幻想郷でまったり過ごす話。   作:夢見 双月

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遅れて、本当に、すいませんでしたァァアアッ!!!

言い訳します。
忙しかったんです。
他の人の小説が面白すぎるんです。
ショボい文才で書き切れるか分からなくなって、いじけちゃったんです。

……流石に間隔開けすぎですよね。すいません。

頑張ってもうちょっと更新速度速めます。
これからもお付き合いくださいorzペコリ


魔理沙と大掃除の話。

「来たわね。あら、時間ピッタリ」

 

「そちらの準備は?」

 

「いいわよ。いつでも行けるわ」

 

「よし。じゃあ、行こうか」

 

「ええ」

 

 1組の男女は互いに目を合わせた後、向かうべき場所に向かっていった。

 

「ところでそれ、ツッコんだ方がいい?」

 

「……どっちでも」

 

 

 

 

 午前10時頃。

 

 チャイムが鳴る。「はいよー」という声が家の中から微かに聞こえ、ドタバタと慌ただしい音がしばらく響く。そして、ドアを開けながら快活な少女が顔を出した。

 

「はーいどちらさん、ってヴェ!?」

 

 家のドアを開けた少女、霧雨魔理沙が見たのは完全掃除用装備でやって来たアリスと、完全フル装備を整えた黒い仮面の男だった。

 

「アリスー……と、誰?」

 

「シュコ-」

 

「あのー……」

 

「シュコ-」

 

「……」

 

「ワタシダ」

 

「いや誰だよ!?」

 

「コレハ『星の戦争』シリーズノ シュコ- ファザーヘルメットダ シュコ-」

 

「いや、そんな説明は求めていないぜ。明らかに描写してはダメな感じの形してるからな。あと、呼吸がうるさい。おいやめろやる気まんまんのBGMを流すな」

 

「トッテイイカ?」

 

「はよ取れ!」

 

 仮面を取ると、いつもの博麗神社に住み着く青年の顔が出て来た。

 

「ふぅ、そういうわけでだ」

 

「どういうわけだ」

 

「大掃除を始めよう」

 

「え……はぁ!?」

 

 

 

 魔理沙宅にお邪魔させてもらい、霊魔は事の顛末を語り始めた。

 

「知ってるかお前。パチュリーの愚痴が最近マジでヤバいんだぞ。今の魔理沙と研究してる方向が似てるらしくて、肝心な資料ばかりが魔理沙に盗まれているから図書館に資料がないことを当事者でもない俺にネチネチネチネチと言って来て。図書館に世話になっている身としては手を貸すしかないだろう」

 

 そこへ補足をするようにアリスが話し始める。

 

「それを私にしゃべって、最近魔理沙も研究ばかりでまともに整理整頓出来てないだろうという話になって。ついでについでにを二人で繰り返すうちに掃除も視野に入っちゃったから、いっそのこと、大掃除をしようということになったの」

 

「私には何も知らせずにか」

 

「気にせずに研究に没頭してもらった方が都合がいいからな。さっさと済まして本を全部返した方が、ちと時間がかかるかも知れんがまた盗られるよりかはいいだろうさ」

 

「じゃあ、勝手に始めさせてもらうわね」

 

 アリスが動き出すと、魔理沙が肩をすくめながら言う。

 

「いや、さすがに私も大掃除するぜ。幻想郷のおかんとおとんに言われちゃあやるしかないだろ」

 

「「誰がおとんだ(おかんよ)」」

 

「そういうところだぜ」

 

 しかし魔理沙が魔法を研究を終わらせないなら、使用済みの資料とまだ使うであろう資料を分けなければならない。霊魔は自身の掃除用具をもう少し隅に置いた。

 

「なんにせよ、掃除よりは片付けが優先だな。こんだけ散らかってれば歩くこともキツイしな。午前中に頑張って終わらせて、午後に掃除出来るようになれば上々か。おい魔理沙、お前にやって欲しいことがあるんだが」

 

「ん?なんだ?」

 

「お前がいつも言ってる『永遠に借りてる』本を全部持ってこい」

 

「なんでだぜ?」

 

