双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『人間という物は、自分自身の持ち物と、名誉さえ奪われなければ、意外と不満なく生きてきたのである』
――ニッコロ・マキャヴェッリ

『今回の間章は転校初日、納村君がマスコから教わるシーンから。マスコから見て、二人とはどのような人物なのか……』
――仮面兵


間章:その名は「親切心」

学園敷地内にたたずむ、男子専用の寮――昇華寮。

転校当初、数々の男子から『監獄』と称された施設の一部屋では――

 

「なぁ、外出許可証ってどうやったらもらえるんだぁ?」

「許可証書自体は、五剣筆頭の鬼瓦輪がもってるんじゃない? アンタが今日早速やらかした相手ね、ご愁傷様」

「げぇぇ、そりゃあマジで困ったもんだなぁ……」

「印象がマイナスからのスタート、絶望的ね」

 

――愛地共生学園二年、その見た目から大仏様と言われたこともある増子寺楠男、通称マスコ。

そして、常にけだるそうな、悪だくみをしているようにも見える、納村不道。アクセントは頭につけること、名前に「さん」を付けないことに拘っている少年だ。

彼は今日外部校から転校し、初日HRから天下五剣の鬼瓦輪とひと悶着を起こし、あまつさえ事故と言えど彼女の唇を奪うという暴挙を犯してしまった男。

 

彼ら二人が、同室の好として学園についての話に花を咲かせていた。

――いや、正しくは、マスコによる『愛地共生学園において覚えるべきこと』が納村に聞かせられている。というのが正しいだろう。

 

現在話題に上がっているのは『どうやったら学園外に外出できるのか』ということ。

『従う』ということを極端に嫌うがゆえに、不真面目なことに対しては人一倍に勤勉な納村だが、面倒を避けるためならルールに則ることもさすがに検討する。

無断外出における制裁が、天下五剣二名以上によるものだということをマスコによって教えられ、流石に面倒くさいと感じたのか、彼は正攻法に切り替えることとした。

 

しかしながらここでも問題が発生する。

発覚する問題に対して彼は頭を抱えた。

 

「それに、証書だけじゃ意味がないわ。五剣全員と学園長の印があってこそ、外出許可証としての体を成さないの」

「全員ってか!? それって、『誰がオレにヤキ入れるか』って話し合いしてた連中のだろ!?」

 

納村は転校前におこなった事が事であるゆえに、歴代の五剣会議の中でも特にトップクラスの厳戒態勢を敷かれていた。

それに加えて『女帝』天羽斬々が彼を気にかけたこと、鬼瓦を撃退したことにより、納村に対する警戒は激化。

少なくとも――五剣全員が納村に対してはいい印象を抱いていない。

そう、マスコは判断した。

 

「許可が出た前例ってのはあるのかぁ?」

「あったら最初から教えてるわ。残念ながら0よ」

「あー……頭痛がぶり返してきやがった……」

「あら、痛み止めはあるの?」

 

頭を抑える納村にマスコは心配を投げかける。

 

「包帯と一緒にもらってきた」

「そう、ならいいけど。欲しいものがあるならさっき渡したリストに数記入しなさいよ。もし手持ちがないっていうなら、学園内のバイトがあるから紹介してもらうといいわ」

 

納村はマスコから事前に受け取っていた生活必需品購入リストを眺める。

彼は一つ引っかかるものがあった、マスコの図体だ。

生活必需品だけしか手に入らないというのならば、マスコほどの恰幅の良い男子生徒なぞ誰一人たりとも存在しないだろう。

つまり、彼がその図体を保てるほどの嗜好品を調達するルートが必ずどこかに存在する。

そう判断した納村は早速問いただすことにした。

 

「――もちろん、嗜好品を調達するルートはあるんだろぉ? おたくは必需品だけでそんな体型保てるわけないだろうしよぉ」

「――めざといのね。正解よ、調達屋がいるわ」

 

マスコは舌を巻いた。

納村は少ない情報から裏ルートの存在を推測できたという事実。

彼は大変頭が回る――もしかするなら。

マスコは期待を抱いた、彼ならば、もしかするならば、天下五剣を、今の愛地共生学園に新しい風を吹かせてくれるのではないか。と。

 

「まんま、外国の刑務所じゃねぇかぁ。そいつ、モーガン・フリーマンみたいな女じゃねぇの?」

 

――マスコは期待を撤回した。

それどころか、一瞬でも期待を抱いたことを後悔した。

それはモーガン・フリーマンというよりも、正しくは映画『ショーシャンクの空に』の登場人物『エリス・ロイド・レティング』だ。さらに調達屋という部分でしかかみ合っておらず、立場についても、それは自分たちのような囚人側が言われる表現だろう。

 

それと、これが一番重要だが、モーガン・フリーマンみたいなというのは、間違ってもうら若き女子高生に向けて表現する言葉ではない。

こんなことを言ったと、相手――眠目さとりに言わなければならないこと自体が大変胃に来る案件であるということも相まって、マスコはひどく納村を恨んだ。

 

言わなくて済むならば、それに越したことはないのだが……自分たちの嗜好品を仕入れてもらう為には、こういった情報の密告は必要経費として求められる。

仮にも相手は天下五剣――結局、男子生徒は彼女たちの手の上で生きることを強いられているのだ。だからすまないと、マスコは納村に心の中で謝罪を入れる。

 

「はぁ……ま、相手の機嫌は損ねないことね。忠告はしたわよ」

「そーかい、あんがとさん。で、早速明日の朝までに仕入れてほしいもんがあるんだけどよぉ――」

 

