消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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1ヶ月ちょいぶりの更新でお久しぶりです。
唐突にこんな感じの話を書いてみたくなったので書いてみました!
新章なんとか編ととりあえず名前を付けてみましたが、4話か5話くらいで終わる予定なので、その後日常回を少ししてヨークシンに入ろうと思います!



港町の事件編
第35話『ヴァイキング・ブラッドの鳴動』


※下の記事は別に読み飛ばしても大丈夫です。

 

【100年前に世間を震撼させたもう一つの切り裂き魔?】

 

およそ100年近く前、世間を震撼させおよそ300人近くを殺傷したとある鍛冶師の切り裂き魔。だが当時の事件簿を調べてみると、それ以上の被害者が存在した。同日同時刻、別々の場所で二人の人間が殺害されたが、その際片方は例の鍛冶師による犯行と断定された。しかし不可解だったのは、もう片方の事件。仮に模倣犯として捜査を進めたところ、明確に別人の存在が浮かび上がる。しかし鍛冶師が犯行を明るみにされ逮捕されたと同時期に、姿を消した。これにより、語られる事の無かったもう一つの切り裂き魔の事件も、迷宮入りで幕を下ろすのだった。

 

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【悪魔が作った呪いの剣?】

 

大手骨董商を勤めるルーベルト氏(71)が、ある奇妙な剣の話を同業者に零した。この界隈では噂程度ではあるが、老舗の大手骨董商であるルーベルト氏の言葉は信憑性が高い。手にした者の生気を吸い取り、死に至らしめると言われる妖刀(もしくは魔剣)の存在が、ある界隈では噂されている。実際に死傷者が幾人か出ており、皆同様に外部内部と傷や病気など無く、ただただ「生気が抜かれた」と表現するしかないような衰弱死となっている。発見時には既に剣の姿は無く、ただ売られた事実と、消えた事実だけが、残るのであった。

 

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【アイゼンベルグ製薬社長宅謎の火災】

 

近隣から出火の第一報があり、消防隊が駆け付けた頃には、既に邸宅は内外部問わず炎に包まれ、手が出せない状態だった。アイゼンベルグ製薬代表取締役であるジェラルド=アイゼンベルグ氏(37)は自宅と運命を共にし、屋敷内から家族、使用人、他多数の死体が確認された。屋敷自体は消火中に崩れ、現在も焼け跡が残っている。アイゼンベルグ氏には親戚がおらず、名家アイゼンベルグ家の血はこの事件にて途絶えたとされた。

 

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【クァード遺跡から新たな出土品】

 

クカンユ王国より南東に位置する小さな孤島に眠る遺跡にて、探検隊から新たな出土品の報告が上がった。太古の昔滅んだ古代文明、クァード王国の王の財宝が眠るとされる遺跡の一角、直系5メートル程の穴隙にて、いくらから財が発見された。この穴の最下層は発見されてから現代までも把握できておらず、壁に埋まるようにして発掘された出土品が数点のみとなる。調査鑑定後、大手オークションハウスに出品も検討される。

 

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「何見てるの?ミヅキ」

「ん?昔のニュース。まあ昔と言っても、去年のとか最近のとかもあるけどな」

「ふぅーん」

 

 どうにもこの手の、世間の事件というのはあんまり興味が惹かれない。ちょっとワード的には面白そうかな?というのはあるけど、そこまで積極的に調べたりする程でも無い。でもよく考えたら皆そうだと思う。とりあえず新聞でもサイトでも記事を見て、今世界でこんな事が起こってる事をとりあえず記憶しているだけが大半だと思う。

 まあその中でも私は、その記憶しようとする部分が結構薄いけどね。自分と関連する事だったら覚えたりするんだけど、他の家のなんとかって所の事件とか言われてもねぇ?

 

 ミヅキの場合は逆にそういうニュース事や、まあ普通に本とかも好き。乱読らしく、ジャンルの好き嫌いはあまりないらしいけど、知識を集める系の図鑑とか辞典とか割と好きらしい。今は渡した携帯からニュースサイトを見ているけどね。

 双子なのにどうしてこう好き嫌いというか性格が別れるのか。いや、双子だから寧ろ?

 

『御搭乗のお客様、当機は間も無く燃料給油による一時着陸を致します。次の出発時刻はおよそ6時間後となっております。お客様は、30分前までに席に戻りますよう、お願いいたします』

 

 天井に付けられたスピーカーから案内が終わると同時に、僅かに沈む様な、浮遊感を一瞬感じる。すぐ隣にあるはめ殺しの窓から外を見れば、思わず声が出てしまう。

 

「わぁ!ミヅキ見て見て!海すっごい綺麗!」

「ヒノの感想は分かりやすいなぁ。確かに綺麗だな。ビーチがあれば少し泳ぎたいくらいだな」

 

 なければ竿で釣りをする、かな?

