双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『こんな学校にいるけど、彼女はまだまだ子供。年上として諭してあげるのがお兄さんの義務ってものだろう?』
――貫井川蓮


変態の章:兎はためらう

何の変哲もない日、今日も月夜ちゃんといつものように登校していた。ここ最近立て続けに事件起きてるからなぁ、いい加減平和な日々を送りたいものだが。

 

そんな叶いそうもない願いを思い描いていると、急に月夜ちゃんが耳を塞いだ。いったいどうし――

 

 

――BiBiBiBiBiBiBiBi!!!――

 

 

何処からか防犯ブザーの音が聞こえてくる……これは、屋上からか?

 

 

「どうやら屋上で女帝さんがはしゃいでいるようです」

 

「はしゃぐ?それって具体的には?」

 

「眠目さんが敗北、重症を負っています。さらに花酒さんもその場へ向かっているようで、おそらく二の舞になるでしょう」

 

「緑が!?ということは祈願のヤツも闘りあってるのか!?」

 

「左近衛さんともうひとりの眠目さんも一緒に戦っていますが……3人とも今すぐ病院直行くらいの重症です」

 

 

はぁ!?いくら女帝と言ってもそんな流血沙汰起こしたらタダでは済まんだろう!しかもそのキリングフィールドにロリBBAが突っ込んでるんだったら、もっと犠牲者が増えることになる!しかし今から行っても間に合う気がしない……!

 

 

「どういうことだ!?なんで今さら女帝が動く!?」

 

「落ち着いてください蓮さん」

 

「落ち着いてなんかいられないさ!こうしている間にも怪我人は増えてるかもしれないのに!俺は屋上に向かう、手当だけでもしないと!」

 

「……どうしてです?左近衛さんを除く上の彼女たちはお友達でもないのに、どうして助けようとするんですか?私には分かりかねます」

 

「どうしてって、目の前に倒れてる人がいたらそれがBBAであっても流石に救急車くらいは呼ぶだろ?怪我してる人がいたら手助けするってのが一般的な良心ってもんなの!」

 

先の発言で分かると思うが、この子はどうにも常識に欠ける……というかそれが年相応の考え方なのかなとも感じる。ここは高校だが月夜ちゃんの実年齢は小学生であって、大人もへったくれもない。

 

普通の小学生であれば、こんな切った張ったとは無関係の生活を送っているはずである。その小学生を日頃から見続けていた俺が言うんだ、信じてもらって構わない。というかそれが世間一般の認識であるハズだ。

 

 

「月夜ちゃんは友達が1番かもしれないけど、それじゃあ心が狭くなっちゃうよ?」

 

「……幼女1番の貴方には言われたくないです」

 

「おっとぉ、痛いところ突いてきたじゃないか。確かに俺がこんな説教なんてしても響かないだろうことは分かるけど、それでも俺はこう言うよ――」

 

 

そこで言葉を切り、1度息を整える。

 

 

「――今この状況の全てを把握しているキミが動かないのは、年齢抜きにしても”人として”間違っている」

「俺が好きな月夜ちゃんは、年齢が小学生であってもこの学校にいるキミは、俺に祈願に不道にBBA’sと共に過ごしてきた因幡月夜は」

「事件や厄介ごとに巻き込まれたこともあったけど、きっと人のつながりが大事なものだと理解していることを信じている」

「もちろんこれは俺の勝手な想像、価値観の押し付けだ。でもさっきも言ったように、これは一般的な感性であり常識。キミがその歳でここにいるのは、何か特別な理由があって普通じゃないのは分かってる」

「それでも、それでもだよ。ここで救出の一手を出せないなら、俺はキミとの関わり方を変えなくちゃいけない。知らないヤツならともかく、友と呼んでも不思議でないヤツらを見捨てるような『人でなし』とは一緒にいられない」

「さあどうする?これを聞いてどう思うんだ月夜ちゃん!!」

 

 

しばしの静寂。この曇り空も相まって重苦しい空気が流れる。

 

やや間が空いて彼女が口を開いた。

 

 

「……やはり友達以外を助けるという行為に必要性を感じません。蓮さんは私を良く見てくれてますが、友達になっていないような関係の浅い人たちは放っておいてもいいと思ってます。私にとっては友達が基準なので」

 

「そうか…………そうか。であれば本当に残念だ「ですが!」……」

 

「ですが……蓮さんも言っていたように私はまだ子供、立場は中学生ですが世間知らずなのでしょう?」

 

「まぁそうだね、逆にキミの歳で老成されてたら違和感バリバリだよ」

 

「ですからこれから貴方が教えてください、私をそこまで買ってくれているのなら」

 

 

……教えるというのは何を?

