ゴンとキルアによる、旅団追走撃!
ゴンとキルアはジェイとの交渉後ベンズナイフを即決で売り渡して4000万を入手!その後、同じように【凝】をして価値ある物を数点購入し、それを売りさばこうと画策する。その甲斐あって中々素晴らしいお宝が手に入ったり、ちょっとした鑑定士と知り合いになったらしいけど、割愛!
重要なのは、その後レオリオが1500万の報酬で旅団の情報を電脳ネットのお尋ね者サイトの掲示板で尋ねた所、情報が入った。しかも、現在進行形で画像付きの信憑性99%の間違いない超貴重な情報だった。残りの1%は情報提供者が報酬欲しさに造った捏造画像説!でも今回は本物!
そして、ゴンとキルアはレオリオの元へとやってきて、情報にあった場所、広々としたカフェテラスだったのだが、それが見える建物から確認。報酬を支払った段階で作戦を立てる予定だったのだが、そこでキルアがストップをかけた。
キルア曰く、旅団のメンバーである2人は強くて手に負えないレベル。例えるならヒソカが2人あの場に座っているという。ヒソカには共に一度は必ず苦渋を舐めさせられたゴンとレオリオは、その言葉だけで相手がどれだけやばいかをすぐに理解した。この二人を一瞬で納得させる辺り、キルアも中々に二人の扱いを心得ている。
結果として、虎穴に入らざれば虎子を得ず、ゴンとキルアは二人を尾行する事に。
【絶】をして気配を絶ち、見つからない様に距離を取って旅団の二人を追尾する。
途中までは順調だったのだが、ここで誤算が一つあった。
人通りの多い広場にいた二人、ノブナガとマチの目的は、
それは、フィンクスとパクノダによる二重尾行。
ノブナガとマチを囮としてわざわざ目につきやすい場所を歩かせて、その二人には内緒にしてフィンクスとパクノダの二人はこっそりと、ノブナガ達を尾行する。
ノブナガ達すら聞かされていなかった二重尾行に、ゴン達が気づけるはずもない。とりわけゴンやキルアも、ノブナガとマチに気づかれない様に、二人の一挙手一投足を逃さぬ細心の注意を払って観察をしていた。まさか、その二人に別の旅団員が尾行しているなど、全く想定していなかった。
そして、結果的に見つかったゴンとキルアは捕まり、旅団のアジトへと連れてこられた。
「あ」
突然、ゴンが声を上げる。その原因は、旅団のアジトで普通に座っていた、ヒソカ。
キルアもヒソカ自身も、互いにこの場は無関係を装う方が得策と瞬時に判断し、両者共に心の中で知らんぷりを決め込む。が、そんな察しの良い真似を、ゴンにも求めるのは酷なのであった。この少年、馬鹿正直なのである。
「なんだ?顔見知りでもいるか?」
「あ~~いや……………!あ、あの時の女」
突然声を上げたゴンに対するノブナガの質問攻撃。が、ここでキルアのファインプレー。
ヒソカのすぐ近くに座って黙々とマイペースに本を読んでいたシズクを見つけ、声を上げる。ゴン達が腕相撲条件競売をしている時、シズクとゴンは一度腕相撲で戦い、シズクが利き腕と逆の腕を使っていたとはいえ勝利を収めていた。
その為、キルアはゴンがヒソカに対してあげた声の矛先を、シズクの方へと向けた。
ゴンと出会ってから、キルアの苦労とサポート能力が一気に増えた気がする。ナイスキルア。
そして、その声に最初に反応したのは、フェイタンだった。
「………ああ、そういえばこの前シズクと腕相撲して勝った子ね。それに私そこでヒノと
『は?』
唐突、という程でも無いけど、フェイタンの言葉に旅団一同は驚きに声を上げる。
例外としては自分がした事を忘れて「腕相撲?何それ?」と呑気に言っているシズクと、その横で呆れた表情をしながら、その時一緒にいたフランクリンの二人だけだった。
「ちょ、待て!ヒノがお前と戦ったって!?マジか!?あいつ誘っても全然のらねーだろうが」
「フィンがしつこいだけね。それに戦た言うても腕相撲ね。その子と一緒に腕相撲屋してたから、私参加しただけよ」
「どこだ!どこでその店やってる!俺も行って一勝負してくる!」
「無理ね、どうせもうやてないよ。残念だたね」フッ
「うわ、この顔腹立つ!」
