【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
早くアブノーマリティ出したくてうずうずしてます。
※今回一部キャラの性格捏造が著しいです。注意。
ダニーさんとあと何人かの社員さんに囲まれるようにして廊下を移動する。これじゃあ連行みたいで、罪人のような扱いがとても窮屈に感じた。
ダニーさんが私に会ってほしいと言った〝責任者〟。このlobotomy corporationの責任者って、どれだけ偉い人なんだろう。
しかも私、なんかよくわからない存在を研究対象として扱ってることを知ってしまった。ちゃんと家に帰してもらえるだろうか。
最初の小鳥くらいなら凶暴、の一言で片付けられるけれど、流石にあの人形はそうはいかない。あれは明らかに人の常識を超えた存在だ。
この会社の異常さに巻き込まれてしまった不安が私の足を重くする。ダニーさんも社員さんもずっと黙りで、それが余計に恐い。
「着きました。こちらです。」
たどり着いた場所。扉は重く、頑丈そうだ。扉には金のプレートで〝Administrator's room(管理人室)〟と書かれていて、全面から高級感が漂っている。それがより私を不安にさせて、思わず目を逸らした。
ダニーさんが扉をノックする。すると中から〝はーい〟と間延びした声が聞こえた。
「ダニーです。お客様をお連れしました。」
「どうぞ、入って。」
「失礼します。」
ダニーさんがドアノブに手をかける。私は緊張に唇を噛んだ。
世界基準で有名な企業〝lobotomy corporation〟その責任者。一体どんな人なのか。
恐る恐る視線をそちらにやって、私は驚いてしまった。
二十代くらいの、若い男の人と女の人が立っている。
男の人はどこかアジアの雰囲気を感じる顔立ちで私ににこりと笑いかけた。
それに対し女の人はアリスブルーの髪と真っ白な肌で、どこの国の人か想像がつかない。ただその顔は人形のように整っていて、大きいであろう目はぴったりと閉じられている。もしかして、盲目とかなのだろうか。
責任者と言うくらいだから、もっと歳上の人だと思っていた。
「わー!直接会うの久しぶりだねダニー君!」
男の人は嬉しそうにダニーさんに駆け寄ってきた。
「お久しぶりですX。」
「相変わらず堅苦しいなぁ。最近どう?上手くやってる?」
「X。エージェントとの交流は最小限にと伝えたはずです。」
そんな男の人に対して、女の人は注意をする。
男の人はむっと表情を曇らせ、女の人に向き直る。
「……だって久しぶりだったし……。」
「本来、エージェントと管理者は会うことすら禁じられているんですよ。」
「ダニー君とは元々友達だったし!!」
「彼がまだ職員だった頃に少し話したことがある程度でしょう。そういうのは友人ではなく知り合いというのですよ。」
「そういう心を抉るようなこと言うの止めろ!!!友達!友達だよねダニー君!!!」
男の人が縋るようにダニーさんを見る。するとダニーさんは何を言うでもなくとてもいい笑顔を男の人に返した。
「では、私はこれで失礼します。」
「えっ、ダニーさん行っちゃうんですか?」
「私はあまりこの場に長居できないもので。」
「ダニー君?!ねぇ!友達だよね?!俺たち仲良し友達だよね?!」
「失礼しました。」
結局ダニーさんは男の人の質問に答えることなく、出ていってしまった。
明らかにショックを受けている男の人を見て不憫に思う。かと言ってなんて声をかけたらいいかもわからないでいると、女の人が口を開いた。
「ユリさん、でしたよね。」
「あっ、はい。」
「わざわざいらしていただいて申し訳ありません。立ち話もなんですし、どうぞ、中へ。」
男の人を見事なまでにスルーして女の人は私を中へと招く。
私は男の人が気になりながらも女の人の言う通りにした。
部屋の奥に進むとそこは応接室のようになっていて、革張りのソファが向かい合うようにテーブルを挟んで二つ。これもまた高級そう。
女の人はどうぞと私を上座に案内する。慣れない動きで私はソファへ座る。それはツルツルしているのに低反発に私のお尻を包み込んで、何とも座りにくい。
「X。ユリさんにお茶をお出ししてください。」
「アンジェラ俺の扱い酷くない?」
「?私はいつも貴方のことを思って行動していますが。」
「……もういい。お茶持ってくるわ。黒井さん、ちょっと待っててね。」
男の人はため息をついて部屋を出ていった。
私はその姿を見ながら、何か違和感を感じた。引っかかる。何かが。え?あれ?
