双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『あんな頭悪くなりそうな校歌歌いたくない』
――左近衛祈願

『ワラビンピック開催。実は祈願も蓮も経験済みです。あとメアリのフランス語は無理。許してつかぁさい』
――仮面兵


愛隷の章

『ワラビンピック』という催し物を知っているだろうか?

僕はこのイベントと、そしてそれを開催する天下五剣の花酒蕨センパイが大嫌いだ。

 

この催しのひどいところは何て言っても花酒センパイの発想そのものに存在している。

本当にあの人は最上級生なんだろうか。高校三年にしては絶対に出てこないような、サウナ上がりの茹った頭で思いついたとしか思えない競技の数々。

頭が初夏でも春爛漫とはこういうことを言うんじゃないだろうか。花咲か爺さんが脳内で過労死してる図が目に浮かぶようだよ。お爺さん、その頭の桜枯らしてもいいんだよ?

全く、そんなことにエネルギーばっかり使ってるからあの先輩は背が伸びないんだ。もっと大事なことに頭を使うべきだと思う。

過去には校舎の大半が焼失したこともあるし、死人じゃなくとも重体を負ってそのまま学園を退学せざるを得ないことになった人もいるし、どう考えても職権乱用のレベルだ。

 

寧ろ今までよく死人でなかったよね、かくいう僕もさとりちゃんがいなければ死んでたかもしれないって思うくらい出だしからしておかしい競技だったし。

どういうことだよ『熊とアルプス一万尺』とかサーカスでもやらないようなことがラインナップされてたんだぞ!? あの時挑んだのが貫井川センパイじゃなかったら間違いなく死んでたと思う。

そんな当の主催者は矯正目的とか、これは暴力ではなくて体育だとか、どう聞いても言い訳にしか思えないようなことの数々しかのたまっていないのだが……

 

 

「第十三回ってことは、この瞬間まで十二回は開催すること許されてるんだぜ……嘘みたいでしょ……?」

「大丈夫だよ~~。今回は~~祈願ちゃんを巻き込まないってことで蕨ちゃんを許してあげたんだから~~?」

「おかしい。さとりちゃんとのキャッチボールが成り立たないのがおかしい!」

 

 

さとりちゃんのいうことが真実だとすれば、なんてひどいことだろうか。

哀れ納村不道センパイ。四十人重軽傷にしたという実績を持っていたとしても、この極悪非道無慈悲ド畜生サーカス団長ロリBBA花酒センパイの前には儚く潰える学園生活となるんだろう。

ちなみに悪口の大半は僕が言ってるけど、ロリBBAに関してだけは僕が言い出したわけではないことを主張しておく。

 

……そういえば女帝センパイの時はワラビンピックやってなかったなぁ。なんていう理不尽。許しがたい。

 

 

 

さて、なぜ急にこんな話をしだしたのかと言えば、僕が月1の朝礼を教室でサボっている間にその『ワラビンピック』とかいう、アンサイクロペディアも記載を自粛するレベルのエ()()トリーム競技大会が開幕宣言されていて、その参加者対象が噂の納村不道センパイ・鬼瓦センパイ・亀鶴城センパイだったという話。

昨夜さとりちゃんが『蕨ちゃんに呼ばれてるから五剣会議行ってくるね』と言っていたのだが、なるほど、こんな洪水に主催者ごと流れてほしい大会について話し合っていたなんてちょっと悲しい。

 

 

「え~~だって会議に出たらぁ~~、この前のお外サボりを~~見逃してくれるって言ってたし~~? それにぃ~~ワラビンピックの開催だけしか話し合ってないから~~?」

「うわぁ……やっぱロリBBAセンパイ気づいてたのかぁ……」

「祈願ちゃんさ~~トラウマなのはわかるけど~~蕨ちゃんに聞かれないようにしてね~~?」

 

 

一体なぜ納村不道センパイだけではなく、鬼瓦センパイと亀鶴城センパイまで参加者に巻き込まれているのかというと……

なんか難しいことを言ってたのだが、理由が大体『天下五剣としてふさわしくない』とかなんとか。

あと今『あの爛れた二人のような例外はもう作らんぞ……!』とか息巻いてたけど、それって僕らのことだよね。

そこら辺に関しては本当に申し訳ございません。できればさとりちゃんを刺激しないで穏便に、そこらへん指導してくれませんでしょうか。

――まぁ、できたら最初からやってるよね。僕もやってる。でもできてないんだ、ほんとごめんなさい。

 

 

「でさ……さとりちゃん」

「ん~~ごめんね~~? 流石に開催は認めちゃってるから~~マスコちゃんを助けるのはできないかな~~」

「そっか……さとりちゃん介入できないもんね……」

 

