カルデアに生き延びました。   作:ソン

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どこにでもある、あり溢れたお話。

それがただ、俺には遠くて。

でも、きっと、それで良かったんだ。


セイバーオルタと

 アルトリア・オルタにとってアランと言うマスターは、理想には程遠いが、満足出来る資質の持ち主であった。

 強い力はなくとも、強靭な精神力がある。這ってでも生きようとする、執着にも似た願望がある。絶望に足を止める事はあるが、膝まで屈する事は無い。

 ――無論、今は未熟な面の方が遥かに強い。

 だが、それは当たり前だろう。

 彼女がマスターに求めるのは、それではない。強い心を持つ者。

 例えば――命と引き換えに彼女と相打ちになる覚悟を持った者など。

 

「ふむ、今日も酷い面構えだなマスター。まるで大悪党だ」

「出会って最初の挨拶が罵倒ってどうなの、オルタ」

「……なら、貴様もしてみるか? その悪人顔にはさぞかし似合うだろう」

「あの、言っとくけど俺マスターだからね。と言うか、俺が疲れてる理由は貴方の宝具ブッパだから」

「アレが最低の出力だが? 私とてマスターの事は考えているという事だ」

「エネミーが残り一体の時に宝具を放つのは、どうなんだ」

 

 ――レイシフト。行き先はサーヴァント達が自身の力量を上げるための修練所。

 近頃のアルトリアの日課は、そこで宝具を盛大にぶっ放す事。

 少しはこちらの負担も考えて欲しい。カルデアからの魔力では物足りないと、ごっそり持っていくのである。それもこっちが死なない程度に。

 絞りつくす訳ではないので、そこはまぁ。彼女なりの細かい気遣いであった。

 けど、それはあえて口に言わない。多分、ジャンヌの耳に届くだろうから。

 

「それにさ俺、魔力回路の量も質もそんなに無いんだから、あまり持っていかれるとさ。ほら」

「魔力を与える者と授かる者。それがマスターとサーヴァントの関係だ。それ以上にお前は何を求める?」

「まっとうな関係」

「叩き切るぞ」

 

 そんな言葉を言いつつも、纏う雰囲気は召喚当初に比べれば柔らかい。

 まっとう――とは言い難いが、まぁそれなりの関係を築けているとは思う。

 

「それにさ、マスターとサーヴァントってあの二人が理想だと思う」

 

 そういってアランが指さしたのは立香とマシュだ。まだマスターとサーヴァントとしてどちらも小さな存在。だが互いが互いを支え合っている。

 なんてない日常の一幕。多分、それはどこにでも在り溢れたような光景。それはただ眩しいばかりの光景だった。

 

「まだマスターとしては未熟だけど。あのようにさ、弱くても支え合えればって。

 いつか、それが強い光になるって思うから」

「……否定はしない。だが、私にはあの光に手を伸ばす資格がない。何せオルタだからな。

 私とあの突撃女のように、光と闇は互いに相容れぬモノだ」

「どっちも闇だろうに……」

「エクスカリ――」

「何でも無いですはい」

 

 一瞬、魔力の気配があったのは多分そういう事だろう。

 確か彼女は秩序を前提とする存在。混乱や混沌を良しとはしない。

 まぁ、俺の見解でしかないけど。大方、こうして顔を合わせて言葉を交わせば、本質は大体つかみ取れる。

 

「あぁ、あとさ。アルトリア」

「どうかしたか。まだ話し足りないと見えるが」

 

 ほれ、と。アルトリアに何かを放り投げた。

 掌サイズの紙に包まれた物体。仄かに温かい。

 

「これは……」

「いつもさ、種火の周回に付き合って貰ってるだろ。そのお礼だ」

 

 ハンバーガー。だが市販のモノとは違う。バンズの形もズレているし、レタスもしなびていて肉は乾いている。

 ――正直作るときに指を何度も切ったけど、それは手袋をしてるから見抜かれる事は無い筈……。感覚はもう取り戻せたから、怪我はしないだろう。

 

「……何せこんなご時世だ。ジャンクフードなんてのも貴重品でな。まぁ、カルデアのおかんがきっちり栄養管理してるのもあるからだろうが……。まぁ、その、何だ。食料の数少ない余りをかき集めた。

 俺みたいなへっぽこマスターの魔力じゃ足りんだろうから、労いも込めて作ったんだけど……。味見はした。まぁ、チェーン店に適わないのは分かってくれ」

 

 なんか言ってて恥ずかしくなってきた。

 やっぱりダメだ。彼女は命を懸けて戦ってくれているパートナーなんだから。もっとしっかりしたものじゃないと。

 

「――ダメだ。やっぱ返せ、俺が食う。こんな雑なモノ、貴方には……」

 

 と、手を伸ばしたが、既に時遅し。

 自作のハンバーガーはアルトリアの胃袋に瞬殺されていた。

 

「早いなオイ!」

「……マズい。マズくて、吐きそうだ。見た目も酷ければ味も酷い。肉はパサパサ、バンズも固い。おまけに時間が経っているのか、水分など欠片も無い。まるで戦場の食事だ。

 あぁ、そうだとも。あの時の――ブリテンの、円卓の味だな」

「……」

「上品な味のバーガーなど出されてみろ。すぐに貴様を叩き切っていた。それはもう一人の私にこそ相応しい。

 ――私にはコレがいい。戦う事にしか意義のない私には、何の飾り気もない、愚直な食事が丁度いい」

「……そうか。なら、いつか俺の知る庶民の食事をさ、一緒に食べに行こう。

 まぁ、そいつがどれだけ時間が掛かる願い事かは分からないけど。いつか、きっと」

「期待せずに待つ。そして――精進する事だ。疲れたのならいつでも言え。介錯なら私自らがしてやろう」

 

 介錯と言う単語に小さく笑う。

 もう二度目はごめんだ。それにまだやる事がある。

 

「……音を上げるにはまだ早いさ。もうちょっと足掻いてみる」

「ならばその足を止めるなよ、我がマスター。旅はまだ始まったばかりだ」

 

 そんな黒い王様――アルトリア・オルタの後をついていく。

 あぁ、そうだ。まだ止まれない。俺の運命はまだ、何の価値も意味も示せていないのだから。

 

 

 あぁ、でも。過ちなら、とっくに仕出かしてしまっている。

 決して許される事のない、罪科を。

 




 ありがとう。貴方には、何度も助けられた。


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