幻想郷でまったり過ごす話。   作:夢見 双月

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実は上海紅茶館が東方の曲の中で一番好き。

始まりますぜ。


紅美鈴と紅魔館前での話

「よー!れーむ!」

「お邪魔しまーす!」

 

「あーはいはい。お客さんって、あんた達だったのね。とにかく上がりなさい」

霊夢はそう言って、チルノと大妖精を迎えた。

 

霊魔が言うには、

「魔理沙と対決(バカ)をやって勝ったから機嫌が良い。協力してくれた奴らにお礼でスイーツを作ったから、俺がいない時に来たら食わせといてくれ。ん?……お前の分だと?あるに決まってんだろ。三人分あるから、全部食べるなよ」

という事である。

 

冷蔵庫から小さめの三つの器を取り出し、小さなお客様の前に出す。

 

プリンを食べながら、最近離れることの多い霊魔の話でも聞こうと考える霊夢だった。

 

 

 

 

「霊力も魔力も、性質的には大きな差はない。……そうだな、イメージすれば分かりやすいか?霊力は白色で、魔力は青色又は水色のイメージだろう。だが、両方ともイメージで言えば寒色系の色と言えるだろう。ともすれば、性質が似てるかもしれないと思うのはそう難しくない。白色は……そうだな、暖色だとも言えるかもしれん。でも、霊力、だからなぁ。冷たい気がしないか?だが、この二つは形だとか、生成する方法が異なる。霊力は幽霊やポルターガイストなど非生物的な存在も使うからか、身体全体から湯気みたいに放出されてて、霊力を扱う奴らは身の周りに纏うのが特徴だ。霊力ってのは存在感のようなものだから使ってもしばらくしたら回復する。何もしなくてもだ。だが、魔力というのは身体の内側に蓄積という形で保有し、魔力の補充にもイメージトレーニングと若干のコツが必要になる。よく言われるのが、蛇口をひねるようなイメージ、というものだな」

 

「ふぅむ」

 

「以前、魔理沙にバレずにチルノとイカサマした時に漂う空気の温度の面で性質が似てるせいでチルノが誤認しまった訳だが、実はこの時にもう一つ、魔理沙が懸念したであろう事がある」

 

「何ですか?」

 

「魔力操作だ。さっきも言ったが、霊力と魔力では貯まる場所が違う。しかも、霊力は通常なら気体の様な感覚で、魔力は液体の様な感覚なんだ。だから、霊力は通常弾の発射や密度を高くして硬質化させる単純強化がしやすく、魔力は内側からの強化と道具への魔力注入を得手としている。魔理沙の八卦炉なんかは魔力を注入する事で魔弾に変える典型的なアイテムだろう」

 

 

おっと、話が脱線したな。と言って、霊魔は話を戻す。

 

 

「俺のイカサマって言うのは、身体を覆っている霊力を広範囲に高密度で放出するに等しい。それでいて霊力の操作で太い尻尾の様な形状の物を作っていた。それをチルノに温度差で認識させて、尻尾の本数で選択肢の一から4を答えさせていたということだな。だが魔力の場合、まず液体状の魔力を気体のようなものにして体に纏わせた上で放出するという手間がかかる。本来、これは魔法使いにとって無駄な行動だ。何のために魔法の術式だの何だのがあるんだって話になるからな。道具や術式に魔力注入するという形を取れば霊力が得意な使い方なんてすぐに上回る。そんなものをただ解決策に気付いただけで成功出来るかまではわからない。それほどの事を魔理沙はやってのけたのさ」

 

「……つまり、私に何を言いたいんですか?」

 

「……」

 

 

 

「あー、すまん。ただのライバル自慢だこれ」

「ですよねぇッ!!」

 

現在、霊魔アルバイト中。

内容、紅美鈴の話し相手。である。

 

 

 

「面白くはありましたが、イマイチピンと来ません。私が使っている、妖力の話とかはないんですか?」

「ない。使えないから興味ない」

「どうせなら、私に関係ある話にしてくださいよぉ!特訓内容に反映出来ないじゃないですか!!」

「門番そっちのけでそんなもん考えてていいのか?」

「敵なんて気配で分かりますよそんなもの」

「そうか」

 

霊魔は壁にもたれかけながら、先程の話の本題を思い出そうとする。しばらくしてから、霊魔は美鈴に話しかけた。

 

「そうだ思い出した。だから武道でよく聞く、気の使い方を教えて欲しいって言おうとしたんだ」

「気ですか?」

「ああ、気と呼ばれるものはエネルギーに近い物だと聞いた。だったら、使い方次第では簡易的な治療も出来る様になるからな。一朝一夕でできるようにならなくても、身体の循環を通して感じる気の訓練をすれば自然と霊力や魔力の操作性も上がると踏んでる」

「成る程。確かにそれはアリですね」

「実は、そういう力の緻密な操作が苦手でな。それも克服出来たらと思う。どうだ、『気を操る程度の能力者』」

「面白いですね。やりましょうか」

 

流石にヒマを潰していた二人である。身体を動かす事に躊躇いはなかった。

 

 

 

 

 

