消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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また一年ぶりに投稿になってしまった。
が、今年はたくさん投稿したいです。


第62話『生きている』

 

 

 

 

 幻影旅団団長クロロの念能力【盗賊の極意(スキルハンター)】は、端的に説明すれば他者の念能力を奪う念能力だ。

 

 人の手形を思わせる紋様が表紙に写っている本を具現化し、その中に盗んだ念能力を収納し好きな時に使用できる能力。

 

 使用するにも条件はあるが、その力は1つの事象を起こすのみである大抵の能力者と違い、条件を整えれば1人で千差万別、多種多様な念能力を使用できる強力な能力であり、それ相応に盗む手順が存在する。制約と誓約の兼ね合いにより実現したこの能力には、4つの条件が存在する。

 

 

 ①相手の念能力を実際に目で見る

 

 ②念能力に関して質問をし、相手がそれに答える

 

 ③本の表紙の手形と相手の手のひらを合わせる

 

 ④1~3を1時間以内に行う

 

 

 これを行う事で、基本的にどんな念能力でも任意で使用可能になる。

 

 通常難しい条件ではあるが、高い身体能力と念能力を備えたクロロであれば、1人の人間からこの条件を引き出す事は実はさほど難しくない。極端な話相手より強いなら痛めつけて条件を無理やり進めればいいだけの話だ。

 

 しかし、先日のゼノ=ゾルディックとシルバ=ゾルディックの様な自身と同格以上の強者相手では、どうやっても不可能、とは言わないが困難な条件。依頼したイルミが十老頭を始末する時間稼ぎの戦闘ではあったが、隙あらばゼノの【龍頭戯画(ドラゴンヘッド)】を盗もうとも考えていた。

 実際には、やはり時間稼ぎが精いっぱいだったので盗む事敵わず、ではあったが。

 

 反面、戦いの基礎もできていない様な人物であれば、存外あっさりと世間話のついでに盗む事は朝飯前となる。

 

 今回の例で言えば、ネオン=ノストラードの【天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)】。

 非戦闘員である彼女を紳士的に誘導し、偶然を装い実際に占ってもらい、軽い世間話の中で霞める様な質問をし、後は気絶させると同時に本を具現化して手形を合わせるだけ。

 

 実際に1時間という時間をかける事無く、盗み切った。

 

 ネオン本人すら能力を使用するまで、盗まれた事に気づかない。〝盗む〟という特性上盗まれた能力者本人は念能力を使用できなくなるが、それはクロロにとっては些細な事だ。そもそもネオンは自身の予知能力が念能力によるという事すら知らないので、ただの不調程度にしか認識できないだろう。

 

 盗んだ物をどう扱おうと、クロロ次第。

 

 そして今、クロロは目を虚ろにし、機械的に目の前の紙に詩を綴っていた。

 

「………」

 

 いきなり個人情報を書けと言われて書いたはいいが、さらにいきなりクロロは能力を使用して何かを書き出した。占われているが、それを現状知らないノブナガは、訝し気にクロロの一部始終を他の旅団員と共に見ていた。

 

 そして僅か十数秒後、全ての詩を書き終えたノブナガは機械的に紙を手放してひらりと落とす。意図しないその軌道は、ゆらりと風に乗って、ノブナガの手元に収まった。

 

「クロロ、コイツは一体な―――」

 

 

 思わず目を見開いた。

 

 たった今目の前で書かれた予言の詩を凝視する。

 

「ある女から盗んだ、詩の形をかりた100%当たる予知能力だ。4行詩事にその月の週事の予言を表し、死ぬ運命の者には回避手段も提示する。十老頭にもファンがいたらしくてな。俺達が襲撃する事も予知できていたらしい」

「なるほどね。それであたし達が盗む前、ていうかオークションが始まる前から金庫の中身を移動するなんて事ができたのね」

「へぇ、特質系かな?相当すごい能力だ。団長よく盗めたね」

「確かにすごい能力だが相手は素人だ。それにこの占いは自分自身は占えないみたいだしな。やりようはいくらでもある」

 