 

さっきは悲しいとか言ったんだけど、正直今回の五剣会議は詰みだっていう事実がある。

五剣会議の大きな特徴は『普段全員揃わない』ということと、≪同票の場合は年長者を優先する≫というもの。

鬼瓦センパイと、亀鶴城センパイの二人が今回対象に入っているということは、それ以外の三人で開かれたということ。

そして貫井川センパイがいつも付き纏っている因幡さんは、転校生以外の議題における五剣会議には全く顔を出さないので、実質議決者は花酒センパイとさとりちゃんの二名になる。

つまり、さとりちゃんがどっちの意見を出したとしても――花酒ロリBBAセンパイの思うがまま。

体裁だけの理由でさとりちゃん呼びつけてるんだから本当に性格が悪いよあのBBAセンパイ。

 

それと、あのBBAの悪いところは、マスコセンパイ始めとした男子生徒をボコボコにしてちょうぼう室? とか、外に磔にしたりと、平気でなんも悪くない人たちを傷つけてること。

出来れば助けてあげたいけど――さとりちゃんが言ったように、ワラビンピック開催中は五剣間の取り決めで救助できないことになってる。

だけど、ワラビンピックが終わってくれれば……!

 

 

「いちお~~≪お姉ちゃん≫とかには言っておいたから~~合図すれば動けるようにしておいたよ~~?」

「うん……その時はよろしく」

「任されました~~もちろん~~支払いは夜にね~~?」

「……バレない様に、で、お願い」

 

 

――結局、また引きはがせなかった。

悪口をさんざん言ったあとで言うのも恥ずかしいのだが、こういう時しっかり踏み込んで矯正しようとしてくれるクソBBAセンパイの存在というのはとってもありがたい。

 

 

拡声器を使った花酒センパイの声が響き始める。

第一種目だった『けっぱれ! 暴れ大相撲』とかいう、熊と相撲をするなんてまるで金太郎としか思えない、コンセプト自体がばかげている競技を、まさかの大番狂わせで納村不道センパイが勝ちをとった。

それによってなんかいきなり生徒全員が校舎に入り始めたのだ。

なるほど、褒美の授与式という名目で親衛隊総出によるリンチを行う『レッドペッパーなんたらかんとか』が行われるのだろう。

やっぱりあのBBA性格悪いな、貫井川センパイの悪口もあながち間違ってないぜ。

 

 

『納村不道! よくも――いや! ≪よくぞ≫やってくれた! 褒美をとらす! 授与式じゃ!』

「ねぇさとりちゃん、ワラビンピックはこれで終わり?」

「そうだね~~結局キョーボーちゃんがノムラちゃんとお相撲して~~、は~~い終わり~~! だもんね~~」

「じゃあさ……!」

 

 

僕の言いたいことが伝わったのか、さとりちゃんは携帯を弄りミソギちゃんを始めとした親衛隊メンバーに合図を送る。

連絡を取り終わったさとりちゃんは僕の手を取り、教室に入ってくる

 

 

「じゃあいこっか~~?」

「えっ、どこに」

「う~~ん、中から出て行って~~どこか暇をつぶせるところ~~!」

「まったくもう……まぁ、サボれるならいっか……」

 

 

教室に戻っていく各々の生徒の流れに逆らいながら、僕たちは三階に向かって降りていく。

目的は渡り廊下、一番近い出口がそこだ。

道中で花酒センパイの親衛隊『花酒三十四―WRB(ワラビ)34―』のメンバーに出会うが、みんなさとりちゃんがいることに驚いてしまって、その間にさとりちゃんが一撃叩き込んで終わらせちゃうから何もやることなく無事にたどり着いてしまった。

 

ところであのセンパイの親衛隊って秋葉だったり欅坂だったりで公演でもやってそうなんだけど、蕨って地名あったかな?

――さとりちゃんから借りた携帯で見てみたらあったわ蕨市。もうセンパイはここで劇場開いてくれよ。卒業しないでもいいので学園から出て行ってくれると嬉しいかな。

きっと公演に熊を用いることで一躍有名になってくれればしばらく戻ってこないから学園は平和になるし。

 

――ちなみにさとりちゃんの親衛隊は『覆面女子』だ。

皆がみんなカツラとジェイソンマスクを着用して、「テン・ソウ・メツ」とか言いながらどこからともなく集まってくるのと、見た目がものすごいホラーなのでどの人が誰か全く分からないのも特徴だ。

さとりちゃんの姉、ミソギちゃんもわざわざ着用して参加してくるのだから、ここまでくるとカルト的な何かと思ってしまう。

 

いつの間にか渡り廊下まで、僕に何事もあるわけなくたどり着いてしまった。

さとりちゃんは蝶番のあたりを叩き割り、扉を勢いよく蹴り飛ばした。

 

 

「あ~~、ノムラちゃんたちだ~~」

「眠目!?」

「さとりさん!?」

「はろ~~!」

 

 

突入直前の納村不道センパイ一行が一階の方にいた。

こっちの方を最初から向いていたっぽいし、きっとこの渡り廊下から突入する作戦でも考えていたのかな?

