【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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お久しぶりです。正直お久しぶりすぎてもう誰も読んでないと思うから謝る気力すらないという。いや反省しろよ私……。













The Knight of Despair_11

その後。とんでもなく怒られた。

管理人室に呼び出されて、もう怒鳴られるわ泣かれるわで散々だ。

謝っても「謝って済むか馬鹿!」とさらに怒られる。どうしたらいいか分からない。

 

「本当にすみません知らなかったんです……。」

「まず武器を渡された時点で報告しろ!!」

「ギフトだと思ってたんです!!他の人も貰ってるかなって……。」

「そんなわけないだろ!!ちゃんと見分けろ!!」

「判別むずかしいですよぉ……。」

 

言い訳していいなら、本当にただのギフトだと思ってたのである。

まさかそんな、ぽん、と渡されたものがアブノーマリティの武器だったなんて気が付けない。これ私が悪いの?

けれどそんなこと言ったらもっと怒られるのは目に見えていて。私はただ身を縮こまらせるしか出来なかった。ひぃん……。

 

 

 

 

 

 

 

こってり絞られた後、私はやけ飲みする為スーパーでビールを買った。あとついでにベーコンとナッツ。どちらもちょっと高いやつにした。

家に帰って、着替えも面倒だと上着を放って鞄も適当に床に置いておく。

本当は明日休みだけど、出勤になってしまった。責任取れとと言うことらしい。どう責任取ればいいのだろう。

今回のことに関しては自分に非があると思えない。私、勝手に閉じ込められて、誰も助けてくれないから自力で出て。エミがアイに酷いことしてたから怒っただけである。

 

やっぱり何も悪くない!!

 

くそぅ。だから本当は明日の支度とかしておかないといけないのだけど。怒られた余韻の残る体のケアが先。

カシュっと音を立ててビール缶を開ける。

こちらのビールはよく分からないから適当に選んだけれど。どこか日本のよりも大味に感じるのは錯覚なのかなぁ。

 

「……もう、日本のビールの味なんて覚えてないや。」

 

はぁ、とため息をついて机に突っ伏す。

どうしてこういうことは覚えてないんだろう。悲しかったこととか、辛かったことは覚えているのに。

「アイ……大丈夫かなぁ。」

 

目を閉じれば、あの子の姿が脳裏に浮かんで。

ボロボロになってしまったアイの体。見た途端頭が真っ白になった。

明日、叶うなら一番に会いに行きたい。ケセドさんにお願いしたら何とかならないだろうか。

 

『だって貴女は言ったじゃない!!私に憧れていたって!!』

 

「……、」

 

それと同時に思い出す、エミの姿。

はぁ、とため息が出る。そしてバリバリと頭を掻く。

……泣いていたと思う。あの時は怒りで、よく分かってなかったけど。

 

「なんか私の為とか言ってたよな〜!!」

収容室を出る時も、アイを傷つけていた時も。私の為。彼女はそう言っていた。

机から顔を上げて、ビールを飲み干す。独特の苦味と強い炭酸を感じる。

身から出た錆、自業自得。そんな言葉がグルグルと回っている。

……頭が痛い。

今回のことで、自分がいかに軽率な行動をしていたか身に染みた。

アブノーマリティの皆から好かれやすい自覚はあったけれど、警戒は解かないように、油断はしないようにと。

でもまさか、好意によってアブノーマリティが暴走するなんて。いや、考えたことはあったけど。

 

「……。」

 

アイの怪我。本当に私のせいだ。

それに、エミが暴走したのも。やったことは許せないけど、私がいなければ彼女は暴走しなかった。

エージェントの行動一つで、結果が変わってくる。わかっていたけれど、もっとちゃんと自覚しろと叱られた気分だ。

今回は、アイだから良かったのかもしれない。アイは強いから。もしターゲットが人間だったら。

そこまで考えたところで、想像が真っ赤に染まって。

 

「もう簡単に、好きとか言わない……。」

 

