魔女を呼んだのだから、一緒に地獄に落ちて焼かれるのだと。
もしキミとずっと、いられたのなら。
それはどこまで幸せだろうか。
ジャンヌ・オルタにとってアランと言う青年は、何とも言えぬ存在だった。
藤丸立香に比べれば、非常にドライだがそれでも何かを諦めている訳では無い。かといって己を清く正しい存在と見ている訳では無い。また無理をして、そのように振舞おうともしていない。
誰かに必要以上の感情を抱く事も無く、されどそれぞれの本質を断片程度ではあるが察している。
要するに、心の底から嫌味を言える数少ない存在だった。
「あら、心底酷い顔ですねマスター? まるで悪人面、大悪党みたいよ」
「……なーんか、前も同じセリフを聞いたぞ」
「……あの馬鹿女と? ――へぇ、マスターちゃん。もしかして私とアイツが似てるとか言うんじゃないわよね?」
「まさか、互いに染まった身とは言え、貴方と騎士王は別人だ。そいつを混同する程、馬鹿じゃないさ」
「得意げに言ってるけど、貴方が服装でサーヴァントを区別してる事は気づいてるから」
「マジか」
アランからしてみれば、ジャンヌ・ダルクオルタは腐れ縁のようなモノだ。
彼女の自己否定は極度のモノ。彼ですら溜息を吐く程、手を焼くレベルだった。ならば、それをある程度受容してやりつつ、根幹を肯定してあげればよい。
「……そういえば、聖女に突っかかるのはやめたらしいな。何か悪いモンでも食ったか?」
「食うのは馬鹿女の専門よ、私は小食ですから。
……それはアレよ、あの小娘は私と同じ。どれだけ言ったって聞き入れはしないし。
こっちは嫌味を言ってるのに、向こうはお構いなし。言うだけ疲れるわ。
なら、まだ貴方に毒吐いてる方が楽しいわよ」
「うん、良い話に纏めようとしてるけどとばっちりだね、俺」
カルデアのマスターとして支給された礼装を身に纏う。
藤丸立香が着ているのは白を基調としたカルデアの制服。対してアランは支援の一環として魔術協会から支給された礼装を身に付けていた。
ランスロットは魔力供給に優れているからともかく、ジャンヌとアルトリアは燃費が悪すぎる。
故に彼女達が宝具をしっかり使えるよう、サポートに念頭を置いた礼装を愛用しているのだ。
「それで、残る特異点は後五つね。はっ、楽勝過ぎて欠伸が出ちゃうわ」
正直カルデアの戦力過多とも言える。
騎士王二人と言うだけでも中々だろうし、加えて円卓の騎士もいる。救国の聖女や竜の魔女もいる。
ローマとか一日一回エクスカリバーだったし。
さすがに神祖やフンヌの王には苦戦を強いられたが。
「ねぇ、マスター」
「どうした」
「――途中で尻込みなんかしないでよ。貴方は私と共に地獄の炎で焼かれるのですから」
「……あぁ、分かってるよ」
ごめん、ジャンヌ。
きっと俺は、地獄にすら行けないのかもしれない。
君はいつだって、変わらなかった。折れる事も絶望する事も無かった。
その心に、何度救われたか。