消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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一先ずジャポン編終了!次から新章始まります!


第26話『不羈奔放の怪人シンリ=アマハラ』

 

 多分雀かな?鳥の囀りが聞こえる。

 

 窓から差し込む太陽の光が瞼に当たると、もう朝何だなぁって実感しつつ、私は割と寝起きは良い方なので、ゆっくり目を開けて意識を覚醒させる。ちらりと壁の時計を見てみれば、朝の7時。味噌と、わずかに焼ける魚の匂いがするから、翡翠姉さんが朝ご飯作ってるのかなぁ。

 

 でも熊元さん宅から昨日の夕方帰って次の日だから、今日って確か月曜日だよね。学校もあるし、翡翠姉さん疲れて無いのかな?

 

「何を言ってるんだい。もう春休みに入っているのだから、翡翠は暫く休みさ」

 

 今の時期は3月末、そういえば春休みとかそんな感じの事もあった気がするよ。自分と関わり合いになった事が無いからすっかり忘れていたよ。それにしても休みでも普通に料理を作る、流石翡翠姉さん!一応言っておくと、私も作る時あるからね?翡翠姉さんの代わりに私晩御飯作る時だってあるからね?決して毎日ぐーたらしてるわけじゃないよ!ちゃんと家事手伝いもしてるよ!

 

 一体誰に言い訳しているのだって感じだけど、とりあえずむくりと体を起こす。

 そして私の隣では、小さなテーブルに綺麗に揃った焼き魚、味噌汁、白米という美味しそうな和食。ていうかこの献立、前にも見た事あるような………いや、美味しそうだからいいんだけど。

 

 でも寝起きにすぐ食べるってのはきつので、とりあえずそのまま洗面所に行って顔を洗う。そしてしゃこしゃこと歯ブラシで歯磨きを………………。

 

「………………………!?」

 

 歯磨きを一瞬で(でも懇切丁寧に)終わらせて口を漱ぎ、私は洗面所から飛び出して廊下をもんだ有無用で走り出し、先ほどまで寝ていた自分の部屋の扉をぶち明けた。

 

「―――てぇ!いつからいたぁ!!」

「はむ………う~ん、この赤味噌と白味噌の比率がまさに神。素晴らしい」

「そうじゃなくって!」

 

 私は自分の部屋に普通に座り、美味しそうに味噌汁を飲み干す人物を見て驚いた。

 相手も、戻ってきた私を見て、味噌汁茶碗を持ちながら、ひらひらと空いた手をふって笑顔を向けた。

 

「やあ、おはよう、ヒノ。よく眠れたかい?」

「眠れたけど、いつの間に帰ってたの、シンリ!」

「うん、さっき」

「………で、なにしてるの?」

「いやぁ、久しぶりだからヒノの寝顔可愛いなぁ、と思って見ていたよ」

 

 屈託無い笑みを浮かべる私の義父(とう)さん、シンリ=アマハラ。

 灰色に近いような銀色の髪を後頭部で結いあげた髪型。見た目だけなら20代前半~半ばくらいに見えるけど、10年以上前に私やジェイを拾った事を考えると一体こやつ何歳だ?と思うような容姿。ある種人間をやめたのかなぁ、なんて考えた事もあるこの男。

 

 白いシャツと黒いスラックスという恰好自体は割と普通なのに、朝起きたら隣で朝食を食べているという言動自体が謎なのでなんとも言い難い。一体何をしているのか………。

 いやまぁ、悪気とか嫌がらせとか、そこらへんが一切無いのは分かるんだけどね。

 

「ていうか、その朝食どうしたの?」

「ああ、今日は俺が作ったんだ。ヒノの分も食卓にあるから食べてくると言い。ジェイは緑陽と稽古中、翡翠はまだ寝ているよ」

「あ、流石に翡翠姉さんも登山したから多少疲れてるのか」

 

 よかった。別に睡眠時間が少ないとかそういうわけじゃないから 早起き自体に不安は無いけど、こう何かイベント事があった後くらいにはゆっくりと休んで欲しいよね。

 

「じゃあ食卓に行ってるから、二度寝する気が無いなら着替えて来るといい。食べるなら出来立てで温かい方がおいしいからね」

 

 そう言って、シンリは味噌汁焼き魚白米を片手で持って、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。

 それは遠回しにやんわりと、着替えて早くご飯食べなさい、って事かな?でもシンリだからこのまま寝るーっていたらそれはそれで「いいよ♪」とか言いそうだけど。

 

