双主革新奇聞ディストリズム   作:マッキー&仮面兵

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『僕はこの学校に来てから、学生であることを拒むような生活をしていた。逃げるだけの日々、そんな日々を終わらせてくれたのが彼女だった。「彼女が守ってくれるから」ずるずると自分で立つということから結局逃げてたことに気付かないまま……また僕は、喪ってしまった』
――左近衛祈願


『祈願の受けた被害と、彼の特異性について少しだけ明らかにします。お気づきですか?祈願のそばには、絶対にいつも蓮か眠目姉妹がいることに……』
――仮面兵


第五節:動き出した「女帝」
愛隷の章:遅すぎた喪失


部屋を出て、一階に降りて、学校に向かっていく最中。

騒ぎ声が聞こえる方向を向いてみると、そこは女子寮の方で。

バタバタとあわただしく出入りする人は確か……亀鶴城センパイの関係者だった気がする。

何があったのだろうか、まぁ、僕には関係ないか。

 

――こういう時、さとりちゃんがいてくれたら何が起こってるかわかるんだけどなぁ……

そう考え、頭を振るう。バカじゃないのか、何にも反省してないな僕は。

 

視線を外し、学校に向かって歩き出す。

結局僕は、一人じゃ誰かとかかわることからも逃げてしまう。

 

『――左近衛君っていうのか、僕は――』

『――仲良くしよう。今日から僕らは友達だ――』

 

……友達か、僕はあの日から、誰も求めてなかったのかな。

僕は本当に、納村センパイたちと友達になりたかったのだろうか?

 

『――友達ぃ? そんなんお前に気を許してもらう為だけの――』

『――お前に姉いたよなぁ……それも結構美人のさぁ――』

 

……僕に近づいてくる人は、何か考えてる人ばっかりだった。

大人も、変な建前で、なにか自分の欲望を満たすために近づく人ばっかりだった。

 

『――悪かったよ! 許してくれよ! 友達だろ――』

『――覚えてろ! お前から全部奪ってやる――』

 

傷つけられないように抵抗したって、反抗したって、結局は失うだけなんだ。

最初から、ない方がよかったんだろう。

僕は何も持たない方がよかったんだろう。

もとうとしない方が、一番よかったんだろう。

持とうとしてしまったから、こうなってしまったんだ。

 

『――僕に何か用ですか』

『そうだね~~、君がサコノエキガン……であってるかな~~?』

『誰ですかそれ、僕の名前はサコンノエイノリですけれども』

『そうそう~~さとりはそのサコンノエちゃんに用があってきたんだよね~~――』

 

――ああ、ホントは今すぐ彼女を探して、謝って――

また頭を振る。そんなんだから、『覚悟が足りない』って言われるんだ。

 

 

 

***

 

 

 

校舎に入り、階段をのぼっていくと窓を通して向かいの校舎に花酒センパイご一行が何かを探している姿が見えた。

――いったい何を探してるのか。

いや、それも僕には縁のないことだ。

 

向こうはどうせ僕に気付いてもないだろうし。

そう誰かに言い訳を垂れながら、すぐに視線を外し屋上へと向かいなおす。

道中、ほかの学生たちとすれ違うが、みんな僕を見てぎょっとしていた。

――何か変な特徴でも見えたのだろうか?

明らかに違う学年の人たちにも驚かれるなんて、僕には全然心当たりがない。

 

しいて言えば、さとりちゃんが一緒にいないことくらいかな……

 

 

屋上の扉を開く。

この時間にはいつも誰も来ていない。

独りで悩むには、独りで考え込むにはうってつけの場所だ。

そう、思っていたのに――

 

 

「……あ、天羽センパイですか……偶然ですね……」

「……ほう、左近衛祈願か。その様子を見るに、示し合わせてこの場に来たわけでもないということか。なるほど、仲違いしたという話は真実だったのか」

 

 

屋上には先約がいた。

女帝……天羽斬々センパイ。

普段授業以外では部屋に引きこもってるか、大講堂にしかいないはずなのに……

 

 

「『なぜここにいる』……とでも言いたげだな。なに、簡単な話だ――私の他に誰がいるか気づいてるか?」

「……祈願君……!?」

「…………」

「……さとりちゃん……ミソギちゃん……?」

 

 

天羽センパイの言う通り周囲に視線を送ると、彼女たちがいた。

今一番、会いたいけど会いたくなかった……さとりちゃんとミソギちゃん。

まて――さとりちゃんの様子がおかしい。なぜ彼女は……膝をついてるんだ?

