消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

38 / 65
おそらく港町も、今回の話と後一話くらいで終わりそうです。


第38話『モノクロハートの情動』

 これまでのあらすじ!

 

 飛行船の休憩でやってきたミナーポート港町で蔓延る狂気の事件!

 路地で発見される心臓一突きの辻斬りと、海賊船と船員切り刻みの襲撃者!

 

 私が路地に入って見て見れば、現行犯の襲撃犯を発見!そしてナックルさんに攻撃されたけどなんやかんやでとりあえず仲間になったよ!

 

 一方その頃ミヅキもナックルさんの師匠のモラウさんと合流してこっちに向かってきているみたい!やったね!

 

 後は襲撃犯を捕まえるだけ―――と思いきや、事態は一転。

 襲撃者が何者かに殺害されてしまった!

 

 で、その何者かなんだけど、手口が心臓一突きって事はもしかして?

 うん、まあ知り合いだったんだけどね。

 

 さあどうなる私、どうなる港町!

 

 

 続く!

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまたま路地裏にいた殺人犯を追ってみれば、思っていたよりも面倒な子を見つけてしまった。

 

「こないな夜に会うなんて、運命的やなぁ~。そー思わへん?」

「………こんな所で何してるの?」

「連れないわぁ~、そんなの決まっておるやん。ヒノちゃんに会いに来たんよ!」

 

 その言葉が終わると同時に、エリーちゃんは足元の煙を蹴りだし、私とナックルさんの前へと無造作に現れた。思っていたよりも速い速度、左手に握られた白い剣を振るって私―――の背後にいるナックルさんに向かって突き立てた。

 

「うぉっと!あぶねぇな!」

 

 うまく躱したナックルさん!そのまま距離をとりつつ、携帯を後ろ手に操作する。おそらく師匠さんにメール送ってるんでしょ。一旦煙の解除か、あるいは別の事か。

 

「邪魔な人もいのぅなったし、遊ぼぅや~ヒノちゃん♥」

「相変わらずだね……遊ぶって言っても、もう暗いし、家に帰らない?」

「いけずや。そないな悲しい事言わんとってな。うち、もう帰れる家なんてあらへんよ」

 

 ヨヨヨと、袖で口元を隠しながら泣く真似をしてるけど、バレバレだよ?ていうか今ちらっとこっち見たでしょ!絶対わざとでしょ!

 

「むぅ、やっぱりあの人邪魔なんやね」

「え?いやあの人は全く関係無―――」

「じゃあちょっと始末してくるわ。待っててやぁ~」

 

 にこやかに笑うと同時に、再び跳ねた。

 壁を蹴り、爆発的な加速力でナックルさんに攻めっていくエリーちゃんは、両手に掴む黒と白の剣を振るった。

 

「こっち来やがったか!―――っと!」

 

 その場で跳び上がり、ナックルさんは剣を躱し、そのまま壁を蹴って反対側の壁を蹴ってを繰り返し、路地の入り口の方へと降り立つ。その表情は笑ってはいたが、エリーちゃんの剣が壁を抉りとったのを見て、一瞬躱すのが遅れた想像をしてぞっとしたのだった。

 

 ふと、攻撃を躱されたエリーちゃんが、何かに閃いたかのように私の方を向いた。

 

「ああ、そういえばなぁ、ヒノちゃん。理由としてはヒノちゃんにも会いたかったけど、もう一つ理由あったんよ」

「もう一つ?」

「簡単な話やわぁ、ミヅキ君おらんの?」

「あー、そっちもか………」

 

 そりゃそうか、どちらかと言えば私よりそっちが本命じゃないの?いや、この子の場合分からないなどっちもどっちもって言ってるけどいまいち………。

 

「おい!そこのガキ!」

 

 突如、ナックルさんが叫び声をあげる。一応どっちもガキではあるけれど、多分今言っているのはエリーちゃんの方だね絶対。先ほど路地の入口へと跳んだナックルさんの足元には、心臓の位置から血を流す男の人、刀を持った元犯人の人が倒れ伏していた。足はまだ煙で埋まっているけど。

 

 怒りの表情でエリーちゃんを睨みつけるナックルさんは、凄まじく燃えるようなオーラを身に纏っている。これは、結構怒ってるっぽい。

 しかしそれに対して、エリーちゃんは特に興味が無い、というかまるで聞こえてないように、私の方を向いている。いや、話聞いてあげなよ。

 