なんて。どこの乙女ゲームの主人公だ。

自嘲した。口の中にはビールの苦味が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

同僚の人達からも責められることを覚悟していたのだが、何故かそういうことは一切なかった。

むしろ心配して声をかけてくれる人すらいた。

「昨日は大丈夫だったのか」とか「オーケストラに何があったんだ」とか。心配と言うよりは、不安や興味が強いのかもしれない。

 

どうやら昨日のことはオーケストラさんが収容違反したのだと勘違いしているらしい。

 

それもそうか。私だって杖を降っただけであんな攻撃が簡単に出来るとは思ってなかった。

普通人ができるようなことでは無いのだから、自然に考えてオーケストラさんが収容違反したと考える方が納得できる。

それを否定するのは面倒になるだけと分かっているので、笑って誤魔化した。嘘も方便。

しかし何も言いたがらない私にエージェントさんはより不安になったのか様々な憶測をたててきた。

 

「オーケストラを怒らせたのか!?」

「あはは、オーケストラさんはそんな簡単に怒りませんって……。」

「じゃあどうして、貴女がなにかお願いしたの!?」

「してませんしてません!!私本当に何があったか知りませんから!!」

「そんなはず……あんたがここに来てから、オーケストラは本当に大人しかった!!なのに……まさか、別れ話か!?」

「付き合ってないですよ!?」

 

いやみんなどうしちゃったの。働きすぎて頭おかしくなっちゃったの?

私が困っていると後ろからぼそっと声が聞こえた。「痴話喧嘩?」誰ですか言ったの。

 

「痴話喧嘩……、」

「あぁ、なるほど……。」

「それなら確かに……。」

「待って。本当に待って。」

 

いや待って。私ちゃんと仕事してたから。なんでそんな勤務時間中一人だけ痴話喧嘩してたことになってるの?

違うとハッキリ言っているのに、皆私の話を聞こうとしてくれず。

どんなに言っても私の声は届かない。出した答えに満足した皆さんはスッキリとした顔で離れていった。

その背中に否定の意を叫んでも誰一人振り返って貰えず。

そして前日の事件は〝迷惑な痴話喧嘩〟とされ、その一言で全ての騒ぎが片付けられたのである。めでたしめでたし。

え、いや。よくない。全くめでたくない。

 

 

※※※

 

 

結局痴話喧嘩を否定できないまま始業時間になって。朝から私はげんなりとした気分で仕事をする羽目になった。

 

〝対象:絶望の騎士(O-01-73-w)作業内容:交信〟

 

そこにこれである。私神様に嫌われているのだろうか。

いや、わかっている。ケセドさんにアイへの作業をお願いした。それはXさんにも伝わってはいるはず。

つまりこの作業指示は、「その前にやることがあるだろ」ということである。

行きたくない。とても行きたくない。けれど仕事だから行かなければいけない。

重い足取りで収容室に向かう。しかし行きたくない。

第一、行って何を話せばいいのだろう。謝れということか。私が間違ってましたって?いやそれでまた閉じ込められたらどうすればいいの。

それに私、間違ったことしたつもりは無い。酷いことを言ったとは思うが、あれはエミが悪いと思う。

アイは元々彼女の仲間なのに。一方的に攻撃して。あんな怪我負わせて。それを私の為だなんて──。

 

あれ?

なんか私、女の子二人侍らす悪いやつみたいじゃない!?

 

これと似たパターン、ネットで見たことある。確かあれだ、ホストに通っていた女性が他の女性に嫉妬してその人を刺しちゃったってやつ。

それでいくと、私ホスト!?

 

「え……もしかして私が悪いの……?」

 

その記事を見た時、刺した女の人も怖いけどホスト最低。とか感想をいだいていた。ホストは仕事だったとはいえ女の人を追い込むなんて酷いと。(※ゆりちゃん個人の見解です)

それを私に置き換えると?「だってアブノーマリティの作業は私の仕事だもん」ってふざけんな!言ってること同じだよ!!私ホストだよ!!(※違います)

とりあえず、ごめんなさいホストの人。

私も大概だし、私が最低とか言う権利ありませんでした……。(※せやな)

 

「……謝ろう。」

 

即座に謝ろう。でもなんて?