――ああ、天羽センパイ……そういうことですか……?

……僕は、結局、決意したことも守れないようなバカなんだな……

 

 

「気づいたか左近衛祈願。見ての通り、私は眠目さとりを下したところだ」

「……なん……で……?」

「なぜ。愚問だな、私は天下五剣を欠陥だと感じていた。だから私がその上に立ち、すべてを支配する。それ以外に理由はあるまい」

「なぜ今!?」

「天下五剣は弱り切った。あれらにはもう抑止力としての力はない」

「それは間違いだ……力がないなんてことはない!」

「四人、四人だ。四人が五剣から敗北した。無様に、情けなく、哀れなほどに。その権力は失墜した。故に私が上に立つ、それが今だ……満足だろう?」

「それはあまりにも暴論だ……その手段で権力を得たからと言って、あなたの満足の行く学校にできると思うんですか?」

「できないなどというわけがないだろう。すべては私が望むようにする、私が支配する。そのことにしか意味がない」

「ばかげてる、そうやって傷つけてばかりいたら、大事なものだって失ってるんじゃないんですか!」

「……ああ、そもそも大事な者など、私にはいないからな」

 

 

――時間を稼げ。

僕の視界の端では、さとりちゃんが刀に手をかけてる。

突くのか、斬るのか。分からないけど、時間を稼がなければならない。

だから僕にできるのは……天羽センパイを問い詰めて、その真意を確認するとともに時間を稼ぐこと。

 

『――お前はどうしたい?』

 

貫井川センパイ……やっぱり、責任とか、色々見栄張ってのたまいましたけど……

僕は――

 

 

「――ッ!!」

「……うそ……!?」

「――無駄な時間稼ぎだな左近衛祈願……だが、視線を動かさず、気にしてるそぶりもせず、私が少しでも眠目さとりの方を向かないようにと努めたその能力は誉めてやろう。さすがは『模倣犯』と言われただけのことはある。天通眼の模倣までこなすとはな」

「……御見通し……だったんですか……?」

 

 

さとりちゃんの突きは、天羽センパイに通らなかった。

防がれた……のではない。確かに突きは入ったけれども……刺さらなかったんだ。

そして――

 

 

「まさか。私はお前を褒めよう。全く、気づかなかったよ。仲違いしたという割には良い共同作業だ。だが……私には通らない」

「がっ……!」

「さとりちゃん!!」

 

 

――天羽センパイの手刀が、さとりちゃんの胴体に刺さっていた。

駆け寄ろうとしたけど……天羽センパイがゼロ距離にいる。その時点で助けに行くのは大変難しい……

いや、やるしかない。助けるんだ。

 

もう、視点を利用したトリックは望めない。

やるなら真っ向勝負で行くしか……!

――ん? これは……

 

 

「……ほう、構えるか。向かってくるというのであれば、お前も同じようにしてやろう。左近衛祈願」

「あいにくと……僕は撃たれ弱いので。やるなら優しく、豆腐を切るようなやさしさでお願いしますよッ!!」

 

 

僕は天羽センパイの前に駆け出す。狙うは天羽センパイの脚、組み伏せれば!

感覚がスローに感じた。まるでゲームをしているかのようなスローモーション。

天羽センパイは不敵に笑ってたたずんでいる。余裕そうだな。

ひと泡――吹かせてやりますよ。

 

――BiBiBiBiBiBiBiBi!!!――

 

風が、強く巻き起こり、僕を薙いだ。

 

 

「――左近衛祈願……今、何をした?」

「……あなたの弱点は、格下に対してとことん手を抜いて、その優れた反射神経に頼るところです」

 

 

――天羽センパイの脚は、僕がポケットから空に投げた防犯ブザーを切り裂いていた。

さとりちゃんは、その隙を突いて横を通り抜ける際に、僕が救出した。

 

