双主革新奇聞ディストリズム 作:マッキー&仮面兵
――マッキー
変態の章
五剣会議で思わぬ蛇に噛みつかれることになるとは思わなかった。これだから年増は嫌いなんだ。
新しい転校生がおかしいとか言ってたけど、こんなところに流されてくる人間がまともな訳ないだろう。たまに祈願みたいな運の悪いヤツも混じってるけどな。
まぁあの五剣がわざわざ警戒するんだ、相当ホネのあるヤツに違いない。同じクラスらしいし、機会があったら是非お近づきになりたいね。
教室で会うことはまずないと思うけど。
大講堂を出て校舎に向かっているが、今はちょうど登校時間だ。当然ながら寮から校舎に歩く生徒とすれ違う。
シチュエーションはどこの学校にもあるもの、しかしその光景を作っている生徒の大半がオネエだと途端に異色になる。
何が悲しくて朝から気持ち悪いオネエを眺めなくてはならないのか。
眺めるならば女子小学生に決まっているだろうッッ!!
「そう思わないか月夜ちゃん!」
「何を言い出すんですか。いきなり思わないかと聞かれても意味が分かりません」
「もちろん朝見るべきなのはロリッ子だって話だけど?」
「そんなの知りませんし、なぜ私に同意を求めるのか理解できません。それと小声で叫ぶなんてどれだけ器用なんですか」
「愛の力さ!」
愛があれば何でもできる!すべては月夜ちゃんを愛でる為に!
あぁ、その呆れてる表情もいい。これだけで生きてる実感が持てるよ……。
「まぁホームルーム中の私に配慮して小声なところは褒めてあげます。ですが、出来れば窓の外からこちらに身を乗り出すのはやめてくれませんか?目立ってしょうがないです」
「え?俺は気にしないけど?先生だって気にしてないじゃん」
「私が気にしますし、先生のは気にしてないのではなく諦めてるって言うんです。そこで見てるなら教室の中にいる方がマシなので、早く入ってきてください」
これはあれか?月夜ちゃんに誘われたってことは……合法ってことか!?
認められたならば行くしかあるまい!ここで行かねばロリコンが廃る!
君の瞳にフォーリンラブ!
まぁ月夜ちゃんの瞳を見る時はだいたいぶっころ案件(主に俺)だしめったに開かれないから、正しくは『君の瞳』じゃなくて『君の年齢』だね!これはロリコンとして当然の帰結!
「ほよ、私が招いたら嬉々として入ってきましたね。そういう躊躇いのなさにガッカリです」
「え~……お兄さんその『ガッカリです』はちょっと理不尽じゃないかと思うんだけど。ほら、先生も呆れてるじゃないか」
「私ではなく蓮さんに呆れているのだと思います。私は優等生なので先生に呆れられるようなことはしませんし」
「おぅふ、自分で優等生って言っちゃったよこの子……先生も何か言ってやってください!」
「いや言わせてもらうと『そもそもお前高等科だろなんでここにいる』とか、『窓の外からHR中の教室に入るとか非常識すぎだろ』とか、『確かに因幡さんは優等生だけどお前が関わるとおかしくなるんだよ』とか主に君に対していろいろあるんだけど……」
先生の口から出てきたのは俺に対する文句がほとんど。まぁ言ってることが"それな!"すぎて反論出来ないね!
だが改める気は全くない!これはもはや巡礼、朝から月夜ちゃんとの接触によって1日の活力をチャージ!やっぱり小学生は最高だぜ!
