双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『自慢の姉、素晴らしい両親。そんな人たちから離れなきゃって思って、この一年連絡を取らなかったのに……忘れられないのはなぜだろう』
――左近衛祈願


『第七節からは間章を基本入れない方針です。今まで彼らが関わらなかったからこその視点が、彼らの変化によって関わらない視点がなくなっていく。二人の交流が増え、関わる様になっていくという意味も込めて

愛隷の章七節は、問題児祈願君の環境整備です。段々と蕨の株が自分の中で挙がっていますが、それでもワラビンピックだけは許してはいけない』
――仮面兵



第七節:新たな「一歩」、新たな「空間」
愛隷の章


変態たちが主催した『チキチキ! 天下五剣With例外男子三人&五剣関係者親睦会』から数日。

僕について、大きな変化がいくつか起こった。

 

まず一つ、僕は夏休み以降にさとりちゃん、ミソギちゃんと同じクラスで授業を受けられるようになった。

今まで二人とは違うクラスで授業を受けていたからがゆえに、僕自身の問題から満足に出席も叶わなかったけれども、二学期以降はその心配がなくなると花酒センパイが教えてくれた。

わざわざ学園長に掛け合ってくれたというのだから、初めてセンパイに直接面と向かってお礼を言ったほどありがたい話。

代償として二学期以降の怪我や病気を除いた出席率は90%を下回らないことを約束づけられたけど、彼女たちと同じ教室で授業ができるならそれくらいの条件は安いものだと思ってる。

 

 

『お主が学生としての本文を碌に果たせぬ理由を勝手ながら調べさせてもろうたぞ』

『は? 花酒センパイそれって……』

『……そうじゃの。それについては謝ろうではないか。じゃが、それがあるからに、わらわはお主の環境を一つ変えてやろうと思って居る』

 

 

人の家庭事情勝手に調べたことは怒りたくなったが、あの人は『決して五剣外には漏らさぬよう努める』と言ってくれたから、この頑張りを含めて赦そうかなって思える。

……うん、あの人は姉の話をしなかったし、今は信じてもいいかもしれない。

 

ちなみに夏休み前までは、授業をできる限り受けるようにと、現状維持みたいな形になったけど、何もない時はさとりちゃんたちか、変態から勉強を教わる様にって指令が出された。

 

二つ目だが、親睦会前に変態が言っていた通り携帯電話を持つこととなった。

機能は通話とメッセージだけに限られたが、五剣及び同環境男子と仲良くするために特例&実験的に許可したらしい。

もらったのは親睦会中で、もらった直後にさとりちゃんが僕の携帯を奪って真っ先に自分の連絡先を登録したのだが、その奪い取り方が衝撃的だったのはまだ鮮明に残っている。

 

 

『じゃあ祈願、これがお前の携帯な。月夜ちゃんが頑張って用意したんだからありがたく受け取れ』

『そうなの? ……ありがとう因幡さん。僕たちのために』

『いえ……卒業の際には返却してもらいますからね』

『じゃあ早速祈願のメッセージアカウント製作な! ――できた!』

『あ、じゃあ――あれ? 携帯がない!?』

『さとり姫……少々気合入りすぎではないかのぉ?』

『なんて速度だ……オレやわが師でもなけりゃ見逃しちまうぜぇ……』

『ほよ、目が見えない私に「見逃す」とはいやみですか我が弟子?』

 

 

あの時だけはさとりちゃんの速度が因幡さんの剣筋に匹敵していた。というのは納村センパイの供述だった。

直後納村センパイがどうなったかは知らない。知らないったら知らない。

 

三つめが、納村センパイに因幡さんという師ができたように、僕にも師が出来ました。

なんと花酒センパイです。

なんだかんだで花酒センパイは長年五剣に在籍しているのと、最上級生という立場なのと、その体格が理由で剣術以外にも柔術を収めている故にほかの五剣と違ってどちらに向いていても指南ができるなどの点から、場の雰囲気ありきで決まった。

 

 