「パチュリーに返す」

 

「イヤだぜ」

 

 魔理沙は霊魔の言葉を笑いながら切り捨てた。

 

「ちょっと魔理沙!?」

 

「だってよー、『永遠に借りてる』から、永遠に借りてるものなんだぜ?そんなものを誰が返すか」

 

 べーっ、と舌を出しながらそう告げる。盗人魂のようなプライドがあるのだろう。アリスが思わずいつも通りの魔理沙に頭を痛くし、ため息をこぼした。

 

 霊魔もため息を吐いたが、アリスとは意味が異なっていた。まるでワガママな子を見て、「仕方ないな」とでも言わんばかりに。

 

「ちょっと魔理沙、耳貸せ」

 

「なんだよ、絶対イヤだからな。来んな」

 

「いいから」

 

 少し強引に耳を寄せ、ゴニョゴニョと小さな声で喋り始めた。すると、魔理沙の顔が赤くなり、青くなり、いきなり慌て始めた。

 

「な、なんでそんな事知ってんだぜ!?」

 

「『火のないところに煙は立たぬ』ってな。俺が何でブン屋の文のところを手伝ってると思ってる。情報も上手く使えば剣になるのさ。さ、どうする?」

 

「わ、わかったよ!持ってくりゃいいんだろ!バーカバーカ!」

 

「え!?」

 

 アリスの驚愕は魔理沙を知っているなら当たり前のことだろう。魔理沙は自分の意思や好奇心には頑なな部分があり、曲げようとするだけでも一苦労するのである。

 

 それを、瞬殺。たったの耳打ちのみで屈服させたのだ目の前の男は。魔理沙に見えないように真顔でピースする霊魔。

 

「一体、何をしたの?」

 

 自然と口から溢れた。それを聞いた霊魔は微笑みながら答える。

 

「人には必ず隠したいことってのがある。大体は人に知られたくないものが大半だが、最も隠したいものは自分で隠蔽するだろう?でも、『ひょっとしたらバレないだろう』と思えるほどの小さな事は本気では隠蔽しないし、きっと大丈夫だ、と思わないか?」

 

「……あ、まさか

 

「簡単に言ってしまえば、『小さい事だけど知られたくないもの』を俺が知っているだけ。そうすれば、こういう時のような些細な事なら動いてくれるからね。ブン屋の文はそれをたくさん知ってるから、手伝う代わりに教えてもらってるのさ」

 

「……なるほどね。情報戦はあなたらしい切り口とも言えるわね」

 

「一応言うが、魔理沙も中々しぶとかったぞ。『あと30個はあるヨ』って言わないと動いてくれなかった」

 

「あなたって本当に人間?ゲス妖怪と言われても仕方ない事してるわよ」

 

「万が一、秘密をバラしても俺がボコボコにされるだけなら問題ない。そもそもバラすなんて一言も言ってないしな」

 

 どうするかとしか言ってないし、最悪な事には絶対にさせないよ、と笑いながら付け加える。

 

 ふーん、と言いながら、アリスは彼のちょっとした魅力がわかった気がした。

 

 おちょくりつつも怒らせることはしない。そういう気遣いのようなものが自然に出来るところをアリスは少しうらやましく思った。なるほど、霊夢が惹かれたのも分かるかもしれない。これならある程度の悪ふざけは許してしまう。でもある意味タチは悪そうだとも思えた。

 

 アリスはふと気になった。

 

「もしかして、私の秘密もあるの?」

 

「いや、まぁ、あるにはあるがしょーもないぞ。それ以前にアリスの秘密はそんなに持ってない。少ないのはアリスの人徳から来てるものだとでも思っておいてくれ」

 

「そう思っておくわ。でも、しょうもないと言われても気になるものね。一つ教えなさいよ」

 

「いいのなら。そうだな、『アリスは一人より人形たちと風呂に入る事が多い』とかどうだ?」

 

「あら?それだけ?」

 

「人によって恥ずかしく感じるものなんて違うだろう。これでも誰かにとってはとても恥ずかしいと思えるものだ。俺の持ってる情報なんてほとんど不発覚悟のものだけだし。魔理沙は……たまたま恥ずかしいところに当たったなら不運としか言えん」