 

 

「貴方の言う一般常識、私がそれに反するようなことをしたら教えてください。あと出来れば、友達の作り方も。もっとお友達が増えれば私の心持ちも変わるかもしれませんから」

 

「あー、まぁ常識はいいよ。けどさ、友達の作り方レクチャーって何すればいいの?正直友達って人から習って作るようなモノじゃないと思うんだけど」

 

「そのあたりは蓮さんにお任せします。私は生徒ですから」

 

 

そう言って月夜ちゃんはクスリと笑った。かわいい。……久しぶりに笑顔を見た気がする。かわいい。

 

 

「まずは人助けをしてみようと思います……が、体の弱い私にできることは少なそうです。()()()()()行ってきてもらえますか?」

 

「――あぁ任せろ!!」

 

「はい、お任せしました」

 

 

月夜ちゃんがいい子でよかった。俺も好きで離れると言ったわけではなかったから。彼女の決意の分まで背負っていこう。

 

 

「その変化は好ましい!ぜひとも俺好みになってくれ!」

 

「ん~……考えておきます」

 

 

背中を向けているのに、月夜ちゃんは笑っていると確信できた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

月夜ちゃんと別れて屋上への階段を駆け上がる。半分ほど登ったところで人影が見えた。男子の制服、あの後ろ姿は――

 

 

「不道!」

 

「うおっ、とぉ?なんだ貫井川、おたくか。その様子だと屋上行くのかぁ?」

 

「そうだ!少々どころかとてもヤバい事態なんだよ!行くなら急ぐぞ!」

 

「おいおい!?なんで急いでんだよ!理由ぐらい聞かせちゃあもらえませんかねぇ!」

 

「女帝が緑姉妹と祈願を半殺しにした!分かったら行くぞ!!」

 

 

なぜこんなに焦っているのか気づいたらしい、不道も顔色変えて追ってきた。そういえばコイツは何で屋上に向かっていたんだ?

 

 

「なぁ不道!俺は月夜ちゃんから聞いてきたが、お前はどうして屋上に行こうとしてたんだ!?」

 

「あぁ!?んなもん防犯ブザーの音と、あれだ、嫌な予感ってやつだ!」

 

「まったく大した勘してるぜ!そんなキミに追加情報だが、俺たちより前に花酒のBBAも向かってるらしいぞ!」

 

「そいつぁ聞きたくなかったねぇ!花酒は無事か!?」

 

「分からん!行って確認するしかない、今は急げ!」

 

 

走りながらの会話なので、自然と怒鳴りながらも足は止めない。流石は男子高校生、この会話で屋上にたどり着いた。

 

たどり着いたはいいが……そこはまさに『地獄絵図』だった。

 

 

「アァァァモォォォウ!!!!」

 

「不道!気持ちは分かるが手当が先だ!ひとりひとり確認しろ!」

 

「……クソッ、あぁ分かってる「ノムラかや……?」っ花酒か!?」

 

「わらわより……他の者は……?どうなっておる……」

 

「あぁ、おたくよりかは軽傷さ……!っておい!しっかりしろ!!」

 

 

どうやら目をやられたらしいロリBBAは再び意識を失ってしまった。一通り見て回ったが、全員が病院送りは免れないだろう大怪我を負っている。

 

まず緑姉妹と祈願、腹や背中を手刀で貫かれている。出血が多く重傷だ。

次はロリBBA、目を切り裂かれている。考えなくても重傷。

狐と狸と猿、この3人は顔を重点的に殴られている。病院行きだろう。

キョーボー、斬られる抉られるを多数受けた模様。どう見ても重傷。

 

