【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Knight of Despair_2

私の言葉に、彼女は幾分か反応したようだった。

しかし表情は変えず、少しだけ俯く程度。

少し除くように屈むけれど、やっぱり表情は悲しそうなままだった。

 

「……魔女なんていいもんじゃあないわ。」

「え?」

 

彼女の言葉が予想外で私は間抜けた声を出してしまった。

どうして彼女がそんなことを言うか分からなくて。言葉が詰まってしまう。

私はずっと、彼女たちに憧れていたわけで。

テレビの中で悪者と戦う彼女達がすごいって。綺麗って。

彼女は女の子の憧れだった。お気に入りの魔法少女の魔法は、ポーズ含めて一言一句間違えないよう覚えたものである。

だから、私は彼女がどうしてそんなこと言うかも分からない。

 

「どうして……?」

「だって、……所詮道具にしか過ぎないもの。」

「道具……?」

 

それ以上彼女は、話してくれない。

様子を伺いながら私はそこに立ち続けるけれど、それ以上は教えて貰えないようだった。

何があったんだろうと思う。

彼女の片方の目から、また涙が落ちる。白い頬を伝って、夜空のドレスに落ちていく。

 

「……言いたくないなら、言わなくていいの。」

「……。」

「ごめんね、誰にだって言いたくないことはあるよね。私、本当にあなた達に憧れてて……、興奮しちゃって。」

 

きっと、魔法少女には魔法少女の苦労や、悩みがあるのだろう。

何があったのか聞けるほど私達はまだ親しくもないし。

作業内容は確か〝交信〟だったはず。

しかしこれでは……失敗かもしれない。

 

「……じゃあ、私はこれで……。」

 

手を振るけど、彼女はやはり何も言わない。

ただ悲しそうな表情だけが脳裏に焼き付いて。この日の作業は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初はそう。私の力で、誰かを助けたいと思ったの。

だから戦った。どんなに怖くても、足が竦んでも。決して私は戦うのをやめなかった。

緑の草原は赤に濡れた。レンガの道は悲鳴が響き渡った。

そうして私の背中には、いくつもの歓声があった。

それが嬉しくて。

 

〝あぁ王よ!私の剣は貴方のためにある!〟

 

誇り高く、そう叫ぼう。

決して見失ってはいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の指示を確認するために、タブレットをひらく。

その作業指示に、一度私の足は止まった。

 

〝対象:憎しみの女王(O-01-15-w) 作業内容:交信〟

 

アイ、と。口が自然に名前を呼んでいた。

結局医務室で話して以来、ちゃんと会話できてない。

あの時、許すとアイに言ったけれど、私はアイがどうしてあんなことをしたのかも分かってないのだ。

 

アイは言っていた。〝置いていかれた〟〝悲しい〟。

 

私は確かに許したけど。

アイに、謝っていないのだ。

 

ちゃんと話し合わないといけないと思っていた。

きっとアイは笑顔で出迎えてくれるけれど、このままにしたら時折思い出してはまた傷付くのだろう。

私なんかの事で、一喜一憂してくれる、あの子のことだもの。

 

早足で収容室に向かう。

頭の中で沢山シュミレーション。いくつも言葉を用意して、アイのことを思い浮かべる。

 

「あ……お礼もしないと。」

 

ありがとうって。

あの時も彼女は、私を助けてくれたのだから。

 

 

※※※

 

 

収容室の扉を慣れた手つきで開ける。

しかし緊張するものだ。いつもと同じ部屋も、こういう状況になると敷居が高い。

 

「……おじゃましまーす……」

「ユリ!いらっしゃい!!待ってたわ!!」

 

いつもはしない挨拶をして入ると、やはり笑顔でアイは迎えてくれた。

アイの足先から鈴のなる音がする。くるくると私の周りを回っては、それはそれは楽しそうに、嬉しそうに笑っているのだ。

私はアイの白い手をそっと掴む。爪先を彩るビビット・ピンクが眩しい。

私の行動に、不思議そうに首を傾げるアイ。意を決して、口を開いた。

 

「……この前のことを、話したくて。」

「この前……。」

 

私がそう言うと、アイの身体が強ばる。

琥珀の瞳が揺れている。額から汗が垂れて、白い頬に伝った。

 

「あ、あの、あの時は……本当に……ご、ごめんなさ……、」

 

アイは可哀想な程に震えていた。先程とは打って変わって泣きそうになって。

あぁ、これもやはり。と予想通りで。私は胸が苦しくなる。

そんなに、私なんかのことで悩まなくていいのに。苦しまなくていいのに。

 

「アイ、ごめんね。」

「ユリ……?なんでユリが謝るの?」

「だって悲しかったんだよね。私がアイを、置いていったから。」

「それは……、」

 

なんて返すのかアイは迷っているようだった。

優しい彼女は、きっと私を責めない。

思うところは沢山あるのに、全部我慢してくれるのだろう。

 

「……あの時アイを置いていっちゃったのはね……、アイが、怪我をしてたから。」

「え……。」

「……頬っぺ、治ったんだね。良かった。」

 

アイの頬を撫でる。あの時ついた傷は、もうすっかり治ってるようだった。

跡にならなくてよかったと本当に思う。安堵に笑うと、アイは勢いよく抱きついてきた。

 

「うわっ、」

 

突然の事でよろけるけど、何とか受け止める。

耳元で、泣き声が聞こえた。

くすんくすん、と。泣き声すら綺麗なんて、たまにこの子は宝石なんかで出来てるんじゃないかと思ってしまう。

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい……、私、私、何も考えてなかった……。」

「いいよ、あの状況じゃあ考える暇もなかっただろうし……。」

 

背中を優しく叩いてやる。するとよけいに抱きつく力は強くなって、ちょっと苦しい。

けれど、ちゃんと、受け止めよう。

 

「……ユリ、」

 

しばらくするとアイは体を少しだけ離した。

けれど距離は近いまま、鼻なんて少し動いたらぶつかってしまいそうな距離だ。

 

「ユリ、あのね……、私は、貴女の一番の魔女でありたいの。」

「一番の魔女?」

「そう。……ユリは、美しいから。色んな人が、貴女に寄ってくると思うわ。それでも、貴女の一番の魔女は、……ヒーローは、貴女を救うのは、私でありたいの。」

「アイ、そんな私のことで一生懸命にならなくていいんだよ?」

 

私はそう言ったけれど、アイは首を振る。

 

「貴女は、私の正義。護らせて。貴女を失うなんて耐えられない。」

 

アイは再び、強く私を抱きしめる。

私はそれを抱き締め返していいのかわからなかった。

私は、そんな特別な存在では無いのだ。護ってくれるのはとても有難くて、助かるけれど。

けれど、貴女の生命を削ってまで、助けて欲しくないんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 


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