 

「ちなみに、伝えた魔理沙の秘密は?」

 

「言うと思うか?」

 

 2人が笑いあったのとムスッとした魔理沙が大量の本を運んで来たのは、ほぼ同時の事であった。

 

 

「すまんが、ちょっくら行ってくる。これで多少溜飲を下げればいいが」と、霊魔が本を持って紅魔館の大図書館に向かってしばらく。

 

 小一時間かかって魔理沙の自宅に戻ってこれた霊魔は、ノックを適当にして上り込んだ。

 

「おう、遅かったな!」

 

「おかえり、霊魔。思ったよりかかったわね」

 

「ああ、ただいま。魔理沙の本を本棚に戻してた。小悪魔達と一緒にヒィヒィ言ってきたぜ。ふぃー」

 

「変なとこで律儀だなオマエ」

 

「元々の原因はオマエだろが。反省でもしてろ。何処まで進んだ?」

 

「あなたがやれなさそうな魔法道具をやっていたわ。残りは大体生活用品になるかしら」

 

「魔法道具がどこかに埋もれてる可能性はあるから、見つけたら頼むわ」

 

「分かったわ」

 

「りょーかいっと」

 

「12時までには終わらせるぞ。……よし、やるか!」

 

 アリスと魔理沙も作業を再開させる。アリスはキッチンで水回りの整備兼昼ご飯作り、魔理沙は自分の部屋の整理と捨てるものの選択、霊魔はその他全般をこなしていった。

 

「おい霊魔!それはわたしがやるから!やるな!」

 

「どうした?」

 

「誰が服をたためっつったんだ!」

 

「あらかた終わったから暇なんだよ。アリスは料理一人でやってるし、家事ぐらいしかやる事ないんだよ」

 

「ちょ、それ私の下着……」

 

「ほいほいほい、っと。……ん?どうした固まって。あ、ここ置いとくな」

 

「な、あ、あ……」

 

「?」

 

 「この大ばか野郎ぉ〜!!!」

 

「いっだぁ!?」

 

「霊魔なんか嫌いだ!!片付けしてくる!」

 

「……えーっと、御愁傷様?」

 

「……下着が恥ずかしいのはわかってるが、たたむだけだろう?なんでそこまで怒る?」

 

「博麗神社で完全に主夫になってるあなたには分からない事よ」

 

「……そうなのか」

 

 こんな時にも何かやらかすのも霊魔にアリスは思わず、くすっ、と笑ってしまった。霊魔は何故怒られたかわからない子供のような顔をしていた。

 

 

「なぁ」

 

「……」

 

「魔理沙って」

 

「……」

 

「悪かったから。な?機嫌なおしてくれよ」

 

 お昼時。休憩ということで、アリスが三人分のキノコと卵のチャーハンを作ってくれた。キノコの芳醇な香りが鼻をくすぐり、食欲が促進する。しかし、それ以上に魔理沙が俯いていてご飯どころではなかった。大きいいつもの帽子をさらに深く被っている。あ、目が合った途端反らしやがった。こいつ。

 

「分かった?魔理沙は純情なのよ」

 

「身に染みてな。……魔理沙には悪いが、正直謝って許してくれないならどうしようもない」

 

「あら、お手上げなの?」

 

「ああ、物で釣るぐらいしかないからな」

 

 魔理沙が睨みつけてくる。それでは大変不服のようだ。それはそうだ、俺だって物で釣ると言われてあまりいい気はしない。しかし、それ以外に思いつかないのだ。

 

「一応、渡すとしたらどんなの?」

 

 興味本位でアリスが聞いてくる。いや、これは助け舟だ。とりあえず魔理沙に話だけでも聞かせなさい。そう目で言っていた。

 

「……相手が魔理沙だ、やはりというかもちろんキノコになる。そんで多分だが、幻想郷にはないのを知ってる」

 

 瞬間。

 

 ぴくっ、と。

 

 帽子が動いた気がした。

 

 アリスと2人で振り向くが、魔理沙は無反応。気のせいだったようだ。

 