 

マスコに希望を伝えた納村は、ふと気になったことを投げかける。

 

「そーいえばよぉ、校門くぐってたときに叫びながら引きずられてるやつがいたんだよ」

 

マスコの頬がピクリと動く。

二段ベッドの上に陣取るマスコの表情が納村に見えないことが唯一の救いだった。

 

「あとそれを引きずってるやつも見たんだわ。というかよぉ、真ん前つっきてた」

 

マスコは顔を引きつらせる。

彼は絶対に、彼らのことを問いただしてくる。その確証があったからこそ、どう説明するかを今のうちにと、頭で整理し始めた。

 

「あの二人――今思い出したから聞くけど、おたくらみてぇじゃなくて、普通の男子だったよな?」

 

納村は直後マスコのインパクトにやられて一時的に忘れていたのだが、校門をくぐった段階で、叫び声をあげながら引きずられる男子を目撃している。

彼らは大講堂――すなわち、五剣会議の会場へと向かっていった。そう彼は記憶している。

 

「あの二人は天下五剣ってのとなんかしら関係あるんだろぉ?」

「……教えられないわね」

「おいおい、そりゃあないぜマスコぉ……」

 

納村は肩を落とす。

折角見つけた普通そうな男子だ、ぜひともお近づきになりたいものなんだがなぁ。と、落胆の声をあげる。

直後、マスコが語り始めた。

 

「――アタシが独り言言ってたって、周りに言いふらさないでちょうだいよ? まず引きずっていた方の男子。あれは貫井川蓮って言って、アタシたちの同級生。残念ながら授業で顔を合わせる回数はほとんどないわ」

「オイオイ、すげぇサボリーマンだな、単位大丈夫か?」

「頭がいいのよ。成績だけは優良生徒としてトップクラス、出席率の悪さと反比例する成績が教師、そして鬼瓦輪の悩みの種って専らの評判よ」

「……あん? 同じクラス、そして鬼瓦ってことは……天下五剣を相手に授業サボれてるってことか!? オレもワンチャンあるかぁ!?」

「アンタの方が直々に目をつけられてるんだから、うかつにサボれるとは思わないことね」

 

しかしながら、納村の疑問はもっともなものである。

貫井川は鬼瓦の矯正を逃れている。しかし、五剣会議の会場に出向くなど、五剣とは何らかの深い関係がある。

矯正を逃れながらも、そのような立場であれるというのはどういう境遇なのだろうか。

 

「貫井川はアタシたち男子の中でも伝説的よ。共生学園に転校した理由が『幼女のストーキングを日常的に行っていたから』ってことらしいのと、『そのすべてが訴えられることなく全て示談で解決していた』らしいってこと」

「とんだボンボンじゃねぇか!?」

「転校してから、天下五剣によって矯正を求められているけど、半年以上経った今も未だに変わらずじまい、空振りって話よ。おかげで最優先矯正対象として、天下五剣直々に監視されている状態ね」

「監視されてるって結果があれかぁ……」

「一番恐ろしいのはその胆力よ。転校初日から天下五剣相手取って『このBBAども!』って臆せずいえる神経」

「とんだロリコンじゃねぇか……!?」

「当然キレた五剣が攻撃したけど、全部躱して逃げて行ったっていうのは有名な話。あまりにもクネクネ軟体生物のように動くことから、ついたあだ名は『軟体変態』」

「……うわぁ、なぁんか、仲良くなれる自信がなくなってきちまったぜぇ……」

 

納村は愕然とするが、当の貫井川は『バカやれる男が欲しい』と望んでいるので、杞憂になるのはまた別の話。

 

「……で、もう一人は何て言うんだ?」

「もう一人は……」

 

言い淀むマスコに対して違和感を覚える納村。

マスコは意を決して口を開く。

 

「――左近衛祈願。天下五剣の一人、眠目さとりのお気に入りよ」

「お気に入り……だから五剣会議にも参加できたっていうことか」

「アタシからはこれ以上何も言えないわ。ただ、忠告してあげる。彼について下手なことをいうのも、下手に干渉するのもやめておきなさい」

 

マスコは意地悪でそのような判断を下したわけでもない。

彼にとって、眠目さとりは畏怖すべき存在であり、すがるべき存在である。

そんな彼女が目にかけている存在を下手に紹介することはできない。

一つしくじれば、自分たちの首を飛ばすことにもつながってしまうのだ。

それほどまでに、さとりは祈願に依存している――とも、考えられるのだが。

 

「――なぁ、その二人は男子寮にいんのかぁ?」

「いないわよ。あの二人は五剣直々に監視する目的で、特別寮に入っているもの」

「マジかよ、女子に囲まれて朝も夜も過ごせるって天国じゃねぇか!」

「茶かすのもそこまでにしておきなさい。じゃあ、例のものの用意はしておいてあげるわ」

「おう、サーンキュ!」

 

夜は更ける。

なお、納村の発言をきいたさとりはいたく憤慨し、マスコはその様子に恐れ、激しく頭と胃を痛め、祈願に鎮痛剤を譲ってもらうなどということになるのであった。

 




さとりは看守側の調達屋。モーガン・フリーマンは囚人側の調達屋である。

ちなみに、アニメと原作漫画では外出許可書に学園長の印がいるか要らないか大きく違っている。


次回
第二節:開催「ワラビンピック」、二剣の時間は飛ぶ
7/26、21:00より順次公開

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