 窓の下を見て見れば、澄んだ青い海が太陽の光にキラキラと反射している。そしてそこに沿うように並ぶ、全体的に白の配色を施した港、そして大陸側に並ぶ街並み。

 ミナーポルト港町という町らしく、私達が乗った飛行船はここで一旦燃料補給、そして再び空の旅!という飛行計画らしい。今度飛行したら、ノンストップでジャポンまで行くそうだ。

 徐々に高度が下がっていき、近づいてくる港を見ながら、私はワクワクとした面持ちで待つのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 天空闘技場を離れ、飛行船でジャポンに向かう途中に燃料給油で一時的にやってきた町は、柔らかい海風に晒され照らした太陽が空気を温め、心地よい雰囲気だった。

 

 ふと見て見れば、港では筋骨隆々とした男達が十人以上で、巨大な魚を運んでいる途中。ちらっと見ただけど、体長が10メートルくらいあったから中々。クジラの子供かと思ったけど、尾ビレが縦だから魚なのは間違いなさそう。近くにいた町の住民と思しきおじさんに聞いてみた。

 

「ねぇ、おじさん。あの魚って何?」

「お嬢ちゃんは観光客かい?あれは最近この辺りの海を騒がせていた人食い鮫でな。ハンター協会から来たベテランハンターが討伐してくれたんだよ。おかげで漁が再開できるって、漁師共も大喜びさ」

 

 流石ハンター協会。人食い鮫の討伐とかも普通にするんだ。どうやってあんなの捕まえたんだろうね。魚を捕まえるからフィッシュハンター?もしくは海のハンター?

 

「ヒノ、ちょっと向こう見てくるから後で集合な」

「どこいくの?」

「フリマ?」

 

 なんで疑問形?そう言って歩いて行くミヅキの背中を見ながら進行方向を見て見れば、ガヤガヤとした人だかりができていた。あれはフリマじゃなくてただの野次馬じゃないかな。こんな時はもの知りなおじさんに聞いてみよう。

 

「ああ。あれはつい昨日流れ着いた海賊船を見に来たんだろ」

「海賊船!何それみたい!」

 

 こう、心躍る響きがあるよね、海賊船。少年じゃなくて少女の心だってきっと擽ってくれるはずだよ!史上有名な海賊だと男装して海賊船に入船して、他の船員が捕まる中最後まで抵抗をした勇敢な女海賊だっているしね。

 

「ああ、やめといた方がいい。昨日、さっきの人食い鮫を討伐したハンターさんが同じように見たんだけど、甲板見たら封鎖して出入り禁止にしちまってな。あそこにいる奴らも、船を見上げるやつらばかりさ。ま、多少砂浜に海賊船から流れ出たお宝だかガラクタだか流れ着いたらしいが、昨日のうちに色々町の奴らが勝手に持って行ったらしいぜ。ほら、海賊船の腹を見て見な」

「ん?………お!うわぉ、何あれ?」

 

 港のすぐ横には、ビーチと言う程では無いけど砂浜がある。そしてその砂浜に打ち上げられるようにして聳え立つ、木造の海賊船。今時木造帆船っていうのもめずら………そうでも無いかな?

 確か帆船とか意外とあったよ。前にゴンに聞いたけど、ゴンの故郷のクジラ島からは帆船でザバンし近辺まで来たらしいし。私もジャポンまで木造船だったしね。

 

 そして、先の方の人だかりの向こうに見えるのは、黒い帆に髑髏の模様が描かれた、ある意味正統派(?)な海賊船。しかし所々ボロボロで、海賊船というより幽霊船に見える。

 

 マストまでくるくる巻いてある黄色と黒の『KEEP OUT』のテープが妙に幽霊感を押しのけて現実を叩きつけている様な感じがするけど。で、おじさんにも聞いたけど、船底に近い場所に穴が開いている。鮫がかみ砕いた、というより体当たりして穴が開いたって感じかな?実際は分からないけど。

 

 でも流石にあれ見てフリマは無いよね。

 まあ砂浜に船の中身ぶちまけられて、それ色んな人が勝手に持って行ったみたいだから、まあ確かに無料フリーマーケットと言えない事も無く無く無い?理論が追いはぎ盗人窃盗犯寄りだけど。