『そんでロリBBA、こいつ強くなりたいらしいんだけど五剣で援助ってできない?』

『左近衛が? ひょっひょっひょ! 面白きこともあるもんじゃのぉ! ……然様か……ふぅむ、そうはいうても得手不得手がわからぬ以上のぉ……内筋が無いと教えにならぬ鬼姫とか、ちょっと競技偏重なきらいのある亀姫とか、流派的にそもそも無理じゃろって感じの月夜姫とかがのぉ……』

『緑は緑で指導に向いてるってタイプじゃねぇだろうしなぁ』

『喧嘩でよけりゃぁオレぁ教えてやれるんだがなぁ……コイツ多分殴れるタイプじゃねぇんだよなぁ』

『それ選択肢一つしかないじゃろ。わらわに話持ってきたのも最初からそれが目的じゃろお主ら』

『あ、バレた? というわけでBBA頼むわ』

『任されてやるがお主はここで矯正してくれるわっ!』

『やなこったぁ! おい祈願、このBBAがお前さん鍛えてくれるってよ感謝しなぁ!』

 

 

――僕の意志なんてなかった。

一応僕は見て学ぶことできるはずだからさとりちゃんに教えてもらうのもありなんだけど……納村センパイの言う通り、多分殴れなさそうなんだよなぁ僕は……

まぁ、じーっと考えてたってどうにもならないってものだし、ありがたく機会に乗っかろう。

……まぁ、僕が指導を受けられるのは松葉杖が要らなくなってからなんだけどね……

 

そして四つ目。

結構重要なことなんだけど、納村センパイが外出許可証の無期限停止を食らったのと同時に僕と変態の二人に外出許可証が発行されることになった。

どうやら僕ら二人に学園長なりの感謝だとか因幡さんが言ってたけど、変態はともかく僕は何もしてないし普段から学園長に大分迷惑かけてると思う。

ちなみに、学園外に外出するためには事前に書類による申請が必要なのと、五剣&関係者から同行者を各一人ずつ選ぶようにともいわれた。

納村センパイが鬼瓦センパイと亀鶴城センパイひっつれて、転校前の学校でだいぶ暴れた代償がこんなところにくるとは……

あと気づいたら、皆さんに迷惑かけたからと、さとりちゃんとミソギちゃんが寮母さんのお手伝いをすることになっていた。

 

そして、なんだか今回の女帝の乱が終わったことによるお疲れ様会的な感覚で、夏休み中の天下五剣&僕ら三人での慰安旅行が企画された。

納村センパイの許可証はこの時だけ臨時で停止解除するとか言ってて、それ無期限じゃなくね? って思った。

 

 

『慰安旅行は温泉宿で確定するぞい! わらわは断然箱根じゃのぉ!』

『Hakone……いいですわね。あたくしは花酒さんの希望に賛成でしてよ!』

『え~~ボクは海行きたいから熱海がいい~~! ね~~祈願ちゃ~~ん?』

『え……いや……僕は箱根の方がいいかなぁ……って……』

『祈願ちゃんの裏切り者~~!』

『私としてはどちらでもいいのですが……強いて言うなら箱根よりも人が少ない熱海の方です』

『あ、俺も熱海がいいな! 月夜ちゃんの水着が見られるんだろ? じゃあそっち!』

『蓮さんの理由にがっかりです』

『いやいやいや!? 何故その二択なのだ! 鬼怒川とか、湯布院とか、草津とか温泉地はほかにもあるだろう!?』

『鬼瓦……ここでそういう選択肢増やすのは明らかに空気読んでねぇって話になるぜぇ? あ、オレぁ箱根で』

『ちなみに鬼姫、今挙がった場所は距離と時間の都合で無理じゃ』

『あぁ……AtamiもYuhuinもKinugawaもKusatsuも全部捨てがたいですわ……Onsen……なんてJaponらしい……!』

 

 

行先は大分もめてたけど、多分定番の箱根か熱海になるんじゃないかな。

熱海はできれば勘弁してほしいんだけどなぁ……引っ越していなければ、僕の家がそっちだもん。

実はさとりちゃんたちに家がどこかって話はしてないし、知ってるのは花酒センパイと因幡さん、あと因幡さん経由での変態くらいじゃないかな。

あと水着姿に拘る変態は、外出許可証があるんだからそれ使ってプールでも行って視てくればいいと思う。

 

