「さぁ、いらっしゃい!条件競売が始まるよ!!競売品はそこの店で買ったばかりの、300万の鑑定書付のダイヤの指輪!落札条件は腕相撲に勝利!参加費1万ジェニー!さぁ、オークションスタート!!」
威勢のいい八百屋さんの様に、臆する事無く言葉を並べ立てるレオリオに、言葉を聞いてヒートアップしていく
そしてその横に静々と佇み、競売品のダイヤを持っているキルアの姿と、それを眺めさらに隣で壁際の木箱に座っている、私とミヅキがいた。
「中々盛り上がってるね~、流石ヨークシン。こんな突発的な競売にこぞって参加するなんてね」
「まあ内容も分かりやすいし、1万が300万のダイヤに化けるなら願ったり叶ったり。力自慢なら絶対にチャレンジするだろうね。なんせ、相手はただの子供にしか見えないしね」
念能力者は、子供だろうと侮るべからず。
大の大人を片手で吹き飛ばし、天空闘技場では200階まで相手を一発場外KOにしていたゴンの異名は『押出しのゴン!』って言われただけあるしね。見た目じゃ分からないけど、流石片手で2トンの試しの門を開けただけある。今だと念が使えるから、2の門(片方4トン)もいけるじゃないかな。
後ついでに言えばゴンは強化系だから【硬】を使えばもっといけそう。まあ今の時点だとゴンもキルアもウイングさんから基礎しか教わって無いから、まだ応用は使えないけどね。そう考えると、裏ハンター試験を終わったハンター達はどうやって応用に手を出すんだろ。二人の修行を見た感じ、ウイングさんから応用の存在は【凝】くらいしか聞いてないみたいだし。武器を使わないなら【周】を使う機会も少ないだろうし。
まあそういうのって、基礎をやっていく内に自然と発見して身に着くから〝応用〟って言うんだろうけどね。
「おおっと!いけるか?いけるか?はい負け~残念!次の方どうぞ~!!」
「よっしゃぁ!行くぜ!」
ゴンのやる事は2つ。相手の顔色を窺いつつ、力加減を見て倒す。
ゴンの腕力でやれば、そこらの一般人なんか指一本でもKo出来るからね。そんなんじゃお客さん来ないし、商売上がったりって奴だね。皆ドン引き確定だよ。
しかしそんな事はしていないので、挑戦者は続々と集まり、既に100を超えている。ゴンが勝つ度に観客は湧き、さらなる意気込みを見せる挑戦者が現れる。
「ゴン疲れてそうだな。体力的にじゃなくて、主に気疲れが」
「いいんじゃない?傍から見れば汗だくで疲れてる様に見えるし」
実際には冷や汗で、全く疲れて無いだろうけど。
流石に旅団級の相手でも来ないと、ゴンがやられるなんて事はそうそう無いでしょ。
「宜しくお願いします」
そう思っていたら次の挑戦者………………………だったんだけど、もしかしてさっきのでフラグ建ったの?
次の挑戦者って、シズクじゃん。
黒髪のショートカットに、黒ぶち眼鏡の女性は、確かに幻影旅団所属のシズク。必殺技は、具現化した掃除機を叩きつけてで相手を攻撃する『物理的掃除』!………………ネーミングに関しては私の心の中だけだよ。
隣のミヅキも、ゴンと対面しているその光景に少々驚いた様だった。
「ヒノ、あれって旅団の一人じゃなかったか?確かシズクとか言ったな」
「そうなんだけど………………なんで来ちゃったのかな。もしかしてあのダイヤ欲しいのかな?………うん、まあありえるといえばありえる」
よし、聞いてみよう。ていうか場合によってはストップかけた方がいい。
お金稼ぎに競売してるのに、競売品取られたらその場でゴンとキルアの所持金が200万になるしね。というわけで始めようとしていたゴンとシズクの所にてくてくと歩いて行くと、シズクの方も気づいたのか、表情は変わらないけど「あっ」って感じで少し驚いたっぽい。
「あ、ヒノ。昨日ぶり」
「昨日ぶり、というかシズクこんな所で何してるの?今日は夜忙しいんじゃなかったの?」
