【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
※作者はゲーム未プレイです。愛はあるけどパソコンがない。そんなやつの作品読めるか!って場合はリターンをお願いします。
異国の鳥は人の目を抉った_1
蝉が鳴いている。
私はそれをぼんやりと、どこか遠くに思いながら。
公園のベンチ、青々とした芝生が小さな足で踏まれていくのをただ見ていた。
私は日本人である。そして今日からここ、アメリカに住む。別に住みたくて住む訳では無い。
そもそも日本という国は好きだったし、実際私はずっと日本に住むのだと信じていた。
というよりもそれ以外考えてなどいなかった。
だからだろうか、今の状況に現実味を感じない。
通り過ぎる人々の耳慣れない英語も、お店の看板の英字も、移動販売車の定員が手渡してる蛍光ピンクのアイスクリームもなんだかテレビを見ているようだ。
けれどスーツケースの重さも、飛行機に座りっぱなしだった腰の痛みも全部本物で。なんだか疲れてしまった私は公園のベンチで休憩することにした。
夏の真昼の公園には子どものはしゃぎ声が飛び交っていて、広場で走っているその金髪が太陽の光に反射してキラキラ。
あぁ、本当にここはアメリカであって、日本ではないのだと。
暑さは私を遠慮なく刺すから、アイスコーヒーを飲む。
これはアイスクリームの移動販売車のサイドメニューとして売っていた。
ツルツルした容器は汗をかいている。その結露が、私の手を濡らしていく。
美味しいけれど、いつものと味が違うような気がした。大きさも一番小さいやつにした筈なのに、私の知っているショートサイズよりずっと大きかった。
コーヒーすら私の知らないもののように感じて、まるで異世界で。一気に不安がこみ上げてくる。
こんな何も知らない土地で、私は本当にやっていけるのだろうか?
仕事だってこれから探すのに。こんな、アイスコーヒーにすら戸惑って。
不安と一緒に不満がこみ上げてくる。手が震える。冷や汗が出てくる。
でもここには、もう慰めてくれる人も話を聞いてくれる人もいないのだ。
────どうしてこんなことに。
私は日本から離れる気なんて無かった。
最初に言った通り、人生計画に海外移住なんて言葉はこれっぽっちとなかった。
それでもやむを得ずそうするしかなかったのだ。
なんでも私は日本にいると〝死ぬ〟らしいから。
私の家系は古くから伝わる陰陽師の血筋。その血をしっかり受け継いでいるのだが。
さぁここからはじまるライトノベル、又は青年誌のような壮絶なる人ならざるものとの戦い──、と思いきや。
私にはその陰陽師の力というものが全く、本当に全くなかった。
邪気を祓うこともできないし、浄化もできない。
それどころか幽霊とか妖怪とかなんの姿も見えないし、声も聞こえないし、気配も感じない。
陰陽師の血筋があってここまで能力のない人間は珍しいと蔑まれるどころか感心されたくらいだ。
それだけなら普通の人間の女の子で済んだのだが、それだけでは済まなかったのである。
それはある日の家族会議で母に言われた。
『百合ちゃん、よく聞いて。あのね、百合ちゃんはすごく悪いものに取り憑かれる体質なの。
今までは私や、お父さんで祓ってきたのだけど……。百合ちゃん今すごく大変なものに目をつけられていて、私達では手に負えないの。このままだと取り憑かれて殺されてしまうわ。直ぐにでもここから離れなさい。』
私はなんの力も持ってなかったくせに、悪いものにとても嫌われるらしい。
もう住むところもチケットも用意してあるから。あとは私が荷造りするだけだと言われて、私の海外移住は決められたものだったのだと悟った。
今考えてみると幼い頃から英会話を習わされていたのもそのためだったのかもしれない。
そう考えると両親はずっと前からこうなることを予想していたのだろう。
流石に真剣な顔で死ぬと両親に言われて恐怖しないほど私の肝は据わっていなかった。
必要最低限の荷物をまとめ、その次の週には日本を発つことになったのであった。
そして、今に至る。
大きくため息をつく。これからどうしようかな。
とりあえずこの土地に慣れたら直ぐ勤め先を探さなければいけない。
両親がまとまったお金を持たせてくれたとはいえ、ずっとそれに甘えるわけにもいかないのだから。
冷静に頭はそう考えけれど、感情は追いつかない。
家族も友達もいない一人という事実、慣れない土地、私に目をつけてきたという両親すら恐れた〝悪いもの〟の存在。
今という現状が不安で覆い尽くされる。
泣きそうになる。けど泣いたって、どうにもならない。
「……?」
こつん、と足首に何かの感触。
下を見ると足元にまんまるの毛玉があった。いや、毛玉じゃない。
鳥である。
その鳥はつぶらな瞳で私を見上げてくる。え、え、何この鳥かわいい。
驚きに固まっているとスリスリと足首に顔を擦り付けてくる。可愛すぎる。
その愛くるしさに耐えきれず、思わず手を伸ばした。
どうか逃げないでと願いながら手のひらをその鳥の横に広げる。するとその手に気が付いた鳥はちょん、と乗ってきた。
かっ、かわいい!!
