消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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トリックタワーからゴン達が下りるルートってよく考えたらかなり構造上おかしなところがあると思うんだよ。具体的に屋上から降りて出て曲がってすぐの広い空間とか。
でも気にしたらキリが無いから、特に気にしません!


第8話『トラベリング・コンパニオン』

 

 

 

 

 第三次試験参加人数43人。10時間以上に及ぶ飛行船の渡航により、到着した場所は、とりあえずとんでもなく大きな塔の屋上。幅だけで数百メートル、ていうか下手したら数キロはありそうな巨塔。装飾などは一切なく、凹凸の一切ない無骨な石造りのシンプルデザイン。

 

 で、三次試験のルールって言うのが、この塔から72時間、つまり3日以内に生きて下まで降りるという事らしい。これまたシンプルな。

 ていうか、ここで3日も過ごすのか………なんだか憂鬱。

 

 

 塔の上に立つヒノの感想は、今から試験を挑む受験生としては少々ズレていた。

 

 

「さてと、どうやって降りようかなぁっと。側面から降りるのは面倒だし(無理とは言わない)、となると。入口か何かがどっかにあるはずなんだけど………ん?」

 

 適当に歩いていたら、右足で何か踏む感触。足元の石がカコンと軽い音を立てて凹み、下に空間が現れる。落とし穴だったら普通に避けてるけど、私はあえてそのまま穴の中へと落ちて行った。

 

 回転扉のように落ちてきた穴が閉じたと同時に、床にすたりと降り立つ。

 場所は、何もない石の部屋。あ、違うや。よくよく見れば、扉には看板がかかってた。

 

[道連れの道。君達2人は、ここからゴールまでの道のりを、同じ運命を辿って乗り越えなくてはならない]

 

 扉のすぐそばにある台座には、腕輪型のタイマーが2つ用意されていた。72時間からスタートして、徐々にカウントが0へと向かっている。一応時間が分かるアイテムを用意してくれてる辺り、一応ハンター試験官にも常識ある人いるんだ。いや、他の人が非常識とか言わないけど。それにしても………。

 

「う~ん、嫌な道に出ちゃったかな………」

 

 2人で一緒にクリアする系だと、相棒の実力によっては時間がかかる。出来れば強い人が来てくれてたらいいんだけど。

 

「やあ、奇遇だねヒノ♥」

「………………。あー、誰か強い人でも来ないかなー」

「ちょっとちょっと、絶対気づいてるでしょ♣そんな事しても、ここは狭い密室♦祈ったって誰も来ないさ♥」

「あ、今のセリフ録音しておいたから」

「………勘弁してよ♠」

 

 流石狂気の変人集団である旅団の皆から変人、変態、変質者の三拍子が揃っていると太鼓判が押されているだけある。普段の言動の全てがおかしい。

 

「まあそれにしても偶然だねヒソカ。どうしてここにいるの?」

「くっくっく。実は君の気配が消えた場所の近くの扉に入ってみたんだよ♦どうやら当たりみたいでよかった♠」

 

 計画通り、だと!!このピエロ、早く合格しないと危険だ。そうこうしてると、ヒソカは私同様に台座の上に置いてある腕輪型のタイマーを自身の左手首に着けると同時に、ロックが外れたような金属音がして扉が開いた。

 

『ようこそ、〝道連れの道〟へ。ルールはいたって単純だ、どちらか片方が失格になった時、もう片方も同様に失格する。失格条件も単純。この先の迷宮に配置された試練のクリア条件が満たせなかった時。ちなみに道連れとは言ったけど、二人協力参加の試練は基本無いから、別に途中別行動したって構わないよ』

 

 それはそれで不安が残りそうだね。というか普通はやらないよ。自分の見えない所で相手が失格になったら大問題だし。あれ、でもそれで片方が先にクリアしたらどうなるんだろ。

 

「はい、質問。それって片方が先にクリアしたらどうなるの?」

 

『その場合は片方だけクリアだね。あくまで道連れは失格の時のみだけど、片方がクリアしたらその時点で解除される。別段後の奴が失格になろうが、先にクリアしてしまえばクリアは消えない』

 

「それって微妙に道連れじゃ無いような………」

『何事も臨機応変、という事さ。それでは諸君の健闘を祈る』

 

 そう言い残して、ブツリとスピーカーから流れた放送は切れ閉まった。

 片方が失格したらどちらも失格。でも先にクリアしちゃえば、もう片方が失格になろうが関係なくクリアは変わらない、という事か。

 ようは抜け駆けオッケーと。

 

