双主革新奇聞ディストリズム 作:マッキー&仮面兵
――左近衛祈願
『祈願は特に自分の状況が異常だと認識しているようでしていません。麻痺してるって感じもあるし、当然だって思ってることもあります』
――仮面兵
愛隷の章
――最近さとりちゃんの様子がおかしい。
いや、いつもがそもそもにしておかしいって言われたら、何も言えなくなるんだけど。
その時点でこの話が終わっちゃうんだけど――
いや、そういう話じゃなくてね。
最近――特に納村センパイが亀鶴城センパイを打倒したって話を聞いたあたりからさとりちゃんの警戒が激しくなってるのだ。
具体的には、今までそんなに口出ししてこなかった貫井川センパイとの関わりに対して、めっちゃくちゃ干渉してくるようになった。
『いい~~? ロリコンちゃんはほんと~~に危険ちゃんだから~~祈願ちゃんのために近寄ったらだめなんだよ~~?』
『ロリコンちゃんが来たらボクのこと呼んでね~~? お姉ちゃんとかほかの子とか~~ボクもすぐに助けに行くからね~~!』
『学校にも危険がいっぱいだからね~~祈願ちゃんは無理に登校しなくていいんだよ~~? どうせ授業サボっちゃうんだから~~今日はお部屋でゆっくりしようね~~』
――と、今まで言わなかったようなことも段々と増えていってる。
そんなわけで、元々授業は大体平均2~3コマに一つはサボっていたのが、これらに加えてここ2週間少しは授業どころか登校自体が2~3日に一回しかしなくなった。
当然、今までただ授業サボってただけの不良生徒として通っていたのが、ここにきていよいよ学校すらサボる類の問題児として認識をされ始めた。
教室にはいたくないけど、教師が好きで受けたい授業があったりするのでそれなりに出るようにはしてたのに、今だとその授業もあまり受けられなくてちょっともやもや気味だ。
たまたまこの2週間、貫井川センパイは僕を引きずり出しに来ることもなかったので、さとりちゃんがセンパイとやりあうことなく済んでいた。
あと、きっと今までだったら、僕が学園を休んでいることで花酒センパイが介入してくるのだが、タイミング悪く花酒センパイは修学旅行でハワイにGOしてたばかり。
しかも、帰ってきてすぐにワラビンピックなんて開催しやがったのと、たまたま僕がその日は登校を許されていたというのも相まって、サボり状態だなんて発覚もせず。
残った二剣の鬼瓦センパイと亀鶴城センパイは、各々が決闘以来納村センパイにお熱なので僕の矯正に対して一切目が向かなくなったというのもあり、僕がサボリ状態だなんて気づきもしない。
根本的な話として、僕がさとりちゃんに逆らえればいいのだが、物事はそう簡単にできるものじゃあない。
なにせさとりちゃんは強いのだ、武力的にも、そして頭脳的な意味でも。
『祈願ちゃんがお部屋出て行ったら~~ボクはさびしぃな~~? 探すためになにしちゃうかわかんないなぁ~~?』
『ボクね~~? この前のサボった時の動画撮ってたんだ~~ふふ~~これ、男っ気のない蕨ちゃんに自慢したいな~~?』
……と、僕にとってはちょっと逆らいづらい事情がある。
僕がさとりちゃんに逆らったせいで、マスコセンパイのようななんも悪くない人たちが危害を負うのは、許せない。
僕がさとりちゃんから離れようとすることで、学園どころかその後の生活にまで影響を及ぼしそうなことを公表されるのもよろしくない。
あと花酒センパイをそういう話でいじめるのはほんとやめてあげて。
あの人が最年長だっていう分、実際本人が一番気にしてるっぽいから。
そしてそういう話題になると基本貫井川センパイがいじりだすから。