なぜそうなったのか、簡単なロジックだ。

人というのは、視線に敏感だ。

さとりちゃんが普段僕のどこを見ているか、視線だけで全部わかるし、彼女も然り。

そして、視線にさらされると動かしたくなるむずがゆさを感じる。

どっちも個人差はあるけれど、僕はこれを利用して天羽センパイの脚を動かす対象にした。

センパイは脚でやったのだから、僕の賭けは成功した。

 

それと、人というのは急に意識に入ったものを避けるか、攻撃するかだ。

虫が目の前を横切った時僕と貫井川センパイは避けるけど、さとりちゃんと因幡さんは斬るし、ミソギちゃんは筒で叩く。皆それを意識して行ったわけじゃなく反射的にやっている。

そこで僕はギリギリまで近づいたときに天羽センパイの眼前に防犯ブザーを投げた。

もちろん音は鳴らす。防犯ブザーの真骨頂は、そのけたたましい音が唐突になるところなのだから、鳴らさないなどありえない。

防犯ブザーはさとりちゃんにもらったものを結局捨てられなくて思い出の品として、持ってきていた。ありがとう、さとりちゃん。

 

天羽センパイはさとりちゃんの突きに『気づけなかった』と言ってたのに、手刀を刺すことはできていた。

つまり、彼女は反射的に攻撃をしていることとなる。

視界で認識していなくても、身体的に触れただけで発動するカウンターだとするなら、間違いなく意識して封じない限りは逆手にとれる。

――読み以上だったのは、天羽センパイは脚までも刀のようなエグさを持っていることだけど。

 

 

「ククク……そうか、侮っていたよ。まさかあの一瞬の攻防だけでこのような策を思いつけるとはな……そこまでして眠目さとりが大事か?」

「僕がさとりちゃんを――」

 

 

腕の中にいるさとりちゃんを見る。

いつもとは逆の目線、見慣れない立場で彼女を見たその感想は――ああ、やっぱり僕は君を大好きなんだな――だった。

さとりちゃんは、僕がいることを信じられないって顔をしている。当然だ、二日前にあんなこと言って叩いて逃げ出した男が自分を抱きしめてるんだ。信じられるわけがない。

それなのに、一言も謝ることなくこの場にいるなんて、僕はほんとうに、どうにかしてる。

 

 

「――大事じゃなきゃ、こんな無茶できませんよ」

「イノリ……ちゃん……? ほおが……」

「いてて……テレビのまねはしばらくしたくないや……」

 

 

刃のように鋭い脚が真横を過ぎた時点で、無傷でいられるわけもなく、僕の頬はぱっくりと裂けてしまっていた。

傷は思ったよりも深い、血の出が悪いのは代謝が悪い証拠かもしれない。鉄分も足りないかな……?

それだけじゃない。さとりちゃんを助けるときに、テレビのスポーツ番組でやっていた動きを真似して無茶な態勢で飛び込んでしまったからか、脚もグリッとひねってしまった。

めっちゃくちゃ痛い、変な音してたもん。

でも、必要なことなんだ。僕の決意、覚悟が足りないから足踏みをする。でも、さとりちゃんを助けなきゃって思ったら動けた。それだけ、やっぱり好きなままなんだなって、改めて認識できた。

だから、今の僕の痛みは、必要だったんだ。

 

 

「……ゴメンさとりちゃん。最低な僕を許してとは言わない。だけど……今だけはまだ、好きでいることを、許してほしい」

「……うん……うん……!」

「――茶番だな」

 

 

天羽センパイの顔は怒りに染まっていた。

僕らを見ているように見えるけども、その奥では僕らではない誰かを見ているようだ。

――天羽センパイは、納村センパイと何かしらの関係がある。

五剣会議の日、僕らが来る前に彼女が乱入していて、納村センパイとの関係をほのめかしていたって、さとりちゃんが教えてくれてたことを思い出す。

もしかすると……天羽センパイは納村センパイを――

 

 

「恋だの愛だの、そのようなもので私が図られたというのか……!? 腹立たしい……実に腹立たしい……! 我慢ならぬ――すべて、すべてお前たちのそれをえぐりつぶしてくれる!」

 

 