 

「くくく、随分とまあ楽しそうな道だね♣ヒノと一緒にいけるなんて、僕はとっても幸運だね♥」

「まあ、私も少しは同感かな」

「………………」

「どうしたのヒソカ?」

「いや、ヒノにしては随分と素直に認めるんだと思ってね♣」

「ん~、まぁね」

 

 確かにヒソカの実力が高い事は幸運だけど、正直私が幸運と言ったのはそこじゃない。

 ヒソカも多分気づいているけどこの三次試験の、しかもこの〝道連れの道〟のルール。もしもヒソカの相棒が私じゃなくてそこら辺の普通の受験生だったら、ヒソカはこの場ですぐにでも〝殺していた〟だろうし。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 石でできた床に響く、二人分の足音。私とヒソカの分だけど、ヒソカは鼻歌混じりに楽し気に笑い、その用をちらりと見つつ、少しだけ溜息を吐く。

 

 

 この試験のルールの中で気になったのは4つ。

 

①試練内でなければ死ぬ事は失格じゃない。

②一人だけでも理論上試験自体は突破可能。

③二人の失格は共有される。

④合格した後で失格にはならない。

 

 

 このルール内容が正しいとしたら、ヒソカの取る行動は簡単。

 スタート地点の部屋で相方を殺し、己の足手纏いを置いていく。それが一番手っ取り早い。ヒソカにとって生かす価値が無い受験生では、一緒に行動するメリットも無いし、一人でも合格が可能な試験内容なら、わざわざ連れて行く必要も無い。

 しかし失格になっては困るので、試練の始まる前、スタート地点で止めておけば、まず時間制限の失格以外には失格になりようが無い。ようは、普通に時間制限以内に一人で合格すれば済む話だ。

 

 そう考えると、この場にヒソカといるのが正直私でよかった。もしくはヒソカが同行してもいいと考えるような人材。顔面に針を刺した念能力者の受験生か、まー後はゴン達の誰かかな。

 

「どうしたんだいヒノ、黙りこくっちゃってさ♠」

「いや、別に何でも無いよ」

「くっくっく♠疲れちゃったのかな?昨夜は随分とお楽しみだったみたいだしね♥」

「あ、携帯の録音そのままだったよ。切っておかないとね」

「………ホント勘弁してよ♣」

 

 ていうかヒソカ、絶対ネテロ会長とのボールゲーム気づいてたな。まあ念使ってたから念能力者で戦闘勘の強いヒソカなら気づくよね。

 

 それにしても今の所ただの通路。特に罠とか試練とか無いみたいだけど、すぐに扉が現れた。そこに書かれていたのは、『罠の試練』。

 

「どれどれ、『この先の通路での死亡は、即失格とする。諸君の健闘を祈る』だって♠」

「ヒソカ、ここで待っててもいいよ。私一人で大丈夫だから」

「ヒノって僕に対してなんか冷たくない?」

 

 まああれ、幼少期の嫌な体験を引きずっているというか、ヒソカの私に対する普段の行いのせいだというか。

 

 それはそれとして、さっそく進もうっと。無論ヒソカも引き連れて、扉の向こうへと足を踏み入れた。見た目だけなら一直線の通路。けど、罠っていうからそう単純なわけが無い………と思う。そして、数分歩いてると――、

 

ガコン。

 

「おっと♦」

「………」

 

 下を見てみれば、ヒソカの右足の下の石が沈んでいる。まるで何かのスイッチでも押したかのように。じっとりとした視線でヒソカを睨んだけど、視線に気づいたヒソカは嬉しそうに口角を歪ませた。

 

「いやぁ、まいったね♥」

「まいったね♥………じゃないよ!」

 

 私がそう叫んだ瞬間、低い地鳴りと共に、背後から何かが来る音が聞こえてきた。薄暗い通路だけど、私的にはそんなに関係ないので何が来ているのかすぐに分かった。

 

「あれって、鉄球!ヒソカ覚えてろー!」

 

 しかも通路いっぱいいっぱいにこちらに向かって転がってきた。何てベタなトラップだと思いつつも、足を動かして前へ前へと進んでいく。ヒソカも同様に、私の横を楽しそうに並走している。

 

ガコン、ガコン、ガコン、ガコン!