 

「嬢ちゃんも見て来るか?連れは行ったみたいだけど」

「私はいいや。おじさん、この町何か面白い所ある?」

「そうだな。今なら町中の広場の方で壁画やってるかもな。どっかの学校の子が楽しく絵描いてるんらしいぜ。見てきたらどうだ?」

「壁画かぁ、行ってくる!ありがとう」

 

 予想としては、大天才の子が壁に壮大な絵を描いているのか、普通の子達が楽しく好きなように絵を描いているタイプか、前者も後者もそれそれで楽しそうだけど。でもおじさんの言い方だと普通に後者っぽいけどね。授業の一環みたいな感じ。

 

 人が多い方へと町中に歩いて行けば、意外と簡単に広場は分かった。

 町の中央程で円形状にくり抜かれたような広場の中央には、縦横一辺3メートル程の巨大なキャンパスがあり、壁画とは少し違うみたい。小さな子が手に好きな色のペンキやスプレーを持って、思い思いに描いていた。絵事態は個人個人の好きに書きなぐっただけだけど、不思議と躍動感のある様な、妙な温かい絵に見える。

 

「ま、中々の画伯って事にしておこうかな」

 

 一応誉めているよ?でもこう見て色合いとかいい感じの所あったら、案外そこを塗った子は将来大物の絵描きになるかもしれないけどね。ちなみに【凝】をして見て見たけど、流石に念を使う子はいなかった。

 

 実際に念法を修得していなくても、無意識の内に才能溢れる人物が、念を使う例は意外とある。使うって言い方もちょっとおかしいけどね。

 天才的な刀鍛冶の打った刀が念を宿したり、芸術的な彫刻家の作品には念が纏われていたりする。無論だからと言って念が無い物がダメかといわれたらそう言うわけじゃないけど、才能を見る一つの目印としては確かなのも事実。

 それにもし才能なくても、弛まぬ努力が念を導く場合だってある。

 努力は才能に、勝るとも劣らぬ。

 

「あ、市場だ!見てこよっと」

 

 折角港町に来たんだし、翡翠姉さんにお土産でも飼って行こう。ジャポンの家は山の中らへんにあるから海に行く機会はあんまり無いし、新鮮な魚介は基本美味しいしね!魚か貝類も中々。流石港町の市場、品揃えが素晴らしい。

 そして私は天空闘技場で稼いだ余裕のある財布を持って、市場の方へと向かうのであった。

 

 ………?けどなんだろう?妙な気配を、町中から感じるような………?

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

(どうにも、腑に落ちない………)

 

 ヒノから離れた少年、ミヅキは現場を見ながら、訝し気に頬をかく。

 見上げればボロボロの海賊船が砂浜に乗り上げ、ボロボロの帆が垂れ下がるマストが天高く聳え立つ。砂浜には海賊船から出て、同じように流れ着いたような古い木箱だったり、何かの欠片だったら、端的に言ってゴミやガラクタなどが落ちている。野次馬に話を聞けば、昨日流れ着いたらしく、ナイフや刀など海賊が所持していたであろう武具や、やはりしょうもない壊れた椅子のようまであったという。

 

「なぁ、おじいさん。この海賊船。中の海賊達はいたの?」

「ん?お主観光客かい?中の海賊はのぅ、一人しかおらんかったようじゃよ」

「一人?一人で海賊?斬新」

「ああ、違う違う。ハンターが海賊船を封鎖した後、重症の海賊が甲板に残っておったらしくての、今はそのハンターが連れて行った町の病院にいるはずじゃよ。残りの海賊は確かにいたそうじゃが、誰一人として生きておらなんだ」

「なるほど、道理で―――」

 

 微かに船の上から血の匂いがする、と言う言葉をミヅキは飲み込んだ。

 隣のおじいさんにお礼を言って、こっそりと人の輪から外れ【絶】をして一瞬で気配を絶つと同時に砂浜を蹴り、一足で海賊船の上へと駆け上がった。

 

 一切の音無く登りきる様は本職の泥棒も殺し屋も顔負け。ふわりと野次馬達に気づかれる事無く甲板に降り立つと同時に、ミヅキは碧眼の瞳を見開いた。

 

 赤いマスト、赤い甲板、赤い扉。

 バケツの中に赤いペンキを入れてぶちまけたような、人の視界に収めるにはあまり優しく無い舞台。その中を一人佇むミヅキは、ふむ、と考えるように顎に手を添える。

 

(大量の血痕。船員は全滅、1人だけ重症だけど生きている海賊は今頃病院。一体何があった?)

