「じゃあね。お土産持ってまた通るからその時はよろしくね」
「ああ………手当もしてもらって悪いな」
「いいのいいの(ていうか私が攻撃したあとなんだけど………)」
「例えお前がくれた一撃だろうとな」
「なんかごめんね!?それじゃ、またね!」
一先ずガリーがなんとなく行ったらしい順序を教えてもらったけど、真っ暗闇なので普通に行けば時間がかかりそう。だけど、そんな時間をかけるのは真っ平なので、なるたけ時間短縮で色々やらせてもらおうっと。
それに、もしかしたら密猟者と遭遇するかもしれないから、そこらへんも気を付けていこうかな!
通常、【円】を使えばある程度の距離は一瞬で把握できるけど、限界まで伸ばして他の念能力者にこっちの存在を感知されて警戒されたらそれはそれで後々洞窟探索した後が面倒なので、もう少し分かりにくい方法を使おうと思う。
私は地面に片手を付きながら同時に片膝を着き、全体に念を込めて、徐々にズシリと念を深く沈めるように操り、地面へと拡散した。
【円】の変化形応用技、【
私の足元の念が、前方へと薄く、地面を這うようにして伸びていく。まるで念でできた敷物の上にいるように、細かな地面の隆起を覆い、表層を走る念は、その広がりを徐々に速めていった。
(10………100………200………300………)
【装】は、〝念で大地を
足跡の動きで生物が動いているというのは分かるが、その上がどういう形をしているかは全く分からない。
(けど、こういう入り組んだ洞窟の道を調べるには、もってこい!)
通常の【円】で使う念量でなら、【装】は【円】の数倍以上の範囲を網羅できる。
わかりやすく言えば、球体の粘土を上から押しつぶせば、球の直系の数倍の円が作り出せる、みたいな感じかな。
(………800………900………1000………1100)
そしてそこから私を中心とするのじゃなく、前へ、前へと念を押し広げる。通常の【円】は念の使用者を中心とした球体上だけど、私は今、この位置を端として、通常より限りなく広い【装】を作り出した。
(………1400………1500………1600!………水辺?………それに、鉱石!)
直線距離だとおよそ500メートル程。でも道が曲がりくねってたりしているから、道なりにしておよそ1.6キロメートル。流石に壁を壊すわけにはいかないけど、おおよその道は把握した。この水辺、中にごつごつとした岩肌じゃなく、直線的な形の岩、多分鉱石。
多分だけど………
1人、2人…12人?結構な団体さんがいるなぁ」
流石にここまでの大人数だと、密猟者でほぼ間違いなさそう。まあ国の調査隊とか、ハンターグループという可能性もあるけど、確か国からの調査隊は暫く無いはずってジェイが来るとき言ってた気がする。そしてここにハンターが多人数で来るような物は無いとおもうんだけど………。
なんにしても、行くっきゃないかな!
【装】を解除した私は念を広げ、半径20メートル程の【円】を展開する。これで私の半径20メートルの中にいるもの、入るものは、全て肌で感じ、手に取るように分かる。岩の凹凸、天井に止まる蝙蝠、周りを飛ぶ小さな虫。
洞窟の横幅は、およそ15メートル程。この間合いなら、近づくものに対して対処する事ができるはず!
さてと、ようやく本番、かな?
***
【円】を広げまま、私は暗闇の中を駆ける。
ランプは消してカバンにしまったから完全な暗闇。だけど【円】なら例え目が見えなくても手に取るように周りが理解できる。野生動物や魔獣は多く存在したけど、ガリー並の魔獣となるとそうそういなく、相手が気づくより早くその場を通り過ぎ離脱を繰り返してた。
そして、人の気配が濃くなった事を察した私は、【円】を消し、【絶】で気配を絶って移動をする。通路の向こうからは、チカチカとオレンジ色の明かりが、ゆらゆらと影を揺らしながら光っていた。
「ったくよぉ、割に合わねーんじゃねぇのか!必死こいて探して、見つかったのは子ウサギ一匹だぜ?」
「ぼやくな。魔獣と違って楽に手に入ったから良かったじゃねぇか」
男の人の声。そっと忍んで岩陰から見てみれば、洞窟を歩く10人程の、見た目迷彩柄の服装に銃器を持った、まさに密猟者っぽい恰好をしている人達。
………………ていうかこの人達普通に密猟者じゃね?ていうか会話がまさにそうだし。
一般人なら入れば命はなさそうな洞窟だけど、ある程度の知識と装備さえ整えれば、何なりとは入れてしまう。人の手が入らないこの場所では、すでに絶滅した動物なども生息している。鉱石目当ての人間にとっても密猟者にとってもまさに宝の山。
「どんだけ獲れたよ?」
「今回一番高値が付くならブラックラビットだな。後はガリーベアの子供でも手に入れば願ったり叶ったりなんだがな」
ガリーさん家の子供も?よし、とりあえずあれとっちめればいいってことだよね。よくよくと見てみれば、密猟者の一人が籠を手に、中には一匹の黒い兎が入っていた。あれが多分ブラックラビット。
生物的な価値は知らないけど、可愛いから助ける!