「どんなものなの?」

 

「トリュフと呼ばれるものだ。絵に描いたようなキノコの形はしていなくて、基本黒くてゴツゴツしている。外の世界では世界三大珍味の一つと言われ、土の中にあって見つけにくいってのもあってかなり高値で取引されるキノコだ。そこまで有名なものなら、まず幻想入りはしないだろうから魔理沙も知らないはずだ」

 

 ぴくぴくっ。

 

 動いた。

 

 2人とも瞬時に振り向く。くっ、気のせいか。

 

「……食べ方としては、トリュフをスライサーで削っていろんな料理に入れて食べる。食材というよりは、パスタに入れる粉チーズのような感覚で使われることが多い。もし仮に魔法の材料として使えなかったとしても、美味しく戴けることうけあいだな」

 

 ピクピクッ。

 

 目標が動く。

 

 ばっ、と素早く振り向く。

 

 すっ、と戻っていった。

 

「……友人である魔理沙のために、予約とか金銭的な問題で時間はかかってしまうが最ッ高級品を用意するつもりだ」

 

 がばっ。と顔をあげた。

 

 しゅばっ、と振り向く。

 

 さっ、と目をそらす。

 

「……それでも許してくれないならしょうがない。高値なのは確かだし、贈ること自体を白紙に「しょうがねぇな!グチグチ言うのはわたしらしくないし、それで折れてやるよ!」……そうか、よかった。よし、じゃあ冷める前に食べよう」

 

 今日一番というぐらいに元気に復活した魔理沙。女心は秋の空やらどこへやら。さっきまでの沈んだ感情は消し飛んだようだった。

 

(チョロいな)

(チョロいわね)

 

 霊魔とアリスは同時にそう思ったが、口に出すことはなかった。

 

 好奇心とは恐ろしいものだと、アリスの料理に舌鼓を打ちながら霊魔は思ったという。

 

 

「しかし、魔理沙の片付けが少し遅れてるのを除いて大分順調だな。このまま行けばいいのだが」

 

「心配は無用よ。魔理沙もなんだかんだで手伝ってくれてるもの」

 

 午後1時頃。霊魔は時計を見て呟き、アリスはそれに優しく応えた。折り返し地点は越えただろうと、安心しながら上から埃をはたいていく霊魔。

 窓を拭いていくアリス。途中から魔理沙も「援軍だぜ!」と参戦し、3人体制で作業が進んでいった。

 

「そこの机拭きの洗剤を取って……いや、いいわ」

 

「ん?どうしたんだぜ?」

 

「アリス、ついでだ。ここまで出来るようになったぞ。そら」

 

 洗剤に手を向け、思い切り引くと洗剤が霊魔の方に引っ張られるように勢いよく飛んで行く。洗剤は手に収まり、霊魔は歯を見せてにやけた。

 

「あら、すごいじゃない!」と、嬉しそうにアリス。

 

「え!?何したんだぜ!?」と、驚きを隠せない魔理沙。

 

「糸を霊力で創ったんだよ」霊魔は得意げにそう言い放つ。

 

「糸?」

 

「糸ってのは実は汎用性が非常に高い。霊力でそれを創れるならかなり行動の幅が広がると思ってな。少し前にアリスから教えて貰ってたのさ。まだ細すぎて見ることができないし、千切れたらすぐに霧散して無くなるが。……まぁ、洗剤を引き寄せるには十分な強度って事さ」

 

「霊魔って凄いのよ。ある程度のコツを掴むとすぐ出来るようになっちゃって。人形を操る気がないのが残念でならないわ」

 

 アリスは自分の事のように喜んでいる。

 

 こいつって実は凄いのでは。と、魔理沙は今更ながら感じた。アリスの言っていることを本気にするならば、一日かそこらで糸の出し方を掴んだということである。成長速度が目に見えて速い。

 

 本人は気にせずに魔理沙の研究用の机を拭いているが。うわっ、口笛吹きながらやってるけど口笛ヘッタクソだな。息を吐いてるだけにしか聞こえないぜ。

 

「魔理沙」

 

「ん?」

 