 

 別の海賊に襲われた?と思ったが、それなら多少なりとも宝が流れ着いたりするのはおかしな話だし、船体の損傷が少なすぎる気がする。それに船底の穴を見た限り、確かに何かがぶつかったような割れ具合、例の人食い鮫が襲ったのは間違いない。

 人食い鮫に襲われた?と思ってもすぐに違うと断念する。甲板の血痕を、海の中の人食い鮫が作り出せるわけが無い。

 

「……一旦下に降りるか」

 

 再び人目を忍ぶようにこっそりと、気配を絶って降りたミヅキは、再び野次馬の中に紛れ込む。誰一人として、彼が上へ行って下へ再び降りてきた事に気づかなかった。

 

(第三者の犯行、もしくは―――ん?)

 

 ガッ、という足に何か堅い物が当たった感触。砂浜故にその異物感ははっきりとし、少し足元の砂をどかし取り出してみれば、なんの変哲も無い木の破片だった。おそらく元の形は箱か何かだっただろうか、と思い捨てようとしたら、ふとミヅキはその破片をじっと見つめる。

 

(これは【神字】?これも海賊から流れ着いた一部か。しかし、この文字配列………)

 

 一般ならただの箱の模様として切り捨てるだろう小さな溝の羅列を見て見れば、それを念を補助する役割を持たせる【神字】とすぐに理解できた。ミヅキ自身別段【神字】を扱うわけでは無いが、今目の前にある、()()()()()()()()、少しだけ見覚えがあった。

 

(確か……前にジェイが魔剣用に作った、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ミヅキとヒノの義兄(あに)であるジェイは、世界でも有数の鍛冶師。そして時たまに、緑陽の知り合い経由で曰く付きの物が家に来る事がある。その際、【神字】も扱うジェイは、霊媒師がお札で幽霊を封じ込めるように、その〝曰く〟を封じる事がある。無論、それはほとんど剣や刀などの刃限定の話ではあるが。

 

 それはミヅキも見た事ある故に、今目の前の破片の効力をおおよそ考察する。いくらか魔剣や妖刀の類を見た事はあり、効力はバラバラではあるが共通して言える事は一貫して〝やばい〟代物だという事。

 

「お、お前さん急に消えたと思ったらいつの間に戻って来たんだい?」

「………ん?ああ、さっきのおじいさん。いや、ちょっと海賊船を見てただけだよ。じゃ、そろそろ僕は町に行くし、情報ありがとうね」

「そうかい。お主はしばらくこの町に泊るのかい?」

「いや、今日中には立つけど?」

「そうかい、それは良かったよ何せ―――」

 

 笑うおじいさんに違和感など無い。不思議と暖かい感じがするのは、ご高齢特有の生きた重みというべきものなのか、人付き合いの経験の賜物というべきか。元々ミヅキは人見知りするタイプでは無いが、相手が話しやすいに越したことは無い。

 だからこそ、柔らかく笑いながら話すおじいさんの次の一言で、一瞬背筋が冷たくなった様な気がした。

 

「――昨日の夜にまた〝辻斬り〟が出たらしいからの。やられた奴らは皆心臓を一突き――と、怖がらせる様ですまんね。まあ今日町を去るなら関係ないかもしれないが、一応気を付けるんじゃぞ」

「………ありがとう」

 

 そう言って、ミヅキは砂浜を歩き、港に上がって町の方に向かって歩いて行った。

 悠然と迷いなく歩く姿とは裏腹に、その脳裏で先程の言葉を咀嚼する。

 

(……辻斬り……か)

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「さてと、それじゃあ話を聞かせてもらおうか、海賊船の船長さんよォ」

 

 白い部屋。僅かに隙間の開いた窓から海風が入り、カーテンが僅かに揺れる。何色にも染まってい無い真っ白な部屋、病院の一室では、3人の人間がいた。病室の住人であるベッドの上で体を起こす男。隣のパイプ椅子に腰かける男。そして扉に背を預け、腕を組みじっとしている男。

 

 パイプ椅子に腰かける、サングラスをした大柄な男は、ベッドに座る人物に話しかける。しかしその問答に対して、ベッドの男は返答をしない。だがカタカタと周りにも伝わるような震えが、全身に生じている。

 

「……勘弁してくれ。あんなの、思い出したくもねぇ」

「だが、事情を知るのはお前さんだけなんだ。俺達はハンターだが、()()()()()()に関してはプロフェッショナルだと自負もしている。だから、話してくれ。あの船の上で何が起こったかを」