……あれ?
「……私、苗字言いましたっけ……?」
黒井百合。それは私のフルネームだ。でもダニーさんに名前を聞かれたとき、私は敢えて苗字を教えなかった。警戒していたのもあるし、必要ないと思ったからだ。
一体どうして。
「申し訳ありません。スーツケースに名前が書いてあったもので、そちらを拝見致しました。」
私の疑問に、女の人が答える。その言葉で納得がいった。
預けていたスーツケースに、小さなネームシールを貼っておいたのだ。
スーツケースを買った際に付いてきたネームプレートは如何にも〝個人情報が書いてあります〟と言っているようでつける気が引けた。
でも何かしら他の人の荷物と区別をつけたかったので、ジッパーの部分に大きいマスコットをつけて、その影になる取っ手の部分に100円で買ったネームシールをつけたのだ。ローマ字だと危ないと思ったので平仮名で。
男の人はアジア人っぽかったし、もしかしたら日本人かもしれない。なら、私の名前を読めてもおかしくないだろう。
筋が通ってすっきりした所で、丁度男の人がお盆を手に戻ってきた。
「お待たせー。黒井さん紅茶で大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございます。……あれ?」
運ばれてきたティーカップは不自然であった。白いカップに、ソーサー。並々と注がれた澄んだ赤。それはいいのだけど、カップが二脚しかない。
男の人、女の人、私。ここにいるのは三人だ。一つ忘れるなんてことは普通ないだろうし。
私の前にカップが置かれる。そして男の人は自分の分の紅茶をテーブルに置き、女の人の隣に座った。
女の人の前には、何も置かれていない。
「あの、紅茶飲まれないんですか?」
「ああ、私は飲まないのではなく、飲めないのです。」
「飲めない?」
「自己紹介がまだでしたね。私の隣に座っているのがX。このlobotomy corporation 研究所の管理をしています。そして私はXのパートナー、アンジェラと申します。」
「Xさんと、アンジェラさん。」
「はい。そして私は、人間ではありません。」
「えっ?」
「artificial intelligence(人工知能)。AIです。」
「A……I?」
なんの冗談だろう。アメリカンジョークというものだろうか。けれど女の人の表情は変わらず、ふざけた様子はない。無表情のまま。ぴったりと目も閉じられたままだ。
そこで私はあることに気がつく。
Xさんの隣に座るアンジェラさん。革張りのソファは私の座ってるものと同じ。
けれどアンジェラさんの身体は、ソファに沈んでいないのだ。
「私の身体は映像です。三次元映像。なので私は飲食も、ものに触れることもできません。」
この女性は、人間でない。
こんなにも、しっかりと会話しているのに。こんなにも、はっきりと目の前にいるのに。
この女性が、ただの映像だなんて。
証明するようにアンジェラさんはXさんのカップに手を伸ばす。ぶつかる筈の指先はカップを通り抜け、その形がブレる。
あぁもう。凶暴な鳥や話しかけてくる人形は非現実的なのに、今度は近未来的なAIだなんて。
今日という一日はなんて日なんだろう。もう、目眩がする。
コメント、評価、お気に入り、誤字脱字報告本当にありがとうございます。
見る度毎回本気でニヤニヤしてます。作者の力の源です。ただコメント返しとか張り切りすぎてうざくなってたら申し訳ありません。
もう少し大人しめに、とか言ってくだされば日本人の空気読むスキルでちゃんと察します。あっ、調子乗りすぎってことですね(察し)嬉しくてついテンション上がってすいません……。
そして誤字脱字報告めっちゃ助かってます。もはや間違い探しですよね。修正機能最近知りまして 科学の力ってすげー!!ってなりました。
お手数かけてしまい申し訳ないです。ありがとうございます。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。