わーきゃー言い争うフェイタンとフィンクス、フィンクスが一方的に突っかかって、ヒノと一勝負した故にまるで優位に立ったかの様なフェイタンが受け流しているのだが。
そんな光景をやれやれと呆れた様子で見つめる他の面々だが、ノブナガは興味深げにゴンの方を振り向いた。
「ほぉ、おめぇシズクとやって勝ったのか。なら………俺と勝負しようぜ?」
「え?」
「何、ただの腕相撲だ。簡単だろ?」
そう言って瓦礫と廃材をかき集めて急ごしらえで作ったそこそこ頑丈な机に着き、肘を立てて、来い、とでも言う様にゴンをじっと睨むノブナガ。断る、という選択肢など存在しない。ここは既に蜘蛛の腹の中。なら自分達にできるのは、できるだけ相手を刺激しない様に振舞う事。
と、慎重派のキルアは考えるが、生憎とゴンは素直で馬鹿正直な強化系。それが彼の美徳でもあるが、同時に無茶無謀な危ない所でもある。
「なら、聞きたい事がある」
「この状況でそんな事言うとはなぁ。…………いいぜ、俺に勝てたら質問でも何でも答えてやるよ」
その言葉に、ゴンはノブナガと手を組んで、腕相撲の構えを互いに取る。
生憎と公平な審判が付くわけでも無い無骨な戦い。ノブナガの合図と共に、二人は力を込めた。
が、悲しきかな、力の差は歴然としている。
腕力、念、経験。この場合腕力に関して言えば、ゴンとノブナガの二人を比べればノブナガに軍配が上がるだろう。戦闘経験の数々は元より腕相撲勝負において役に立たない。後は念だが、これに関してもノブナガの方が一日の長がある。
ドオォ!!
結果として、ゴンは成す術無く腕を倒される。
「もう一度だ」
だが、それで終わらない。勝ったと言うのに何の感慨も無く、ノブナガは腕相撲を続行する。それは無情にも続き、倒され過ぎてゴンの手の甲にわずかに血が滲んでも、続けられる。
「
「ぐぅっ!」
「奴は強化系で、竹を割ったような性格のガチンコの単細胞だったんだが、その反面時間にうるさくてよ。遅刻が原因でよく俺やフランクリンと喧嘩して、素手でボコられたんだよなぁ」
まるで頭の中のメモでも読み上げるかのように、なんの感情も見せずに淡々と言葉を並べる。その心情を理解できるからこそ、旅団の面々はその光景を黙ってみている。そんな中で、再び手の甲を打ち付けられたゴンの苦悶の声だけが響く。
「あいつが………戦って負けるわけがねぇ!汚ねぇ罠にかけられたに、決まってる!」
声のトーンが変わったことに、ゴンは瞳を見開き、目の前で語るノブナガは言葉を紡ぎながら、涙を流していた。
旅団設立よりも前からの、ウボォーとの付き合い。仲間意識の高い旅団の中でも、とりわけこの二人には強い信頼関係がある。だからこそ、今の言葉には強い怨嗟と悲哀の声が込められていた。
怒りと悲しみを表す般若の様な形相をして、ノブナガは会話と腕相撲を続ける。
「鎖野郎は俺達に強い恨みを持っている、最近マフィアのノストラードファミリーに雇われた奴だ。知ってる事があったら、隠さず全部話せ!」
「知らないね、例え知ってても教えない」
「あ?」
この状況に置いて、ゴンから漏れる否定の言葉は、キルアを心底驚かせるのには十分だった。
勝ち目など無い、反抗すれば死が目前の敵の懐の中。しかし、それでもなお折る事の出来ない強い意志が、ゴンを突き動かしていた。
「仲間の為に泣けるんだね、血も涙も無い連中だと思っていた」
突然、ノブナガの腕が動かない。先程までは、ノブナガがゴンの腕力を受けて止め、あっさりと倒すという事を繰り返したにも関わらず、ノブナガはゴンの力に押し負けている。溢れ出すオーラは互いの身に纏われているが、ゴンから漲るオーラも、籠められる腕力も、激情を胸に宿すと共に、増幅されている。
念は感情に揺れ動く。
ゴンには許せなかった。何も考えず、何者も虐殺してみせるような連中が、殺された仲間の為に涙を流す光景が。なぜ仲間だけなのか。他の人達はどうでもいいのか?歪んだ優しさがあるからこそ、ゴンは許せなかった。その感情が、激しい怒りとなって、ゴンを動かした。
「だったらなんで、なんでその気持ちをほんの少しだけでも、お前らが殺した人達に………なんで分けてやれなかったんだぁ!!」
ドゴオォ!!