密猟者の数は10人。そのうち素人が3人、戦えそうな奴が4人、そして念能力者が3人。
じっと見てみれば、念を使える物そうでない者はよくわかる。危険地帯だからこそ、必ず【纏】をしているから。
そこまで強いというわけでないけど、圧倒的に弱いわけでもなさそうだし、あとはどんな能力を使うかだけどとりあえず奇襲気味に行きますか!
足音を殺し、念を使えるであろう一人の背後に降り立って、念を込めた手刀を放った。
ビシイィ!
「ぐ!うぅ………………」
思わぬところからの一撃、というのもあって、相手の【纏】の防御をぶちぬいて、一気に気絶させる。けど、流石に他の人達は気づき、その瞬間近くにいた2人の意識を刈り取った。
「おい!!大丈夫か!!」
「誰かいるぞ!!気をつけろ!」
一旦立ち止まり姿を見せると全員驚いた顔をした。
「子供だと!?しかも女」
「密猟はいけないよ、おじさん達。そのうさぎをこっちに渡したら加減してあげる」
「んだとぉこのガキ。てめえら!やっちまえ!!!」
拳銃やらナイフやら、腰や懐の備えを取り出し、密猟者は武装をするが、私はその隙に、さらに肉薄し、近くにいた2人を気絶させた。後ろ手に、小石な投げつけ唯一の光源となっていたランプを破壊した瞬間、空間が闇に包まれた。
【円】!
半径10メートル程の【円】を展開すると、手に取るように相手の位置がわかる。
10人中、5人は気絶させた。後は、念使い2人、戦闘員2人、非戦闘員1人って、所かな?
暗闇で思考が低迷している密猟者達の意識を絶とうとした瞬間、横合いから飛んできた一撃に立ち止まり、後ろに飛んで躱した。その際、私の視界を左から右へと飛んでいく物体を見つめた。
(これは………念弾?)
放出系の念能力者は、多くが念を肉体から切り離して能力を発動する。最もシンプルなのは、念弾、つまり念の塊を飛ばして攻撃するパターン。旅団のフランクリンとかは、自分の指先から念弾を飛ばして、ガトリング砲顔負けの破壊力を見せてたけど、今見ている物は、よくても拳銃程度にしか見えなかった。
………これは加減してるとかじゃなくて、これが最大?いや、そんなわけないよね?
「おいお前ら先に行ってろ。俺らでやる」
密猟者の中の念能力者の一人の言葉を聞い、て一目散に予備のライトを出して奥へと走り去った。向こうはこちらが念が使えるとわかったみたいだし、同じ念能力者で私を片付けようって判断みたい。
「さてと。嬢ちゃん、泣いて喚いても遅いぞ」
「カカカ。とっととやっちまおうぜ」
「うさぎを渡してくれたら加減してあげるよ」
もう一回同じセリフを言ってみるけど、やっぱり全然効果無かった。返事を聞く前に二人して攻撃してきたからね。
念を込めた拳で殴りかかってきたからしゃがんでよけたら足払いをしたけど相手もなかなか、バックステップで避けて一旦距離を取った。
「へっ、しゃあねえな。すぐにおしまいにしてやる」
そう言って取り出したのは。
「筒?」
直径3センチに長さ1メートル程の筒。本来飛び道具を飛ばすための道具に、先ほどの念弾。
「くらえ!!」
息を込めてこちらに向かって吹くと、鋭い念弾が飛んできた。紙一重で回避し、念弾はそのまま私の横を通過して壁に当たり、背後の岩が少し割れた。それに続くようにして、相手の吹き矢男がニヤリと笑い、もういちど吹き矢で念弾をだして攻撃してきた。
あれ?さっきより早いしもしかしたら。避けて後ろの岩を見るとさっきと、変わって粉々に砕けていた。さっきより、威力が上がってる。
「どうだ。オレの【
どんどん念弾を出して攻撃してくる。威力は拳銃並で岩が多少砕けるだけだけど、数が多ければ崩れるかもしれない。となると一巻の終わり!?念弾の威力より洞窟崩壊に危機を感じてしまった。
まあこの洞窟聞いてたより丈夫みたいだし大丈夫だろうけどね。………多分。
さて、連射できるようだし面倒だから………正面突破で瞬殺!!