 路頭に迷う少女を爽やかな笑顔でオークション会場までエスコートして、仲良く喫茶で談笑しながら条件満たした、なんて言えば全員から笑われそうなので、クロロは絶対にどうやったかを喋るつもりは無く曖昧に答える。

 

「それでノブナガ、占いにはどうでていた?自動書記らしくてな、俺には一切内容がわからないんだ」

 

 

 

 

 

 大切な暦が一部攫われて 残された月達は盛大に唄うだろう

 貴方は仲間と舞台に血を添える 戦いの追想曲を奏でる為に

 

 灰の墓所に臥せる緋の目の墓守に 涸れた寒菊は摘み取られる

 それでも蜘蛛は止まらない 残る手足が半分になろうとも

 

 

 

 自分に宛てられたその予言詩の内容を伝えた瞬間、クロロは思わず笑みを零す。

 その事に、予言詩のほとんどを解読できていないノブナガはやや苛立たし気な雰囲気を醸し出す。しかし、次に言う言葉を聞いてどう反応するかを想像すると、クロロは内心楽しくなり、笑みが漏れるのも仕方がないと言える。

 

「1つ、確定した事がある。喜べ、ノブナガ」

「あん?どういう事だ?」

「おそらくウボォーは、生きている」

『―――ッ!』

 

 ノブナガに限らず、その場にいた団員達に激震が走った。

 

 つい先日まで死亡扱いになっていたウボォーが、唐突に生きているという。根拠はあるのかという所だが、おそらくそれは目の前にある。

 クロロは懐から別の紙、初めに占ってもらった自身の予言を合わせてノブナガに渡す。

 

「そっちは俺の予言だ。全員も見てみろ。1つずつ説明してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえばヒノ、ジェイには連絡したか?」

「………そういえばしてなかったね。とりあえずメール………やっぱ電話しよう」

 

 ジェイにも心配させちゃったみたいだしね。今頃ヨークシンのどこで何をしているのか知らないけど、どうせ競売とかでナイフとか買ってるだろうし。あー、でもマフィア関連のオークションって結構旅団のせいで止まってるっぽいしね。

 ………旅団見つけ次第即殺処分!とか言いださないかな。俺の刀(予定)を返せ!みたいな感じで。

 

「無いとは言いきれないのがジェイの微妙に怖いところ」

「そうだね。あとサラッと心を読まないでよ」

 

 ジェイは基本温厚で寛容だけで鍛冶と刃物に関しては色々とブレーキ外れかけてる気がするし。まあだからこその1ツ星(シングル)とも言えるけど。

 電話を掛けると、まさかのワンコールで出た。早いね。

 

『ヒノか?』

「あ、ジェイやっほー。無事に生きているよ、回復したよ」

『縁起でも無いが、まあ元気そうだな。とりあえず、無事でよかったよ。体調はもういいのか?能力の反動で枯渇してたらしいな』

「まあ色々あってね。詳しい話はまた今度話すよ」

 

 ほっとした様なジェイの声を聞くと、私もなんだか安心する。

 ウボォー関連はジェイには伝っていないらしく、しかしオーラの枯渇状態という事しか知らないゴン達と違って私がどんな能力でああなったのかは知っている。いや、だって【罪日の太陽核】(あれ)久しぶりに使ったし。ていうか構想だけで過去に使ったの1回くらいじゃなかったかな?もっと小さい頃とかに。

 とはいえ、一回使えばコツも掴んだし、多分次は倒れずに使えると思う。何事も、トライ&エラーって事だね!

 

『何考えているかは知らんが、ほどほどにしろよ?』

「今日はミヅキもジェイもなんだか私の考え読んでくるね!?あー、そういえばジェイオークションはどんな感じ?何か落札できた?」

『………』

 

 あれ?電話を通してるのになんか気温が下がった気がしたんだけど。気のせい?