怒りに任せたゴンの腕は、組んでいたノブナガの腕を机の上に叩きつけた。
この光景は誰にも予想できなかった。
旅団の皆もキルアも、ノブナガでさえ。確かにゴンに対して油断や慢心が無かったと言えば嘘になる。というか確実にあった。万が一でも、自分が負けるわけが無い。ただそれは慢心というにはあまりに分かりきった実力差の為、仕方が無い。だがそれを抜きにしても、ゴンの力はノブナガの想像を超えた。
ノブナガは腕相撲を続行する気も忘れて、叩きつけられた自分の手を握ったり開いたりして感触を確かめながらも呆然としている。対面にいるゴンは、額に怒りマークをつけながら怒りをあらわにして、ノブナガを睨みつけていた。
「………………おいガキ、お前名前は?」
「………………ゴン」
「ゴン……ゴン、か。………………くく…くっく、くはっはっはっはっは!!」
黙っていたかと思ったら、急に笑い出すノブナガに、ゴンやキルアだけでなく、旅団の面々も一様にぽかんとした表情になった。一体彼に何があったのか、もしかて負けておかしくなったか?などと失礼な事を考えるフィンクスやマチ達だったが、その中でフランクリンだけはどこか不思議な表情でノブナガとゴンを見ていた。
ひとしきり笑ったノブナガは、先程の怒りの形相とは打って変わり、ゴンに向かって機嫌よく笑いかけた。
「ボウズ、
「やだ、お前らの仲間になるくらいなら、死んだ方がましだ!」
即答したその問答と共に、扉が開いて新たな来訪者の声が呟かれた。
「………どういう状況?」
***
レオリオから連絡を貰いやってきたミヅキが最初に見た光景は、今な囚われていると思われていたゴンが、旅団のメンバーであるノブナガから、仲間に勧誘されているというちょっと予想していなかった光景だった。果たしてこの場合ミヅキはどうするべきか。
二人が不当な扱い、この場合拘束でもされてたら助けるつもりだったのだが、今の状況を見れば果たしてそれは正しいのか。別段手足を縛られているわけでも無いし、まあ実力的に旅団のメンバーが二人の周りを取り囲むような配置な為、拘束などする必要無く逃げ道を塞いでいるのだが。
が、会話の内容からしてノブナガはゴンに好意的、それに旅団の面々としてもおそらく二人に対して基本的に何かしてやろうと言う気は多分無いだろうと言うのを、場の雰囲気からなんとなく察したミヅキは、普段通りに部屋の中に入って声をかけた。
「これってどういう状況か、聞いてもいい?」
「「ミヅキ!」」
「ん?ああ、お前か。………そうか、ヒノ知り合いって事は、お前の知り合いでもあるのか」
ミヅキの登場でゴン達は驚き、ノブナガは一人納得する様に頷く。三段論法という奴だろうか、ゴンの知り合いのヒノの知り合いなら、ミヅキはゴンの知り合いとなる、みたいな。少々強引ではあるが、間違ってはいない。
「ミヅキどうしてここに?ノブナガはああ言ったけどもう用は無いからヒノにでも迎えに来て貰おうと思ってたんだけど」
シャルナークはひらひらと手の中の自分の携帯を見せながら、特にミヅキが来た事に驚く様子無く話しかけた。ノブナガの勧誘発言は兎も角として、既にゴンもキルアもこのアジトに来る前に調べる事は調べ終えている。それはノブナガ達が腕相撲している間にシャルナークからパクノダに確認済みだ。
パクノダは相手の記憶を読み取るという、特質系の念能力者。
触れた相手に質問し、その質問に準ずる相手の記憶を直接映像を見て文を読む様に、自身の記憶に焼き付ける事ができる。情報収集能力としては相手に虚偽の余地を与えない強力な力だが、デメリットというか欠点もある。
基本質問に対する記憶なら読めるが、逆に言えばそれ以外は質問しない限り分からない。