確か今日の夜にどっかの競売襲うとかクロロ言ってたと思うけど。全員参加だからシズクだけ置いてくってのも無いとは思うんだけどね。私の言葉に一瞬だけきょとんとした様なシズクだったけど、ふと思い出した、みたいな感じで説明する。
「もう少し時間あるから。あのダイヤいいなって思ってやろうかなって」
すごいマイペースな発言。でもちゃんと時間は理解しているから、遅刻するって事は無いみたいで少しだけ安心した。
「ヒノの知り合い?」
「そうだけど……………ま、いいかな。二人共頑張ってね」
そう言った後、レオリオの掛け声で二人は腕相撲を始めてしまった。
いつの間にか隣に来ていたミヅキは、その様子を見ながら私に視線を向ける。
「いいのか?ゴンが負けたらそれこそ商売あがったりだけど」
「多分、ゴンの出した手に合わせたからだと思うけど、二人共右手で腕相撲してるでしょ?」
「そうだな。しかし………ほぼ拮抗してる感じだな。いや、ややゴンの方が上か」
「シズクって左利きなんだよね」
「そうなのか?………………ああ、なるほどね。だから普通に勝負推奨したのか」
そうしている間に、シズクはゴンに負けてしまった。
本来ならシズクの利き腕は左だけど、ゴンが右手をスタートポジションにして待っていたから同じように特に考えずに右手で勝負をしているみたい。左同士の戦いならともかく、念を使わない状態ならゴンの方に分があると思ったけど、とりあえずゴンが勝ってよかったね。
今回初めて念無しだけど全力を出したのか、少し疲れた様なゴン。実際は超人同士の大激突だったけど、傍から見たら少年少女の微笑ましい一戦に見えたのか、ギャラリーは中々湧いている。
私はゴンの隣まで歩き、肩をポンと叩く。
「お疲れ、ゴン。流石に疲れたでしょ」
「あの子ってヒノの知り合いだよね?一体どんな子なの?俺ギリギリで勝ったんだけど………」
「ああ、さっきのゴンマジ全力だったぜ。腕相撲の女世界チャンピオンか何かか?」
念を使わない素の腕力なら、キルアの言いたいことも分かるよ。発想はすごいけど。
ま、流石に今のが幻影旅団の一人とは考えないよね、普通。
「ふむ………よし!お集りのお客様!今よりボーナスタイムを行いまーす!」
「レオリオ?」
急に声を少し張り上げて、レオリオは声高々に宣言する。集まっている観客も一瞬疑問符を浮かべた様だったが、次のレオリオの言葉に一斉に笑み参加を目論んでいた強者達は湧き立った。
「今より10分間のボーナスステージ!この場にいるこの少女(ヒノ)との腕相撲で勝利すれば、同様の競売品ダイヤを進呈します!ただし参加条件は一人3万ジェニー!ではオークションスタート!」
「ちょ、レオリオ!」
「頼むヒノ。ゴンにちっと休憩させてやってくれよ。かといってキルアやミヅキみたいな同じ同年代の男じゃボーナスにならねぇしよ。お前なら相手が誰でも勝てるだろ?」
まあ確かにそうそう負けるつもり無いけど………………まあいいかな。さっきのシズク戦は疲れただろうし、今までの150人斬りでも結構気疲れもしただろうし、ここら辺で10分休憩もいいよね。流石に夜通し腕相撲しまくる、なんてのは無いと思うし。まあ一回1万で戦い続けるなら、最低落札価格89億まで何十万勝以上しないといけないけど。
ていうか参加費3倍にも関わらず普通に参加希望が無駄に多い。参加費上げたらボーナスじゃ無くね?
まあ問題無い。とりあえず今から10分間はゴンの代役。流石に代役を任された身で、負けるわけにはいかないね!気を取り直して!
「しょうがない、それじゃあ誰でもかかってこい!」
「じゃあ一番手ワタシね」
そう言ってレオリオに1万ジェニー3枚を飛ばしながら机の前に座る私に対面する様に立ったのは、小柄な影。真っ黒い髪と、真っ黒い外套に身を包んだ黒ずくめの男は、細い目をいつもよりさらに細め、楽しそうに歪んだ様な表情で私を射貫いた。
………………………確かに誰でもって言ったけど、なんでフェイタンまで
言っておくけどガチバトルじゃなくて、やるのは腕相撲だからね?