――どうやら、想像以上にあの人の女性事情は混迷しているらしい。さすがは女たらし、ひどいもんだ。

怒った女の八つ当たり程、怖いものはないって僕も学んだはずなんだけどなぁ……

いやぁ困った、思った以上にひねり方がエグかったらしい、痛みであまり動かせない。

さっきの音とかで向こう校舎の花酒センパイに気付いてもらえたらなぁ……

 

ひょいと体が持ち上がる感覚。

いつの間にかさとりちゃんが僕の腕から抜け出して、僕の腕を自身の肩に回して僕を引き上げていた。

 

 

「さとりちゃん……体は大丈夫なの……?」

「祈願ちゃんよりは力があるからね~~」

「あー、うん。否定できないや……」

 

 

成すがままに担がれるまではいいのだが、ここから去ろうにも僕らが目指す屋上のドアは天羽センパイの背後側。

さっきの方法はもう使えない。さてさて……どう逃げたらいいのやら……

 

 

「逃がすと思うか?」

「――は?」

 

 

悩んでいる一瞬で、天羽センパイは距離を詰めた。

うっそだろおい、今全く、さとりちゃんも気づかなかったぞ……!?

彼女は手を振りかぶる――マズイ、この距離と態勢じゃ逃げられ――

 

 

「――ほう、そういえばお前もいたな……全く動かないから忘れてしまっていたよ……眠目ミソギ」

「なんで……なんで逃げなかったの……!?」

「わたしだって……あなたたちが……すきだから……!!」

 

 

僕らを庇って……ミソギちゃんが刺された。

ミソギちゃんは天羽センパイの手をつかんでいる。

攻撃しても通らないほど固いのだから、あえて攻撃をせず受ける――あまりにも無理やりすぎる。でも、そうしてまで彼女は……

 

 

「にげて……!!」

 

 

僕らを、逃がそうとしたんだ。

――ありがとう。

声にならない感謝を思う。

さとりちゃんに声をかけて、ミソギちゃんの望み通りに屋上から退避しようとした。

瞬間、悪寒に従ってさとりちゃんを突き飛ばす――

 

 

「ぐが……!」

「感動的だったよ……! 眠目ミソギは実にいい愛情劇を見せてくれた……しかしそれは無意味だ、三文芝居にしかならない。私にとっては、その全てが憎らしく見える。なぜか――それはおまえの存在だ左近衛祈願。私はお前が心から憎い……だからこそ、お前だけは……逃がしはしない」

「――ギィィ!?」

「祈願ちゃん!? 斬々ちゃんやめてぇ!!」

 

 

痛い痛い痛い痛い!

お腹に……お腹に刺さっているのは本当に手なのか!?

手刀だとは思えない……ねじられる……声が出ない……!

 

 

「お前に感謝しよう、まだ私にも『羨む』ことと、『憎む』ことが人相応にできるのだと改めて気づけるのだからな……!!」

「斬々ちゃん……祈願ちゃんを離せぇぇ!」

「喧しいぞ眠目さとり――私は今いいところなのだからな」

「ぐぅっ……!」

 

 

さとりちゃんが吹き飛ばされる。声が出せない……腹に力が入らない……!

 

 

「ふむ……二度も穿ったにもかかわらず、まだそこまで動ける余力があるのか……そうだな、折角だ、左近衛祈願を目の前で喪えば――」

「――うそ……まって……斬々ちゃん……まって……!」

「――お前は、私を愉しませてくれるかどうか。ということも、試してみることにしよう」

「まってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

――痛みとともに意識が、遠くなる感覚がした。

なぜか目の前が、暗くなった。

さとりちゃんの、悲鳴が、きこえる。

なんで、こう、なったん、だっけ?

ぼく、弱、かった、から?

あやまろう、して、やめた。

つたえる、こっち、方、いい。

 

――だいすき、さとり、ちゃん

 

……さいてい、ぼく




左近衛祈願 別称『模倣犯』
注視した動きを頭で再現し、実際にそれを「負荷を無視して」やってみるという『模倣』技術にたけている。
体の理論などを把握していないため動きに比例して負荷が大きくかかることと、あくまでも目に見える動きしか模倣できないため、反射神経が重視される自動反撃などの模倣は不可能。

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