「くらえ!!」
筒を何本も取り出し、一気に多くの念弾を発射する。
体内で通常より多くの念を練り上げ、【練】を維持する。これぞ、【堅】!
ガガガガガガガガ!
「何!!」
全て受け止めて、問答無用で突っ込む。所詮拳銃程度しか威力が出せないみたいだから、割と余裕でガードできる。フランの能力と比べるとどうしても見劣りしてしまうけど、まあしょうがないよね?相手はA級賞金首の旅団のメンバーだし。
そのまま一瞬で肉薄し、腹部に向かって拳を放つ。その一撃で、あっけなく倒れ気絶した。
「よし。後一人」
もう一人を見てみるとこちらを向いて笑ってる。探検隊コスチュームに帽子とゴーグルをつけた男。まあ探検家とか冒険家に見えなくも無いけど、あれは密猟者だよね。
「カカカ。どうにかそいつは倒せたようだがオレはそう簡単にはいかないぜ。お前らが戦ってる間に準備は終わらせてもらった。行け!!」
そう言うと周りの岩が動き出した。そしてそこから人型の岩が動いて数体出てきた。
これはおそらく、というかほぼ確実に操作系の能力。それも岩を人型にして操るというちょっと変わった能力。分かりやすく言えば
体格2メートル程と、全部同じ大きさの人型なのは多分この大きさが限界なのだろう。 数はそこそこ多い15体。どうしようか。
「この【
同時に12体の人形が向かってきた。3体は自分の身を守るようにそばに置いておいてる。
どうでもいいけどさっきの人といいこの人といい、随分と丁寧に自分の能力名とか簡単に教えてくれるんだね。ゴーレムの攻撃を避けながら考える。
パンチ、蹴り、攻撃は単調。動きは少し素早い。力はある方。1体の攻撃を躱し念を込めて蹴り砕くと、砕けた箇所を無視して構わず攻撃してきた。【堅】を維持したままガードして距離を取る。
向こうは防御を考えず攻撃するとなると少し面倒。だけど、再生とかはしないなら、さして問題は無いかな………ん?あれは………。【凝】をしてみてみると………なるほど。
「読めた!!マッドゴーレム敗れたり!」
ゴーレムの蹴りを飛んで躱し、足の上に乗り再び飛び上がり、ゴーレムの背後に周り手を伸ばす。するとゴーレムは崩れてただの岩となった。ただの岩は少し動いていたけど、やがて止まった。
「なっ!!」
私の手には、
「岩に指した針から念を送り込み、人の形にして操る。だから針を抜いたら形を保てなくなり操ることができないみたいだね。それが
ま、言っててあれだけど、同じ操作系のイルミさんの針より全然弱い。いや、比べる対象があれなだけで割とすごいと思うけどね?岩の人形形成するとかね。
「ぐっ!!だ………だからどうした!!まだゴーレムは14体もいるんだぞ!やれぇ!」
ゴーレム自体の攻撃性能は割と単調なので、躱しながら【凝】をして全体にかかってる念の中から、ひときわ強い場所から針を抜き取り形を崩す。それを繰り返す!!
「なっ……あ………そんな!!」
そして残りは自分を守る3体のみとなった。
「残りは3体。準備とか言ってたんだからこのゴーレムを作り出すのには少し時間が必要なんでしょ。だから今からすぐ作り出せずあとはその3体だけでどうにかするしかないわけだね。あと単純に針がもう無いとか」
「………(図星)」
「これにて終了、終わりだね」
【硬】を拳に纏い、残りのゴーレムを一瞬で破壊した。そのまま、同時に操作主も攻撃して気絶させる。あ、もちろん【硬】のままじゃないよ?当てる前にちゃんと【凝】にしておいたから死んでないからね?
とりあえず、倒れた人達をざっと見渡して、バッグの中からロープを取り出して縛り上げといた。これで一先ず問題は無いかな?あ、何人かは奥に行ったけど、念が使えそうなのはここにいる3人だけみたい。あ、1人は一番最初に気絶させた人だよ。
この人達は放置しといて、帰る時に回収しよぅっと。
それより問題というか目的は、蒼海石のありか。多分この辺りだったと思うんだけど………もう少しこっちの方かな?
【装】をして足元を把握すると、液体に触れるような反応を見つけた。近場に敵がいなさそうな事を確認して、一息で走り出す。
そして見つけた場所は―――――!