 アリスが小さめな声で話しかけてきた。

 

「彼、習得が速いのもあるけれどそれ以上に興味深い事があったわ」

 

「なんだ?」

 

「身体を少し調べさせてもらったの。……霊力の他に魔力も微かながら検知したわ」

 

「え、それってつまり……」

 

「ええ。彼は魔法を使いこなす才能がある。今は霊力が体の大半を占めているけれど、扱いは相当なものよ」

 

「マジか。でも、なんで魔力があるかもって思ったんだぜ?」

 

「彼が使ったからよ。私の糸は魔力を編んだもの。彼は霊力で作りたかったみたいで最初は全然上手くいかなかった。それでコツを教えたんだけど、それでも上手くいかなくて」

 

 アリスの目は真剣に語っていた。『彼は恐ろしい』と。空気が引き締まる。

 

「最初はかなり苦労してたからどう教えようか途方に暮れてた時、彼はわたしの身体を見始めたのよ。『観察させてもらう』なんて言われてね。もちろん下心なんてなかったけど、舐め回されるように見られたわ」

「そこからよ。彼は……体になかったはずの魔力を生み出した。それも()()()()()()()()で創りあげたの。聞いたらイメージも、体勢も、糸になるまでの過程も昔の私。魔法を覚えたばかりの私にとても似ていたわ。違うのは成長速度のみ。まるで今までの私を短くして映像で見せられた気分よ。そして何より」

 

「彼はほぼ完全な投影が可能なの」

 

 今は魔力から霊力にエネルギーを転換して糸を生成、使用している。とは言っていたわ。と、続ける。しかし、アリスの問題視したところはそこではなかった。

 

「将来、魔法使い以上の何かになるわ。それほどまでの逸材よ」

 

「だからこそ……怖いわ。とても」

 

 

 

 掃除するなら徹底的に。疲れただろ。休んでていいぞ。

 

 霊魔はそう言って、外の壁や屋根を掃除しにいった。

 

 そこまでしなくてもいいとは思ったが、アリスの話を聞くには都合が良かったのでそのままやってもらうことにした。ていうかあいつ、なに喋ってたか全然聞いてなかったのか?

 

 途中から感情を思いもよらないところから吐き出したアリス。真意を聞くために自分から口を開く。

 

「……なんで怖いんだぜ?あいつはいい奴だ。少なくとも私はそう思ってる。アリスがなんでそう思うのかを知りたいんだぜ」

 

「彼がいい人なんて分かってはいるの。でも、それだけなのよ。誰もが少し前まで裏だけでなく表すら知らなかったのが異常で、今も知れていないというのがおかしいとわたしは思う。そんな彼がもし、何かの拍子に敵に回った時、あらゆる人物の投影模倣を終えた時、私たちはこのままだと多大な被害を受けるでしょうね」

 

 ここ一年を振り返る。彼が幻想郷に来て一年とちょっと。それまでの彼を。

 気付いたらこの世界にいて。

 気付いたら住み着いていて。

 

 気付いた時には仲間として加わった青年。

 

「信じられる?一年経つギリギリまで誰も名前を知らない。素性も知らない。能力さえも知らなかった。今も分からないままよ。やっと最近名前をあなた達が考えて名付けたことも知っているけど、それでもそれだけじゃない?」

 

 それは魔理沙も疑問に思っていた。好きなものとか他愛のないものなら魔理沙もある程度は知っているが。彼の根幹。心の奥までは誰も知らないし覗いたこともない。サトリ妖怪のさとりもまだ霊魔のココロの中を見ていないそうだ。

 

「彼は何者なの?こっちが知りたいことは知ることが出来ない。彼は何も話そうとしない。敵か味方さえも分からない。好奇心で近づいて、唯一わかったのはおかしいぐらいの技術の習得速度と異常なまでの模倣とその投影。彼は一体、なにを隠しているの!?」

 

 アリスは頭を抱えた。それほどまで彼を気にかけていたと言うのか。魔理沙は何も言わずただただじっと待って聴く方に回っていた。

 

 ぼそり、とアリスがまた喋り始める。

 