「ここに君が来るようになってから色々おかしくなってるわ……今日も百舌鳥野さんが出て行ってしまったし……先生自信なくしそう」
「ののののちゃん出て行ったって、何があったの?あの子は五剣鬼BBAが関わらなけりゃいい子ちゃんだったろ?」
「その通りです。鬼瓦さんは現在件の転校生と戦闘中で、それを見た百舌鳥野さんは慌てて走っていきました」
「転校生と戦闘ぅ?なんだ、初日からトバしてるじゃないか!やっとホネのありそうなヤツが来た!月夜ちゃん、今どんな感じ!?」
「そこから見ればいいとと思いますが……私が解説しながらの方が分かりやすいですか」
確かにここからでは大局を眺めるくらいしか出来ないし、月夜ちゃんの解説はホントに分かりやすいから助かる。
はてさて。転校生が鬼BBAの攻撃をひたすら避ける、あるいはいなしている。しかも全てを危なげなく回避していることから、あの転校生の力量がうかがえるね。
「鬼瓦さんの流派『鹿島神傳直心陰流』は呼吸法が特殊です。名を『阿吽の呼吸』といい、呼吸で内筋をコントロールするんです」
「呼吸で内筋を?つまりどういうことだ?」
「気管に異物が入ると咳き込みますよね?これは異物の侵入に対して、全内筋を使って体外へ出そうという動きです。この動きを利用して本来意識して動かせない内筋をコントロール、さらには鍛えることも可能」
「ほーん、インナーマッスルを本格的に鍛えるなんて発想はなかった」
普通に筋トレはするが、身体の内側を鍛えようと思ったことはないなぁ。なんでも鬼の流派では多すぎる筋肉は呼吸の邪魔でしかなく、つけられない筋肉の分を腰の使い方と呼吸法で補っているらしい。道理でここまで聞こえてくる剣戟の音が"ガギン"やら"ギィン"やら重いわけだ。
あの細腕のどっからパワー湧いてるのか常々疑問には思っていたが、やっと解消された。まさしく鬼、あの鬼BBAには出来るだけ近づかないようにしないとな。
瞬間、教室が沸いた。
「なんだ!?ってBBAがふっ飛ばされた!?やっぱ今回の転校生は当たりも当たり、大当たりだ……って月夜ちゃんどうした?おめめパッチリしてるけど……もしかしてうるさかった?」
「いえ、何でもないです。気にしないでください」
「そう?まぁいいけどね!そんなミステリアスっぽい月夜ちゃんも可愛いから!」
「はぁ、本当にガッカリです。……む」
「おぉ!?」
また教室、いや校舎が揺れた。
転 校 生 と 鬼 B B A が キ ス し て る
転校生が鬼を組み伏せているところにののののちゃん乱入、転校生の頭を警棒でしばいたらそのままチュー。
これは予想できなかったなぁ!まさかののののちゃんの一撃でマウストゥーマウスしちゃうなんてなぁ!
「いや~これは予想外、こんな展開になるとは誰が予想しただろうか」
「それは鬼瓦さんが負けたことですか?それとも……き、キスしちゃったことですか?」
「両方かな!キスっていうの恥ずかしいなら無理しなくていいのに!そんなところも可愛いなぁ!可愛すぎてツラいよ!」
「うるさいですほっといてくださいブッコロですよ」
「照れちゃってもー!これだから月夜ちゃんは最高なんだ!」
――去勢してやるー!!
――そんなんだっけ!?
何か聞こえた気がしたが、月夜ちゃん可愛すぎて頭に入ってこなかった。
***
突然ですが、俺は今とてつもなく犯罪臭がする現場に鉢合わせています。
え?お前が今までやって来たことの方が犯罪だって?いやだなー、全部示談で手打ちにしてるからセーフだよ。
「泣ーかしたー泣ーかしたー!転校生がー泣ーかしたー!……これはケジメ案件では?」
「茶化しから一転してマジトーンはやめてもらえませんかねぇ!?」
「いや~流石にマズいんじゃないの?鬼BBAのキスに続いて下級生泣かしとは、男としてどうかと思うぞ」
「俺もそう思うし泣きたいのはこっちだァー!!」
実際ヤバい。今の光景を客観的に見るなら――泣いてる女の子2人(鞭で縛られてる)のそばで佇む若い男。
完全に事案である。お巡りさん呼ばなきゃ!
「ま、この子たちは何とかしておくから教室戻れ。一応知り合いなんでな」
「おっ、マジでか!助かるぜ!」
「そら行った行った、はよ行かんと窓からなんか構えてるクラスメート見えてるぞ?」
「おおおお!?ソフトクリームを投げるなー!しかもチョコ味!」
転校生はソフトクリームを全身で受け止めながら校舎に入っていった。あれどう見てもうん……これ以上はやめておこう。
よし、とりあえずこれ以上の混乱は避けられた。
さしあたっての問題はこの子たちを泣き止ませることなんだが……どうしよう。
「貫井川、センパイ?」
「あら?いつの間にか泣き止んでる。キミら泣き止ませるのどうしようか悩んでたから、良かった良かった」
「えっと、あの××××はどこに……?」
「うんサラッと放送禁止用語使うのやめようね、せめて変態――じゃ俺と被るか。脳ミソ下半身直結野郎とか?」
「さすがにそこまでは……。出来ればこの状態から助けて欲しいのです」
確かに鞭が絡みついているせいで動きにくそうだ。なんで彼女たちの身体に触れないように鞭をほどく。
こんな時こそラッキースケベじゃないかって?馬鹿言うな、俺は紳士だぞ?気安く女性(中学生以下)の身体に触っていいわけがないだろう!