「はぁ、それじゃあ着替えて、朝ご飯食べよっと」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「いいかもしれない話と、悪いかもしれない話。どっちから聞きたい?」

 

 唐突に、朝食を食べ終えた私達に向かって、シンリは口を開いた。

 相変わらず我が義父(ちち)は、唐突に何か良くわからない事を口走る。いい話と悪い話、っていうのは良くきくけど、ここまで曖昧な話の振り方は新しいね。

 

「そういえばヒスイ、今春休みなんだってな。折角だし今度神社仏閣見に行こうぜ」

「ジェイってそういうの興味あったの?確かにジャポンは文化遺産とか多いけど」

「いやさ、神社って結構業物とか宝剣が奉納されてる所あるんだよ。その辺り見に行きたい」

「あ、一気にジェイらしくなったわね」

「はーい!私も行きたい!」

「お、ヒノも乗り気か。だったら行くか!」

「はいちゅーもーく!そこの3人、ちょっとは興味を持ちなさい」

 

 パンパンと手を叩きながら、シンリは笑って注意を惹く。と言っても、シンリの話は半分聞き流すくらいがちょうどいと皆理解しているので、ほら、隣の緑陽じいちゃんも全くスルーしておいしそうにお茶を啜っている。

 

 あ、お団子だ。私も食べよぅっと

 はむぅ………むう、うまし。久しぶりの三色団子!

 

「はい2回目のちゅーもーく!後緑陽、俺も団子喰いたい」

「台所の戸棚に入っておるぞ」

「実は持ってきてたんだけどな。うん、うまい」

「………」

 

 若干悔しそうにしている緑陽じいちゃんに、勝ち誇ったように笑うシンリ。ううむ、これは傍から見れば中々に面白い。しかし手元の団子を食べ終わると、話が再び脱線した事にシンリは気づいた。

 

「というわけで、3回目のちゅーもーく!はいはい、皆会話に入ってきなさい。おとーさんからのお願い」

「どうしたシンリ?」

「どしたのシンリ?」

「どうしたのシンリさん?」

「はい注目ありがとう。緑陽は………まあいいや」

「おい」

 

 とりあえず私達の意識が向いた事に満足したっぽいシンリ。

 で、結局本題は、いい話と悪い話………じゃなくて、「いいかもしれない話と、悪いかもしれない話。どっちから聞きたい?」だったね。

 

「で、どっちから聞きたい?」

「ジェイどっちにする?」

「そうだな。それじゃあコインで決めようぜ。表がいい方、裏が悪い方」

「あ、私今持ってるわ。それじゃあいくわよ?えい!」

「お、どっちだ?」

「えっと………表、いい方ね」

「よし!じゃあシンリ、いい方の話でよろしく」

「ははは、お前達はいつも楽しそうだな。もうちょっと意識をこっちに向けてくれるとありがたいのだけど、はいはい、いい方ね」

 

 やんわりと無視された事に関して特にシンリは気にした様子も鳴く、割とこういう事もあるので私達も気にならない。いや、別にシンリいつも無視してるとかそういうわけじゃないからね?というかそれすら込みで基本シンリ楽しんでるし。

 

「で、いいかもしれない方の話なんだけど、折角俺も帰って来たし皆で何か食べに行こうかと思ってさ。俺がご馳走す―――――」

「お寿司、私お寿司食べたい!」

「俺焼肉。特上な奴とか食おうぜ」

「せっかくだし中華系とか食べてみたいわ。北京烤鴨(ペキンダック)とか麻婆豆腐(マーボードウフ)とか」

「わしは蕎麦とか食いたいのぅ」

「それじゃあくじ引きで決めようか。こんな事もあろうかと用意してあるよ」

 

 こんな事もって、何を想定して作っておいたのだろうか。棒に書いてるタイプだけど、きっちりと『寿司』『焼肉』『中華』『蕎麦』と書いてある辺り、私達が何を言うか想定してたのだろう。シンリはよく分からない事に是力を注ぐしねぇ。無駄に感心する。

 

「それじゃあ誰が引く?」

「私!私引く」

 

 特に誰も異論が無いという事だったので、いざくじ引き!

