【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
情報チーム。
〝アブノーマリティの対処法を研究して、対応を考える〟チーム。
……と、聞いてはいるけれど具体的にどんな仕事をしているのかは知らない。
私の知識は大体が教育係をしてくれているダニーさんからの物だ。なのでダニーさんからの言葉でしか知らないのである。
チームにはそれぞれの役割があると聞いているが、実は私は自分の所属している中央本部チームがどんな仕事をするものなのかもよくわかっていない。
それには理由がある。私が〝エージェント〟だから。
チーム内にもそれぞれ役割があるのだ。
アブノーマリティへの作業をする〝エージェント〟。
そのチームに割り振られた仕事をする〝オフィサー〟。
恐らくイェソドさんはオフィサーなのだろう。
イェソドさんはレティシアから受け取ったプレゼントについて次々と質問をしてくる。
それをできるだけ正確に伝えようとするのだが、文の組み立てが上手くいかなくて話が進んでは戻ってを繰り返してしまう。
けれどイェソドさんはその度に的確に質問をしてくれるので、話はとてもスムーズにすすんだ。
メモをしながらよくそんなに頭が回るものだと思う。彼は優秀なオフィサーなのだろう。
「レティシアは〝みんな私をおちびちゃんとよぶ〟そう言っていたのですね?」
「はい。」
「……皆。それは誰のことを指していたのかはわかりますか?」
「恐らくエージェントの皆だと思うんですけど……。」
「レティシアは最近収容されたアブノーマリティです。エージェントとの関わりは少ない。愛称をつけたみんな、とは言えないでしょう。」
「な、なるほど……。」
「次の作業の時、その確認もお願いします。」
「はい。わかりました。」
さすが情報チーム。
私が気にもとめなかったことを拾ってちゃんと考察する。
まるで探偵の推理を聞いているみたいだ。事情聴取されているような気分になってしまう。
「あと、先日死んだエージェントにレティシアは好意をいだいていたのには間違いないですか。」
「はい。レティシアは男性エージェントが来なくて寂しそうでした。」
「……〝お気に入りの人〟、ね。」
「え?」
「男性エージェントをそう言ったのでしょう?貴女のことは〝友達〟。男性エージェントのことは〝お気に入りの人〟。」
「それは言葉のあやなんじゃ……。」
「そうでしょうか?そうだとしても気になります。何かアブノーマリティの認識についての情報が得られるかもしれませんね……。」
イェソドさんは少し考えた仕草をした後、ちらっと私を見た。
「貴女と他のエージェント、アブノーマリティにとっては認識が違うのかもしれません。」
「認識……?どういうことですか?」
「簡単に言えば他のエージェントは〝人間〟。貴女は〝友達〟。特別な何かを貴女は持っているのかもしれない。」
「それは……、アブノーマリティによってはあるかもしれないけど、全てのアブノーマリティがそうであるとは言えません。」
「どうしてそう思うのですか?」
「私には、なんの力もないから。」
「……そう言い切る理由でも?」
私はそこでペストさんに言われたことを話した。
アブノーマリティであるペストさんすら、私から何かの力を感じることは出来なかったと。
無意識のうちにメンタリズムのようなことをしている可能性。
それらを伝えると、イェソドさんは興味を示したようでメモにペンを走らせる。
それは直ぐに一番下まで達してしまったようで、少し乱雑に、メモのページがめくられた。
「……あ。」
「?どうしました?他にも何か気がついたことが?」
「あ、いえ。なんでも。」
イェソドさんがメモをとる姿を見て、私はふと〝ペストさんとのことを言ってもよかったのか〟という疑問が浮かぶ。
会社には自分の家系の話を隠すように、ダニーさんに言われていたのを思い出す。
後悔しても後の祭り。これはきっと会社にバレてしまうだろう。
家のこと含めて、別に隠し事をするつもりはない。けれど信用するな、というダニーさんの言葉を気にしてないわけでもない。
やらかしてしまった。と内心焦る。何も考えずに話してしまった。
「……仕草、行動、話し方。……それらは性格と、感性、価値観……。」
イェソドさんはブツブツと何か独り言を言っている。
「エージェントユリ、少し質問をしてもいいですか。」
「なんですか?」
「……私の、髪の色。」
「え?」
「どう思います?」
「は?」
髪の色?
