途中話が飛んだので「あれ?」と思った方はホントすみません。
「皆さん疲れ様です。無事、湿原を抜けました。ここビスカ森林公園が二次試験会場となります」
ハンター試験一時試験官サトツが止まると同時に、後ろから走ってきた受験者達も立ち止まり、荒くなった息を整え始める。二次試験会場という言葉が、何より彼らの不安を全て解消してくれ事だろう。
森の一角に少し大きめの建物がある広場は、先ほど走っていた危機感が嘘のように長閑な空気に包まれていた。
「それじゃ私はこれで、健闘を祈ります」
そう言うと、サトツは特に何を言うでなく、後の事をまだ姿の見え無い二次試験官に託し、受験者達からくるりと背を向けて歩いて行くのであった。
(残り約150人。一次で2桁程になると思っていたのですが、今年の受験生は豊作ですな)
受験生の実力によっては、その年合格者数が0という事もあり、最終試験にたどり着く前に全員脱落なんて事もざらにある。そう考えれば、一次試験とはいえ、100人以上の受験生が残っているというのは中々に試験官からしても珍しい状況だった。
しかしサトツは次の試験官の人とナリを知っているので、案外試験内容によっては半分以下か、下手をすれば1桁に落ちるのではないかと妙に危惧していた。その為、
(しばらく、様子を見ていきますか)
しかし決して悟られないよう、するりと気配を消して木の上から。
受験生を眼下に収めながら、サトツは視界に映った金色の光にぴくりと反応する。視界には、太陽の光に反射するリボンで結われた金色の髪がさらりと揺れた。
(いつの間にか先頭集団に混じっていた、受験番号100番のお嬢さんですか。スタートからおよそ1時間以上遅れていたにも関わらず、トップで到着。それで尚疲れていないとは、流石ですね)
走っただけなので実力の全てを見たわけでは無いが、念法を取得している事を除いてもこの受験生の中ではトップクラスの身体能力有しているまだ年端も行かない少女。
ちょうど眼下ではその少女のそばに他にも少年達が集まり、楽し気に話をしていた。
(あちらも一筋縄ではいかないお子様とご友人達ばかりですね。やはり、今年は豊作です)
そう思い、サトツは再び息を潜めるのだった。
***
「ゴン!おーい、こっちだ!」
「あれ?キルア随分嬉しそうだね~、良かったね~ニヤニヤ」
「………るせぇ」
そっぽ向いているが口元が緩んでるよキルア君。
ま、無事に帰ってきて何より。見た感じ怪我もしてないみたいだし、足も腕も頭もくっついている。一先ず安心。今は私より少し年上っぽい金髪の少年と一緒にさっきのレオリオさんと一緒にいた。
なんか知らないけど右頬がめっちゃ晴れてるけど………。ちらりとヒソカのいる方を見てみれば、こっちの視線に気づいたのか、ひらひらと手でグーを作った後、ピースを作っていた。うん、とりあえず無視しよっと。あとついでにレオリオ殴ったのヒソカだっていうのは分かったよ。
「ゴン、どんなマジック使ったんだよ。絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」
「そうだね。霧も濃かったし不思議だね」
「キルア、ヒノ!!」
こちらを見つけると、ゴンも心底嬉しそうな表情をしてくれた。隣の人は、見た目は女性っぽいけど恰好からしてきっと男だな。多分ゴンが地下で言ってたクラピカって人かな。
しかし、【円】が使えるなら分からないでも無いけど、ゴンは念を知らないし、結構広い森と湿原だから本当にどうやって帰って来たんだろ。少し時間あったから後続が見えてたって言うのも考えにくいし。
と話を聞いてみたら、レオリオの香水の匂い(1キロ以上離れてる状態で)を辿ったんだって。………普通無理でしょ。流石に旅団の皆だってできない。
ちなみに私は毒とか嗅ぎ分ける事ならできるよ。
「ゴン、その子は?」
「うん、ヒノっていってキルアと一緒に試験会場に来たみたい」
「そうだったのか。しかし君みたいな少女もここまで残るとは………いや失礼だったな。私はクラピカ。よろしくヒノ」
「オレはレオリオだ。よろしくな、ヒノ」
「よろしくねクラピカさんと、レオリオさん」
「おいクラピカ!見ろ!俺初めて年下の子にさん付けで呼ばれた気がするぞ!」
「当てつけのように私の方を見るな。それに私は一度君を〝さん〟で呼んだ。あの話はもう終わった事だし蒸し返すな」
「いや、まあそうだけどよ。ああヒノ、別に呼び捨てで構わないぜ。敬語もいらねーよ」
「私も気軽に読んでくれて構わない。ゴンやキルアもそうだしな」
「そう?よろしくね、クラピカ、レオリオ」
ピーン!