「その気にさせてすみません。」?

えっ、びっくりするほど最低な台詞だな!?

じゃあ「勘違いさせちゃったね。」?

……もっと最低だよ!!

 

ぐるぐると色んな考えが頭の中を回って。キャパオーバー。頭痛までしてくる。

気がついたら目的地の目の前。閉ざされた扉。逃げたくなる気持ちを抑えて、私は扉を開ける。

 

────そして次の瞬間には、押し倒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それこそ、最初は。

ただただ、誰かの役に立ちたかっただけだったのかもしれない。

誰かの笑顔を見たかっただけかもしれない。

お友達が欲しかっただけかもしれない。

それこそ、最初は。

ただの恋心だったのだろう。ただの愛情だったのだろう。

そこに欲が出てきて。もっともっとと先を求めて。

私のものになるように。この想いが叶うように、なんて。

 

女騎士である、彼女の話。単純で簡単な話。

彼女は、ある王様に恋をして。

王様の言う通りに、殺して、殺して。二人だけになって。

でも王様は、血まみれの床の上で泣いてしまった。

 

『君も私も間違っていた。だから、一緒に死のう。』

 

騎士は悲しくて、悲しくて仕方がなかった。

だってそれは何よりも大切だった。何よりも欲しいものであった。

彼女は王様が、好きで、好きで。好きで──。

 

ただ、笑って欲しいだけだったのに。

 

『好き。』

 

それを王は、間違っていたというのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望の騎士は、ユリと王を重ねていたのだろうか。

それは誰にもわからない。だって本人も、わかっていないから。

 

ただ言えることは。

あの日────、絶望の騎士が、ユリと出会ったその日。

キラキラと、まるで星を詰め込んだような瞳が彼女を射抜いた時。

そして子どものような声で、自分に会いたかったと笑う彼女を見て。

 

とても愛おしくて。

とても可愛らしくて。

 

それなのに、上手く返事を出来なかったことを。ユリが去った後に閉じた扉を見ながら騎士はずっと後悔していた。

きっともう来てきくれない。そう思った。自分はもう、いい魔女ではないから。王にすら捨てられた、血濡れの魔女だから。

 

「……でも貴女は、来たから。」

 

悲しい匂いを漂わせて。でも笑って、来たから。

思わず頬を撫でて。その暖かさに、柔らかさに驚いた。こんなの簡単に壊れてしまえるほど、貴女の身体は儚かった。

 

『物語のような存在でないと、苦しんじゃいけなかったのかな。』

 

そう言った貴女の表情を、私はきっと、ずっと忘れない。

その小さな体に、柔らかな内側に。何を抱えているのだろうと思った。

けれど聞いても、貴女は何も答えずに笑うのだ。

 

『ねぇ、魔法少女って、やっぱり素敵だと思うよ。』

 

そして

 

『……私はね。大好きだな。』

 

そんなことを言うから。

 

「どうして。」

 

────女騎士は恋に落ちた。

 

それはまるで春のような、暖かく柔らかな人に。

どうして。どうして貴女は笑うのだろう。そんなに悲しそうなのに。どうして。

笑って欲しい。笑って欲しかった。

心の底から、幸せに。私の方を向いて。貴女に笑っていて欲しいと思った。私は貴女の、笑顔になりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。

絶望の騎士は、四角い箱の中。

訪れたユリを、盛大に押し倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士は幸せだった。彼女はずっと、誰かを愛したかった。

愛は偉大である。全ての活力となり、その想いが生む感情は喜びも怒りも悲しみも全てが大きく活き活きとしている。

世界に色が着くとは上手い表現である。その通りであった。

絶望の騎士の世界は、日に焼けて薄くなった絵のようなものであった。セピアなんて味のあるものでも、色褪せた写真のような懐かしさもない。

ただ、薄いだけの。何となく存在しているだけの世界であった。

けれど、今は違う。

 