 ………と、その前に気になる事が。

 

「ねぇシンリ、くじが5本あるんだけど」

「そりゃあ、ここにいるのは5人だからな。5本に決まっているじゃないか」

 

 あ、シンリも入ってるんだ。で、とりあえず引いてみたんだけど………。

 

「ねぇシンリ、なんかくじに『スペシャル』って書いてあるんだけど」

「お、それを引いたか。じゃあ俺が皆に、『スペシャル』な料理をご馳走してやろうじゃないか」

「「「「………」」」」

 

 なんだかとんでもない茶番につき合わされた気分になったけど、実際イカサマとか全くしていないので何とも言い難い。引いた張本人の私が言うんだし。………たぶん。

 そんなわけで、お昼頃を目指し、私達はお出かけするのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「わしこういう個室っぽい乗り物は少し苦手なんじゃよな。別に酔いはせんが、あと人ごみとかも」

「だったら降りてもいいぞ。子供達とのドライブが手に入るなら安い」

「ほぅ、言うなシンリ。久しぶりに帰ってきたが、生意気な所は変わっておらんな。ちと揉んでやろうか?」

「勘弁して欲しいな~、帰って疲れてるし。なんか肩とか腰とかもきついし、もう歳かなぁ」

「お前そのセリフが全く似合わないのぅ」

 

 どちらかと言えばじいちゃんが言いそうなセリフを言いながら、シンリは楽し気にハンドルを回す。激しい、というわけでは無いが妙な舌戦を繰り広げるじいちゃんとシンリだけど、この二人ってどういう経緯で会ったんだっけ?よく考えたら聞いた事無い気がする。

 ていうかシンリ、運転に集中して欲しい。

 

 現在、私達はシンリが運転する車に乗っている。どこからか引っ張り出してきて所々汚れたりしてたけど、運転する分には全く問題無いみたい。シンリもこのままでいいや、って言ってるし。

 

 そして、どこかに向かっていた。どこか、というのはシンリが行先秘密とか言ってるから分からない。所詮ミステリーツアーという奴だね!………なんか違う?

 

 運転席にシンリ、隣の助手席に緑陽じいちゃん。で、後部座席は結構余裕があるから私とジェイと翡翠姉さんが乗ってる。車での移動って言うのもなんだか久しぶりだね。

 

「あ、そういえば缶ジュースあるけど飲むか?」

「あ、飲む!」

「私ももらいます」

「俺はいいや」

「わしも」

 

 シンリはどこから取り出したのか、多分最初から車の中にあったであろう缶ジュース、100%のリンゴジュースを後ろに放り投げ、私と翡翠姉さんはうまくキャッチした。

 

 プシュッ!ゴクゴクゴク、プハァ!

 

「この為に生きている!って一回やってみたいよね」

「ヒノが20歳以上になってお酒が飲めるようになったらできるかもしれないわね」

 

 250mlの缶だったからあっという間に私達は飲み終わってしまった。う~ん、実に快適。

 今は春から気温も適温。車内も別段蒸し暑くも寒くも無いし、ドライブには最適だね。

 

 そして車の中から聞こえる音というのもいい!心地の良い小刻みな振動、お腹に響くようなエンジン音、前から後ろに吹き抜けていく風の音、そして甲高い音を出してドップラーしながら流れていくサイレンの音。

 

 ………………………!?

 

「なんだ、事件か?」

 

 ジェイがそばの窓から外を覗いてみたけど、それらしい物は見当たらない。というか音からして、逆方向。私は真ん中に座ってるので、翡翠姉さんが反対側の窓から外を覗いた。すると、すぐそばを高速で通り過ぎる車の影と、さらにその後ろから車体を走らせる、赤いランプのパトカーが見えた。

 

『そこの車両!止まりなさい!完全なスピード違反です!繰り返す!止まりなさい!』

 

 警察車両のパトカーから聞こえる拡声器の音がよく響く。前方には、スピード違反確実と分かるような車、具体的に言えば色々と改造した感じのあれな人が乗ってるような車があった。今時あんなのあるんだぁ………。

 

「見て見て、翡翠姉さん!車とパトカーが追いかけっこしてるよ!」

「ヒノはいつも楽しそうねぇ」

「ていうかお前事件に対して結構積極的だよな。」

 

 そんな事は無い。きっとゴンやキルアだってパトカーがサイレン鳴らしながら走ってたら楽しそうにするはずだよ!………ゴンはともかくキルアは違うかな?逆に逃げ出したりして。

 

「て、あれ?なんかスピード上がってる気がするんだけど」

「そうねぇ。シンリさんそっちはブレーキじゃなくてアクセルよ?」

「大丈夫大丈夫。もちろん分かっているよ。だって速度上げてるし」

 