「………綺麗」
こういう空間を幻想的と言うのだろうか。
目の前に広がる直系20メートル程の小さな湖と、水面でキラキラと反射する光。透き通った水の中をよくよくと見れば、直線的な水晶のような蒼い石が、青白く穏やかな光を発し、湖自体が光っているように見えた。
「これが蒼海石。すっごい分かりやすいね………」
足元にしゃがみ込み、水の中に手を入れて、浅瀬の地面から突き出た小石サイズの蒼海石に触れ、引っ張ってみる。意外と簡単に、ポロリと地面から取れて、私の手の中に納まった。
「わぁ、綺麗。まるで飛行………あ、なんでもないや。あれ?」
パシャリと水中から取り出した瞬間、溶け解れたかのようにさらさらと、手の中の蒼海石は砂となってしまった。後に残った蒼い砂。これはこれで綺麗だから、もらっとこうっと。小さな小瓶に入れておく。なんだかこういうおみやげ物って売ってそうだね。
ここ立ち入り禁止区域だから絶対に無いとは思うけど。
しかしこうなると、ジェイに採り方を聞かないとどうしようもない。………そういえばジェイ今頃何してるかな?
キィイン!
「!これって、刃物と刃物がぶつかる音?てことは、ジェイかも」
微かに聞こえた金属音。少し耳を澄ますと、連続して似たような音が聞こえてきた。
私が入ってきた穴とは別の穴の奥。ジェイの行先は、あっちに通じているという事か。
一先ず岩を駆け、音のする方向へと向かう。明かりをつける手間が惜しかったので、【装】をしながら地形を把握して走る。そして、誰かが動いている音と感触を感知した。
ついたけど、当然ながら暗闇その為、【凝】をすることで、多少の把握はできる。他社の念を見る事のできる【凝】なら、例え暗闇でも、おおよそそこに人がいるというのがわかるのだ。ホント便利だよね。
「らぁ!」
多分どちらかの声だろうけど、正直よくわからないし、結構なスピードで互いに地面を天井を蹴り、定期的に金属音と共に火花が散る。念の変化具合から、片方はジェイって事は分かるんだけど、もう片方も結構な使いってぽい。
【凝】で見た念の形だと、多分刀みたいなのを持ってるっぽい。てことは、もう片方はガリーが言っていたやり手の密猟者?ジェイと戦えるレベルって言うと、結構強いね。うん、マジで。
あ、ちなみにこの場所今普通に真っ暗。二人とも【凝】をして相手を把握しながら地形はほぼ勘だよりで戦ってるっぽい。………人間業とは思えないね(言ってるヒノの戦い方も常人離れしている)
二人とも私に気づいてないみたいなので、私は手元のランプに火をつけて、辺りを照らした。
「「!!」」
その瞬間、二人の動きが一瞬止まる、と同時に私に2人の視線が突き刺さった。
一人は、天然パーマのような色素の薄い黒髪に、手元でナイフをくるくると器用に弄ぶ青年、私の義兄であるジェイ。これは正解。
「ヒノ!?」
そしてもう一人は、ガリーの言ってた特徴と一致している。
青いハンチング帽の中からこぼれる、腰程まである長い銀色の髪と、鋭く標的を見据えるような双眸。長身痩躯の男は、手元の刀を振るい、ランプの明かりがつくと同時に私を見る。
「子供!?」
その瞬間、ジェイも対戦者も、同じように私に向かって叫んだ。
「「離れてろ!この密猟者、厄介だ!………………え?」」
あれ?この人もしかして………………密猟者じゃない?
ヒノ「今日出たオリジナル念能力と応用技を紹介するよ♪」
【
【円】の変化系応用技。人体から地の表面を覆うように念を薄く広げ、そこに触れた物を感知する。【円】と違って空気中の三次元的な事は分からず、念に触れた部分しか分からないので、人が歩いても足運びや足の形などしか分からない。ただ動いているので人や静物画そこにいるという事はわかる。【円】よりは気づかれにくい。念を薄く延ばすので、【円】と比べたら射程距離が遥かに長くなる。
ヒノ「意味合いは、〝念で大地を
【
放出系念能力。空気を取り込み念と共に筒から吹き矢のように念弾を飛ばす。吸い込み吐き出す空気量と念量を調節すれば輪ゴム鉄砲並みから拳銃並みに威力を変えられる。息を混ぜ合わせる事を制約にして、念の消費量を抑え、破壊力を上げている。
ヒノ「拳銃と比べたら弾切れは無いけど、気を付けないと息切れするから注意だね」
【
操作系念能力。鑿のような針を岩に突き立て、岩の人形を作り操作する。密猟者は限界で体格2メートル級を15体作れるが、その分操作性能は単調になる。密猟者の練度があまり高く無いので、針を突き立て5秒ほど念を込めなくては、岩を人型に形成できない。針を外せば岩は崩れて、操作不能となる。
ヒノ「【凝】で見てみれば意外とわかりやすいよ!針だけ念が強いから」