【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Queen of Hatred_2

結局胸の高鳴りは止まらないまま、収容室に着いてしまった。

期待すればするほど裏切られた時の衝撃がすごい。それはわかっているのに、あの画像のかわいい女の子がアブノーマリティかもしれないという事に嬉しさを抑えられない。

収容室前の電子パネルを操作して、扉を開ける。緊張感を忘れないように意識をしながら、中に入った。

 

「へ……。」

「あら!こんにちは!」

 

中にいたのは。

 

「かっ、」

「か?」

「かわ、いい……。」

 

中にいたのは、画像通り―――いや、それ以上の美少女だった。

真っ白な肌は透明感のある、透き通ったもので。

長いアイスブルーの髪はツヤツヤで天使の輪を持っている。

そして上の方で二つ小さなツインテールを作っている、その普通ならちょっと子どもっぽい髪型すら、この美少女には似合っていた。

日本の学生服、セーラー服に似ているピンクの服は、彼女のスタイルの良さを際立たせていて、ピンクのプリーツスカートからのびるスラッと長い足は水色のタイツに包まれている。その先を飾っているピンクの靴の小ささが、なんとも女の子らしい。

黄色と思っていた瞳はイエローダイヤモンドで、キラキラと輝いていて。その瞳に自分が映っていると思うとなんだか恥ずかしかった。

 

 

「やだ、そんな風に褒められたら照れちゃうわ。」

「あっ、ご、ごめんなさい。」

 

くすくすと笑う美少女は絵になる。ただ絵と言っても絵画とは違う、どちらかと言えば日本の少女漫画のようだ。

漫画みたいな美少女って本当にいるんだなぁ。見惚れていると美少女の後ろに、何か立て掛けられてることに気がついた。

杖、だ。

ピンクの持ち手部分に、黄色のツヤツヤしたリングが縞模様に巻かれている。その先には大きなピンク色の星。真ん中にハートの穴が開いていて、更に白い翼のオーナメントで飾られていてとても可愛い。もう反対側には水色のハート。こちらは真ん中に星型の穴が開いている。

可愛さを全面にだした、女の子らしい杖。それと似たものを私は知っている。それはテレビの中の、あの女の子達が持っていた。

 

「魔法の杖が気になるの?」

 

私が杖に目を奪われていることに気がついた美少女が、首を傾げてそう言った。

 

「ま、まほうの、つえ。」

「あれは魔法の杖よ。……ごめんなさい、触らせてはあげられないの。これを使えるのは魔女だけだから。」

「ま、魔女?」

「私、魔女なのよ。でも安心して!怖い魔女じゃないわ。愛と正義の魔女なの。」

「愛と、正義の。」

「そう!私は世界の平和を守るために選ばれた魔女なの!悪者が来たら直ぐに呼んでね。駆けつけるわ!」

 

世界の平和を守る、魔女の少女。

悪者がきたら、直ぐに駆けつけてくれる。

 

「わ、わたし。」

「そうだ!良かったら今まで倒した悪者の話を聞いて!とっても恐ろしかったのよ。あれは確か暑い夏の日のことで、青色の皮膚をした―――きゃっ!」

 

私は思わず、ピンクのマネキュアが光るその手を取った。

美少女はその大きな目を丸くして、手を握る私を見る。

私は興奮が抑えきれなくて、色々と言いたいことや聞きたいことが沢山あるのにそれらがなかなか形にならない。そしてようやく、声を出した。

 

「私!ずっと貴女に憧れてたの!!」

 

信じられない。

魔法少女が、実在したなんて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、と管理人室の扉が叩かれた。

中から聞こえたXの返事に彼は扉を開ける。

 

「久しぶりだね、ダニーさん。」

「……お久しぶりですね、X。」

「今日はどうしたの?」

 

Xは彼、ダニーを笑顔で出迎えた。けれどダニーはその表情に眉を顰めるばかりで、口端を上げることはない。

 