「……楽しいのよ、最近。寂しいとふと思った時には魔理沙や霊夢が遊びに来てくれる。なぜ来たかと言えばと言われたら『霊魔が行きたいと言ったから』が大半よ。まるで私が寂しいのがわかるみたいに。一度、彼の前で嬉しくて泣いたこともある。彼の正体が分からなくてもいいと思った事は何回もあるわ!でも、だからこそ知りたい!裏がない人だと知りたい!酷い人ではないと知りたい!楽しい日々が嘘であって欲しくないのよ……!」

 

「霊夢みたいに恋愛感情ではないの。ただ『ひとりの友人』として彼は……とても優しくて楽しい人。それが間違いでない事を知りたい……」

 

 

「でも、彼はなにも教えてくれはしなかったわ……」

 

 

 彼ほどの才能を持っていてなお優しい人物ならば、他にもいるだろうと思っていた。だが、もし彼が敵なら精神的にも実力的にも勝てない。少なくとも自分はそうであると吐露した。

 

 魔理沙が口を開く。静かに、けれどしっかりと声を届かせる。

 

「アリス、いいか?」

 

「……何?」

 

「霊夢に聞いた話だ。あいつは家に霊魔を置いているからな。アリス以上に気にしてたりするのさ。特に気になっていたのはさっきお前が話した『名前』だ。霊夢は記憶喪失かと思い聞いてみたらしい。答えは『記憶喪失ではない』だ。ならば、なぜ教えてくれないのか。霊夢はかなり噛みついたらしい。霊魔もかなりたじたじしていたそうだ」

 

「で、言った事は『教えられないんじゃない。俺に名前は()()んだ』だったそうだ」

 

()()!?どういうこと!?」

 

「落ち着け……結局どういうことか教えてくれなかったってよ。『事情がある。それに触れてしまう事柄はまだ教えられない』だそうだぜ。確かそん時だな。『名付けられるなら構わない』とも言ったのは。おかげでまだ若いのに名付け親になっちまったぜ」

 

「霊夢でさえも……そうだったの……」

 

「冗談は見事にスルーか……。だがアリス、情報を渡さなかったのが問題じゃないんだ」

 

 魔理沙が座り直し、帽子を脱いだ。

 

「そのことを霊夢に教えてもらった時、同時に霊夢が直感で『未完成な人間』と感じた事を教えてくれたんだ」

 

「未完成?どう言うこと?」

 

「霊魔は今でこそ生活出来ているが、少し前までは何も出来なかったはずの人物と感じたそうだ。最低限の知識だけ持ってな。なんとなく納得できる要素があった。『好き』の感情は知っていても、その後の恋人同士の行動はほとんど分かっていなかったようにな。確かに一物の何かを抱えているのは確かだろう。だがあとの事は全て、自分でさえも分かっていない。経験したことがない白紙の状態。それが霊夢から見た霊魔の印象だそうだ」

 

「……なるほどね」

 

 頭の後ろに手を回して、椅子の背もたれに思いっきり体重を乗せる。そして、アリスに向けて朗らかに笑ってみせた。

 

「あいつが将来、味方になるか敵になるかっつーことなら、大丈夫だろ。あいつが優しさはあいつのいう恩人が色を付けて教えてくれていたことだと思う。後、なんだかんだで霊夢の事が好きだし。そんな事はしないどころか、させてもらえないんじゃないか?」

 

「ええ、そうね」

 

「だいたいなぁ。お前は真面目で心配性過ぎなんだよ。それでも悩むぐらいならもうちょい早めに相談しろっての」

 

「う、悪かったわね。……ありがとう魔理沙」

 

「へいへい。少しでも安心したならいいぜ」

 

「話は終わった??」

 

「「わぁ!?」」

 

「話し過ぎだぞ。外から見てみろ、ピッカピカ過ぎて沈む夕日が屋根や壁に乱反射してしちまってる」

 

「い、いつから聞いてたの?」

 

「ん?いや、なんも。聞かない方がいいと思ってな。聞こうとも思わん。……ふむ、ところで母さんや、飯はまだかーい?」

 

 霊魔は答えた後、軽くおどけた。

 