***
「ここはなぁ、てめぇみたいな若造が来るところじゃねぇぞ!ああぁん!?とっとと帰りなぁ!」
「いや、そう言われてもなぁ」
強面をした黒服の男の恐喝紛いの様な大声に、年若い青年は苦笑いを浮かべつつ、どうやってやんわり切り抜けようかと頭の中で考えていた。
(今すぐ斬り捨てる………というのはさすがにやばんすぎるな。というかこの場所じゃ、逆に追い出されかねないし………………さてどうするかな)
嘆息しながら、どうするかを考える。
辺り一面黒服がざわざわとしているこの場所は、とあるビルの中。そしてそこに集まるのは、古今東西に蔓延り力を権威を持って君臨する、大小さまざまなマフィア達だった。
ここはオークション会場。
俗に
そして当然ながら、マフィアなら必ずというわけでは無いが、一般より血の気の多い者達は多い。
そんな一人が、マフィアの中でも少し浮き気味だった、年若い青年に突っかかっていた。
青年、ジェイ=アマハラは、やはり苦笑いを浮かべて、この事態をどうやって切り抜けようか考えていた。
(問題を起こせばオークションに参加できないしな、さてどうするか………)
「おい、聞いてるのか!ああぁぁあがぁあ!?」
「おいおい、俺のツレに何か用かよ、おっさん」
突然、ぬっとした影と共に、恫喝した男の肩に置かれた手がぎりぎりと力をわずかに籠めると、男は苦悶の表情を浮かべて驚きをあらわにする。
後ろから現れた男は、一目で分かる程に、狂暴な見た目をしていた。
190センチは超えるだろう巨漢。無造作な黒髪と顎髭に、所々傷のある顔にサングラスを掛け、煙草を加えた黒スーツの姿は、マフィアというよりかはヤの付く職業とも言えそうな見た目。基本強面の多いマフィアの中だとそこまで浮くわけでは無いが、その雰囲気は間近で見れば思わず委縮してしまいそうな程だった。
「お、お前はヴィダルのアドニス!てめぇ、俺が誰だと―――――」
「誰だよ、てめぇ。人のツレに絡んだただのおっさんだろ。そもそも、この場がオークション会場じゃなかったら、おっさん一瞬で潰されてるんだぜ?なぁジェイ」
「ひでぇ、俺別にそんな血の気多くねぇよ」
ただしアドニスと呼ばれる男の言葉に偽りは無い。事実念の使用の有無など無くとも、ジェイに勝てるマフィアなどそうはいない。多少念が使える程度であれど、ジェイの練度は高い。それこそ、一瞬の間も無く目の前の恫喝した男を細切れにできる程に。
しかし男はそんなジェイの実力云々よりも、その名前にピクリと反応した。
「な、ジェイだと!?ま………まさか、お前〝
「悪いな、生憎と今日ははただのオークション参加者。仕事は無しで頼む、アド行こうぜ」
「ま、お前がいいなら別に構わねぇけどよ」
急に態度が変わってペコペコした男と別れて、ジェイはアドニスと2階にある適当なソファで寛いだ。まだ時間は早く、オークション開始まであと数十分。
「それにしてもお前よく絡まれるよな。なんでだ?見た目が弱そうだからか?」
「ホントひでぇな。まぁ確かに俺くらいの年の奴がいる事なんてそうそうねぇだろうけど」
一応黒いスーツで正装はしている物の、ジェイはまだ19、未成年。流石にマフィアの中では浮くのか、しかもこの場にいるのは立場の強い者が多い。マフィアによっては実力主義、年齢は関係無いという者も確かにいるが、中年のマフィアになると若い者を舐める傾向も多い。だからか、ここに来るまでジェイは割と絡まれる。ま、たいていが隣のアドニスが睨みつけて、穏便(?)に撃退しているのだが。
「それにしても大御所も中御所も小御所も多いな。カルップファミリーにカーラーファミリー、ノストラードにアルバンスにネルド。マフィアのバーゲンセールだ」
「マフィアのあんたが言うかよ。それに小御所って、それもはやただのマフィアだよな」
「まあな」
カラカラと笑うアドニスに、ジェイは苦笑を浮かべつつも、楽しそうに笑う。続々と増えていく黒服のマフィア達。着々と、オークションの時間は迫っている。
「にしても、中々の粒がいねぇな。マフィアって言うくらいだから、もっと腕に自信のある奴がいてもいいと思うんだけどよぉ、ちっと残念だな」
「暴力沙汰は起こさないでくれよ。ハルさんに怒られるのは御免だぜ?」
「ははっ!組長には迷惑掛けねぇよ。そうだな………おっ、あいつらとか中々強そうじゃねぇか?」
ちらっと見た先には、1階のロビー。今しがた入って来たであろう二人組。どちらも当然の様に黒いスーツと黒いサングラスをしているが、片や野性味溢れる様な大柄な巨漢に、片や、やや場にそぐわない優し気な微笑を浮かべる青年と、変わった組み合わせの男達。その様子をジェイもちらりと見たが、少し驚いた様だった。
「………へぇ、本当だ。確かに他のマフィアとは違う、ああいうのもいるんだな。ちょっと意外」
歩き方や佇まい、流れるオーラが、確かに一般とはレベルが違う。