そして五つ目。

これも結構重要なんだけど……

さとりちゃんとミソギちゃんの名前が、改めて変わりました。

変わったというか、本来の元鞘に戻ったというか……

去年の時は『周りを混乱させるから』と直さなかった名前を、何か気持ちの変化があったのか、元の名前でちゃんとやっていこうと思ったらしい。

だからさとりちゃんは()()()ちゃんに、ミソギちゃんは()()()ちゃんに名前を変えて、登校し始めた。

当然の事なんだけども、先生やクラスメイト、覆面女子のみんなは結構困っているみたいで、二人の名前を普通に間違えてる。

かくいう僕も、まだ変えて数日だから間違えてる。なんとか間違える率は三割くらいに減らせたけども。

僕の時だけ、間違えると不機嫌になるんだもん。間違えられないよね……

 

 

こうして、結構いろんなことが決まったりして、変わっていくことになったんだけど。

まだ変わらないことがある。

それは、慰安旅行や花酒センパイに対する認識が関係しているんだけど……

僕の家、と言うより、僕が愛地共生学園に通う前に通っていた学校での生活に対しての……いわゆるトラウマってやつ。

 

外出許可証が発行されたけど使う予定が僕にはない。

変態は喜々として地元の小学校まで舞い戻る予定だし、納村センパイは前の学校で想い残しを清算してきたらしいけど、僕は戻らない。

できるならこのままここに居続けて、両親と姉に二度と会わない人生を送っていきたいって思ってるまである。

もちろん、家族が嫌いなわけではないけど……僕があの場所に戻ることで、今度こそ家族に手を出される可能性だってある。

前回は僕一人で全部背負ってどうにかなったけど……

ともあれ、僕は、帰らない。

 

 

 

***

 

 

 

「さて、今日からお主の指導を開始するわけじゃが……今日はとりあえず、お主の動きを見させてもらおうと思うんじゃ。病み上がりな体に無理はさせられぬでな」

「押忍! お願いします師匠!」

「……お主、キャラ無理やり作るくらいなら素でよいぞ……?」

「はい、花酒センパイ」

 

 

何とか松葉杖を外せるようになった。

そんなわけで早速花酒センパイに指導をお願いしたところ、その日の放課後を使ってみてもらうことになった。

ギャラリーにみそぎちゃんとサトリちゃんがいてくれるので、花酒センパイと向き合ってても恐怖感とかが沸き上がっては来ない。

 

 

「動きを見るといっても、基礎を知るためにひたすらキョーボーから避けてもらうって感じじゃ。無論手加減はさせる故な、体が無理じゃと思うならすぐ言え」

「はい!」

「ではキョーボー、頼んだぞえ」

「GAaaaaaaaaaa!!」

 

 

一瞬死のヴィジョンが見えたけど、大丈夫。この熊は花酒センパイの相棒なんだ、死ぬ前に止めてくれるさ!

 

 

「キョーボー、手加減しろと言うたが、あくまで寸止めじゃぞー? 左近衛も寸止めじゃと気を抜いて居ったら死ぬやもしれんから真剣に避けるのじゃ!」

「あ、それ死んだかも」

 

 

熊はめっちゃ怖い。今までキョーボーさんとまともに向き合ったことなかったから少し舐めてたけど、この日あのトラウマを忘れそうになった。

 

 

 

「左近衛の動きを見て率直に感じたことを言わせてもらうぞよ」

「どうぞセンパイ」

「お主、その動きどこで覚えた? 動き方が素人ではなかろうが、その動き方に体自体が付いていっとらん。お主の治療症状に必ず捻挫や肉離れなどが在るのは何か関係があるのかえ?」

 

 

……あ、僕肉離れにも常習的になってたのか……じゃなくて、そういえば花酒センパイたちは僕が見たものをまねできるタイプだって知らないのか。

 

 