 

 

「貴様……クラス全員を1人で倒したと言うのか!?」

「ん~~そうやって驚いてスキだらけだったから一撃入れたら倒れちゃっただけだよ~~?」

「相変わらずの『バケモノ』っぷりでしてよ……!」

 

 

あ、鬼瓦センパイたちがなんか噛みついてる。さとりちゃんはあまり聞く耳を持ってないっぽいけど……

――少しよそ見をしている間にさとりちゃんはいつの間にか一階に飛び降りており、僕の方を見上げていた。

 

 

「祈願ちゃんおいで~~?」

「……降りろって?」

「だいじょ~~ぶ~~! さとりがぁ~~優しく抱きしめてあげるね~~?」

「こっこっ、公衆の面前でっ! はッははは破廉恥だぞ貴様っ!!」

「『スケベ』!この『ドスケベ』!『破廉恥』でしてよ!!」

「うわぁい、ためらっただけなのになんでこんなこと言われてるんだろう……」

「聞いてるだけで想像が膨らんじまいそうなやり取りたぁ……おたくらやるなぁ」

 

 

亀鶴城センパイに至っては何を言ってるかわからないけれど、絶対なんかよくないこと言われてるって、僕はわかった。

あと納村不道センパイも何を想像したのかちょっと聞かせて欲しい。聞かせてもらった後にぶん殴るから。

――直後、体が誰かに持ち上げられる。両隣を見ると、覆面女子の人たちが僕を抱えているではないか。

 

 

「あのさ……せめて一言言ってからにしてくれない?」

『テン……ソウ……メツ……!』

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

僕の訴えも空しく、彼女たちによって体はあっさりと落とされ、さとりちゃんの腕の中に納まる結果となった。

担いだ子のこと覚えとこう。あとでミソギちゃんに『もう少し優しく担いで』って文句言いたいし!

 

 

「おおう……男のお姫様抱っこったぁ……やるなおたくら……」

「何意味の分からんことに感心しているのだ馬鹿者!!」

「さとり達はぁ~~ちょぉ~~っとどこかにいってくるからね~~これにて~~!」

「待て眠目、左近衛!まだ話は――」

 

 

鬼瓦センパイの制止も空しく、さとりちゃんは僕を抱えたまま彼女たちの真横を通り過ぎる。

その際に、僕は納村不道センパイの顔をしっかりと初めて見た。

 

 

「さとりさ~~君のことだぁ~~い嫌い。モーガン・フリーマンみたいって言ったし~~?」

「――おたくぁ……!?」

 

 

写真で見るよりも軽薄そうなのにしっかりと前は向いていて、それでいて≪ひどくいじめられた≫感じがする人で……

 

 

「じゃぁ~~ねぇ~~!」

「っ待て!」

「祈願ちゃん抱えてるからやぁ~~だぁ~~」

 

 

でも、強いなって思った。だって、僕と違って逃げないで真正面から反抗できているんだから。

――なんて、うらやましいんだろう。

なんで、貫井川センパイもだけど、意思をはっきりと示せる人が多いんだろう。

なんで僕は――さとりちゃんにずっと頼っているんだろう。

 

 

「ほんと~~鬼ちゃんも亀ちゃんも困っちゃうね~~……祈願ちゃん~~?」

「……降ろして。もう、歩けるから」

「そっか~~、じゃあ手はつなごうね~~」

 

 

僕は情けない。彼女の要望に基本逆らえないから。

そして逆らえない、弱い僕が僕は嫌いだ。

――でも、こうして握ってくれる彼女の暖かさは、好きだ。

 

……でも、いつかはさとりちゃんから離れなきゃ行けない時が来るはずなんだ。

強くなりたい。

納村不道、あなたの強さは…どこから来てますか?




眠目さとり、および覆面女子のモデルは創作怪談の怪異『ヤマノケ』だと考えられる。
掛け声の『テンソウメツ』、さとりの独特な手の動き、学園内にて伝染する『覆面とカツラの女子』――つまり、その怪異による最初の犠牲となった者は……

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