消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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揃わなかったー。


第64話『一方その頃彼らは交錯する』

 

 

 

 

 

 

「すいませーん。ここから、ここまでくださーい」

「あいよ。ちょっと待ってな坊や」

 

 元気よく注文するゴンに、全身隆起した筋肉に覆われた店員は、真っ白い歯をきらりと光らせながらにっかりと笑い、丁寧に商品を袋詰めしていく。実に濃い店員だが、ゴンはあまり気にしない。

 

 長閑な日差しの下、人通りの多い雑踏の真っただ中にある移動式のアイス屋は賑わっていた。それでも子供1人で20種類はあろうカップアイス全種購入は、些か珍しい光景ではあったが。

 

「ゴン、見てみろよ!期間限定でチョコロボ君バーガーセットが売ってたぜ!」

「キルアも好きだねー。後はどうする?」

「ピザとホットドックも買ったし、ジュース買いに行こうぜ」

「お前らよくそんなに食う気になるな……」

 

 ワイワイとすぐに食べられるジャンクフードを買い込むゴンとキルアに、レオリオは呆れた表情をする。別に全て朝食というわけではなく、単に2人で早食い競争をするつもりで購入しているらしい。が、それにしてもすごい量だ。

 

 両手にがさがさと袋を持ちながら、ひとまず近くのデイロード公園で食べる予定だ。そこで、クラピカとヒノを待つつもりだった。

 

「クラピカ来るかな?」

「旅団も死んだみてーだし、仕事が一段落したら来るだろ。来なかったらあいつの職場乗り込んでみよーぜ」

「おいおい、マフィアに殴り込みとか勘弁してくれよ。お前らと違って俺は念の習得も終わってねーんだから。そんな事より、あいつら来た後どう説明するか考えてるのか?」

「どうって?」

「ヒノと旅団の事だよ」

 

 ヒノと旅団の関係は、ただただ遊び友達みたいなものだというのは理解した。とはいえ、そのまますんなりクラピカに伝えて納得するかはわからない。いや、流石にクラピカもヒノにまで敵意を向けることはないとは思うが。

 

「けどよ、言っちゃあなんだが旅団は死んだ事だし、今さらそいつらとヒノが知り合いだったって言っても別に大丈夫だろ。もういない奴らの事だしさ」

「でも全員じゃないでしょ?」

「そうだけど、頭は死んだみたいだしさ」

 

 オークションの翌日である今日、マフィアンコミュニティは電脳ネットを使い旅団を晒しものにした。R指定が入りそうな状態で旅団の死体を公開する事で、マフィアの恐ろしさを世間に刻み込む目的なのは言うまでもない。

 そして公開された情報と、ゴンとキルアが実際に旅団のアジトに連れ去られた際に見たメンバーの情報には齟齬がある。具体的に言えば、懸賞金のかけられたメンバーは死亡確認されたが、それ以外のメンバーは残っている。

 

 幻影旅団は全員死んだわけではなく、およそ半数が死んだ。残党は、今もなおヨークシンのどこかで生きている。

 

 しかしほぼ壊滅状態であるのなら、今更ヒノが知り合いだったと言っても問題ないのではないだろうか?

 

「あー、面倒くせぇな。後はヒノが来たら丸投げしよーぜ。クラピカだって、旅団メンバーじゃなければ知り合いくらいで目くじら立てたりしねーって。お前らもそう思うだろ?」

「まあ、そう言われると」

「そうかもな。俺も賛成」

 

 腕に袋をガサガサと引っ掛けながら、手をひらひらと振るキルア。ひとまずクラピカもヒノも、再会すればあとは当人達の意思次第と言える。事情を知る3人が場にいるのであれば、最悪誰か暴れようとも宥める事は出来るだろう。

 

 ふと、レオリオの携帯が鳴ったので通話し、一言二言会話をすると、通話を切ってポケットにしまう。その会話の内容から、ゴンとキルアは相手がだれか察した。

 

「ゼパイルさん?」

「ああ、そろそろ例の木造蔵のオークションが始まるみたいだ。俺はちっと見てくるぜ」

 