「エリーちゃん、向こう向こう」

「もぅ、なんやぁ。折角うちがヒノちゃんと話してるのに。おにーさん、なんか用?」

「用とは、随分返事が軽いな。人の事を2度も殺そうとしておいてよぅ。まあ今はいい。だが、てめぇ………なんでこの男を殺した?」

 

 あの様子だと、ナックルさんもおおよそ気づいたみたい。

 ナックルさんが蹴り飛ばして今は壁に突き刺さっているあの刀は【凝】をして見て見れば一目瞭然だけど、禍々しいオーラが纏われている。妖刀とか魔剣とか言われているタイプの、誰かの念がかかった武器。多分持ち手を操作するか精神を破壊するかして、刀が操っていた。けど、あの刀を手放せばその人は解放されたのかどうかは、今となっては分からない。それでも、あの男の人本人は、おそらく一般人だったと思う。

 

 だからこそ、ナックルさんは拳を握り閉め、エリーちゃんに問いただす。

 けど予想がつく。答えはおそらく―――

 

「だって――――――邪魔やったし」

「邪魔……だと?」

「あの白くてやらかい壁も、その前に立つ人も、皆邪魔やったし。とりあえず斬ったわ」

 

 何でもない、ただ邪魔だから斬った、そうエリーちゃんは言った。そしてこの考えに、ナックルさんは相容れ無い。決して、人をただの物の様に考える、この子には。ヒソカに近いような気がするけど、本質は多分もっと別の物。どちらかと言えばこの子は………イルミさんに近い。

 

「ああ、上等だ。だったら俺がてめーを、邪魔してやる!」

「もぅ、おにーさんは、一体何なん?」

「ナックル=バイン!ハンターだぁ!」

 

 叫び声をあげながら、ナックルさんは足元の煙を蹴りだし迫った。何も考えてないような正面突破に見えるけど、果たして―――。

 

「おいでやす、そっちから来てくれるなんて、親切やわぁ」

 

 笑顔を振りまくエリーちゃんだけど、両手の剣を構えて迎撃準備万全。

 ナックルさんは能力の関係上相手に拳による打撃を当てなくちゃ発動しない。けど相手は剣を持ってるから、危なくない?そう思っていたけど、一瞬だけ浮遊感が私を襲った。

 

「ん?煙が戻った」

 

 バランス感覚!堅い石の地面に降りた私だけど、実際は降りたというか50cm程度だからそこまで降りたって感じじゃない。階段を駆け上がって後一段!と思ったら一段無かった様な妙な違和感だけ残る様な感じで地面に着く。普通ならそこまで大したことじゃないけど、あの二人、特にエリーちゃんにとっては痛恨のミスみたい。

 

「あら?」

 

 あらかじめ何秒後に煙を解除するって指令を貰っていたのか、ちょうどナックルさんは煙を蹴って滞空している。大してエリーちゃんは地(煙)に足をつけて迎撃態勢だっただけに、いきなり地面が下がった事に驚いてバランスを崩した。

 

 もしかして、この時間差を埋める為に最初会話をしていたの?そうだとしたらナックルさん中々侮れないね。どうにもほぼ素な様に見えたけど。

 

「らぁ!」

「おっと―――」

 

 咄嗟の事で、流石のエリーちゃんも思わず足元を見てしまう。柔らかい煙の地面が一転してただの煙に戻りバランスを崩し、完全な隙を作る。それを見逃すナックルさんじゃない!というかナックルさんが作ったんだけどね、隙。

 

 ドオオォ!

 

 狙い通り!と言うようなナックルさんの拳が、エリーちゃんを吹き飛ばした。

 流石!と言いたい所だけど、一瞬で両手の剣をクロスして辛うじて防いでる。いや、よくよくと見れば、完璧に剣で受け切っている。あれは多分、流石にあのタイミングの拳は素の反射速度じゃ間に合わないから、あの状態になってるかな?

