今回はシリアス。
……感想を送ってもいいんだよ?(チラッチラッ)
ルーミアと戦闘を終えた直後。
無造作に転がっているルーミアを尻目に、赤いリボンを拾う。霊力を流し、本来の封印の役割を復活させてからルーミアに結び直した。
この赤のリボンはかつての封印に使われたものではない。新たに霊魔が用意したものである。
何故そうなったか。結論から言えば、霊魔の所為である。しかし、根拠を説明するには彼の過去が大きく関係するだろう。
彼は生後間もないころ、山に囲まれた小さな村に突然捨てられた。
誰に捨てられたかは分からないが、問題はそこではない。食事を与えてくれる肝心の拾い手がいなかった。
この小さな村の村人たちは捨て子に気づくことがなかったのだ。
捨て子は泣く事がなかった。しかしこの時においては裏目に出ていたと言えるだろう。たった数日で餓死寸前にまで追い込まれていた。
その時、村は妖怪に襲われた。妖怪は村人の悉くを殺し、村を根城にした。
しかし、幸運にも捨て子は見つかることはなかった。この時でさえ泣くことはなかった。陰に潜み、ずっと待っていたようだった。
しばらくして、ある女性が村を訪れる。巫女装束を崩した服装に身を纏い、一瞬で妖怪達を殲滅したという。建物は倒壊し、畑は土に変わり果てた。
そして、女性は声を聞いた。小さく儚い、今にも消えそうな泣き声だった。
壊れた建物の間にいた赤子は、女性に抱き締められると、微かに笑った。
女性は後に、先代の巫女と呼ばれる博麗の巫女であった。
場面が変わる。
怒声と罵声が耳に刺さる。何を言っているかは赤子の身に理解出来るはずもない。大きい木造建築の和室だったとは思う。周りには同じような人がたくさんいた。
誰かが言葉を吐き捨てた時、博麗の巫女の雰囲気が急変した。
博麗の巫女は赤子を強く抱いた。
そして、叫んだ。
何を叫んでいたか、今でも分かってはいない。ただ、その叫びで心の中に暖かくなったのは確かだ。
しばらくして、森の中に小屋を建てて、二人で住むことになった。
時々、博麗の巫女は出掛けてしまうが、近いうちに帰って来ていた。
そして赤子は少年となる。
赤子の頃の記憶をなんとなく持っていた少年は、母となる女性に聞いた。
俺はあなたの子ではない。それでも、愛してくれるのか。
母は驚き、見たこともない剣幕で少年に抱きついた。
何を言っている!?あんたは私の子だ!もし、もう一度私の子でないと言ってみろ!あんただろうが許さないよ!
少年に変わってから、初めて泣いたのはその時だけだった。
次の日、母親が帰って来ることはなかった。
心の硝子が、割れていくのを確かに見た。
ルーミアに会ったのは幻想入りしてから少しした頃だ。赤いリボンに母親の面影を見た。その結果、大妖怪を解き放っていた事に気付いた時には後の祭りである。今は事情が変わっているが。
目を回すルーミアを見ながら、自身の起源を振り返る。
ルーミアの闘いの為にとっておいた酒の一杯が妙に冷たく思えた。
まだ。きっと、また帰って来る。きっと––––––。
当時は毎日のように同じ言葉が、頭にこびりついていた。
頭では理解していた。きっといないという事は、死んだ事に他ならない。妖怪退治とはそういうものだ。殺される時もある。そういう世界なのだ。
心は、考えることを放棄していた。
一ヶ月を過ぎた頃。大人が何人かで小屋に現れた。彼らは博麗の巫女への依頼を持ってきた者達だった。不在を告げると、大人達の顔は絶望に染まる。
どうすればいいのか。激昂を見た。
誰に頼れば。狼狽を見た。
初めて母が背負っていたものを知った。
「待ってください」
「俺が代わりに行きます」
「母から技術は受け継いでいます。任せてください」
大人達は喜んで場所を伝えた。
嘘だ。技術なんて持っていない。母は受け継ぐ前にいなくなった。
それでも、母の居場所は守らなくてはならない。きっと帰って来ると信じて。
俺を、息子と言ってくれた事。たったひとつの恩を返す為に。
母が少年にどんな未来を送らせるつもりだったかは分からないまま、少年はこれこそが正しい道だと信じて疑わなかった。
邪悪な鬼が一人暴れているという詳細を受け、少年は旅立った。この時、少年は衣服と多少の食料以外を持ち込まなかった。その時点で、妖怪退治の専門家としては三流であった。本来、より多くの武器を持って殺す手段を用意しておくべきである。
元々、何かと芸達者だったこの少年の実力はこの時点で半分はなくなったと言っても過言ではない。
そして持っている手段は徒手空拳のみであった。これは自信や油断の表れではなく、無知による愚行である。
鬼に相対した時、襲い掛かる様に身体を覆う死の恐怖。
森の中で一対一となった闘いは鬼の一撃によって粉砕された。
遥か遠くに飛ばされ、瀕死の少年はそのまま気絶する。
幸運にも遠くまで飛んだ為に、追撃される事はなかった。
次の日、左手が既に使い物にならなくなっているまま、鬼との再戦に臨だ少年。
昨日の小童か。そう思っていた鬼の顔は一瞬にして驚愕に染まった。
拳による全力の一撃を片手で防がれたのだ。
鬼とは、妖怪の種族の位として、上位に位置する種族である。言わずもがな、圧倒的な腕力や爆発力だけで敵をねじ伏せられる。それだけで脅威なのだから。
少年は、それをたった一日で克服した。少年の呟きが聞こえた。
「鬼をも殺さないで、何が博麗の巫女だろうか」
馬鹿な。言い切る前に、鬼の頭は少年の右脚によって刈り取られた。
少年の目には既に光はなかった。
「守れた」
大人達は喜び、「博麗の御子」と呼んだ。
みんなが少年に縋り、少年は応え続けた。
母親なら、自分と違わず守り続けると信じて。
少年は異才だった。
幻想郷にいる霊夢を天才、魔理沙を努力の天才ならば、少年は天才となるべき器であった。
しかし、急激な進化を自ら追い求め、母親に近づこうとする余り。
痛覚は消し飛び、
意思は潰えて、
感情を失い。
人として大切な何かを着々と壊していった。
妖怪は皆殺しにし、幼い妖怪すら遺さない。
やがて、大人達は忌避する様になり、孤独に苛まれた。
それでも、見知らぬ誰かを守るために度々現れる正義の味方。
その姿は確かに。
化け物だった。
「今日も月が綺麗だ」
運命は、廻り始めたばかり。
アナザータイトル
「守護者」
今回はまったり要素ゼロとなっております。
霊魔は時折月を見て思いを馳せる事がありますが、過去の霊魔と現在の霊魔は月に何を見ているんですかね?
まぁ、どう考えても眼に映っているモノは違うようですが。
こんな感じにストーリーが進む毎に、小話も挟んで行きたいなと思います。
正直、この時点で霊魔の正体を完全に看破出来る人は神様です。
もし分かったらなんでも言う事聞きますよ。
(なんでもするとは言っていない)
霊魔の謎を推理しながら、ギャグにクスリと笑ってもらえると感無量です。
次回は、「⑨、死す」
「⑨、散る」
「⑨、止まるんじゃねぇぞ……」
の、三本になります。ではまた!