あ、正午になった。
一体どこから時計の音が?と疑問に思ったそこのあなた!実はここの広場には二次試験会場となるらしい少し大きめの建物が建っていた。森の一軒家だから場違いかと思ったけど意外とマッチしてる気がするよ。あくまで気がするだけだけど。
ギギー。
正午から開始の看板通り、正午になった瞬間扉がゆっくりと開く。
扉の奥から現れたのは、露出度の高い服装と変わった髪型の女性。そしてその女性の座るソファの後ろにいる、女性の2~3倍はありそうな体格のふくよか体系の大柄過ぎる男性だった。座高だけで2メートルありそうなんだけど………。
「そんなわけで、二次試験は料理よ。美食ハンターのあたし達を満足させる料理を用意してちょうだい」
美食ハンターとは、食の探究者。未知なる食材を探し求め、猛獣の素だろうが断崖絶壁だろうが氷河の世界だろうが駆けまわる美食を追い求めるハンター。………らしいけど、それってあれ?美〇屋?これなんてト〇コ?
まあそれはいいとして、話をまとめると美食ハンターのあの男性が指定する料理を作り食べてもらって「美味しい」をもらい、合格したら次に女性の指定した料理を作り食べてもらって「美味しい」をもらい、そうしたら晴れて二次試験合格と。
よし!!これなら何とかなる。
私の特技は料理といっても過言ではない。就活面接であなたの特技は何ですか?といわれたら迷わず料理と答えることができるくらいには得意なの。
………けど問題もある。
料理と言っても、私はそこまで世界の料理全てを網羅しているというわけではない。
現実風に言えば、日本人にビリヤーニー作ってと言われて「それ何?」って感じ?ちなみにビリヤーニーはインド料理で具の多い炊き込みご飯みたいな料理だよ。あっと、今の言葉は忘れてね?
「オレのメニューは、豚の丸焼き!オレの大好物!」
よし!この課題はもらった、心の中でガッツポーズをした。
豚の丸焼きだったらいろいろ間違わなければ問題ないはず!
***
早速目的の豚を探すと、案外簡単に見つかった。
私の数倍はある体積に、突き出たような変わった鼻が特徴の豚が群れで森の中を普通に行動をしていた。とりあえず群れを相手にするのは面倒なので、一匹だけはぐれた豚を見つけたのでそちらに移動する。
それにしてもこんなところで大量に豚を取って生態系に影響は出ないだろうか?まあそこはハンター協会だから問題ないと思うけど。意外とハンター協会って色々とアフターケアというか、場所とかそこらへんはちゃんとしてるよね。受験生には厳しいけど。
一先ず、向かってきた豚の突進をよけて、頭に蹴りをお見舞いする。
豚は一回でノックアウトしちゃったけど、頭が弱点なのかな?
まあ倒せたし生物学者でも無いからとりあえずそこは置いといて、サバイバルナイフを取り出し内臓を取り除き毛を処理した後は大き目の木の棒で貫いて早速丸焼きだ!
「上手に出来ましたっと………よしできた!!早く持っていかないと」
あの試験官の男性は体が大きいからすぐにおなかいっぱいにならないと思うけど、こんなに大きい豚ならすぐにおなかいっぱいになるはず。………と思ったのだけどいらぬ心配だったよ。
「うまい!イケるイケる!これも美味」
あっあの豚まだ生焼けだ。あれは毛が残ってるな。料理のりの字も知らない素人が作った料理でも喜んで食べている姿を見ると、なんだかまじめに料理した自分があほらしい。
そしてひとしきり食べた後で、頃合いを見て男性の告げた言葉に、女性の方が銅鑼を鳴らした。
「あ~食った食った。もうおなかいっぱい」
ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。
「二次試験終了。豚の丸焼き料理審査70名通過」
まさか70頭も丸ごと食べるとは。ここにいるみんな同じこと考えてるよ絶対。
クラピカなんかすごく悩んでるよ。多分根が真面目なタイプなんだね。キルア達は素直に驚いてるけど。これも念のおかげなのかな?だとしたらすごいな。………いやすごいのか?