 

 吹き飛ばされたエリーちゃんはくるくると空中で回転し、壁に突き刺さっていた刀の上にそっと、軽業師のように音も無く着地した。およそ4メートル程の高さで見下ろすエリーちゃんは、ふと自分の横から聞こえた声に視線を向けた。

 

『時間です、利息が付きます』

 

 カシャリというカウンターの音と共に、ポットクリンが現れた。

 あれ?じゃあ私の方のポットクリンは―――あ、いつの間にか消えている。これって複数同時に出せるのかな?もしくは出せないからこっち消したのかな?どっちだろ?まあ今はさほど重要じゃない。

 

「………初撃を当てられるとは、思わんかったなぁ」

 

 エリーちゃんは少し驚いた様な表情をしたけど、眼下にいる拳を振り上げた状態のナックルさんを見て、口元をにんまりとさせた。

 

 そして、少し膝を曲げつつ片足を後ろに下げ、両手で剣を持ったままスカートの両端の裾を摘まむ様にして、軽く会釈をした。カーテシーと呼ばれる作法。

 色素の抜け落ちた様な真っ白な髪が月の光にキラキラと反射し、黄水晶(トパーズ)紫水晶(アメジスト)のオッドアイの瞳はナックルさんを見据えた。

 パーティー会場で優雅に佇む貴族の令嬢の様な仕草に、ナックルさんは思わず驚いたようだったけど、滑らかに柔らかい言葉が響く。

 

「面白いわぁ!うちはエレオノーラ=アイゼンベルグ。よろしゅうなぁ、ナックルさん」

 

 お?エリーちゃんが名乗ったって事は、ちょっとは興味持ったって事かな?

 まあどちらかと言えばナックルさんじゃなくてポットクリンの方に興味持ったんだと思うけど。それに興味を持ったと言っても、1/100が10/100になったくらいの多少の上がりくらいだと思う、うん。経験則で!私?多分ぶっちぎってる、マジで。良いか悪いかと言われたら微妙だけど!

 

「どないしよか、メインが先か、前菜(オードブル)が先か。う~ん、悩むわぁ。個人的には好きな物は後に残しておきたいし~。………ルイン」

 

 呪文のように何かを呟いた瞬間、爆発的な威圧感がエリーちゃんから放たれてきた。オーラも格段に強くなり、先ほどまでが遊びだったかのように………いや、実際に互いに全力じゃなかったけど、あの変化はもっと別。チリチリとした殺気が放たれる中、ナックルさんは拳を握る。

 

「ヒノ、あいつは何者なんだ?正直、オーラが異常だぜ………いや、性格もおかしいけど」

「それはどっちも否定しないけど。前に3回か4回くらい会った事あったんだけど、初対面の時に―――ちょっと好かれたみたいで」

「は?」

「それからちょっと付きまとわれてさ~」

 

 初対面で会った2年前から現在に至るまでで数回会った事あるけど、あの子は初対面の段階で私とミヅキの事を気に入って、追いかけまわしてくる。本人曰く「ビビっと来たんやぁ♥」だって。ヒソカと似てるけど、あれよりかは人様に迷惑は………まあかけてるけどね。あの子障害全部排除するタイプだし、興味無い事はどうでもいいタイプだし。

 そもそも、あの子の倫理という物は元から破綻している。それはあの子の家系に関する事だけど、とりあえず状況だけ絶えずミヅキにメールしておこう。カチカチカチ。

 

「特に………あの両手の剣。本人のオーラもそうだけど、あの2本はそれに輪をかけて異常な雰囲気出してやがる」

「お目が高いねナックルさん。あれ、念で作られた剣だよ、二つ共ね」

 

 似たような形状の、通常の剣より幅広で短めの剣は、一般に言えばグラディウスと言う様な剣。それぞれが、黒と白という対照的な配色をした剣は、人が汗を拭って手で作った物ではない。どちらも、念能力者によって具現化した剣。

 ちなみに、あれはエリーちゃんの能力とは違うみたい。そういえば私もあの剣の経緯はまだ知らなかったよ。基本追ってきたら逃げてたし。

 

「ほなら―――楽しませてもらうわぁ!」

 

 タン!と足場の刀を蹴り上げ、宙に身を投げ出してナックルさんに迫る。それに対して、ナックルさんも拳を構えてファイティングポーズをとる。まさに先ほどの逆。迎撃態勢を敷くナックルさんに、向かうエリーちゃん。

 果たして――――――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「モラウは、アイゼンベルグ家って知ってるか?」

「アイゼンベルグ?確か、割と大手の製薬会社の名前がそんなだったな。数年前に社長が事故死してそのまま会社も潰れたらしいけどな」

 

 嘗て同業者を歯牙にもかけず、群を抜いて有名だった製薬会社、それを取り仕切っていたのが、当時代表取締役であったジェラルド=アイゼンベルグ。しかし、それは表の顔。アイゼンベルグには、血塗られたもう一つの顔があった。

 