「ユリさんのことで、お話がありまして。」

「うん。何?」

「彼女の髪の毛の採取は、なんのためですか?」

「……なんのことかなぁ。」

「とぼけないでください。エージェントが採取と保管をしていたのをこの目で見たんです。」

「えっ、怖いねー。それストーカーとかじゃない?誰?注意しておくよ。」

「……その人は、先日管理人室に呼ばれていました。その人が管理人室から帰ってきた時に、厚手の封筒を持っていたんです。X、貴方が命じたんでしょう。」

「……俺は何もしてないよ。ダニーさん。ちょっとは信頼してくれないかなぁ。」

「最近の貴方はおかしい。最近、エージェントに対しての指示が荒っぽくなった。」

「荒っぽい?心外だな。俺はこの会社と一緒に働く仲間のことを思って仕事をしているだけだよ。アブノーマリティという未知を相手にする仕事だから、少しは冒険はしないといけないけどね。」

「ユリさんに〝歌う機械への栄養〟を指示したのは何故ですか。」

「何故かって?俺の判断でその作業が適切だって判断したからだよ。」

「歌う機械への作業は基本〝清掃〟です。機械の動いていないのを確認して、できる限り本体に近付かないようにして行うのが基本だ。何故〝栄養〟にしたんですか。」

「あのさ……基本ばっかりじゃなにも進まないんだよ?色んなことを試して、最善を探るのは管理人の役目だ。」

「あの事件でそれが最善と判断したのは貴方でしょう!!」

 

ダニーは声を張り上げ、Xを睨んだ。

 

「やっぱりあんた、Xじゃないな。」

「は……なにいってんの?」

「Xは歌う機械での事件がすごいトラウマになってたんだよ。仲がいい事で評判だった二人組のエージェントが、洗脳されて相方を機械に突っ込んだ事件。自分のせいだって責めてたんだよ。でもあんたはそんなこと知らないだろ。Xじゃないもんな。」

「そんな、事件……。」

「覚えてないだろ?あんたはXじゃないからな。」

「俺は、俺はXだ!!」

 

 

「じゃあ言い方を変える。お前は何番目のXだ。」

 

 

「な、なんのことだ……。俺は、Xだ。俺は俺……。」

「お前がXなわけないんだよ。更に言えば、前のXも、その前のXも。その身体は、そのXの身体はな、俺の―――、」

 

 

 

「何をしてるのですか、エージェントダニー。」

 

 

 

ダニーの声は後ろから何かに塞がれたことで遮られてしまった。

聞こえた声にダニーは振り返ろうとするが、彼の体を拘束しているなにかがそれを許さない。

ダニーは混乱した。聞こえた声は、ロボトミーコーポレーションのAI、アンジェラのものだ。けれどアンジェラは身体を持たない。映像である彼女はダニーの身体に触れることが出来ないのだ。

なら、ダニーの身体に触れているのはなんだ。

気が付くと目の前のXは床に倒れている。その隣には、なんとアンジェラがいた。

 

「訳が分からないって顔をしていますね。エージェントダニー。もういいです。離しなさい。」

 

アンジェラがそう言うとダニーの身体を抑えるものがなくなった。

ダニーは自身を拘束していたものの正体を知るためにすぐさま振り返る。その正体に、彼は目を見開いた。

 

「な……なんだよ、お前……。」

「失礼ですよ、エージェントダニー。今後貴方達エージェントを管理する、貴方達の上司です。」

 

ダニーを抑えていた彼女は明るい声で、そして女性独特の声で彼にこう言ったのだった。

 

「初めまして!マルクトといいます。これからいい会社を一緒に築いていきましょうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ユリは憎しみの女王と談笑をしていた。

 

「それでね!その怪物が公害の原因にもなっていたみたいで。」

「じゃあそれで市長さんの具合も良くなったの?」

「そうなの!ほんと、ヘドロを吐く敵なんて臭くて嫌になっちゃった。」

 

美少女はこれまでの自分の活躍を沢山私に離してくれた。

それはまさにテレビの液晶越しに見ていた魔法少女の物語そのもので、ただ見ていた時とは違うリアルな彼女の心境がより私の心を奮い立たせた。

 

「貴女の住んでいたところ……ニホン?だったかしら?そこはどんなところなの?」

「日本はね、春夏秋冬の特徴がはっきりしてるところだよ。それぞれの季節に咲く花とか綺麗で私は好きだなぁ。時代が進むにつれて植物は減っちゃってるけど……。そう言えば私の名前も植物の名前なんだよ。」