 メーターを見て見れば、先ほどまでは時速50キロ前後だったのが、一気に60キロを振り切り、80キロに迫っている。あ、隣のパトカー追い抜いた。

 

「ちょ!シンリ何するつもり!?」

「いや、折角だし警察の皆様をお手伝いしようかと」

 

 あ、絶対そんなつもり無い。ちょっと面白そうだから首突っ込もうとしているだけだ!分かるよ!そして私だけでなく、緑陽じいちゃんもジェイも翡翠姉さんもやれやれ、といった風に肩を竦める。今ハンドルを握っているのはシンリ。という事は、逃げ場は無い。

 まあやろうと思えば車から飛び降りるのも大丈夫だけど、そんな事町中であんまりしたくないし。

 

 シンリの運手する車は、見る見るうちに前を疾走していた改造車に迫った。

 

「あ、ヒノ、翡翠。さっき飲んだジュースの缶を貸してくれないか?」

「いいけど、何に使うの?」

「いいからいいから」

 

 飲み終えたので中身は空っぽになったスチール缶を二つシンリに渡すと、前を見て運転をしたままシンリはそれを受け取る。そして窓に近い右手に持ち替えて左手のみで運転をすると、アクセルを踏みしめながらパワーウィンドウを開いた。

 

 運転席の風が後部座席にもわずかに入ってくる。風は柔らかければ心地よく耳に残るのに、時速が100キロ超えてしまえばリズムの無い騒音に化けてしまうというのも中々不思議な話だ。これもある種のドップラー効果と言えるのだろうか。

 

「んぁ!なんだてめぇら!!」

 

 気が付けば、私達が乗る車は、爆走する改造車と並走していた。声が聞こえたのはこっちの車の窓が開いていたからと、相手の車がオープンカーだという事と、相手の声が無駄に大きかったからだった。

 

 ………マスクと特攻服の人って初めて見たね。今時いるんだぁ。ちょっと写真撮っておこう。こっそりと。ついでにゴンは携帯持っていないから、キルアにメールしておこう。………送信。

 

パアアァァン!!

 

 その瞬間、まるで風船が破裂する音を何倍にも増幅したように音が響いた。拳銃でも撃ったのかな?と思ったけどそれにしては音が大きいというか広いというか、なんか違うし。

 

 隣を見て見れば、改造車を追い抜き始めている。シンリめっちゃスピード上げてる………わけじゃないみたいだね。スピードメーターが変わっていない………はて?

 

「うわあああぁ!」

「くそがぁ!一体どうしああああああぁ!」

 

 ああ、新しい音が聞こえるなぁ。どうしたんだろ?

 

「ヒノ、現実逃避しても事実は変わらないぞ。隣の車はシンリに減速させられた」

「………あの破裂音ね。タイヤパンクさせたの?どうやって?」

「ちょうどジュースの缶が2個あったからプルタブを、こう………しゅっ………と」

 

 流石にそれを見越して私達にジュースを飲ませたわけじゃないよね?というか念を込めたのだろうけど、よくプルタブでタイヤパンクさせたね。しかも見た限り、前輪を2つ同時にパンクさせて回転(スピン)しないように割と考えているというのが流石。

 

「ていうかそれどころじゃないでしょ!後ろから新しいパトカー迫ってきてるよ!完全にこっちもスピード違反だし色々大問題でしょ!」

「安心しろ。所詮はパトカー、振り切れば何の問題も無い」

「大ありだよ!ていうか振り切ってもナンバーから車の持ち主特定されるでしょ!」

「………ヒノが意外とまともな事言ってる」

「それってどういう意味ぃ」

 

 全く持って心外な言葉を聞いた気がしたよ!全くシンリときたら。私だって一般常識くらい持ってるし、使うか使わない知識とかも多少知ってるし!ていうかこのままだとお昼食べに行くどころか、警察のお世話になりそうなんだけど………。

 

「実はこの車割と汚れていてな。ナンバープレートまで汚れてるから多分ばれない」

 

 馬鹿な………確信犯だと!それを見越して汚れを放置していただと!