「好き。」

 

好き、ユリ。

 

「好きよ。」

 

大好き、ユリ。

 

溢れてくる、愛の言葉と涙。

覆いかぶさっている絶望の騎士の涙が、下のユリにボタボタと落ちてくる。

それは雨のよう。ユリの目の下辺りにボタボタ、落ちて水玉を描き、頬の丸みを通って床に落ちる。

好き。好き。大好き。そんな言葉も一緒に降らせて。

ユリはその言葉と涙に固まってしまう。この展開を彼女は予想していなかった。

むしろ絶望の騎士は自身を怒っているだろうと思っていて。押し倒された時も、首でも締められるのかと思った位。

ユリは呆然と、絶望の騎士を見る。閉じられた目から器用に零れる涙の粒達。キラキラ、キラキラ。流れ星のような。

 

「好き、好きよ、ユリ、好き、」

 

絶望の騎士はその言葉をやめない。甘く美しい、純粋な愛の言葉。

ただ真っ直ぐに、ユリを貫いていくその感情に、ユリの身体は熱くなる。

ずくずくと胸が痛くなって。なにか言わなければと口を開くのに、言葉が見つからない。

 

ユリはただ、思った。

────恐い、と。

 

初めてだった。初めて、自分に向けられる愛情を。本気で恐いと思ったのだった。

何故だろう。ユリはこれまでも、何度も何度も似たような感情はぶつけられているのだ。

それは目の前の絶望の騎士よりも、人から遠い外見のアブノーマリティにも。

そうだから。そんな怖いことなんてないはずで。

むしろよかったと安堵するべきだ。好意を持ってくれているのなら言うことも聞いてくれるかもしれない。

嫌われているよりよほど。

よほど、いいと。

 

「ユリ、」

「……。」

 

────思えない。

やはりユリは、どうしても怖くて仕方がなかったのだった。

 

手の震えがはっきりと感じられたあたりで。

見上げたその美しい顔に、固唾を呑んだところで。

ユリは気が付く。

 

あぁ、私。

もうこの子のこと好きになれないんだ、と。

 

もう無理なのだ。もう好きになれないと、自分の意思とは違う所で体が反応している。

受けとめられない。

だからその愛情は、好意は。ユリにとって鉛のような、重いだけのものであった。

それに気がついた瞬間、何だかユリは悲しくて仕方がなくなる。

冷めきってしまった自分の心。それでも彼女は好きだと言うのだ。

他人事のように、哀れだと思った。可哀想だと。でもユリはもう絶望の騎士を好きになれない。

ユリは起き上がる。少し押せば、絶望の騎士は簡単に退いた。

向かい合う。絶望の騎士は相変わらず悲しそうな顔をしている。

それを見ても何も心が動かない。笑った方が似合う、と思った自分がとても遠く思えた。

 

笑顔の方が似合うから、笑み、エミ。

その時本当にそう思って。その名前を捧げたのだ。もっと笑って欲しくて、泣かないで欲しくて。

 

「……もう、いいよ。」

「ユリ……!」

「帰るね。……ごめんね、騎士さん。」

 

立ち上がって。そのまま扉に向かう。

絶望の騎士は一瞬何が起こったか分からず。けれどユリの言葉を頭でなぞって、それに言葉通り、絶望して悲鳴をあげた。

甲高い声がユリの背中に刺さるが、ユリは振り返らない。決して振り返らなかった。

 

 

 

そして取り残されるのは、絶望の騎士だけ。

 

 

 

彼女は泣いて、泣いて。その場にただ蹲って泣いた。

 

「どうして……、ねぇ、どうして……。」

 

どうして、そんな風に呼ぶの。どうして、そんな表情で私を見るの。

まただ。また、変わってしまった。あの時と同じ。

彼女は気がつく。やはりだ。やはり、二人きりでないとダメなのだと。

 

「ユリ……好き……。」

 

世界に二人だけならば。

間違いなど、もう何も無くなるの。

 

 

 

 

 

 

 


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