 ゴンが値札市でベンズナイフを見つけたその日、【凝】を使って見つけた掘り出し物を店で売りさばこうと思い、危うく店主に安く買いたたかれると思った瞬間に出会った鑑定士、それがゼパイル。その夜レオリオと一緒に飲んだくれていた男性である。

 

 その際にゴン達の金策に協力を申し出てくれ、ゴン達も自分達の見つけた品を彼に託し、オークションにかけてもらったその結果が今日分かるそうだ。 

 

 下手をすれば億単位の値が付く競売。レオリオとしては是非ともこの目で見てみたいらしい。

 

「レオリオっていつも楽しそうだよね」

「ああいうのは能天気って言うんだ」

 

 やれやれと言いたげなキルアの言葉に、レオリオは耳聡く反応する。

 

「聞こえてるぞキルア。別にいいだろうが。ただでさえマフィアやら旅団やらで殺伐としてるが、元々ヨークシンにはオークションを楽しみに来たんだからな。時間があればあちこち観光でもしたいところだが、まあ近場で我慢するか」

「どういうとこ行きたかったの?」

「そりゃおめぇ、もちろん綺麗なねーちゃんがいる店にだな。お?今すっげー美人とすれ違ったぞ!しかもメイドだ!どっかでカフェでもしてるのか?」

「メイドとかどうでもいいけど、早くオークション行った方がいいんじゃねーか?」

「やべ!じゃあ後でな!」

 

 そう言って足早に走っていくレオリオに、キルアは嘆息しゴンは苦笑する。

 

 ちなみに、どうでもいい事だがゾルディックの敷地内には執事の他にメイドも存在する。流石、山を所有する富豪暗殺一家。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ゴン達が買い物をしていた通りにほど近いビルの一室、ヴィダルファミリーのヨークシン拠点に、珍しい客が来ていた。

 

 1人は老人。『一日一殺』という物騒な標語の記された衣服を纏う龍髭の老人。

 もう1人は男。たくましい肉体を持ち、肉食獣の様な威圧的な瞳を持つ銀髪の偉丈夫。

 

 見ただけで只者ではなく、事実この二人は常軌を逸脱した存在。

 

 無論、ゼノ=ゾルディックとシルバ=ゾルディック、キルアの祖父と父の二人である。

 

 先日のオークション会場では、クロロと死闘を繰り広げた2人であり、結果として旅団暗殺を依頼した十老頭が死亡したので仕事は中止。そしてククルーマウンテンに帰る前に、知り合いの所へとこの場に来たという。

 

「お久しぶりですね、シルバさん。ゼノさんは初めましてですね、こちらの組を預からせてもらってます、ハルコート=ヴィダルと申します。どうぞよろしく」

 

 シルバ達の前に座る、フィアらしからぬ柔和な笑みを浮かべた男、ハルコート=ヴィダル。アドニスの所属するヴィダルファミリーのボスであり、実はシルバとは知己の間である。

 

 何度か、()()()()()()()()をハルコートが受けた事があるのが切っ掛けだったりする。

 

「アドニスとジェイに聞きましたが、先日は噂の幻影旅団と戦ったとか」

「団長じゃ。まだ小僧じゃったが、中々の手練れよ。わしら2人対して時間稼ぎとは、まだまだ若い者には負けられんわい」

 

 先日の戦いを思い出してか、コキリと肩を鳴らすゼノに、ハルコートは苦笑する。プロハンターですら手に余る特A級の賞金首である幻影旅団団長に対してこんな事が言えるのも、彼らがゾルディックだからだろう。ゾルディックは一介の執事であろうとも、そこらのハンターよりも圧倒的に強いのだから。

 

 和やかに話していたハルコートとゼノだが、突然シルバがすっと目を細めて口を開く。

 

「ところで、隣の部屋にいるのはジェイか?何をしている」

 

 一応ゼノも思っていたが、敢えて無視をしていた。その理由は、隣の部屋感じる殺気とオーラ。一応念法を会得していない組員の方が圧倒的に多いので抑えている様だが、それでもシルバとゼノは察知できる。

 

 感じるのは、ジェイの〝怒気〟だ。

 

 その事に、シルバもゼノも珍しいと思っているが、同時にある程度予想している事もある。

 

「もしや、オークションで購入した物に不備でもあったのか?」

「ああ、鋭いですねシルバさん。実はそのまさかでして、どうやら偽物を掴まされたらしいですよ。正確には偽物とも少し違う様ですが」

 