「へぇ!なんて名前なの?」

「ユリ。洋名はリリィ。わかるかな?大きな花が多いんだけど……。」

「リリィならわかるわ!ユリ、っていうのね。貴女にピッタリの綺麗な名前ね!」

「そ、そんなことないよ。貴女の方がよっぽど綺麗。」

「ねぇ、貴女のこと名前で呼んでもいい?ユリって。」

「うん、いいよ。」

「やった!私のことも名前で呼んで!私の名前はね、……私の、名前……は。」

「……どうしたの?」

 

先程までニコニコ笑っていたのに、美少女は急に頭を抑えて困惑の表情を浮かべる。

 

「私の名前……名前、なんだったかしら……あれ……?わたし、わたし、なまえ?名前……。」

「む、無理に思い出そうとしなくて大丈夫だよ!」

 

苦しそうに呻きだしたので、私は慌てて美少女を宥める。

そっと背中をさすると、ようやく顔を上げてくれた。しかし先程のような笑顔はない。

 

「ご、ごめんなさい……どうしても思い出せないの……。」

「謝らないで。調子が悪い時って誰にでもあるよ。」

「ありがとう……。でも……どうして……。」

「……あっ、じゃ、じゃあなんて呼ばれたいとかある?」

「なんて呼ばれたいか……。」

「うん!教えて?」

「貴女に、」

「私に?」

「名前、つけてほしい。」

「え。」

 

えっ、それって、いいのだろうか。結構重大な役割を勝手に私なんかがやっていいのだろうか。

けれど美少女のこの期待に充ちた目を見ると断れない。意識を別に向けるために振った話題だったが、仕方ないと頭を回転させる。

魔法少女。悪者と戦う。みんなのヒーロー。愛と正義の味方。愛と、正義の……。

 

「……アイ、とかどう?」

「アイ?」

「アイ。アイは私の国の言葉でLoveの意味があるの。愛と正義のために戦ってくれてるから、どうかなって……。」

「アイ……アイ、ね!素敵!私は、アイ!」

「気に入ってくれた?」

「とっても!!」

 

彼女に笑顔が戻ってくれたことにほっと息をつく。元気になってくれたようで良かった。

上機嫌にくるくるとまわってはしゃぐアイはやはり可愛い。私も思わず笑顔になってしまう。

 

「ねぇユリ!私の友達になってくれる?」

「友達?」

「そう!私ね、仲間とか、街の皆とか、世界を救う中で沢山の人と知り合ったわ。でも友達がいないの……。ユリに、私の友達になって欲しい。」

 

アイの言葉に私は少し躊躇ってしまった。

だって私はエージェントだ。今ここに来ているのは作業をするため。

自由に会いに行ける訳では無いし、もしかしたらもう二度と会わない可能性だってあるのだ。

 

「ダメ……かしら。」

「あっ、ううん、そんなことないんだけど……。」

 

どう答えようか迷っていると、アイは無言を拒否と受け取ったようで肩を下げた。

私は慌ててそれを否定する。

 

「ダメではないんだけど……。私ここにお仕事に来てるから、アイにもう会えないかもしれないの……。」

「えっ……そうなの?」

「うん……。」

「……なら、これ、持ってて。」

 

そう言うとアイはスカートのポケットから何かを取り出した。

それはハートの髪飾りだ。小さな翼が添えられている可愛い髪飾り。

 

「これあげるわ。」

「えっ、悪いよ!」

「いいの。ユリに持ってて欲しいの。お願い、受け取って。」

「でも……どうして?」

「……離れていても、友達って証。」

 

アイはそう言って、私の髪を一束掴んだ。

パチン、と音を立てて髪飾りが付けられる。私の頭を見てアイは満足そうに、嬉しそうに、でも少しだけ寂しそうに、「これお揃いなのよ。」と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




くっそ楽しいんだが。
やばいです好きなアブノーマリティでしかもヤンデレすごい好きな作者としては今回の憎しみちゃん書くの楽しすぎて本当に妄想が止まらない。

【書きたくても暫く書けないであろうでも書きたすぎるネタ】

書きたいセリフ
「いくら先輩でも、友達を傷付けることは許さない!」

使いたいネタ
貪欲の王→サチちゃん(幸)
絶望の騎士→ルイちゃん(涙)


ごめん本当に楽しいんだ。

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