今回の場合で言えばパクノダによる「鎖を使う念能力者を知っているか」という質問に対して能力をゴンとキルアに使用したが、二人から得られたのは全く何も浮かばない記憶。当然ながら二人共そんな人物知らないので、空振りに終わった。ここで重要なのが、それ以外が分からないという事。
ここで例えば「あなたの知っている念能力者は?」という様な質問をすれば、過去遭遇した事のあるウイング、ズシ、さらに言えばヒノやヒソカという一目瞭然な交友関係を把握する事も出来たが、質問の内容上分からない。
だからこそパクノダ達はゴン達がヒソカと知り合いという事も知らなかったし、フェイタンが言うまでヒノと知り合いという事も知る事は無かった。
「まあ代わりに。ヒノは今家で寝込んでいるからね、二人共引き取りに来たよ」
『は?』
実際はレオリオに聞いたからなのだが、そこで旅団の知らない名前を出すとまた面倒そうなので彼らの言葉に乗っかりつつ、何の気なしに言ったミヅキの言葉だが、その言葉に信じられない!という表情で旅団のメンバーが一気に変わった。ヒソカも含めていきなり全員の表情が変わった事に、ゴンもキルアもさらに驚き少し戸惑う。
代表して、フィンクスがおずおずと言った様にミヅキに聞いた。
「なぁ、今すげーおかしな事を聞いたきがすんだけどよぅ………ヒノが、寝込んだって?」
「?そうだけど、そんなに珍しい事でも無いでしょ」
「いやいや、あいつが寝込むとか想像できねーよ!だってあいつ基本一人で勝手に暴れて勝手に解決していく様な奴だぜ!?」
割とひどい言い方だが、事実なので否定できない。
ただ言わせてもらえれば、ヒノは人と連携する事だってできるし、結構な事件を乗り切る場合は多いが、全部力業で解決、とかしているわけでは無いのでそこまでひどくは無い。確かに色々能力的な面が旅団から見てもおかしいのは否定しないが。
「心配ね、お見舞いに行った方がいいかしら?」
「リンゴとかみかんとか買って行く?」
「そうだね。後はケーキとか持って行った方がいいかな。昨日のプリンのお返しもしたいし」
「いや………多分明日になれば元気になると思うから、まあ大丈夫だよ」
ミヅキの言葉に内心でほっとした様に雰囲気を和らげる女性陣。
寧ろ家に来られては色々と説明が面倒くさいので、ミヅキは彼女達があっさりと断念してくれたことに、こちらも内心ほっとしているのだった。
「ともかく、ゴンもキルアも帰っていいなら、連れて帰るのは問題無いね」
「ちょっと待てよ、ミヅキ」
ミヅキの言葉にストップをかけたのは、フィンクスだった。
「お前は鎖野郎を知っているか?それともお前がそうか?そこん所もはっきりさせてもらおうか。それに、このガキの背後に誰がいるのかもだ。そいつらを返すのはそれが分かってからだな」
鋭いフィンクスの視線は、ミヅキを逃がさない様にじっと睨みつける。
パクノダの能力を知るからこそ、その落とし穴も知っている。ゴン達の記憶、つまりは例えば相手が鎖を使う事を知らなければ、彼らの記憶の中に〝鎖を使う念能力者〟は存在しない。〝ただの念能力者〟となる。
だからこそはっきりさせなくてはならない。
表立って態度にしないが、フィンクスもまたウボォーギンがやられた事で強い怒りを抱く者の一人だったから。
「ふむ、背後に誰がいるかと言われると………とりあえずこれか」
そう言ってぴらりと、一枚の紙を取り出してフィンクスの目の前に突き出す。
その紙を問答無用で奪い取ったフィンクスは、そこに書かれている文と写真を見て何か思い出す様に斜め上を見て、すぐに思い出した。
「こいつは……あの岩山の時の写真か。なるほど、こいつが噂のマフィアが俺達に掛けた懸賞金か」
「俺にも見せて。………ああ、これが。ていうか普通にトランプしてる写真使われてんだけど」