 アリスが時間を見る。6時半過ぎを回っていた。口角を上げながらそれに応える。

 

「あらお父さん、ご飯ならさっき食べたばかりじゃない?」

 

「そうだったか?……いや、そうだったな」

 

「なに熟年夫婦みたいなことやってんだ」

 

 ぷっ、と誰かが噴き出した。あとの2人も我慢出来ずに、3人で笑いあった。

 

 

 

「部屋の中も見違えた事だし、帰るか。アリスはどうする?」

 

「時間も時間だし、魔理沙の夕飯作ってから決めるわ。魔理沙さえよければ泊まろうと思うけど。夕飯、あなたはどうする?」

 

「腹を空かせて待ってる奴がいるからな。博麗神社に戻ってから一緒に食べるさ」

 

「霊夢の扱いが腹ペコのペットね」

 

「……気のせいだ」

 

 そろそろ霊夢の腹の虫が鳴き始める時間だ。弁当は持たせたが、正直不安である。もしかすると空腹で既にぶっ倒れているかもしれない。流石にあり得ないだろ。……たぶんきっと。

 

「おい霊魔!」

 

「ん?おー魔理沙、俺そろそろ帰るな」

 

「これを持っていけぇぁ!」

 

「ちょ、投げんな!?……なんの本だコレ?」

 

「魔理沙!?コレって……」

 

「……魔法の基本が書いてある私御用達の本だ。アリスから聞いたぜ、お前が魔力を持っていることをな」

 

「え?そうなのか?」

 

「え、そうよ?……もしかして気づいてなかった?」

 

「全然」

 

「だから、貸してやる。私の大事な本の一つだ。必ず返せよ!」

 

「うん、分かった。とりあえず『永遠に』借りておこう」

 

「てめぇ!!」

 

「冗談だ。ありがたく受け取る。必ず返すよ。じゃあな!」

 

「ああ、またな!」

 

 ……アリスと何か話してた時に良いことでもあったかな?なんてことを思いながら、帰路につく。

 

 

 今日は泊まりたい、とアリスは言っていた。きっとアリスと魔理沙は、今日の夜を楽しく過ごすのだろう。

 

 友人という関係の何と美しいものか。

 

 

 あの関係は、羨ましいな。とても。

 

 

 

 一応は頑張って早めに帰る、と俺は言った。だからと言って、博麗神社での夜が楽しくなる訳ではなくて。

 

 恋人という関係の何と醜いものか。

 

「ご……ごはん……」

 

 倒れている素敵な巫女のステキなすがたを見るハメになってしまった。

 

「3時のおやつをちゃんと作っておいたはずなんだが、まさか食べてない……あ、無くなってた。よかった」

 

 

 

 

「遅い」

 

「はいはい」

 

 もっちゃもっちゃ、とふくれっ面になりながら食べている霊夢。頰が膨らんでいるのは怒っているからか?それとも食べ物が入っているからか?

 

「もう7時よ?流石に待ちきれないわよ!」

 

「10分だか20分でそのご飯を作った俺をまず褒めてくれ。あと、夕飯は7時か8時ぐらいが普通と聞いたが」

 

「それは夜食の時間よ」

 

「……最近ホント食い意地張ってるよな。そろそろ制限しないと太r」

 

「いい度胸ね。次は狙うわ」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 圧倒的敗北。彼女には勝てなかったよ。ほおを掠めた霊夢の箸が後ろの壁にめり込んで刺さっているし。なにこれ怖い。

 

 しかしよく食う。身体の体積に合わない量を食べるから、食卓にはまだ付かずに霊夢用の2、3品を追加で作る。昔は金がない所為で少食と聞いていたが、最近は軽く幽々子と張り合えるらしい。

 

 流石に冗談だろう。

 

 嘘だと言ってくれ。

 

 

 

 

 家計が火の車なんだッ!!