『やっぱり体型だけがロリのBBAな貴様にはBBA趣味の男すら寄ってこないようだなぁ! ねぇどんな気持ち? ねぇどんな気持ち!? 一番仲の悪いあの鬼BBAと亀BBAに先越されて悔しい? 悔しくないのぉ!?』
って、喜々として追い打ちかけていく姿が想像つくから。
「あの……祈願……君……」
「――あ、ミソギちゃん。授業はもういいの?」
「あ……うん……さとりちゃんが……見て来いって……」
突如部屋に音もなく入ってきたのはさとりちゃんのお姉ちゃんである眠目ミソギちゃん。
僕がさとりちゃんに気に入られるまでは、カツラとか着けて別の名前で在籍していたらしいんだけど……
色々とさとりちゃんとミソギちゃんの関係で頑張った結果、ミソギちゃんは眠目ミソギとして再入学をした。
本当なら名前のことでいろいろとあるにはあるんだけど、今の環境でさとりちゃんも名前が変わってしまうのは混乱も引き起こす。ということで今の形に納まったのだ。
「そっか……明日は学校いけるかなぁ……?」
「わからない……けど……行けるように……私からも……お願いしてみるね……?」
「ありがとう。ちょっと散歩したいんだけど、それは大丈夫かな?」
「あっ……聞いてみるね……」
そう僕に断って、携帯を弄りだすミソギちゃん。
覆面女子の大半は携帯を二つ――普段の使用のための機体と、覆面女子活動専用の機体を持っている。
けど、ミソギちゃんは一つしかもっていない。
『別に、私が覆面女子のリーダーだってもうバレちゃってるし』
って言ってる当たり、多分使い分ける必要がないから……ってことなんだろうなぁ。
僕? 僕が携帯電話なんて持ってるわけないじゃん。僕だけじゃなくて、男子生徒が基本誰も携帯を持てないんだ。
さとりちゃんは持たせようとしたけど、五剣会議で却下されたらしいので、今では防犯ブザーを代わりとして持たされている。
「返事がきたよ……?」
「おっ、さとりちゃんはなんだって?」
「えっと……『お姉ちゃんがしっかり見ててくれるなら仕方がないから帰ってくるまではお散歩行ってもいいよ』……だって……」
「やったぁ!! ミソギちゃんありがとう!」
「えっと……その……どういたしまして……?」
本当にミソギちゃんはいつもこういう時損な役回りをさせてほんとごめん!
今日は外に行きたい気分だったんだ!
外の空気めっちゃすうぞ!
――こういう時、僕はどんな顔をすればいいんだろう。
「オイオイ、なぁんでオレぁ武器を向けられてるんだかねぇ?」
「ダマって……! 消えて……!」
「おたくと争うつもりはないって。オレぁただ同じ男子の好ってことで話をしたかっただけでさぁ……なぁ左近衛だよなぁ!? そっちからもその嬢ちゃん止めてくれよぉ!」
――散歩と称して、ミソギちゃんと校内をブラブラしていたら、噂の納村センパイに出くわしたんだけど。
ミソギちゃんはなぜか警戒心むき出しにしてる。
納村センパイって花酒センパイも倒してるだろうし、そういう理由なのかな?
僕はちょっと、色々と話題な彼と話したくなった。
さとりちゃんがいない今だからできる、僕の意志でやる、小さな小さなわがまま。
「えっと……ミソギちゃん、納村センパイに武器向けちゃだめだよ? その人女たらしらしいけど、悪い人じゃなさそうだし……」
「…………」
「おたくさ、オレになんか恨みでもあるわけぇ……? オレらって一応初めて言葉交わしてるんだよなぁ……?」
「ええ、多分そうですね。センパイはこんな時間に何を――」
HAHAHA、恨み? あるに決まってるじゃないか。僕は忘れないぞ、モーガン・フリーマンの件は。
そういえば、この時間って基本校内バイトのない男子生徒は男子寮に居なきゃいけないんじゃなかったっけ?