驚かせないようにゆっくりと持ち上げる。顔目の前に手のひらを持ってきて、観察する。白くてもふもふしてる、まんまるい小鳥。
持っている手とは反対の人差し指で、その小さな頭を優しく撫でた。
つぶらな瞳がきゅっと閉じて、鳥はされるがままになっている。逃げる素振りもなくなんだか気持ちよさそうだった。
なんでこんなに人に慣れているのだろう。いや、なれているレベルではないように思えるけど。
誰かのペットが逃げ出してしまったのだろうか。野生にしてはその羽毛はとても綺麗で真っ白だし。
なんという種類なのだろう?お腹に歪な赤い丸模様がある。
見たことないし、かなり珍しい種類なのかもしれない。
「!いたぞ!まずい!人に近づいてる!」
「っ!あの!そこの人!今すぐその鳥をこちらに!」
鳥を撫でていると、スーツ姿の男女二人組が私の方に走ってきた。
〝その鳥〟とはもしかしなくても手のひらの可愛いこの子のことだろう。
つまりは飼い主さんが迎えにきたのだ。
「残念……お別れだね。」
そう声をかけると鳥はつむっていた目を開けた。
じっとその瞳が私を見つめる。
わからないだろうとわかってても「ありがとう、少し元気でたよ。」とその子にお礼を告げた。
駆けてきたスーツの二人は息を荒らげている。
きっとこの鳥をずっと探していたのだろう。その顔は汗で濡れていた。
「お姉さん!お怪我はありませんか!その鳥に何もされてませんか!」
「?怪我なんてありませんよ。すごくいい子ですね、この鳥。」
「えっ……いい子……?……まぁ、何も無いなら良かったです。その鳥を早くこちらに。」
女性が小さな鳥かごを私の方に向ける。
その籠の入り口に、鳥の乗る手のひらを近づけた。が、入ろうとしてくれない。
「ほら、帰らなきゃダメよ。」
仕方ないので、もう片手でその小さな身体を軽く押した。
「さようなら、小鳥さん。」
そう言うと鳥は私の手を離れ──、籠をもつ女性の顔に飛んでいった。
「やぁぁぁあっっ!!!」
「……え、?」
「ジェシー!!!」
がしゃん、と鳥籠が地面に落ちる。
目の前の女性が顔を手で覆って蹲る。その手からは赤がこぼれている。
何が、起こった?
別れを告げると鳥は飛んでいった。籠の中ではなく女性の方に。
そして女性の顔に近づき、その小さなくちばしで女性をつついたのである。そう、女性の右眼を、的確に。
「え……え……?」
「おい!ジェシーしっかりしろ!っ!罰鳥!近づくな!!」
蹲る女性に鳥はまた近づく。
男性はそれをはらいのけようとするも、鳥は器用にかわし、今度は女性の頭をつついた。何度も、何度も。
「痛い!痛い!やめて!!」
女性の悲鳴が上がる。
呆然としていた私ははっと我にかえり、慌ててその鳥を女性から退けようと手を伸ばした。
「だ、だめ!やめて!!」
男性のときと同じように、その手を鳥は器用にかわす。
が、男性のときと違い、なんとその鳥ははらいのけようとした私の手の甲にとまった。
「えっ……。」
そして鳥はつつくでもなく逃げるでもなく、私の手の甲に静かに乗っている。
突然大人しくなった鳥に驚いたのは私だけではなく、男性もであった。
「な、なんで……。」
「……。」
「あ……えっと。」
私はどうしたらいいかわからず、男性に助けを求めるよう視線を送る。
すると男性は地面に転がった鳥籠を持ち上げた。
「罰鳥、籠に入れ。」
男性は鳥を睨むも、鳥は微動だにしない。
「……この女性にも施設に来てもらう。別れじゃない。とりあえず入ってくれ。」
「えっ?!」
男性の言葉に驚いてしまう。
反応したのは私だけではなく鳥もだった。私をじっと見つめている。私の答えを待っているようだった。
私は男性の言葉に答えられずにいた。
というより言っている意味がよく分からなかった。
施設って何?保健所?え、私も行くって?知らない人にはついて行っちゃいけなくて?
というよりこの鳥何?え?今どういう状況?
何も言えないでいる私に我慢出来なくなったのか、男性は少し苛立ったように口を開いた。
「申し訳ありませんが、付いてきていただけませんか。その鳥貴女から離れてくれないようですし。それともその鳥持って帰りますか?私の同僚の目を抉るような鳥、持って帰りたいですか?」
「……わ、わかりました……。」
そう言われて、はい以外に何が言えようか。
もはや聞こえないくらい小さくなってしまった私の了承の声。
鳥は何故か言葉を理解したように、鳥籠に自ら入っていった。
この時点で、もう逃げてしまえ、そんな考えが過ぎった。
しかし足が回れ右するその前に、男性は私に声をかける。
「このスーツケース、貴女のですね?お運びしますね。代わりに鳥籠、お願いします。」
にっこり笑う男性の右手には、私のスーツケースが。
顔から血の気が引いた。その笑顔が悪魔に見える。
男性は私のスーツケースを左手に、怪我をした女性に肩を貸しながら前を歩いていった。
それを呆然と見つめる私。
押し付けられた鳥籠で、鳥は心地よさそうに目をつぶっている。
むしゃくしゃしてやった。楽しかったです。
こんな話誰か書いてくれって言っても書いてくれる人がいないので自分で書きました。自己満足です。
もし何かあったら言ってください。変な箇所あったら指摘お願いします。未熟者ですいません…、