 ていうかナンバー隠したまま走行ってしてもいいんだっけ?(注:普通に捕まります)

 

「というわけで、少し振り切るのであしからず」

 

 その後の展開は大方予想通り、入り組んだ場所だろうが大通りだろうが、行ったり来たりしているうちに、いつの間にかパトカーのサイレンが聞こえなくなっていた。本当に振り切ったよこの男………。

 

「さて、それじゃあ昼ご飯でも食べるか」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 私は目の前に現れた料理に感嘆とした溜息を零した。思わず、体が反応してしまったというべきだろうか。

 

 鮮やかな黄金色で全てを彩る、楕円形の料理、プレーンオムレツ。プレーンとその名が付くように、基本素材は卵のみ。しかし目の前に出された料理は、それだけじゃ到底説明できないような次元を、私達に見せてくれた。

 精妙巧緻な細工を施したように、調理工程の全てを芸術と表現してしまう程の完成度!

 

「私は………味の極楽浄土を垣間見たよ!」

「ヒノはいつから美〇倶楽部の海〇先生みたいな評論するようになったんだい?」

 

 いやいや、あの人はここまで比喩的な表現はしなかったような気がするよ。あれ、どうだっけ?

 隣では、私の前に置かれた料理と同じ物を、翡翠姉さんも食べていた。ナイフとフォークを優雅に使い、口元に一切れ食べて感嘆とする。

 

「ん!美味しい!流石はクモワシの卵を使ったプレーンオムレツ!シェフの腕ももちろんだけど、素材の良さが引き立っているわ」

 

 ここは不思議料理の店『Savaran(サヴァラン)

 

 シンリが車を縦横無尽に走らせたから、どういうルートを通って来たかよくわからないけど、とりあえず妙な立地の上で成り立つ料理屋さんっぽい。

 

 一風変わった食材を提供してくれる、ジャポンでは基本的に採れない食材で作られた料理とかも出してくれるらしい。だからメニューにクモワシの卵を使った料理が載ってた時は即答してしまったね。ハンター試験でゆで卵としてあの味を一度味わった事がある身としては、誰も文句言えまい!

 

 実際めっさ美味しかった!

 

「ううむ、この蕎麦も中々………良い腕じゃ」

 

 別に味にうるさいというわけでもないけれど、緑陽じいちゃんも花丸評価だね!

 

「このステーキもいい焼き加減だ。何肉使ってるんだろうなぁ」

 

 ジェイもご満悦。ていうかこの店だから普通に牛とか豚とか鶏じゃ無いだろうね。ある意味特殊な珍味とか使ってそう。いや、良い意味でさ。

 

 頼んだ大方の料理が運ばれ、全部食べ終わり、私達は一息ついていた。

 それにしてもこのお店閑散としているね。いやまあ席は元々10くらいしかないから個人経営っぽいけど、それにしても私達以外誰もいない。料理はどれも絶品だしどうして?

 

「皆様、今日の料理はどうでした?」

 

 すると、私達のテーブルのそばに佇んでいたのは、この店のオーナーでもありシェフ。

 ある程度料理の邪魔にならないゆったりとした私服の上から、店の名前である『Savaran』と刺繍された、赤いエプロンを身に着けた女性。穏やかそうな表情と、少し緩くウェーブのかかった茶髪を一括りにして肩から流している姿は、どうにも料理人というよりかは新婚の奥さんって感じがする。

 

 この人が本日の料理を作った人、アリッサ=サヴァランさん。

 現在27歳ながら、美食ハンター歴12年のベテランらしい。星を獲るような偉業は無いが、その調理技術は美食ハンターでも随一で、今は楽しく料理屋を経営しているみたい。これシンリ情報。

 

「すっごく美味しかった!アリッサさんご馳走様!」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。シンリさんも久しぶりでしたけど、どうでした?」

「相変わらずいい腕しているよ。家の子達も満足だ。ありがとう」

「いつでも予約してくださいね」

 

 ほのぼのとした雰囲気を放つけど、本当に奥さんって感じだね。

 こういっちゃあれだけど、同じ美食ハンターでもメンチさんとはえらい雰囲気が違うね。別にどっちがいいとか悪いとか無いけど。

 

 ちなみにこのお店って完全予約制で、予約されてから食材を仕入れたりするらしい。確かに世界中の食材を使うなら、仕入れに時間かかったりする場合があるし、それでも経営できてるって事はそれなりの料金だろうとも払えるだけの美味しさを誇るって事だよね。結構偉い人も来たりするらしい。

 

 ていうか予約してここ来たのかな?しかもクモワシって、シンリ絶対最初から今日来るつもりだったのかな?ううむ、相変わらず行動が謎過ぎる。

 