「あれは殺しの一族。ゾルディック程では無いけれど、その手の界隈では割と有名と同時に、避けられていた一族だよ」

「殺し屋と製薬会社。嫌な組み合わせだな。お前は随分詳しいんだな」

「エレオノーラに追いかけられた後に調べたんだよ。ヒノはそこらへん背景とかあんまり興味示さなかったから知らないと思うけど」

 

 やれやれと、今を楽しく生きる妹に少しだけ嘆息する。

 しかし、モラウはその仕草など気にかけず、有名会社の裏の姿に、思わず神妙な表情をする。この世の全て表だけで成立するわけが無く、裏がある事には疑問は抱かない。しかしそうだとすると、今ミヅキに情報が送られてきた少女がどういう人物なのかが、おおよそ理解してしまうと同時に、今回の事件の全貌が見えてきた。

 

「多分、今回の〝辻斬り事件〟の犯人は、エレオノーラだと思うよ。理由はまぁ、たまたま寄ったこの町でたまたま何人か斬っただけだと思うけど」

 

 言うなれば偶然。人を斬る事に躊躇いを抱かない少女が、たまたま人のいるところにやって来ただけという。無論見境なく、というわけでは無いと思う。これもミヅキの推測だが、被害者が、彼女にとって〝邪魔〟と判断された結果だと思う。

 しかしモラウは、どこか納得した様だった。

 

(なるほど、確かに辻斬りの死因は心臓を一突き。言われてみりゃぁ、殺し屋の所業と酷似してるな………)

 

 迅速に、速やかに、標的を殺害する。それが殺し屋の流儀。時間を掛けず、合理的に、息の根を止める。それを考えれば、確かに心臓を一突きにするというのは、理にかなっている。それをやったのが、殺し屋一族の少女であるというのなら、納得もいく。

 

「アイゼンベルグ家は殺し屋と製薬会社を両立していたが、ある日社長宅が火災にあい、一族全員死亡したって新聞で一時的に騒がれていた。血は途絶えたとされているが、推測だけど、その事件を起こしたのが、多分エレオノーラだ」

「な!?ちょっと待て!殺し屋の一族って事は、その子の両親、社長達だって相応の実力者のはず!それを、子供が一人でやったってか!?」

「ま、それがただの子供だったらね。あ、殺し屋の子だからただの子供じゃないってわけじゃないよ?それとはもっと、根本であいつは違う―――お?」

 

 会話を切り、立ち止ったミヅキに続いて、モラウも立ち止まる。斜めった地面、屋根の上から眼下の光景を見て見れば、状況は一目瞭然だった。

 

 壁や床を蹴って飛び交い、剣を振るう白い少女の姿と、それに追随して攻撃を行い、さらに敵の攻撃を躱し続ける男の姿。そしてその脇からその光景を見ている、金髪の少女。

 

「さてと、どうするモラウ?捕獲するか?」

「当然だ。向こうの事情は知らないが、俺達は俺達のやるべき事がある。問答は、その後でもできる。ナックルには悪いが、合図なしでいかせてもらうとするか」

 

 そう言ったモラウは深く息を吸い込み、煙管を吸い込むと同時に、多量の煙を吐き出した。ぐるぐると渦を巻く煙は、次第に彼らのいる場所を包むように形成されていく。

 

 町の方まで広く範囲を広げていた煙を全てかき集め、まるで入道雲のように地面から家の屋根を超えた高さを覆うような巨大な雲が、彼らのいる路地の一角を封じ込めた。

 

(完成だ!【監獄ロック(スモーキージェイル)】!)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「「!?」」

 

 突然、私達のいる路地を囲むように、巨大な煙のドームが形成された。濛々と立ち込める煙に触れてみれば、透過する事無く、弾かれる。おそらくこれも、物理無効化の煙を使った、煙の牢獄。ナックルの師匠さんの能力により出来上がったもの。

 

 ていうか戦闘中だったからか、事前合図無しだったみたい。流石にナックルさんも一瞬驚いた様な表情をしたけど――――――、

 

「ナックルさん!前!」

 

 そんな事、エリーちゃんにとっては関係無い、というか、多分煙自体に興味を抱いていない。今は、闘う事を楽しんでいる。

 

「余所見とは、余裕やわぁ!」

「くっ!」

 

 思わず回避しそびれたのか、ナックルさんの腕を剣の切っ先が触れた。一瞬で飛びのいたナックルさんの腕を見て見れば、そこには無傷。しかし、エリーちゃんの周りに浮いているポットクリンのカウンターが、『540』から『340』まで下がってる。

 

 【天上不知唯我独損(ハコワレ)】の発動中は、互いの攻撃は全て相手にオーラを貸し与える攻撃に変換される為、受けてもダメージは無い。けどその借金を全て返済してしまえば、ポットクリンは解除されてダメージを受ける。

 剣の切っ先だけで200近く減ったなら、直撃じゃちょっとやばそう。ていうか、別にみてる必要無いけどね?