 苦笑するハルコートの言葉が聞こえてか違うのかは不明だが、一瞬殺気が膨れ上がった様な気がした。

 

 殺気には恐ろしく慣れ親しんでいるマフィアの組長でありゾルディックの現当主と先代当主だが、一つ星(シングル)ハンターの放つ鋭い刃の様な殺気に一瞬オーラを揺らがせてしまう。

 

 しかし、殺気がふと消えた瞬間、隣の部屋の扉を開けてひょっこりとジェイが現れた。

 

「ああ、お二人ともいらっしゃい。お騒がせしてすみませんね」

 

 いつも通り飄々と笑っているが、その様子が一層尚不気味に見える。

 そしてその恰好だが、見た目は普通だ。しかし、少し大きめの上着も、腰と肩に備えたバッグも、明らかに入っているものはまともな物じゃない。微かに金属同士が触れ合う音も聞こえる。もっと言えば肩のバッグは1メートル以上、行ってしまえば刀だって入っていてもおかしくない大きさ。

 

「一応聞くがジェイ君、これからどこにいくつもりじゃ?」

「ちょっと蜘蛛のアジトまで行ってこようかと」

 

 これからピクニック行ってきますと言いそうな爽やかな顔をしているが、言っている事はとんでもない。だがやる気だ、この男一切の躊躇もなく割とマジでやる気だ。義妹(ヒノ)が無事だった事で一瞬ほっとした瞬間もあったが、それはそれでこれはこれだ。

 

 思わずシルバとゼノも黙ってしまうが、ハルコートはため息をつく。

 ふと、気になったのでシルバ達に質問をする。

 

「お二人から見て、幻影旅団に挑んだ際のジェイとの勝算はどの程度でしょうか?」

「0だ」

 

 シルバは即答した。

 だが、それも無理もない。仮に行くのがジェイでなくゼノだったとしても、同じような事を言うだろう。

 

「クロロ……蜘蛛の団長に加えて向こうにはプロハンターを凌駕する実力者が10名以上。単身挑めば勝ち目は無いのは自明の理だ」

 

 もちろん、一対一なら話は別だ。ジェイならば旅団のメンバーを仕留めてもおかしくないとシルバは思っている。が、流石に戦力が10倍違うとなると話は変わる。

 とはいえ、ジェイもそれは理解しているし、シルバもそこまでジェイが無鉄砲とは思っていない。むしろやり方さえ間違えなければ、単身殲滅してきてもおかしくはないとも思っている。

 

「無論、わかってますよ。流石に全員揃った所に挑むほど無謀じゃないですよ。俺の目的は旅団の討伐じゃなくて盗まれたお宝ですから、やりようはありますよ」

 

 そう言って笑うジェイ。

 ちなみに盗まれたお宝――競売品が目的ではあるが、全部ではない。ヴィダルファミリーの構成員に代理で受けさせ購入した自分の物に限る。あの時オークションに参加していればと後に悔やんだが、過ぎた事はしょうがないと、ジェイは切り替える。

 

「あ、それとハルさん、アド本当に借りていいんですか?」

「ええ、構いませんよ。元々がマフィアの失態、ならば我々マフィアがそのお手伝いをしないでどうするのですか。それに、あなたにはお世話になっていますからね。恩には恩で報いなくては」

 

 そう言って笑うハルコート。

 その言葉に、ジェイはありがたく思う。既にアドニスは、ジェイのお使いで出ているが、直に帰ってくる手筈だ。ありがたいことではあるが、ジェイの懸念はハルコートの護衛の存在。いないわけではないが、あくまで一般的な護衛。旅団に対抗できるアドニス並みの存在は流石にいない。

 ジェイはそこだけ気がかりではあったが、ハルコートは自身でその辺りを解決していた。

 

「それに、今はバイトを護衛に雇ってますから。偶然知り合いを見つけたので頼んだら引き受けてくれましたよ。アドニス同様、もうすぐ戻ると思いますから、安心してください」

 

 護衛のバイトを突発的に引き受ける人材がよく用意できたな、と思うゼノではあるが、ハルコートの事を知るシルバやジェイは逆に納得する。むしろ人脈の広さに感心する。ゾルディックの暗殺者や一つ星(シングル)ハンターと知り合っている時点で分かるが、相当だ。