「ジェイ君も、いつもありがとうね。前に研いでもらった包丁、すごく具合がいいわ」

「それは良かった。入用でしたら連絡ください」

「ジェイもちゃんと商売してるんだね。しかも美食ハンターも顧客多そう。メンチさんも頼んでたみたいだし」

「あら、ヒノさんはメンチに会ったの?」

 

 少し意外そうな顔をしたアリッサさんだけど、メンチさん知ってるの?いや、同じ美食ハンターだし知らない方がおかしいのか。メンチさん有名人だし。

 

「今期のハンター試験の試験官してたよ。私受かって今ハンター!」

「そうなの!実は私メンチのお師匠、って事になってるのよ。まあ実績はメンチの方が断然上なんだけどね」

「え、ホント?」

 

 おっとりとしたアリッサさんと、割ときっぱりとした感じのメンチさん。………うん、割りと言い組み合わせなんじゃないかな?兄妹も互いの足りない部分を補う様に能力値を振り分けられるって聞くし(そういう噂があるだけで確定はしていない)、師弟関係にも案外相性の良さを考慮した逆の性格とか当てはめられるのかな?

 猪突猛進なタイプなら冷静なタイプを、逆に冷静だったり神経質なら少しばかり大らかだったりするタイプを、みたいな。

 

 とりあえず今日の料理は全て終了!後はどうするかなんだけど。

 

「ふぅ、満足じゃ。そういえばシンリ、お前の言っていた「悪い方かもしれない話」とは結局なんじゃ?」

 

 デザートの水菓子まで食べ終わった緑陽じいちゃんは満足そうにしつつ、ふと思い出したようにシンリに尋ねる。ああ、そういえば忘れていたね。それって結局なんだろ。

 私はリンゴジュースを口に含みながら、シンリの次の言葉を待った。

 

「ああ、実は帰って来る時にミヅキを落としてきてしまってね。まいったね☆」

「こふっ!!けほっ!けほっ!」

「大丈夫?ヒノ」

「けふっ………うん……大丈夫だよ、翡翠姉さん………」

 

 いきなりとんでもない言葉を聞いたので、思わずリンゴジュースを噴出してしまった私は悪くない。

 それよりも………おとしてきた!?

 

「シンリ!」

「ああ、ごめん落としたは冗談。普通に途中で別れたから別にどうも無いよ」

「………」

「えっと………ヒノ、デザートにアップルパイ食うか?」

「………食べる」

 

 一応感想だけ言っておこうと思います。………美味しかった!

 

「で、結局どうなったの?」

「うん、ヒノにお願い。ちょっとミヅキ迎えに行ってきてくれない。後あの子携帯持ってないから一個渡してきて欲しいんだ」

 

 そう言ってどこからともなく取り出した、薄型の携帯をひらひらと振る。なるほど、最初から行かせるつもりで色々と用意していたってわけか。ま、私もハンター試験終わって結構休んだし、いい機会かもしれないしね!

 

「それで、ミヅキは今どこにいるの?」

「ああ、天空闘技場………って、所だよ」

 

 聞くからに物騒な所そうだけど、行くっきゃないよね。行こうと思わなければ、旅は始まらないのさ!たとえそれが血沸き肉躍るコロッセオを彷彿とさせる闘技場であろうとも!

 こうして私は再びの旅行計画が立ち上がったのであった。

 

 目的地は、天空闘技場。私の、兄のいる場所。

 

 

 

 

 

 

 




本来ならドライブの話は冒頭部分程度で終わらせて何かアクションでもしようかと思ったら、思ったより長引いてしまいました。とりあえずキリがいい感じに終わってよかったです。

そしてアリッサはこの話を書いていたら自然と生まれてしまったので、今後登場するかは未定です。折角なので機会があったらどっかで出したいですね。




【オリキャラ:プロフィール】

名前:アリッサ=サヴァラン
年齢:27歳
性別:女
出身:サヘルタ合衆国
特技:家事全般
系統:強化系
容姿:緩いウェーブの茶髪とおっとりとした表情。

不思議料理の店『Savaran(サヴァラン)』の経営をする美食ハンター。既婚者。15歳でハンターになったので、ハンター歴12年のベテラン。料理の腕は美食ハンターでも随一で、メンチの念と料理の師匠。食材調達などはするが新たな食材を発見したりはあまりなく、基本経営している店で料理をしている。ハンターなので念は修めている。



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