 

 え?じゃあどうするって?そりゃ、もちろん!

 

「先手―――必勝!」

 

 足に籠めた念を一気に解き放ち、一瞬でエリーちゃんの背後にまわった。

 

「ヒノちゃん♥」

「エリーちゃん悪いけど、ちょっとだけ眠っててね!」

 

 空中で回転し、遠心力をそのまま足でエリーちゃんに叩き込んだ。それに合わせるようにして、反対側のナックルさんも、拳を振るう。

 

 それを、エリーちゃんは両手の剣の腹でそれぞれ受け止めた。それと同時に、エリーちゃんのオーラが上昇する。

 

(!?俺の拳が片手で!?馬鹿な!)

 

 やっぱり防がれた。普通なら片手でそれぞれ受けるなんてのは不可能だけど、この子の場合ちょっと事情が違うからね。今のこの子は、人間の限界を引き出している。

 

 白剣ルイン、正式名称【境界の剣妃(ルインフレーム)】は、持ち手の限界を一時的に超える念剣。今のエリーちゃんは、人として扱える力の限界を超えて、怪物的な腕力を引き出している。無論、それ相応に代償となる誓約は存在する。けど――――――

 

「あは!楽しいなぁ!」

 

 ヒュォン!と、風を切り裂く剣が、まっすぐに私に向かってくる。ナックルさんと違って、私の大勢は空中にいるまま。通常避ける事は叶わないけど、エリーちゃんの狙う場所は――――――多分私の心臓の位置!

 

「おおぉ!」

「あら?これは、驚いたわぁ」

 

 突き刺すような一撃を、私は両手で挟みこんで受け止めた。つまりは真剣白刃取り!剣も白いしまさに白刃!ていうか相変わらず容赦無いねこの子。ヒソカ思い出す。まあ見た目の問題でヒソカよりかは印象はいいんだけどね!だって可愛いは正義だし!正義の欠片も見当たらないけど!

 

 でも、普通にちょっとお仕置き!

 

「せぇ~の!てい!」

 

 白刃を掴んだまま、その場で体を横にして一回転。大車輪のように体を大きくぐるんと回転させて、踵をエリーちゃんのお腹辺りに思い切り叩き込んだ!今の状態なら私とナックルさんに攻撃された後で挟まれている状態。つまり避けるに避けれない。剣は私が抑えたままだけど、吹き飛ばすと同時に放した。

 

 そして、壁に背中から激突したエリーちゃんは、肺の空気を絞り出すようにして空気を吐き出す。

 

「くぁ!」

 

 けど、それも一瞬の事。

 すたりと、地面に降り立ったエリーちゃんは剣をだらりと構え、やはり楽し気に笑っている。キラキラと光っている様な瞳は私とナックルさんを同時に射貫き、面白いおもちゃを見つけた子供みたいに見える。

 

「あは♥やっぱええわぁ、ヒノちゃん楽しいわぁ~」

「相変わらず、楽しそうだな。エレオノーラ」

「「「!!」」」

 

 上から降ってきた言葉に、今度はエリーちゃんもピクリと反応を示した。それもそのはず、聞き覚えのあるこの声は――――――、

 

「ミヅキ!」

「やっと見つけた、ヒノ。何に巻き込まれているかと思ったら、よりにもよってエレオノーラとはついてないな」

 

 本人を前に中々に手厳しいけど、多分エリーちゃん全く気にしてないよ。うん、見なくても分かる。なんかハートが飛び交うオーラみたいなのが見える!

 

「ミヅキ君!お久やぁ、元気しとったぁ~」

 

 剣を持つ手を振って笑顔を振りまくエリーちゃん。ここだけ見たらさっきまで殺人未遂を引き起こしまくった子とは思えないね。いや、その前にもう事後だったけどさ。

 

 やれやれと溜息をつくミヅキは、路地に並ぶ建物の屋根の上から私達の方を見ろしている。そしてもう一人、その隣にいるのは、大柄な体格にサングラスを付けた人。

 あー、多分この人がナックルさんの師匠かな?念使いで、巨大な煙管持ってるし、煙の人だね、絶対に!