 

「傷が深すぎてどこから手を出したらいいか分からねぇ!貫井川何か案ないか!?」

 

「……いや、正直お手上げだ。素直に教師かエヴァさん呼んできたほうがいいだろう」

 

「ここから職員室まで結構あるぞ!?その間放っておいたら死んじまう「そうならない為に私がいる……」のわぁ!?」

 

「目を斬られてるけど眼球まで達していない……手術で治る。他の生徒も同様に、応急処置を施して病院へ運べば大丈夫……」

 

「なんだおたく急にっ……いや、こいつらは助かるんだな?何か手伝えることは?」

 

 

まるで忍者のように現れた女性、その女性が誰かよりも皆の無事を優先する。それでこそ男だ不道!

 

冗談はさておき。不道が何か手伝うことはあるかと聞いているが、恐らく彼女に任せるのが1番いいだろう。しかし不道は本当に目の前の人が誰か分かっていないのだろうか。まぁここに来て日が浅いから仕方ないが。

 

 

「ここは手が足りてる……貴方はあれを……」

 

「あれって……っアイツ!!」

 

「女帝に鬼亀とその妹分、どう見ても穏やかじゃないねぇ……」

 

「下に行く!止めないとここみたいになっちまうぞ!」

 

「それにあっちには月夜ちゃん……?まさか、女帝に向かってるのか!?確かに助けろとは言ったが、わざわざ戦火の真ん中に突っ込むことはなかろうに!いくら強くても体弱いんだから!」

 

 

俺にも下に降りる用事が出来た。だがいちいち階段を下りていたんじゃ時間がかかる、だから俺は――

 

 

「おいおい、おたくフェンス登って何してんだぁ?」

 

「何って、下に降りるんだよ。階段使って下りるよりも壁行ったほうが早いからな……地上で会おう!」

 

「おい待て正気か!?」

 

「もちろん!じゃあなぁ!」

 

 

壁から降りる、と言っても飛び降りる訳ではないぞ?この高さから落ちたら流石に死ぬ。受け身とっても行動不能は確実だ。

 

窓のでっぱりや雨樋を掴んで着実に、かつ迅速に地面に近づく。フリーランやクライミングで鍛えたこの身体に月夜ちゃんを想う心があれば、この程度の障害は軽い軽い!!

 

無事に地に降り立ち、騒ぎを見た。見てしまった。

 

 

 

女帝を揺らした雲耀を。刀を折られ、傷つけられた月夜ちゃんを。

 

 

 

沸騰しかける思考を黙殺、ここで突っ込んでいけば屋上のヤツらの二の舞になってしまう。頭は冷静に、されど心は滾らせて。

 

女帝!ぜってぇ許さねえぞ!!

確かに俺に武器はない、勝てはしないだろう。だが負けもしない!

王子様が来るまでの時間稼ぎ、無傷で乗り切ると!

俺の女神(月夜ちゃん)に誓おう!!

 

 

「悪いけど、せめてもの時間稼ぎだ……クソBBA、お互い望みの相手じゃなくて残念だろうが――本命来るまでダンスでも如何かな! とびっきりの長丁場でだけどな!」

 

「虫の様に非力な男が私の望むような踊りができるとは思えないな――貫井川蓮!!」

 

「一寸の虫にも五分の魂ってあるんでね! 精々ご期待くださいませ!」

 

 

俺の心を滾らせたんだ!終演まで付き合ってもらうぞ!




学園長である藤林祥乃はNINJAである。
ドーピング、暗殺などによる闘いをするらしい。
同原作者前作からの登場キャラだが、なんとその時から現理事長である鳴神虎春が好きというデータを残している。
つまり百合ん百合んである。
実は前作時代から数人生命的に葬ったこともある仕事人。
虎春のほうは「竹刀で人が殺せる。」と月夜の明言があるのでこちらもきっと殺っている。

ちなみに、声優は『しなこいっ』のドラマCDから能登麻美子が続投。
残念ながら、虎春の方は水樹奈々の続投ではなかった。


次回
第六節:魔弾と女帝
8/12、21:00より順次公開

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