 

「ヒソカ、足元めっちゃ沈んでるじゃん!」

「いやぁ、この辺り罠がたくさんあるみたいだねぇ♦」

「なんか背後から矢とかナイフとか爆弾とか飛んできてんだけど!」

「いやぁ、この辺り罠がたくさんあるみたいだねぇ♦」

「次同じセリフ言ったら後ろに蹴り飛ばすからね」

「それは勘弁してもらいたいね♠それじゃあ―――」

 

 くるりと反転したと同時に、ヒソカは両手に念を込めた。ぐにゃりと念の性質が変化し、片腕から念を飛ばし、天井に一度取り付け、そのまま鉄球へと貼り付けた。

 

 変化系であるヒソカの念能力は、【伸縮自在の愛(バンジーガム)】と呼ばれる、念をガムとゴム、両方の性質を持たせる念へと変化させる能力。つまりは、ヒソカの念はヒソカの意思でどこにでもくっつき、自由に伸び縮みする。

 

 しかし変化系の能力者は総じて念を自身の体から切り離す放出系の技術が苦手な為、ヒソカは自身の片腕に念をつけたままで、天井を経由して鉄球へと貼り付けた。そのままヒソカの念を巻き込み、ぎゅぎゅると回転する鉄球は、次第に勢いを弱め、ヒソカの目の前でぴたりと止まった。

 

「ふぅ、は!」

 

 瞬間、ヒソカは念を込めた拳を、鉄球へとぶつけた。勢いが止まっていた事、【伸縮自在の愛(バンジーガム)】を巻き付け鉄球を止めている事、それに加えたヒソカの念の拳は、鉄球を反対側へと押し返した。鉄球が転がっていた方を見て見えなくなると、少ししてズンという何かにぶつかった音がした。あれならこっちにはもうこなさそう。

 

「いや~さすがに鉄球を返すと辛いね♠」

「へばってないでさっさと行くよ。とんだロスタイムだよ」

「君ってかなりひどいって言われないかい♣」

 

 それからというもの、事あるごとに壁がスイッチになってたりして釣天井があったり落とし穴が大量にあったりまた壁から矢が飛んできたりと、随分と古典的なトラップが大量に設置されていた。

 

「たいしたものはないけど、こう次から次へと来るとさすがに疲れてきちゃったよ」

「何言ってるんだい♦全部ボクに押し付けてるくせにさ♠」

 

 当然、こんなことヒソカに任せるに限る。ヒソカ頑丈だし。

 

(ふむ、正直僕よりも、ヒノの方が頑丈だと思うだけどなぁ♣)

 

 少し歩くと、さっきまでの殺風景な通路と罠だらけの場所とは違った感じの少し広い部屋に出た。そして向こうの扉からも人が何人か出てきた。体格はいろいろだが、全員共通してボロボロのフード付きのマントをかぶって手枷をした人達。

 

 誰これ?という風に思っていると………ガチャン。全員の手錠が外れた。

 そして自由になった手でフードを脱ぎ捨ててたからかに声を上げた。

 

「我々はハンター協会に雇われた試験官!!ルールはバトルロイヤル。我々8人とお前ら二人が自由に戦い、最低二人は倒してもらう!二人倒せなかった場合、そして我々にやられた場合は失格となる!判定は気絶、または死亡だ!」

 

 一人確実に二人倒せと?くっ、全部ヒソカに任せようかと思ったのに。まさかこの試験仕組まれてるのか?

 

「いいねえ、じゃあとっとと始めようか♥」

「はぁ………じゃあヒソカ6人倒してよ」

「それはダメだよ♠向こうは誰と戦うかわからないからね♣君のところに行ったら取らないであげるよ♥」

「まさかさっきまでので怒ってる?」

「そんなことないよ♥」

 

 まあ試験ならしょうがない。戦って、勝つ!

 

「ではスタートだ!!」

 

 試験官の合図と同時に、全員がバラバラに散らばる。ヒソカの方へと………いない!?全部私の方に来たし!あれか、倒しやすそうな方だからか!?