「えっと……どこで覚えたっていうか、みんなの今までの戦い見て、思い出したからそれをやったというか……」

「バカかお主!? わらわたちの動きとか思い付きでできるものではない!」

「できてるものは仕方がないと思うんですが……」

「それが中途半端にしか出来とらんからこうしていっとるんじゃ戯け!! お主はその言葉を真に受けたとするなら、見てくれしか真似できておらんと言うことじゃろうが!」

「それは……」

「お主は正しい体の動かし方を全くわからぬまま、理論がわからねばまともにできぬ動きをマネしよるからこそ、捻挫などするのじゃ戯け!」

 

 

……ごもっともです。

確かに、どんなに頑張ってもさとりちゃんたちの持ってる刀を同じようにはもてない。

動きだけしか真似できないから、納村センパイのお得意を僕には打てない。

僕にできるのは見た目の真似だけ。頑張って鍛えてはいても、その鍛え方は標準の筋トレしかできない。

 

 

「……まぁ、お主の見たものをマネする質がわかったことで、ようやく『模倣犯』と言われていた理由がわかったのでな、その性質は身体内部の動きを理解すれば大きな強みになるとは確信したぞえ」

「模倣犯……」

「そう落ち込むでないわ。お主が捻挫などに悩まされるのはその、がわだけまねる質が理由じゃ。わらわが動き方という物を教えてやろう、タイ捨流は幸いにも五剣が扱う流派の多くにとって源流としたもの。ちと厳しいが、お主のその質ならば想像以上に早く習得もできるじゃろう」

「花酒センパイ……」

「お主の性質的に、学ぶものは柔術がメインとなるが……並行して剣術の修行も行うぞえ。お主の質を合わせれば、相手の動きをよりつかみやすくなる故な」

 

 

花酒センパイが『プランを作らねばのぉ』と意気込む。

筋トレの方は既存の内容に加えて、鬼瓦センパイが呼吸法を指導してくれることになったし、基礎体力自体も納村センパイたちが一緒に体動かすらしいし、本格的な剣術以外の鍛錬も充実することになってうれしい限り。

 

ふとみそぎちゃんの方に視線を向けると、ぷく~と擬音が聞こえそうなくらいに頬を膨らませていた。

……もしかして花酒センパイたちに嫉妬しているのだろうか。

だとすると、ちょっと申しわけないことしたなと思う。

 

 

「みそぎちゃん」

「つ~~ん! ボクじゃなくて蕨ちゃんに頼る祈願ちゃんの事なんてしりませ~~ん!」

「寂しい想いさせたならごめんね。せっかく外出許可証もらったし、今度外に遊びに行こうよ」

「……どこでもいいの~~?」

 

 

そう聞いてくるみそぎちゃんの言葉に、僕は首を横に振るべきだった。

 

 

「うん。君と一緒ならどこでも」

「じゃあ~~――」

 

 

頷いてしまったから、僕は自分の決意をあっさり無に帰してしまうこととなったのだ。

 

 

「――祈願ちゃんのお家に行ってみたいなぁ~~!」

「……それは……」

「……だめ~~?」

 

 

コワイ、怖い、こわい、恐い。

だけど……だけど……

 

 

「……いや……いいよ……?」

 

 

みそぎちゃんの前で、初めて『笑いたかったのに、笑えなかった』顔をした気がした。

 




慰安旅行についてはDVD一巻初回購入限定特典の書下ろし漫画より。
この特典漫画で蕨→月夜の呼び方や、さとりとメアリの相性について判明する等、何気に重要な情報が連なっている。
時系列は月夜と納村が師弟関係になっていることから六巻以降、もろもろ一連のお疲れ様会といった旨の発言が蕨から出ていることから、おそらく夏休みごろではないかと仮定した。

ちなみに納村のこの半年にも満たない期間の動乱っぷりは異常ともいえる。
原作四巻さとり屋上での発言などから見ると、納村の転校は五月半ば以降~六月頭ごろにかけて。
案件一つ一つの間が最長でも一週間少し(VSメアリ~ワラビンピック間)と考えると、彼はほぼ一か月足らずで五剣&取り巻き&女帝を全員相手取った計算になる。
オーバーワークにもほどがあるとは思えないだろうか?

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