「ほんとだ。これでマフィアから肖像権侵害とかで賠償金取れないの?」
「いや、無理だろ」
冗談半分だったマチの言葉に、フランクリンがバッサリと突っ込む。
「ゴン達はグリードアイランドっていう、オークションで出る最低58億の商品が欲しくて金策してたんだよ。ほら、ここに映ってる賞金首全員捕まえたら100億超えるし、3日で稼ごうと思うならまだ現実的だろ?」
「中々言うねぇ、ミヅキ。まあ確かに、現実的と言えば現実的。俺らだったら
若干挑発的というか、素で失礼なのか分からないミヅキの言葉に、シャルはにやりと笑って返す。
確かに子供がそんな大金手に入れようと思ったら、分かりやすい。加えて、実力差を理解して尚自分達を捕まえようとしていたゴン達は素直に賞賛する。冒険心は見事、ただし突発的で作戦の見通しがまだあまい。
「でもまあ俺は納得してもいいけど。どちらにしろ鎖野郎はノストラードに所属してるんだから、わざわざ子供を使わなくても、情報なんてマフィアを通じていくらでも入ってくるわけだし」
「そりゃまぁ………確かに」
「それに俺達は恨まれる存在だからね、鎖野郎は単独犯、しかも個人的な理由で動いてると思うよ。そうじゃ無いと、ウボォーを倒した後でマフィアに報告しないわけが無いからね」
もしもウボォーギンが倒された事をマフィアに報告したのなら、今頃犯人一味の一人として様々な手段を使って旅団を炙り出す為に使われているはず。しかし調べた限りそれは全く無い、つまりはウボォーギンがやられた事に対して、マフィア側は全く知らないという事。ウボォーギンの載った手配書が未だ出回っているのがその証拠と言ってもいい。
「それじゃ、僕らはゴン達と帰ってもいいって事でオッケー?」
「そうだね………………ミヅキ、君には我ら
「どうしたのシャル?ノブナガに感化されて頭おかしくなったの?」
「おい、それはどういう意味だ」
いきなり腕をバッと突き出しながら突然テレビ番組の司会の様に何か言い出したシャルナークに対して、マチの辛辣な意見が飛ぶ。そしてそれに対して突っ込むノブナガだが、シャルナークもマチもスルーした。
「まあまあ。ミヅキ、実はこの旅団には腕相撲ランキングという者が存在してね、ちなみに一番トップはウボォーで次はフィンクス、ヒソカと続く」
「意外と愉快な事してるんだな」
「けど、今回はあの子達がも戦ったノブナガと戦ってもらおう!それに加えて、後2人、ランキング上ノブナガ以下2名と前座に戦って貰う!」
「うん、それで拒否するにはどうすればいいんだ?」
「いきなり否定から入らないでよ!無事に勝てれば皆無事に返してあげるよ」
その言葉に少し反応するミヅキ。ゴンとキルアも同様、行ってしまえばここで命運分かつ!という様な物。しかし旅団の面々は、呆れた様な表情を続ける。そしてシャルナークも言葉を続けた。
「ただの腕相撲だし、勝てば解放でいいからさ」
「まあ別にいいが」
「よし、それじゃノブナガの下の下、つまりノブナガをもし頂点にした時の第3位と戦って貰うよ」
「その第3位って?」
「パク、よろしく」
そこで、他の面々もシャルナークが何をしたいのか分かった。ノブナガの実際の腕相撲ランキングは旅団内では9位に位置するが、その下の下、つまり11位はパクノダ。そして彼女は触れた相手から記憶を読む能力者。
さらに言えば、ミヅキはパクノダの能力を知らない。ヒノから聞いてないか?という事も疑念だが、ヒノに限って勝手に人の能力を話すはずが無いと、旅団の皆は信頼している。実際にヒノは旅団の能力を話していないので、その信頼関係は紛れも無い事実だった。
(パクと腕相撲させて、無理やり記憶引き出すつもりか)