「あたしはブハラと違ってカラ党よ。審査も厳しくいくわよ」
あの男性はブハラさんか。できればブハラさんと同じくらい簡単なものだといいのだけれど。さてさて。
「二次試験後半、あたしのメニューはスシよ!」
スシ………?スシとは?いったいどんな料理なんだ。
そんな心の声が周りを見ると聴こえてくるよ。
確かに寿司は海を渡った大陸の人には認知度が低いみたいね。この中の受験者だとほとんど見た感じ知らないんじゃないかな。
「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも無理ないわ。小さな島国の民族料理だからね」
いつのまにジャポンは知る人ぞ知る小さな秘境と化してしまったのだろうか。
もちろん私は知ってるし寿司も知ってる。だって私はジャポンから来たし。
「最低限必要な道具と材料は揃えてあるし、スシに不可欠なゴハンはこちらで用意してあげたわ」
見てみると小屋の中には数多くの料理台。受験者分は十分にあるだろう。包丁、まな板、水道、それにお櫃。中身は酢の香りがするから十中八九シャリ。
「そして最大のヒント!! スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!!」
握り寿司か。よし!この試験は大丈夫だ。ジャポンで寿司は食べにつれてってもらったこともあるし作ったこともある。板前さんのお墨付きだ。
思い出すな、最初はうまく作れなかったな~。と思い出に浸ってもしょうがない。早く始めないと。今回はブハラさんと違って大食漢じゃなさそうだしね。
でもこれでも難しい人には難しいんじゃないのかな?
まああえて考えてみるとすれば、シャリを使っての料理。そして包丁とまな板があるから肉、魚、野菜等の包丁の使用を前提とした食材と合わせる。そして調理台に水道はあれどコンロは無いから、新たに炒めたりはしない料理。つまり具材の方を生で使う。という事は、肉は除外。生野菜だと野菜による。そう考えると消去法的には生魚、料理にするとしたら刺身か踊り食い、後は生でも使える野菜をシャリと一緒に握って作る料理。
と、それっぽい推論をしてみたけど、よく考えたら生でも食べられる肉、まあ鳥とかでもあるし、魚と断定するには材料が少し足りない気がする。
ま、私は寿司は最初から知ってるので、他の受験生の皆頑張ってね!
***
握り寿司とは、シャリを作り場合によってわさびを載せ、その上にネタである新鮮な魚介類の切り身やむき身、もしくは調理を加えたものをのせ握ったもの。中には海苔でネタとシャリの分離を防ぐ場合もある。
シャリの握り方や握りの形もさまざまなものがあるがさてどうしようかと思ったけど、さすがに海水魚は無理なので森林公園にあった川で魚をとることにした。
ばれないようにこっそりと小屋を出て魚を取りに向かう。ちなみになんでこっそりと言うかと、これは受験戦争!戦いだから!それにしてもここの川はきれいだね。水遊びもできそう。
なんでこんな綺麗な森林公園と危険地帯のヌメーレ湿原が隣なのかが不思議でならないけど、一体ここの生態系はどうなっているのやら。とりあえず先ほど豚の丸焼き調理にも使用したサバイバルナイフを取り出し川を泳いでいる魚に狙いを絞り………投げる。ナイフは狙った赤い魚を貫通した。しかし川を見た限り変わったのが多い。
見た目が変な奴ほどうまいというけど、見た目通りという場合もありそう。そう考えてると後ろから大量の受験者達が来た。いったいどうしたと思ったら皆一目散に川に近寄り魚を取り始めた。
「キルア。みんなどうしたの」
「ヒノ!てめー魚が必要なの知ってたな。クラピカがスシに魚使うって知ってたんだが、その情報をレオリオが大声でばらしちまったんだよ」
なるほど、だからか。話を聞く限りクラピカは寿司の作り方までは知らないみたいだね。
まあ今回は皆頭を使ってがんばってもらおう。
皆より早く小屋に戻り調理台に立ち早速料理を開始。今なら全員魚を取りに行ってるから誰もいなくてチャンス!しかもシャリはもうできてるしこれなら3分クッキングもお手の物だ!