しかし少し驚きつつも、ジェイはすぐに興味を無くした様にソファに座りなおす。別段アドニスの様に戦いを求めるわけでもないし、ジェイとしては刀の一本でも持っていれば興味を引いたかもしれないが、素手っぽい二人には特に気にならない。
故に、おとなしく待つ。
「さてと、オークションはまだかな」
***
「勝負はいいけど、フェイの事だからどうせ、念能力無しでもオーラはありでやるって言うんでしょ?」
「良く分かたね。ただの腕力勝負なんてどうせワタシ勝つし面白く無いよ。ならオーラありの方がいいね。ダイヤよりヒノと戦う方が有意義」
にぃっと目を細めて笑うフェイタンは、とっても楽しそう。流石旅団で一位二位を争う戦闘狂。まあ今からやるのは腕相撲なんだけど。聞けばシズクやフランと一緒にたまたま通りかかったらしい。競売自体興味無かったから、シズクが終わったらそのまま去るつもりだったらしいけど………………
「それで、私がやるって事で参加しに来たってわけなんだ」
「フランもやりたい言てたけど、組めないから諦めたよ」
そりゃそうだ、私とフランじゃ大人と子供以上に体格に差がありすぎるからね。バスケットボールもフランが持ったらテニスボールサイズに見えるくらい違うよ。
あと能力の使用は当然禁止。私は言わずもがな、フェイは広範囲殲滅タイプの念能力だから当然の如くやってられないね。そもそも発動条件が、フェイタン自身がダメージを負う事だし。
私とフェイタンが互いの木の机の上に肘を立て、掌同士で組む。左腕は拳にして机の上に置き、準備はできた。
「では!ボーナスステージ勝負!初め!」
レオリオの掛け声の瞬間、爆発するような念の奔流が弾けた。
ヒノとフェイタン、互いにオーラを籠めて、力を振るう。圧倒的な暴力は、拳一つで安易に人を薙ぎ払い、大地を砕く様な威力を発揮する。肩から肘を通り、腕と手に籠められたオーラは、【硬】の様に念の嵐を身に纏い、互いに相手を叩き潰さんと発揮する。
腕相撲勝負は、ただの戦闘と違って攻撃や防御なんて気にする必要が一切無い。故に、攻撃に全力を籠められる。相手の腕を倒すという、ただ一点に籠めて。
フェイタンの腕力は、人外集団旅団内でも上位に食い込む。シズクの左腕でゴンと同等と過程すれば、旅団は完全に化け物のレベル。多分試しの門で3の門を開いたキルアでも苦戦するレベルになるだろう。それを、互いに念を使用すれば、熟練度と顕在オーラ量の高い分だけフェイタンとキルアなら、フェイタンが圧倒的な勝利を得る事になる。
ただの一般人では話にならない。並みの念使いでも話にならない。
そこに立つには、並みを超えた圧倒的な怪物達で無いと前には立てない。
だが、目の前に立つのは、ただの少女と言うには、聊か異質過ぎた。
ドオォ!
互いに机を破壊しない様な倒し方をしているが、力の籠め方は超一流。
その勝負は、一瞬の膠着も無く決着が着いた。
「はい!勝負あり!残念だったな兄ちゃん!次の機会に頑張ってくれ!」
他の客と同じ様に、テンションの高いレオリオの声が時を動かして、フェイタンは自分の右腕の甲が机に着いているのを再確認した。少しだけ目を見開いて見たと思ったら、用は済んだとばかりに、ヒノに背を向けて去って行ってしまった。
人ごみをすり抜けて、待っていたフランクリンとシズクの元へとやってきたら、フランクリンは呆れた様な表情をしていた。
「戻ったか。そろそろ時間だから、寄り道してる暇ねぇだろ」
「ヒノ出てきたら先に戦いたい言てたお前に言われる筋合い無いよ」
「まぁな。お前はいいなぁ、ヒノと腕組める体格で」
「それ遠回しにフェイタン小さいって言ってるよね」
悪意の無いシズクの発言に、フェイタンは殺気を漲らせてフランクリンを見つめるが、素知らぬ顔で明後日の方を向くフランクリン。実際にフェイタンの事を馬鹿にしたわけでは無く、自分と違ってヒノと腕相撲ができる程一般的な体格をしている事を羨ましがっただけなのだが、シズクの発言が絶妙に余計だった。
悪気が無い分タチが悪い、このままでは仕事場に行くまでフェイタンの殺気の視線で体に穴が開きそうだ。なので咄嗟にフランクリンは話題を変える事にした。
「で……でよぉ、フェイタン。ヒノはどうだった?正直いくらヒノでも、能力無しでお前が負けるとは思わなかったから驚いたぞ」
「あ、確かに。ヒノが能力使ったらウボォーも負けるもんね」
ヒノの【
だが、今回は能力無しの純粋な念同士による戦い。しかし、フェイタンは負けた。
腕力なら勝っている。つまりフェイタンがヒノに負けた敗因は――――――――
「顕在オーラ量、少し予想外だたね。抵抗でき無かたよ。あれ………本当に人か?」
「「………………」」
そう言ったフェイタンの言葉に、この場で即座に否定できる者は、誰もいないのだった。
過去、能力ありのヒノとの腕相撲に興味本位で挑んで、クロロ、ウボォー、フィンクス、シャルナークは吹き飛ばされた。シャルナークが一番飛んだ