(確かに、傍から見たら能力使用の有無なんて分からない。ちょっと強引な気もするけど)
(けどミヅキの言質はとった。あの子供達を返したい以上、あいつは断れねぇはず)
「それじゃあやろうか。ルールとかあるの?」
「そうだね、【纏】くらいはいいけど、それ以外は【凝】とか能力の使用は無しって事で」
「わかった」
存外あっさりとオーケーを出すミヅキに少し拍子抜けしながら、パクノダとミヅキは、先程ゴンとノブナガが腕相撲をした机に対面して立った。
「ちょ、ミヅキ……大丈夫なのか?」
「キルア?まー、なんとかなるだろ」
妹を彷彿させる能天気な佇まいにキルアは心配になる。ゴンはまだ怒りが完全に収まっていないのか、黙って事の成り行きをじっと見守っている。
(ねぇ、シャル)
(ん?どうしたのマチ)
(もしもこれでミヅキが普通にパクに負けたらどうするの?あの子達ここに置いておくつもり)
(………………………………その時は、ノブナガに任せよう)
(考えて無かったのね)
しかしヒノの兄であるならば大丈夫じゃね?という謎の信頼感。しかしよく考えたら、ヒノが腕相撲で圧倒的勝率を誇ったのは、対戦者が興味本位で能力ありにして戦いを挑んだ結果でしかない。さらに言えば、フェイタンとの対戦も圧倒的な顕在オーラによる力業でしかない。
しかし今行われようとしている対戦は、互いに【纏】を崩さない、純粋な腕力勝負。そう考えると、シャルの頬に一筋の冷や汗が流れた様な気がした。
ミヅキから見えない背後から、シャルナークはこっそりとパクの背中に指先をトントンとリズミカルに当てる。それに気づいたパクノダは、これも気づかれない様に腕相撲する反対の左腕で、シャルナークの足を指先でつつく。
(パク、もしも普通に勝てそうだったら―――)
(了解、適当に負けるわ)
会話に出さない原始的な指先だけの信号のやり取りを終えて、パクノダはいざミヅキと向かい合う。
そして互いに腕を組んで、シャルナークが審判の様に真ん中に立った。
「ミヅキ、最後に一つだけ聞きたいのだけれど、本当に鎖を使う念能力者について知らない?」
「うん、知らない」
その言葉と共に、パクノダはじっとミヅキを見たと思ったら、催促のつもりか別の意図か、シャルナークの方をちらりと見て、シャルナークもそれに頷き手を構える。
「それじゃ、初め!」
ドォ!
開始の合図と同時に、互いに力を籠める。
パクノダの目的は既に達したので、後は適当に負ければそれで終了、一応気になるのでミヅキの腕力自体は確認するが、それによって勝つと後が面倒なので、適当な所でやはり負ける………つもりだったのだが、パクノダは抵抗できないままに机に倒された。驚いた風に、手の甲を付けられた自分の手を見つめて一瞬だけフリーズしたけど、結果はやはり変わっていない。
「はい、ミヅキの勝ちね。意外とやるね」
シャルナークの言葉を皮切りに、パクノダは席を立って後ろに戻る。結果を見守っていたマチ達が、パクノダのそばに寄ってきた。
「パク、どうだった?」
「…………以外に強かったわね。全く抵抗できなかったし」
「ああ、いや、それもあるけど、ミヅキの記憶の方は?」
「………………それなんだけど、多分本当に知らないと思うわ」
「?珍しく曖昧だね」
「確かに何も記憶は読めなかったから知らないのだと思うんだけど、何か引っかかるような………」
頬からわずかに冷や汗を流すパクノダの表情を見て、マチも同じように顔を少しだけ強張らせる。パクノダの能力は絶対だ、
「あいつも何か能力を使ったって事か?だったらそれ追求すればこっちの反則勝ちに」
「馬鹿だね、そんな事したらこっちが能力使って探ったのバレバレだろ」
「ああ、それもそうか」
フィンクスの提案を一蹴するマチ。