「すいません、助かりましたですわ」
「本当にありがとうなのです。あの野郎に負けてしまったときにはどうなることかと思ったのです」
「なーに、気にせんでいいさ。知らない仲でもないしな、それに鬼と亀に恩を売るって下心もあったし」
「蝶華ぁー!!」
「噂をすれば、だ」
こちらに向かって走ってくる金髪、腰にはレイピアを帯剣している。
つまりは天下五剣であり、月夜ちゃん以外の天下五剣はすなわち皆BBAである。
あ、さっきの言葉を五剣はともかく祈願の前で言っちゃいけないぞ?五剣にキレられても何ともないが、緑と仲が良い祈願に嫌われるのはいろいろよろしくない。初めて会ったときに緑をBBA呼ばわりしたことについてで、ちょっとした(当社比)喧嘩になった。
「蝶華!無事でしたのね!」
「メアリお姉様!……アタクシ負けてしまいましたですわ」
「とりあえず無事でよかった、ただ死ぬほど情けなくってよ」
「そんなに責めてやるなって。こいつらはまだ中学生、これからだろ?まぁ高校生という名のBBAになってしまうと思うと心苦しいが」
「……どうしてあなたがここにいるのか死ぬほど疑問でしてよ」
高校生とBBAという単語にピクリと反応したが、2人の手前なんとか抑えたようだ。この自制はさすが五剣といったところ。
「俺はたまたま通りかかっただけ、それはこの子らが証言してくれる。それじゃあ五剣も来たし、そろそろお暇させてもらうよ。ののののちゃんを頼むね、元気に来てくれないと月夜ちゃんが悲しむから」
「ふん、言われるまでもなくてよ」
後日、月夜ちゃんから転校生と亀BBAが戦っていたのを聞かされた。決まり手は『ザッシ・イッサツヴン・リーツィ・ノヴァース』らしく、可愛く首をかしげて「どんな技なんでしょう」とか言っていた。
多分『雑誌一冊分リーチ伸ばす』をそれっぽく言ってみただけじゃないかなぁ!
***
共生共生きょせきょせ共生 明日でなく今日せい
共生共生きょせきょせ共生 兎に角今日せい
「相変わらず耳を疑うような校歌だな」
「これでも必死に考えてたみたいですよ?確かにひどい歌詞だとは思いますが」
「この歌を覚えさせて月一歌わせるとかどんな拷問だよ……まぁ出たことないけどな!」
「いい加減一度は出た方がいいのでは?」
「え?いやだよあんなの」
なにが悲しくてゴザの上に正座しに行かないといけないんだ。この行き過ぎた男女差別よ、どうにかしろ!
そういえば何か外が騒がしいような……。
『ひょひょひょひょひょっ!元気じゃったかーッ!?』
「朝からうるせぇ!!」
『天知る!地知る!わらわが知る!その治世を揺るがす狼藉者よ!』
「別にお前の治世じゃねえぞロリBBAァ!!そしてうるせぇ!!」
『嘆かわしいぞよ!風紀の乱れは精神の乱れ!それ即ち肉体の乱れ!』
「それ祈願の前でも同じこと言えんの?」
朝からうるさい、マイク使って大声出すってバカじゃねーの?おかげで月夜ちゃんは手で耳を塞いでいるよ!可愛い!
『ならば開催するしかあるまい!血の祭典!die運動会!花酒蕨特製共生メニューその四!』
「え、まさか"アレ"やるの?バカじゃねーの?バカじゃねーの!?」
「花酒さんは本気のようですよ。わーらーびー34がいたるところに配置されているようです」
「待って今のすっごい可愛かった!もう一回言って『"ワラビンピック"じゃあ!!』うるさいふざけんなクソロリBBAがァー!!お前じゃねーんだよすっこんでろ!!」
月夜ちゃんの『わーらーびー』にすごく萌えていたのにBBAに邪魔された!今度会ったらただじゃおかねぇ!!
『たかいたかーい』してやるから覚悟しとけ!!
ともかく、ヤツの宣言通り"ワラビンピック"は転校生をターゲットに開催されるだろう――
校歌のついては原作漫画を参照。
恐らく曲を作ったのは、先代の理事長などであろうと考えると、鳴神一族(月夜の一族)の剣術以外における方面のセンスのなさはもしかしなくても筋金入りではなかろうか。