お返しが出来たら嬉しいです。何か、悩みがあるなら聞きますし!」
私がそう言うと、アネッサさんは大きく目を見開いて、そうしてより苦しそうに表情を歪めた。
ダニーさんとかユージーンさんのこと、オーバーに言いすぎただろうか。別に本当に利用されてるなんて思ってないし、仮にされていたとしても仕事なのだから気にしていない。
慌てて訂正すると、アネッサさんが勢いよく私の肩を掴んだ。私は驚いて固まってしまう。
「ユリさん!!」
「はっ、はい!」
「……っ、ごめんなさい……。本当に……。」
「え?え?何がですか??」
「これを……。せめて。持ってて。」
押し付けられるように渡されたのは、個別に包装された錠剤だった。
「これ、なんですか?」
「……精神安定剤。前に渡したのより、かなり強いから飲む時は気をつけて。」
「えっ、私、今は別に大丈夫ですよ?心も身体も元気です。」
「お願い。持ってて。なにかどうしても辛くて仕方ない時に使って。その時は絶対に、絶対に話して。貴女は一人じゃない。絶対に一人になんかさせない。」
「アネッサさん……?」
「私は、酷い先輩だわ。貴女の優しさに甘える。貴女は私を嫌うかもしれない。でも最後まで護らせて。お願い。」
「アネッサさん!本当に、何があったんですか!?教えてください!」
「……。貴女は、私を、許さなくていいの。」
アネッサさんはそれだけ言うと、立ち上がって部屋を出ていく。
追いかけようとしたが、ちょうどすれ違ってエド先生が戻ってきた。
エド先生がアネッサさんを呼びとめるけれど、アネッサさんは会釈をするだけで足を止めることは無かった。
どうしたの?とエド先生が心配してくれるのがわかる。
どうしたかなんて、私が聞きたい。
手の中に残った錠剤。二列のシートになっているそれは、一番上の右端一つだけ、空になっていた。
もやもやとした気持ちで、私は午後のアブノーマリティへの作業へ移ることとなった。
出来ればオーケストラさんに会って相談したかったのだが、最近は練習と魔弾の射手への作業ばかりで会えていない。
しばらく忙しくて会えない事はオーケストラさんに伝えてある。
オーケストラさんは優しい声で〝待ってます〟と言ってくれた。〝寂しいですけど〟とも。そんなの、私だって寂しい。
「今日もまた素敵なしかめっ面だな?ベイビーちゃん?」
「そちらこそ相変わらずの漆黒で何よりです。まるで黒炭のようで。焼いたら灰になってくれますかねぇ?」
なんでオーケストラさんと会えなくてこんな奴の作業しなきゃいけないのか。
しかも今日は一つ、特別な作業を命じられてる。その内容というのが憂鬱で仕方ない。
しかし仕事だ。大きくため息をついて、魔弾の射手に口を開いた。
「あー、魔弾の射手さん今日も素敵です。大好きですよー。好き好き大好き愛してますー。」
心にもない言葉を並べる。Xさんに命じられたのは、魔弾の射手への〝愛情表現〟だった。
なんだか最近特別作業が多すぎる気がする。私がやるのって、〝栄養〟と〝清掃〟と〝交信〟だけのはずなのだけど。
これがオーケストラさんかアイか罰鳥さんなら良かったのだけど。なんだってこんなやつに告白しなければいけないのか。
どうせまたからかわれるのがオチだろうと思っていたのだが、何故か反応がかえってこない。
不思議に思って首を傾げる。
「……えっと、どうしたの?」
「……。」
「私、何かしました?」
「今の言葉は、本心か?」
「え?」
「愛の言葉なんて聞いたのは久方ぶりだ。で?それは本心かと聞いてる。」
「っ……!?」
かちゃん、と音がして。
魔弾の射手の銃が、私の胸に突きつけられた。
「えっ、えっ、ちょっと!?」
「答えろ。質問しているのだから。〝それは〟〝 本心か〟?」
「やっ、やだ!やめて!謝るからっ!ねぇっ!」
逃げようとするのに、身体が言うことを聞かない。
強く胸に押し付けられた銃口に冷や汗が一気に流れる。
目の前の彼が、アブノーマリティであるという事実が私の恐怖を倍増させる。怖くて怖くて、涙が込み上げてくる。
「そうだ一つ言っておこう。俺は嘘をつくのは好きだが、つかれるのは嫌いだ。」
「やだっ、やだっ!!ねぇっ!お願いやめて!!」
「答えろ。さぁ。」
「ごめんなさいごめんなさい!!嫌い!嫌いです!!嘘ついてごめんなさい!!大っ嫌いです!!死ねばいいって思ってます!!ごめんなさい!!」
そうして、研究所に一発の銃声が響いた。
「死ねばいいって思ってます」おいユリちゃん本音ですぎですよ
前書きにも書きましたが頂きましたイラストとお礼小説の同時投稿となっています。
お礼小説を結構ちゃんと書くことにしたため今回初の4作品同時執筆でした。不安しかなかったのにかなり書きやすくて、今後こういう形式をとるのもいいなと検討中。
今回もお付き合いありがとうございました。