相手にわざわざ能力を教えてやる様な物、それは避けたい。
「あ、パクどうだった?収穫なし?」
「シャル。そうね、結局無駄骨みたいよ」
「そうなの?ちょっと残念、鎖使いって意外といないんだね」
「そういえばパクの次はシャルが腕相撲順位高かっただろ?ミヅキとやらないのか?」
「ああ、さっきやって負けちゃった。普通に強いんだけど、何あの怪力怖い」
「あ、そう」
へらへらと爽やかに笑いながら負けた宣言をするシャルに、マチとパクノダはじとっとした眼で睨む。同時に意外と腕力的にも高いミヅキに少し驚く。ヒノの腕力だけならば、多分シャルナークかノブナガとどっこいどっこいと思っていただけに、意外とあっさりシャルナークを下すミヅキに少しだけ認識を改めた。
「よし、こいや」
「お手柔らかに」
で、いつの間にか第三ラウンド、ノブナガVSミヅキが始まろうとしている。
「ノブナガ、もしもだけど勝てそうなら………」
「おう、任せとけ。完膚なきまでにぶち倒してやるよ」
「いや、そうじゃなくて―――」
やはり強化系だからか、思考能力はあるが単純傾向はノブナガにもあった。まあノブナガからしたらゴンはキープしておきたい人材なので、ここで負けるわけにはいかないと言うのは分かるが。どっちにしろノブナガが責任を取るのであれば、別に構わないか、そう考えて、シャルナークは傍観に徹するのだった。
「それじゃあいくぜ!レディ、ゴッ!」
ノブナガのセルフ合図と共に、互いに腕力を籠める。一瞬拮抗した互いの腕だが、ゆっくりとノブナガが押されていく。その光景に、ノブナガはさらに力を籠めるが、全く持って抗えない。
(こいつ!そういえば、初めて会った時も馬鹿みたいな力してやがったなぁ!)
苦い記憶だからすっかり記憶の片隅に置いておいたが、ノブナガは初対面でミヅキと戦った。決着は着かなかったが、その際ノブナガの振るう刀を素手で受け止めて、尚且つノブナガの腕力に抗って見せた。正確に言えば、ノブナガはミヅキに対して押し切れなかった。
「ぐおぉ!」
結果として、ノブナガはミヅキに倒されて、手の甲を叩きつけられた。抗う暇も無く、腕力的にノブナガよりも圧倒的に勝っていた。念を使えばまだ分からないし、ノブナガも旅団全員で見れば9位なので、結局ミヅキがどれくらい強いのかも今一つ分からないが、少なくともノブナガ以下を歯牙にもかけない、腕力は有していた。
どちらにしろ、シャルナーク達にとってはパクノダの情報収集が完了した時点で、寧ろ「よし!ノブナガ負けたぜ!計画通り!」と思っていた別に問題は無い。しかし表立って言えばノブナガがまた突っかかって来るので、心の中でガッツポーズをしておくだけに留めるのだった。
「さてと、腕相撲も終わったし、ゴンとキルアも撤収するぞ」
「ちょっと待て!」
用無しだ、とばかりにあっさりと、手招きしながら出口に向かおうとした瞬間、その声に待ったの声がかかった。が、声の主に対して周りから呆れた様な声がかかる。
「ノブナガ、潔く負けを認めたら?その子ももうここに居ても意味無いし、行かせてあげようよ」
「どうせ最初にその子に負けたんだし、もういいでしょ」
「違う!そういう事じゃねーよ!おい、ボウズ!ゴンって言ったな!おめー聞きたい事があるって言ってただろ!答えてやる!」
すっかり忘れていた、という旅団の面々でキルアも頭から抜けていた。ミヅキに至っては聞いてないので全く知らない。しかし、ゴンだけはまっすぐした瞳で、件のノブナガを射貫く。
「一つだけ教えて欲しい。旅団とヒノは、どういう関係なのか」
最も聞きたかった事。ヒノが今時点で寝込み話しかけられない状態である故に、聞くことのできる相手。
ゴンは、幻影旅団に、質問をした。
結局腕相撲して終わった………。