 

「頑張ってね♥」

「ちょっと、ヒソカも二人倒してよ!」

 

 そうじゃないと私が失格になる。ま、ヒソカの分は適当に残すとして、そんなに大した人達じゃないからさっと終わらせようっと。

 

「はぁ!」

「死ねぇ!」

 

 左右から来たのは、名前が分からないからとりあえず坊主頭とモヒカンの人。どちらも普通に拳を振るってくるけど………遅い。

 

 私は二人の拳を避け、坊主頭の後ろに回り込み首筋に手刀を放ち、意識を刈り取る。続いてそこに迫ったアフロの蹴りを避け足をつかみモヒカンにぶん投げて二人をぶつけ、すぐに二人に近づいて両方を一瞬で気絶させる。

 その隙を狙い、残る長髪とヒゲが迫り同時に蹴りと突きを連打してくるが当たらない。

 

「くそっ!!」

「全部避けるだと!!」

 

 やっぱり遅い。日ごろ旅団の喧嘩を見てみると、まるで子供の遊びのようにも思えてくるから不思議だね。これなら念を使うまでも、全力を出す必要も無い。

 避けると同時にヒゲの頭をつかみそのまま長髪の顔にぶつけ二人がひるんだところで首筋に手刀をかまして二人を気絶させた。

 

「あー疲れた。少しくらい手伝ってもいいんじゃないの?」

「くっくっく、楽勝だったじゃないか♦いいものが見れたよ♠」

 

 いつの間にか、私を狙っていた内の二人を後ろから仕留めていたらしい。無論、頭にトランプを刺して。流石に、受験生一人につき二人以上倒すルール上、見逃すしかなかったけど、あんまりヒヤッとする事はやめてほしいな。

 

『ごくろう。二人共最低2人は倒したようだね。先に進んでいいよ』

 

 スピーカーから聞こえた声と共に、奥の扉が開く。しばらく進んだら、また少しだけ広い部屋に誰か座っていた。毛皮のような服を着た、顔に傷のある男。

 

「待ってたぜヒソカ。今年は試験官ではなくただの復讐者(リベンジャー)としてな」

 

 ここも試練の一つなのかな?まあなんにしてもヒソカの事を知ってるなら、

 

「頑張ってねヒソカ」

「しょうがないなぁ、ご指名みたいだし♥」

「去年の試験以来、貴様を殺すことだけ考えてきた。この傷の恨み………今日こそ晴らす!!」

 

 話を聞いたら、去年ヒソカがハンター試験を失格になった際、その原因であるヒソカに半殺しにされた試験官みたい。随分と曲がった刃物をお持ちで。それも全部で4本。元試験官というだけあってプロハンター、つまり念能力者。ヒソカ相手にどこまでいけるか。

 

「無限四刀流!くらえ!!」

 

 二本の湾曲した刀を投げてヒソカが避けると同時に近づきもう二本の刀で斬る。そしてブーメランのごとく戻ってきた刀で再び斬る。四ヶ所から同時に攻撃をしてくるし、前後の同時攻撃の為どうしても対処が遅れる。ヒソカに血を流させる程に強い。

 

 でも―――

 

パシ、パシ!!

 

「確かに避けるのは難しそう♠なら止めちゃえばいいんだよね♥」

 

 簡単そうに言うけど、普通のナイフと形状の違う回転する刃物を受け止めるのは、それなりに大変だと思うよ。まあ念でガードして力任せに取るって方法もあるけど。

 初見で随分と簡単にやるから、リベンジャーさんは驚愕だよ。さすがピエロ。

 

 リベンジャーさんの刃物を持ったまま歩み寄り、その顔に映る笑顔は、さながら命を取りに来た死神のような笑みだった。

 

「無駄な努力ご苦労さま♠」

「くそぉおーーー!!」

 

 ヒソカの手に持つ刀がリベンジャーの首に迫る―――瞬間、私の親指と人差し指が、刃を受け止めた。一様に驚いたヒソカとリベンジャーさんだけど、私はそのまま反対の手で隙ありとばかりにリベンジャーさんの意識を刈り取った。

 

「何のつもりだい?今いいところなんだけど◆」

「人の見てる前で安易に殺さないでよ。それにそれで失格になったらどうすんの?ここは道連れの道だよ」

「君がそれを言うかい?ま、いいよ、先に行こうか♠」

 

 そう言ってヒソカは残念そうに扉に向かう。私はその後ろで、ちらりと背後を振り返った。

 

「もっと強くなってね。でも無茶はあまりしないように」

 

 気絶して倒れたリベンジャーさんの背中に言葉を投げかけて、私とヒソカは扉を潜った。

 

 

 

『44番ヒソカ、100番ヒノ。三次試験通過一号、二号。所要時間5時間23分!』

 

 

 

 案外早く終わってよかったね。

 

 

 

 

 

 

 




今日の不幸大賞はヒソカに決まりました。

ヒノ「よかったね」
ヒソカ「うれしくないよ♠」

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