 

 砂浜に流れ着いた海賊船の船長。それが今、ベッドに横たわる男、カパル=ゴルバ。

 長い黒髪と髭を蓄えたこの男は、つい数日前までは船の上で勇猛果敢に立ち振る舞っていたであろう。しかし今はその見る影無く、瞳を見開き震え、身体は白い包帯で覆われ、重症だった事が一目瞭然の出で立ちだ。

 

 先日流れ着いた海賊船の中で、ただ一人生き残ったカパルは、たまたま別件の依頼でこのミナーポルト港町に来ていた二人のハンターによって病院に担ぎ込まれた。そして生死の境をさ迷ったが無事に、先程意識を取り戻した。

 

 その為、ハンターである二人は、何が起こったか聞きに来た。

 ミヅキ同様、血濡れた甲板の惨状を見たからこそ、まだこの町を去るわけにはいかない。

 

「悪魔が………あいつは悪魔の化身だ!妙な剣を持ちやがって!サーヘイルの野郎!!うわぁああ!!」

「落ち着け!安心しろ、ここにいるのはお前と俺達だけだ。誰も狙っちゃいねぇし、誰にも近づかせやしない。安心しろ」

 

 壮大な山のような安心感を与える言葉。不思議と相手を鼓舞するように語り掛けるサングラスの男の言葉に、カパルはわずかに冷静さを取り戻した。しかし恐怖に撃たれた心臓が鳴り響き、震えはいまだ払拭されていない。

 

「サーヘイルって言うのは、あんたの仲間の事か?」

「あ?あ……ああ、そうだ。あいつのせいで…俺達は………」

「さっき妙な剣って言ってたな。もしかして、こいつと関係あるのか?」

 

 そう言って取り出したのは、ビニールに入れられた、木の破片。水を吸い色が変わってはいるが、気になるのはその表面に彫られた、奇妙な文字列。無論、【神字】だった。

 

「いくつか破片を見つけてみたが、おそらく細長い形状、つまりお前さんの言う剣を修めるにはおあつらえ向きの形になると推測できる。これがどういう物か、知っているのか?」

「それは……少し前に船を襲った時に手に入れた………物だ。物品だけ奪って、そのまま退散したよ………」

「その、サーヘイルって奴は、今どうしてるかわかるか?」

「あいつなら……他の船員と同じように………やられた」

「!?そいつが真犯人じゃないのか?お前の船の上の人間達を()ったのは、一体誰なんだ?」

 

 その言葉に再び脳裏に悪夢が蘇ったのか、ガパルは瞳を見開く。

 

「名前なんか知らねぇ!サーヘイルが立ち寄った町で眠ってたところを攫ってきただけだ!見たとこ売ればちっとは金になると思ったのに!なんでこんな事に!」

「人身売買は誇る事じゃねーが、それで船が全滅してちゃあ、世話が無いな。その攫ってきた奴が、あの惨状を作り出したってわけか」

「も、もういいだろ!俺に構わないでくれ!う、うああああぁ!」

「師匠、一旦引いた方が良さそうっすよ。落ち着いた頃合いにまた出直しましょう」

 

 扉の前で腕を組んでじっとした男は、ガパルの心労を察して出ていく。それに関しては同意なのか、サングラスをした大柄な男も同様に部屋を出て、二人で病院の敷地内から外へと出た。

 

「それで師匠、あの箱一体何なんすか?」

「似たようなのを見た事がある。ありゃ、箱の中に物を封じ込める系の、念能力者が作り出した【神字】の箱だな。それにガパルが言っていた剣に、攫ってきた人物」

「しかし師匠、昨日現場を見た限りじゃ、奴ら全員海賊だったっすよ。どう見ても攫われてきた様な恰好した奴はあそこには………て、まさか!」

「ああ。まだ推測の域を出ねぇが、これが現実だったら少しやばい事になってるかもしれないな」

 

 船員を切り刻む凶器の刃。それを封じていたであろう、【神字】の箱。今は亡き海賊船員サーヘイルの攫ってきた人物。切り刻まれた船員と海賊船。そしてその攫ってきた人物が、いないという点。

 

 彼らの言う通り、まだ推測の域を出ない。見落としてい無い点があるかもしれないし、情報不足は確かに否めない。しかし、ハンターとしての勘が、恐ろしい事実を告げている。

 

「あの海賊船の惨状を作り出した人物が、この町に紛れ込んでいる」

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと謎っぽくしてみました。

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