納村センパイ、もしかして――
「――ああ、鬼瓦センパイと亀鶴城センパイと別れてから当てもなく独り戻ってきたんですね? 友達いないんですか? あ、男子寮の人たちは真面目だからこの時間に出てこないか」
「めっちゃくちゃ当たりキツイなぁ!? ホントなんか気に障ることしたかぁ!? 覚えがないからそこ聞きてぇんだけどぉ!?」
「モーガン・フリーマン」
「……はぃ?」
納村センパイがあまりにも必死なので心当たりを教えて差し上げることにした。
教えてあげたのにこの態度。なんて人だ、憤慨を禁じえない。
――とはいうけど、さすがに覚えてないかもしれないし、そもそも僕がそれを言うとは思ってないはずだ。ちゃんと真面目に答えてあげよう。
まずは自己紹介からだ。
「どうも、左近衛祈願、高校一年生です」
「祈願君……!!」
「大丈夫だよ。彼女は眠目ミソギ」
「よろ……しく……」
「おーおー、なんだかんだで自己紹介できるたぁ見どころあるぜ後輩達。納村不道だ、アクセントは頭に頼むぜぇ?」
「よろしくお願いします、ノ≪ム≫ラセンパイ」
ご希望に沿ってアクセントをわざと間違えてあげた。
やるなやるなって言ってるときは大体やってくれって言ってるんだって、僕知ってる。
ダチ〇ウ倶楽部は嘘つかない。
「おたくわかってやってんだろ!? フリじゃねぇって!!」
「あー、本当に≪ノ≫ムラセンパイなんですね。失礼、噛みました」
「最初に普通に呼んでたじゃねぇか!? ところで、モーガン・フリーマンってまさか……?」
「ええ、さとりちゃん――眠目さとりちゃんをそう評したでしょう?」
今の言葉と、ミソギちゃんの苗字で大体察したのだろう。
納村センパイの表情はかなり渋くなり、居心地の悪そうな顔になった。
ちょっと反省してるのかな? じゃあ赦してあげよう。
「――まぁ、ぶっちゃけた話それについては特に怒ってないです」
「マジか!? そりゃあ助かる!」
「でも一発殴らせてください。気持ち的に」
「マジかぁ……」
――面白い。めっちゃこの先輩と話してると面白い。
コロコロと表情豊かで、話しててリアクションがとてもいい。
やっぱりたまにはほかの男子との会話もいいなぁ。
内心喜びに満ちながら、納村センパイとコントみたいな会話をしていると、ミソギちゃんが強く服を引っ張ってきた。
「祈願君……さとりちゃんが……帰ってくる……」
「あー……さとりちゃんが帰るまでって約束だったっけ……センパイ、そういうことなんで帰ります」
「おー……なぁ左近衛? また話そうぜ。おたくみたいな普通の男子ともっと話してぇからさ」
「……はい!」
納村センパイの言葉に勢い良くうなずき、その日は別れた。
また会う時が楽しみだなぁ……!
期待に胸を膨らませて、ミソギちゃんが『コケちゃうよ……!』と心配するほどには上機嫌で部屋に帰った僕はまだ知らなかった。
「さとり…………ちゃん…………なん…………で…………?」
「ごめんね~~? 祈願ちゃんには~~邪魔されたくないからね~~」
「あの……さとり……ちゃん……」
「ミソギちゃんは~~や~~くぅ~~祈願ちゃんが暴れちゃうでしょ~~?」
――僕が納村センパイと話したことが、色んな人に迷惑をかけていたなんてことに。
「くふふ~~祈願ちゃんが目を覚ました時には~~ボクたちの時間を邪魔する人たちはみぃ~~んな、消えちゃってるからねぇ~~?」
――僕は、どうしたらよかったんだろう。
僕があの時、ささやかな反抗をしなかったら……
自分の意志で動かなかったら――
もう後悔は間に合わない。
賽は投げられたんだ、僕の過ちによって。
――これは、今ここから始まる、天下五剣の栄華その終焉の事件――
さとりミソギ姉妹の苗字である眠目。
タマバという読みだが、何気に北海道で確認されている。
苗字検索サイトだと、2017年四月時点でも大体全国に十人前後存在するという。
つまり、眠目姉妹の出身は北海道……かもしれない。