 

「師匠!」

「ナックル、ご苦労だ。少し休め………さて」

 

 ナックルさんの師匠さんは、サングラスの上からだけどエリーちゃんを、値踏みするような感覚で見ていたが、ぽつりと呟く様に、しかしよく通る声は普通に私達の耳に届く。

 

「よぅ、お嬢ちゃん。悪いけど、この路地は包囲させてもらったぜ。残念ながら逃げる手段は無いから、おとなしく捕まってくれないか?〝辻斬り〟よぅ」

 

 辻斬り。

 それはこのミナーポート港町を一昨日から騒がせている、辻斬り事件の犯人。海賊船襲撃は、今はもう亡くなっている、さっきまで刀に操られていたであろう人。そして辻斬り事件の犯人が………エリーちゃん。

 けど、まあ思っていた事だけど、本人は辻斬りというワードにきょとんと首を傾げていた。あ、その仕草可愛い………じゃなくて。

 

「辻斬り?何言うてるやぁ、あの人?」

「エリーちゃんこの町で、確か2人くらい人斬ったでしょ?ああ、さっきの人抜いて」

「そらな。うちが歩いていたら、「お嬢ちゃん、いいとこ連れたってあげるぅ」なんて言うし、邪魔やし斬ったなぁ。ほんま外歩くと怖いわぁ」

 

 あんたの方が怖いよ!何その超過剰防衛!悪漢は即斬って、どこの牙突隊長だよ!

 相手も相手、まさかエリーちゃんに声かけるとか不運としか言いようが無い。まあエリーちゃんの事だから普通に声を掛けられただけでも斬ってると思うけど。

 

「まあ事情はなんであれ、ご同行願えるか?まあ俺らは警察じゃねぇけど、ハンターとして世の為人の為ってのも、仕事の内だからな」

 

 一応相手は女の子だからか、怯えさせないように聞こえる声色で語り掛ける。なんか結構安心するタイプだねあの人。まあ実際にはそこまで配慮はあんまりしていないと思うけど。相手が相手だししょうがない。

 

 そしてその問に対するエリーちゃんの返答は――――――、

 

「お断りや♥」

 

 ズガアアアァン!

 

 華の様な笑顔を振りまいた瞬間、路地裏に鈍い破壊音が響いた。

 エリーちゃんが両手の剣を一瞬で逆手に持ち直し、オーラを込めつつ、背後にそびえる建物の壁に、思い切り突き立てた破壊音。

 突撃してくるようだったら、ナックルさんも迎撃したと思うけど、壁を壊す事に対する意味が分からないって顔をしている。師匠さんの事だから、この一帯をあの物理不可の煙で包囲していると思うし、壁を壊した程度で逃げられ無いと思う。

 つまり、エリーちゃんの攻撃には、別の意図がある。

 

「!まずい、ヒノ!エレオノーラの上だ!」

 

 その言葉に気づいた時、何かが降ってきた。

 あれは――――――刀!

 

 

 ザシュ――――――

 

 

 エリーちゃんのいた場所は、ちょうど最初に刀を吹き飛ばして突き刺した壁の、真下。

 

 くるくると回転した刀はピンポイントに真下に降り注ぎ、

 エリーちゃんの胸の中央を、背中から貫いた――――――。

 

 一瞬びくりとさせ、エリーちゃんの口元から、赤い血が流れて来た。

 

「かふっ………やっぱ、痛いわなぁ」

 

 それでもエリーちゃんは、表情を崩さず、楽しそうに笑った。

 

 

 

 




オリジナル念能力紹介


【特質系念能力:境界の剣妃(ルインフレーム)

見た目はグラディウス風の白い剣。現使用者はエレオノーラ。
とある念能力者によって具現化された念が、死後その存在を消す事無く現存する念の剣。
持ち手のリミッターを解放し、『肉体』と『オーラ』の限界を解放する。専用の鞘に入れて封じ込めなければ、いずれは死に至る程危険な剣。

肉体の限界は引き出せば身体能力が格段に向上するが、当然の如くその後肉体が崩壊する。
オーラは基本潜在オーラと顕在オーラの上限を解放するが、後に使用状態に応じて念の使用ができなくなる。

元々はどちらか片方しか一度に解放できなかったが、死後強まった念の力で現在は両方同時に解放できるようになった。無論どちらかだけ解放できるかも選べる。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。