 

 

 

 

 

「何、悩んでるの?」

 

「ん?」

 

 唐突に言い出された言葉に反応出来ず、聞き返してしまう。変わらずもっちゃもっちゃと食べているまま、霊夢はまた声をかける。

 

「だから、何か悩んでるでしょ?」

 

「……いや、まぁ、あることにはあるが。……なんで分かった?」

 

「なんで分からないと思ったの?」

 

「…………ふぅ」

 

 どうやら霊夢には頭が上がらないらしい。女の勘とか言う奴だろうか。単純に凄いと思えるし、気付いてくれたことに嬉しさが湧いてくる。

 

 

「あんたが悩むことなんてほとんどないんだから気づくに決まってるでしょ。ほら、言ってみなさい。あんたが大好きな博麗の巫女がなんでもバシッと解決してあげるわ」

 

「……本当にか?」

 

「本当よ。さ、言ってみなさい」

 

「……いや、あ、うーん……………

 

 

 

 

 お…………お金を……貸してくれるか?」

 

「え」

 

「……今日魔理沙を怒らせてしまって、お詫びにお高いキノコを買ってあげることになってな。軽く調べたら凄い値段なんだよ。少なくとも今持ってるお金を集めても払えないぐらいに。いや、正直ナメてた。すまん」

 

「…………ごめんなさい。無理です」

 

 スゴイ葛藤してた。流石に金だけは無理なんです。そう涙目で言われた。敬語に何故かなってるし。まぁ、こればかりは仕方ない。

 

 本人曰く、「霊魔も悩んでた事だし、たまには自分のカッコイイところを見せたかった」との事。髪飾りのリボンまで心なしか悲しそうに垂れていた。かわいい。

 

 

 

 夜、飲酒、縁側にて。

 

 グラスに冷酒を入れて少しずつ呑む。空を眺める。雲は少しあるが、いや、あるからこそ、月は映えていた。

 

 肴としては十分だろう。

 

 月光が霊魔を照らす。酒すら光り、より美味くなるように感じた。酒をもう一口煽る。酒は弱くはないが、そこまでは呑まない。毎回の晩酌も一杯で終わる。限界まで呑んだことはないが、今だに酔いつぶれたことがない。宴会では大概片付けの役目である。

 

 まぁ、そんなことは今はいい。今はこれだ。

 

 魔理沙から渡された魔法の本。表紙はよく分からない記号が羅列されている。(よく分からないが、ルーンと呼ばれるものか?)この魔法の基本構造が記されていると思われる本に霊魔は少なからず興奮を隠せないでいた。

 

 魔法は、決して万能ではない。

 

 霊魔自身、そこまで便利だとは思っていない。むしろ危険が伴うことだと分かっている。

 

 それでも男たるもの、未知のチカラ、魔法や超能力に憧れるだろう(個人差があります)

 

 そして、魔法を扱うための最初の1ページ目を開いて、

 

 

 固まった。

 

 

 思考再開。「ん?」と何度も呟きながら本を見回す。もう一回開き、閉じ、後ろを開き、カバーを取る。

 

 

 分かった。

 

 

「これ、カバーと内容が違う。中身が虫の図鑑だこれ……」

 

 衝撃のあまり、人目も憚らずにうなだれる。拍子抜けだ。これならオモチャとかのなりきり魔法使いセットの方がまだいいだろう。ムシて。ムシてなんだよ。

 

 ちくしょう。

 

 

 森の向こうから虫の鳴き声が聞こえてきて、妙に煩わしく感じた。




アナザータイトル「不変」

霧雨魔理沙

大体、何かあった時には首を出してくるトラブルメーカー。今回は首を出してないのに巻き込まれた。乙女脳の盗人キャラは相変わらず。霊魔とは仲よりも息が合い、実はどちらかがボケ始めると、もう片方がすかさずツッコミに回るため、ボケのみのカオスな空間になる事がない。弾幕はパワーだ!……ん?速さが足りない?知らない子ですねぇ……。

アリス・マーガトロイド

相変わらずのオカン属性。巷で噂のオトンとも仲はいいが、お互い異性としてみておらずに友人として接している。魔理沙大好き。めっちゃ大好き。霊魔特製魔理沙人形を使っておびき寄せたところ、見事ヒット。ワナにかかった実績がある。今でも魔理沙人形は枕の隣にあるとかなんとか。

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