 いや、だいたい予想がつくけどさ。

 

『妖刀が出品されると聞いたんだ。表には出ない、地下の競売に。当然行くよなぁ。そりゃあ行くさ。これでもハンター協会から星をもらった、鍛冶と刃のハンターだからな。けどな、オークションは中止になったさ』

「………」

『クァード遺跡のナイフも、気になってた。久しぶりにでた人食い穴の物品だからな。それも刃物。当日のオークション開催と同時に襲撃が来た事も、それを俺を含めた殺し屋共で迎撃した事も………まあいい。最後は代役に任せて競り落としたからな。だがな」

「………」

「流石に偽物をつかまされたのは、内心穏やかじゃねぇな」

 

 あ、これ相当おかんむりだ。かなりキてる。

 昨日のオークションの事だよね?私は寝てたけど、確か旅団が襲撃して来たらしい。でも代役に頼んで競ったって事は中止にはなってないんだ。

 

 中止になってないオークション。ジェイが直接見たわけじゃなく代役が競り落とす。そして商品の偽物。襲撃者は幻影旅団。

 

 ちょーっと原因が分かったかもしれない。偽物の理由とか。

 

 例えばコルトピとかコルトピとかコルトピとか!

 

『つーわけで、お前は大丈夫そうなら安心だ。ちょっと俺は()()と用事があるから、またな』

「あ………うん。またねー」

 

 電話が切れた。普通に後半は表面上柔らかい口調だったけど、あれは中々やばい。温度が氷点下に到達してるんじゃないかな?ジェイのいるところ凍ってないかなー………。

 思わず通話が終わった後も電話を持ったままじっと立ち止まってしまった。

 

「………」

「………何か言ってよミヅキ」

「旅団に物体を複製できる能力者に心当たりは?」

「めちゃくちゃあるー!」

 

 天下のマフィアンコミュニティの地下競売で偽物が出品されるという事は無い。もし偽物のまま気づかず出品しようなら、全てのマフィアを敵に回す行為に他ならない。そんな事をする組織はまず無い。

 あるとするなら………………………旅団の皆くらいだよねー。

 

 思わず頭を抱えてしまう私は、多分悪くない。

 

 項垂れる私の頭をミヅキが撫でてくれる。あー、なんだか落ち着く。

 

 とりあえずこのままでもしょうがないので、立ち上がって旅団の元へといく事にした。ジェイの事は………まあその後考えよう。最終手段、というかほぼ確実にどうにかできる方法は、一応あるし。

 

 そして私達は、随分と久しぶりに感じる旅団達に会う為に、廃墟群へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 ヒノと共に廃墟と廃墟の間を歩く間で、ミヅキは先程のヒノとジェイの会話を思い出す。ずばりオークションの商品と偽物。

 

 ジェイが刃物に対して偽物と言っているなら、間違いなく偽物だったのだろう。どういう判断の仕方をしたかまではわからないが、まあジェイならという事でミヅキはその辺りを一旦流す。

 

 問題は、それがマフィアのオークションの商品だという事。

 

 ヒノ同様に、まず世界中のマフィア団体であるマフィアンコミュニティが主体である以上、偽物があるという事はまず無い事はミヅキも考える。それを前提にすると、どこで偽物が現れたのか。

 当然、ジェイの代わりに競りをしたという代役が商品を受け取る時。

 

 そして偽物を用意する事が可能な者を挙げれば2種類しかいない。

 競売を行うマフィアそのものか、襲撃をした幻影旅団。可能性を上げればまだあるかもしれないが、一先ずこの2つ。そして旅団内に複製する能力者がいるとすれば、おのずと答えも見えてくる。

 

 しかしミヅキが考えているのはもう1つ別の事。

 

 旅団相当の能力者であるのならば、その複製の範囲はどこまでか?