「え……っと?紫、ですよね?」
「はい。どう思いますか?」
「いや、めずらしいと思いますが。」
「それだけですか?」
「え、はい。」
「紫は、好きな色ではない?」
「いや、紫にも色々あるから……。その色によりますかね。」
「……なるほど。」
そう言ってイェソドさんは何かをメモした。
突拍子もない質問に、頭の中ははてなマークを浮かべる。
髪の色をどう思うかなんて、なぜ聞かれたのだろう。
褒めて欲しかったのだろうか。だとしたらイェソドさんはナルシストなのかもしれない。
※※※
その後、集めて欲しいと言われた情報の内容がまとまった紙を渡された。
それを受け取って、イェソドさんと別れたのだが。
私は内心ほっとしていた。イェソドさんにレティシアからのプレゼントを無事に渡せたことに安堵していた。
レティシアには申し訳ないけれど、やはり人の命に関わるかもしれないプレゼントは持っていて緊張する。
……でも、もしもただのプレゼントだったら。
罪悪感はあった。つい先程まで私に向けられていた笑顔。仲直りと言ったあの表情を思い出しては自己嫌悪する。
後悔はしていない。今まだ手元にプレゼントがあったとしても、私は変わらずイェソドさんに届けに行く。
イェソドさんにプレゼントを渡したことを知ればレティシアは傷付くだろう。
言うつもりはないし、バレないようにするつもりだ。けれどやはり、悪いことをしてしまった気持ちはある。
はぁ、と自然にため息がでた。
もしもただのプレゼントなら、返して貰えると嬉しいのだけれどそれは叶うだろうか。
そう考えていると、私の元に一件の通知。
タブレットを確認して、表示されている文章に私は気分が晴れていくのを感じた。
それはお昼の通知。ペストさんとハンバーガーを食べる時間がやってきたのだ。
ハンバーガーを取りに行くため休憩室に向かおうと、歩き出した時。
コトン
「……?」
何か音がした。
落し物でもしてしまっただろうか。辺りを見渡すもそれらしいものはなく、きっと気の所為だったのだろう。
情報チームのイェソドは先程エージェントユリから得られた情報をまとめていた。
初対面ではあったが、イェソドはユリのことを知っていた。というのも彼女はこの会社ではかなりの有名人だから。
「アブノーマリティから好かれるエージェント、か……。」
特別だと聞いていた彼女は、至って普通のエージェントのようであった。
特質した様子もない、ただの人間。
その中でされた〝アブノーマリティを好意を持つよう無意識にしているメンタリズム〟という話は非常に興味深く、重要性を感じる。
つまりそれは、同じ条件さえ揃えばアブノーマリティからの好意を持たれる可能性があるのだ。
エージェント達を彼女に近づける為に何をすればいいのか。その具体案を出すにはまだ情報が少なすぎる。
情報を集めるには、接点が必要だ。イェソドは頭を悩ませた。
彼には多くの仕事がある。時間を割くのは難しい。
いや、それは上に頼んで作ってもらうことは出来るだろう。それ以上に問題があった。
仕事としてユリと関わり、彼女の情報を集めたとしても。それは〝 仕事中のエージェントであるユリ〟の情報なのである。
イェソドが欲しい情報はそんなものではない。もっと自然な、それこそユリ自身気が付いていないような仕草、言動の情報が欲しいのだ。
それさえ得られれば、あとは他のエージェントでの実践。時間をかけて同じ癖を付けさせて、アブノーマリティに作業をさせればいい。
その為にはどうユリと関わればいい?イェソドが悩んでいるのはそこである。
「イェソド様?」
声をかけられて、イェソドは思考を止めた。
呼ばれた方を向けば、そこには心配そうにイェソドを見る女性の姿。
彼女は最近研究所で働くようになった、リリーというエージェントであった。