採ってきた異様な見た目の赤い魚。三枚におろしてみてみると、なんだかタイに似てる。ちょっと一口食べてみた限り味は違うみたいだけど、まあ普通に食べられるかな。
包丁を使い筋目と交差するよう、そして刃を全て使うように切る。そしてあまり厚くならないように切る。
シャリは長時間握ると体温が移って温かくなるからすばやく、そしてネタを乗せさらに握る。よし完成だ!!うーん、どうだろう。美食ハンターの口をうならせることができるだろうか?
とりあえずお腹いっぱいになる前に食べてもらわなくちゃ。幸い寿司の課題は難しかったのでまだ誰も来てなく、意の一番に魚を採ってきた私が一番のりだった。
「すいませーん。できました」
「あら、早いわね。うん、形はできてるわね。じゃあさっそく」
そういって机の上の小皿に入った醤油につけて寿司を食べる。というか醤油を常備してるって事はここからも推測しろって事なのかな。
いやそれよりも………どきどき。
「あらおいしい」
やった!!
女性試験官の声に、後ろで座って寛いでいたブハラさんが驚いた表情をする。
「ホント?メンチ」
「うん!本場のプロと比べたらまだ甘いけど、シャリの握り加減や切り身もしっかり切ってるし、店に出せるレベルだわ。川魚なのはあれだけどそれは仕方ないから十分ね。あんた始まってすぐに魚とりに行ったからスシは知ってたみたいだけど、まさかこんなにできるとは思わなかったわ」
「料理は昔教えてもらって割と得意なの。それにジャポンから来たから寿司は知ってたし」
「ジャポンからか。なんにしても100番、合格よ。もっと修行したらさらにおいしくなるわ。ねえ美食ハンターになる気はない?絶対いい料理人になるわよ?」
「ん~、考えておく」
やったー合格だ!!課題が知ってる奴でよかった。作ったことあるのでよかった。とりあえず合格したのがばれないようにしておかないと。いや、別にばれてもいいけど。
「あっ、100番。スシの作り方は周りに言っちゃだめよ。それじゃ試験にならないからね」
「はーい!」
さてと、とりあえず終わったし、どうしようかな?そう思っていると、別の調理台で魚とシャリと睨めっこしていたキルアが、こちらに来た。
「なあヒノ、お前スシって知ってるか?」
ん?まあここで知っているよって言うのは簡単だけど、メンチさんに教えるなって言われてるし、なんて答えようか?そう思ってると、キルアが私の調理台にある余分に作られた寿司を取ってどっかもってっちゃった。別に私は何もしてないし、セーフだよね?
その瞬間、けたたましい大声がメンチさんのいる方から聞こえてきた。
「メシを一口サイズの長方形に握ってその上にわさびと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろうーが!!こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ」
「ざけんな!寿司をまともに握れるようになるには十年修行が必要だって言われてんだよ!貴様ら素人がいくら形だけまねたって、天と地ほど味は違うんだボケ!」
「んじゃそんなもんテスト科目にすんなよ!!」
「っせーよ!コラ!ハゲ!殺すぞ!文句あんのか!お!?あ!?」
寿司の情報を大声でばらしているあの人は、確かジャポン出身らしい忍者の人。禿頭が特徴的だしちょっと覚えてたんだけど、あー、試験的に結構まずい事しちゃったんじゃないかなこれ。それはそれとし、奴め寿司をなめてるな。ジャポンの人のなのにおいしい寿司を食べたことがないのかな?
けど、寿司をお手軽料理と侮辱(まあ言った本人はそこまで寿司事態に悪気は無かったというか、寿司に対しての知識が薄かっただけだと思うけど)された事に、料理人として美食ハンターとして一流のメンチさんは、マジでブチ切れましたはい。
それからというものメンチさんはとんでもなく激カラ党になってしまいました。
寿司の製法が割れてしまったからには、後は形では無く味で審査をするしかない。けど、すごい厳しい。先に終わっといてよかった………。そうじゃなかった私もやり直し言い渡されてたかもしれないし。けど、あれじゃあすぐにお腹いっぱいになるんじゃ。
案の定、しばらくして。
「悪い!!お腹いっぱいになっちった」
第二次試験後半、メンチの料理。合格者1名。
ヒノの料理スキルは割と高い。