こんな世界が、少しでも長く続いてほしいと思った。
カルデアのシミュレーションルーム。
そこで四騎のサーヴァントが激闘を繰り広げていた。
ジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタ。アルトリアとアルトリア・オルタ。
それぞれが模擬戦をしているのである。そして指揮するのは、二人のマスター達だ。
藤丸立香は指示を出し、アランはただ礼装による支援を行う。
「――さぁ、焼き尽くしてあげるわ聖女サマ!」
「よっしゃ、やったれェッ!」
「さぁ、蹂躙してやろう」
NPと言う単語がある。ゲーム中では宝具を打つのに必要なゲージだ。
この世界に置いては要するにカルデアからの魔力供給を示している。――要するに溜まり切っていないのに、宝具を打とうとすれば、マスターの魔力をごっそり持っていかれるのだ。
一回ゼロの状態でアルトリアに打たせてみたが、丸一日アランの体が動かなくなった。さすがにロマンもダヴィンチちゃんも「ないわー」との事。いや、確かに何の確認も予想もしなかった俺に問題があるけれども。
「ぬがぁぁっ! 令呪ゥッ!」
アルトリアとジャンヌの同時宝具。
令呪も使用してだ。虎の子の令呪をここで使うなど思いもしないだろう。
これなら藤丸に一泡吹かせられる――!
「
ああぁぁぁぁぁぁあああ!!!
十戦十敗。
いやぁ、藤丸の指揮上手過ぎだろ。
ジャンヌの宝具で完全防御。そしてアルトリアで一掃。
ハハッ、ワロス。
「……何だ」
「……何よ」
「あの、マスター。どうかお気になさらぬよう」
こちらに目線を合わせようとするけど、寸前で目を逸らす二人と申し訳なさそうなランスロット。
いや、そもそもランスロット参戦してないからここに来る理由は無いんだけれども。
「気にはしてないが、さすがにここまで負け越すとなぁ……。へこむなぁ……」
俺は三人を召喚して以来の次の英霊を召喚していない。
――理由は簡単。今のサーヴァント達を上手く活かしきれていないのに、次が来てもどうなるかなど目に見えている。まぁ、それでドクター達も納得してくれている。
だが、やはりそれで戦力が低下するのは避けようのない問題だ。
特異点ではオルタ二人は自制してくれるのだが、模擬戦となるとそうもいかないようだった。二人とも負けず嫌いだし、張り合おうとするし。どうにも藤丸はそこを突いて来る。
「……言いたい事あるなら言いなさいよ」
「無い。と言うか、これはマスターである俺の力不足だ。
お前達は強い。なら、負ける理由は上が弱いからだ。――研究してるんだがなぁ」
サーヴァントは強い。これは紛れも無い事実だ。
彼らは千差万別。同じクラスでもそれぞれの役割は全く異なる。
例えばキャスターが殴って、それをバーサーカーが支援するって事もあり得るのだ。要するにサーヴァント次第で、戦術は無限に広がるのである。
で、基本こちらのサーヴァントは攻撃担当。藤丸のサーヴァントは守備に長ける。――結局、どのサーヴァントも使いこなせるかはマスターの技量次第だ。
しかし、まぁ。こうも負け続けると泣きたくなって来る。つうか、ジャンヌ硬すぎだろ。なんだあの人間要塞。しかも旗で殴りかかって来るしたまにクリティカル出してくるし……。
「藤丸はシールダー、ルーラー、セイバー……。
どれから叩くにしても同じなんだよなぁ」
いつも持ち歩いている魔術触媒のナイフ。それを片手で弄びながら、イメージする。
セイバーを潰せば攻撃を大きく削げる。
ルーラーを潰せば継戦を大きく削げる。
シールダーを――駄目だ、可哀想だから最後にしよう。
「アルトリア、何か案は無い?」
「真っ向から叩き潰す」
「うん、蹂躙だねそれ。カリスマEの解答をありがとう。ジャンヌは?」
「片っ端から焼き払うわ」
「うん、デュヘインだね」
この二人、やっぱり似た者同士では。
「ランスロットはどうみる?」
「……正直、最初からマスターに不利な戦いではないかと」
「?」
「戦の勝利は王を落す事です。本来の戦場であるならば勝ち方は無数にあります。
ですが、今マスターを悩ませている戦いは王ではなく兵を落す事。それも手段は全て敵方に知られている。
チェスで語るとすれば、手の内を全て知られた状態で向かい合うようなもの。ならば違いは攻守にありましょう」
「……あぁ、そっか。兵士の数も質も同じでフィールドも同じなら守りが多い方が有利だわな。
と言うかランスロット、チェスってお前の伯父が……すまん、失言だった」
「良いのです、お気になさらず……」
椅子に背中を預け、大きく息を吐く。
攻守の問題だと、ランスロットはフォローしてくれた。
要するに、最初からこっちが不利なのだと。攻撃と防御で手の内が完全に読めてるのなら、攻撃側に多大な力量が要求されるのは当然だと。
つまりは、指揮不足だ。
「悔しいなぁ……」
彼女達は強い。本当に強いのだ。
けど俺じゃ、どう足掻いても活かせない。
それが、ただ悔しい。
「マスター、何故だ?」
「あ?」
「何故そこまで勝ち負けに拘ろうとする? 貴様のそれは異常だぞ」
「……だってさ、男だから譲れないんだよ。
自分のサーヴァントこそが最強だって」
「――」
そう言うと何故か、アルトリアは言葉に困ったようにして黙った。
「そうか……そうか。ならばマスター、私をもっと戦場に連れ出せ。
貴方が勝利を求める限り、私はその剣となろう。その誉を糧にするがいい」
「当たり前の事言わないでくれます? マスター。
憤怒の炎はこんなモンじゃないわよ」
彼女達の言葉に、小さく息を吐いた。
とりあえず種火行くか。
「あぁ、そうだマスター。一つ言っておく。
貴様は自分を卑下しているようだが、それは無用だ。貴様のサーヴァントが人理に証明してやるとも」
「……何を」
「我らのマスターは、世界を救える男だとな」
その言葉が、ただ嬉しかった。
三人に認められたという事実が。
彼と何度も競い合った。
結局、一度も勝てなかったな。
でも、貴方達と過ごした時間は俺にとって――