「どうしたんですか、何かお悩みですか?」
真っ直ぐとイェソドを見るその瞳はとても綺麗なものであった。
きっと自身をただ純粋に心配しているのだろう。リリーは素直な人であった。素直で、純粋で、無垢で、そして世間知らずな人。
その瞳がどこかユリと似ているようにイェソドは思う。
ユリとリリーの姿を重ねて、そして直ぐに全く似ていないと首を振る。
そう、似ていない。こんなのでは全然ダメなのだ。
「リリー、私の髪の色を貴女はどう思いますか?」
「え?髪の色?」
突然の質問にリリーは首を傾げる。
しかし直ぐに笑顔になって、イェソドにこう伝えた。
「とても綺麗です。紫って素敵な色ですよね。」
その答えにイェソドはまた考え事をする。
仕草や言動は、元々の性格や感性も大きく影響してくるだろう。
「リリー、紫にも種類があります。貴方が嫌いな紫もあるかもしれない。」
色の好みがどこまでそれに影響するかはわからない。しかし今イェソドが手にしているユリの情報で確かなのはそれだけだ。
ならば、とイェソドは考える。出来ることから試す。情報とはそういうことを繰り返し、得られるものもあるのだから。
「紫の、種類?」
「はい。今度色の本を読むといい。いや、良ければプレゼントしましょう。」
人の良さそうな笑顔を作ると、リリーはなんの疑いもせずに喜ぶ。
その姿を横目に、イェソドはユリから渡されたプレゼントの方に視線を戻した。
「……は?」
しかし目に映った光景に、イェソドは驚くことになる。
ハンバーガーの入った紙袋を腕にかかえて、ユリは廊下を移動していた。
電子レンジで少し温めたそれは匂いを発して食欲をそそる。
空腹もあって自然と早足になっていた。初めて食べるというペストさんが、ハンバーガーを目の前にした時の反応をいくつも想像すると、ついついにやけてしまう。
と、そこで耳のインカムが受信音をたてた。
「もしもし?」
『エージェントユリ!聞こえますか!?』
「え、イェソドさん?イェソドさんですよね?」
聞こえてきた声が予想外で、驚いてしまう。
普段インカムが受け取る声はXさんのものだけだ。以前アンジェラさんやダニーさんから指示をもらうこともあったけれど、あれは特例だと聞いている。
その声は先程まで話をしていたイェソドさんのものによく似ていた。加えて私の呼び方。イェソドさんで間違いないだろう。
コトン
「?」
と、また音がした。
先程と同じ軽い音。
コトン、コトン
『エージェントユリ。いいですか、落ち着いて聞いてください。』
「あ、ちょっと待ってください……。なんか、音が。」
気になって音の正体を探る。足元には何も無い。近くでなっていることは確かなのだが。
コトン
何故か音は自分の体から聞こえているようだ。いや、体というより服からだろう。
制服のポケットに手を突っ込む。ペンやら手帳やらを入れているので、擦れて音を立てているのかもしれない。
「?」
何か、塊に指先が当たった。
覚えのない形の塊。不思議に思って取り出してみる。
しかし指が滑ってしまい、それは手から離れて床に落ちてしまった。
「……え?」
コトッ、と音を立てて落ちたそれに、私は目を見開く。
箱。ハート型の。それは。
『届けて頂いたレティシアの箱が、───無くなりました。』
どうして、ここに。
【作者のやりたくてもやれない妄想】
ユリちゃんとダニーさんVSロボトミー全ての職員
ユリちゃん、ダニーさん、下層の先輩のAleph担当メンバーで協力プレイ
大人のlobotomy corporation()
ユリちゃんが日本に戻ってきて都市伝説に巻き込まれる話(オーケストラさんを添えて)
学園lobotomy corporation
ユリちゃんに加えダニーさんもSCP扱いされて財団で2人無双する話
今のところ以上です。