 あるいはそれは、人を複製する事もできるのではないか、という事だ。

 

 つまる所何がいいたいかというと、旅団の死亡は偽装ではないか。

 旅団そっくりの死体、念能力による複製をつくりそれを置いてくる。そうする事で死亡したという事実を造り出し、競売を予定通りに行わせる。

 

 実際ほぼ事実なのだがミヅキにはいまだそれが真実だと知る術もなく、ただの推測に過ぎない。しかしそれが事実だったのなら、ミヅキにも思う所はある。

 

 少しの遺憾さと、少しの安堵。

 

(蜘蛛は壊滅していないという事実だが、同時にヒノは安心するかもしれない。まあ、あと数分もすれば真実は分かるけど)

 

 ヨークシンにおける旅団の仮の拠点のアジトまでは、もうそこだ。

 隣で鼻歌交じりに笑っているヒノを見るに、このまま旅団の死亡という事実に対面させるのは心苦しい。できればヒノには笑って欲しい事を考えると、ミヅキは一先ず旅団が生きてる方に祈っておく。

 例えマフィアからブーイングが起きようとも、妹が笑うならそれでいいか、と。

 

「ミヅキー、早く早く」

「………ああ、一応病み上がりだからそう急ぐな」

 

 微かに笑いながらミヅキの腕をヒノは引っ張る。

 そして開けた扉の先には、久しぶりの旅団の姿が。

 

 

 

 

 

 

「ああああぁ!なんで俺だけなんだぁ!」

「シャルって相変わらず引き悪いね」

「引き!?え、これって引きの問題なの!?もしかして俺皆の不幸を背負った存在なの!?」

「ふむ、あまりよく無いな」

「でしょ?そうでしょ団長!」

「情報担当が欠けると前衛がうまく動かない。替えが無い事も無いが欠けたら面倒だな」

「あー、すごい冷静だねー。いや、わかってたけどね?俺の価値って情報処理だってのは分かってたけどね?でもなんだか心が寒いよ」

「まあそう気を落とすなって。どうせなる様になるぜ」

「ノブナガはいいよね。死亡予定無いし………」

「安心するね。確かヒソカ(あいつ)もよ。よかたねペアね」

「うわー、全然嬉しくねー」

 

 中央辺りで絶望に打ちひしがれる様な声を上げるシャルナークに、ノブナガがポンと励ますように肩を叩いている。そしてその横でフェイタンが言葉という刃で追い打ちをかけている。

 

 そんな光景を見つめる旅団員達は、なんとも言えない表情をしていた。客観的に視たらなんだか楽しそうな光景にも見えてくるから不思議だ。

 

 

 一体これは何だろうか。

 

 

 そんな言葉がミヅキの頭の中でぐるりと回転している。

 

 そしてヒノは一番近くにいたフィンクスに話しかける。

 

「ねぇフィン。皆何してるの?」

「ああ、団長が100%当たる予言能力奪ったっつーから皆占ってたんだ。そしたらシャルとヒソカの野郎だけ来週死ぬってよ。シャルも災難だな、二重の意味で」

「それだけ聞くと本当ねーって感じだね」

「………ん!?ヒノ!?お前ヒノじゃねーか!どっから湧いて出た!?」

 

 巨漢の男、ウボォーギンを除いた、合計12名の幻影旅団は、今この場に集結している。それが意味する事は、やはり死体は偽物(フェイク)。旅団は確かに生きている。

 

 その事をミヅキが内心考えている事など関係なく、フィンクスの叫び声に旅団内の全員が入り口に目を向ける。

 ミヅキの隣には、彼らも良く知る少女が元気にそこにいた。

 

 太陽の光を溶かし込んだ様な金髪も、紅玉の様な瞳も、後頭部で束ねて揺れる髪、ずっと長い間見ていなかった様に錯覚するが、実際は最後に見た日から2日もたっていないだろう。確かにそこには彼女の姿があった。

 

 一手に注目を集めたヒノは、太陽の様な笑顔を皆に向けて手を振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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