 アドニスの代替え、つまるところ、相応の実力者を雇っていると。

 

「ではジェイ、引き続きサポートしますので、頑張ってください。シルバさん達は、良ければジェイが戻るまで話し相手になってください」

 

 そう言って笑うハルコートには、別段ジェイに対して裏はない。マフィアらしく光と闇も使い分けつつも、友人でもあるジェイには誠実に接してくれる。たまにマフィアとして大丈夫かと心配になるジェイだが、むしろ直情的なマフィアより厄介そうだとも思う。

 

 そしてアドニスが戻り次第、ジェイは動く。 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「つまりこういう事か。たまたま街で歩いていたら声を掛けられ、一緒にケーキバイキングに行き、自分と一緒に席を外した時にたまたまあったウボォーの事をネオン=ノストラードに占ってもらい、ウボォーが死ぬと確信し、ウボォーは言っても止まらなかったので無理やり気絶させた。で、その時使った能力の反動で今まで寝ていたと。こういう事か」

「うん、大体そんな感じ」

 

 クロロがまとめてヒノが肯定すると、旅団内で静寂が訪れた。説明してもらった内容を反芻させる。そして左程時間をおかずに、一番最初に再起動したノブナガが立ち上がりつかつかとヒノの隣に立ち、その頭にぽすりと手を乗せた。

 

「俺が許す。安心しろ、ウボォーが起きたら一緒に謝ってやる」

「ノブナガ、ありがとう!」

 

 にやりと笑うノブナガ。

 他の面々も、大体似たような考え方だった。むしろよくやった、ファインプレーと言える。預言通りとはいえ、おそらくほぼ確定的にヒノの行動によってウボォーは生きた、という事になる。

 

「ていうか、ヒノっていつもの消える奴以外に能力あったの?」

 

 そちらの方が気になったシズクが聞く。他の団員の気になった事の一つである。

 クロロを含め団員達が知るヒノの【消える太陽の光(バニッシュアウト)】は、それだけで強力無比であり切り札としても十分。手札が知れて尚対応に困る類だ。故にそれ以上に他にも強力な能力があったのかと驚いたのだが、実際には能力とは少し違う。

 ヒノ曰、条件付けをして発動する一種の応用らしい。

 

「いつものオーラ貯めて相手の体に打ち込むの。そしたらしばらく内側からオーラ消し続けるんだ」

「え?何それえげつない」

「よくやったとは思うが容赦ねぇな。つーかウボォーよく倒せたな」

「ウボォーうっかりしたのか私の攻撃普通にガードしたから」

「ああ、それは本当にうっかりだね。ヒノの攻撃はガードしても意味ないからね、しょうがない」

 

 何度か試しに興味本位で、とヒノの拳を加減しながら受けた事のある面々(具体的にはフィンクス、シャルナーク、フランクリン、フェイタン、クロロ)はウボォーに小さく黙祷する。死んではいないが、中々大ダメージなのは変わりない為だ。というか、これでは目を覚ましたとしてもまともに旅団の活動もできないだろう。

 

 そう考えた時、クロロは小さく呟く。

 

「なるほど、そのパターンもあり得るか」

「どうしたの団長?」

 

 パクノダが不思議そうに声を上げるが、クロロは聞こえてか聞こえていないのか小さくぶつぶつと整理する様に呟く。

 

「そうだ、あくまで預言の詩。そうであるならば確定はしてもある意味不確定だ。表現と解釈による場合もあるだろうが、あり得なくはない、か。少し見直さないといけないな」

 

 何かに納得した様子のクロロ。

 そして思考の海に潜った為か、気づくことはなかった。

 

 唯一ヒソカが、そんなクロロを見つめながら、楽しそうに笑っていた事に。

 

 

 

 

 




割とどうでもいい原作との相違点

ゾルディック家にはメイドがいる。

ゾルディックって男女問わず執事しか登場してないから、それ以外にいるかわからないけど、まあきっとメイドもいるんじゃないかな。よし、いる事にしよう。もしかしたら男女問わずメイドとかいるかもしれないし。

多分この設定が後に生きる事は無い気がする。

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