「やはり、素手に一家言あるメンツは格が違う。俺も大幣を使ってないとは言え、ここまでボロボロになるとは」

「私の攻撃の全てを回避してなお、昼ごはんの時間だからと中断した人の台詞ではないですね」

「かすり傷もキズはキズだ。俊敏には自信があったのだが」

 

霊魔はお手製の握り飯を頬張り、美鈴も咲夜が届けてくれたサンドイッチを食べている。

 

不意に美鈴が霊魔に声をかけた。

 

「貴方の戦い方って、どんなやり方なんですか?」

「ん?さっきも見たろ」

「あんな防戦一方な戦いをする人に見えないから言ってるんです。貴方は弾幕が苦手だからと殆ど戦わないでしょう。まともに戦ったところを見た事がないんです」

「……うん、そうだな……」

 

確かに、とでもいいそうな顔で霊魔は思案し始める。他人の身振り手振りを観察するのが得意な霊魔も、自分を省みる事をした事が少ない為に言葉を詰まらせた。

 

「まぁ、さっきのは全力ではあったが本気ではないな」

「ですよね。失礼ですよ」

「すまん。だが、その分観察していたんだ。美鈴の動きは武術というだけでなく、確実に敵を倒す技術としても有用な動きだと思ったからな」

「真似をする為ですか?」

「ああ」

「他人のものを見ても自分のものにはなりませんよ」

 

「そんなのは理解が足りないから起こる事だ。基本的な動き、肉体内部の働き、力の流れと強弱、その動作の用途や理由、さらにはその人を癖を見極めた上で自分の肉体で模倣する」

 

そう言って、左手を正面に突き出す。

その突きだけで、美鈴が先の戦闘で繰り出した突きであると、美鈴本人が感覚で理解できた。

 

「ま、さっきの一瞬でもこれだけ情報量を叩きださなきゃならん。防戦一方にもなるさ」

 

霊魔は大体の事を喋ると、美鈴は目を丸くしていた。

どうした?と、霊魔が聞くと、

 

「貴方って意外に理論派なんですね。ホントに意外です」

 

と、言われたので、しばらく顔をしかめていた。

 

 

 

「話を戻そうか。確か……その上で俺の戦い方だったな?基本は情報収集は欠かせない。出来る事ならさっき美鈴とやったように、お互い本気でもない試合を垂れ流すのが好都合だがな」

 

「む」

 

「気付いてねぇとでも思ったか?気の使い方を知りたいって言ってんのに、全然使わずに拳法の型を延々と繰り返しやがって」

 

「だって、そっちも手抜きだったじゃないですか」

 

「少しぐらい見せろよ。ケチ。……とにかく、情報を集めた後に戦闘。それでも、一撃食らわせたら逃げる。お前の様に取っ組み合うのは得意じゃない。やったとしても精々、自分の死期を遠ざけるのが関の山ってとこだ」

 

「避けるのもギリギリでしたしね」

 

「それはわざとだ。大きな動きばかりで避けていたら、連撃に対応出来ねぇだろ」

 

「その前に反撃すればいいじゃないですか」

 

「これだから脳筋h……なんでもない。口が滑っただけだからこっち見んな。まぁ、反対に言えば一撃必殺なら自信はある。それなら霊力を全部大幣にぶち込んでから薙ぎ払えば大軍を塵芥に出来る程の規模で破壊出来るからな」

 

「災害かなんかですか?」

 

「これでも人間だ。……たぶん」

 

「ダウトです」

 

「うっせぇ」

 

「ですが、さっきの話だと霊力を道具に注ぐのは面倒なんですよね?あの長い大幣(?)を使うのは非効率じゃないんですか?」

 

「それはあれがバケモンみたいな性能なだけだ。素手に霊力纏わせて殴るよりも強い」

 

「誰が作ったんですか」

 

「俺だけど」

 

 

 

「今日一番にアホっぽい顔になってんぞ」

 

 

 

 

 

「うまかった!ありがとな!」

「ご馳走さまです」

 

「お粗末様、なんて私が作ったワケじゃないけど」

 

チルノに氷水を、大妖精と自分にはお茶を用意してテーブルを囲う。

チルノは寝そべって日向ぼっこをしていた。

 

「……平和ねぇ」

 

ふと、そう呟く。

何かを訝しむものではなく、寛いでいるこの雰囲気から来たものだった。

 

 

「霊夢さん」

 

「なに?」

 

大妖精が霊夢に声をかける。

 

「霊魔さんって、どんな方何ですか?イマイチ、よく分からなくて」

 

恐る恐る、と言った感じで聞く大妖精。

言われてみれば、大妖精の気持ちは分かる。ただでさえ隠していない隠し事が多い霊魔の事だ。性格が良くても、全体像が見えないのは気味が悪いのだろう。

 

霊夢は言葉を選んで説明するために少々考え込んだ。

 

 

「霊魔は……そうね、私よりも強くて。そして、私よりも脆い人よ」

 

そして、自分なりの所感を述べた。

 

 

「もろい?」

 

「ええ。彼の精神的な問題よ。知識とか経験はある癖に、何というか、幼いのよ。無邪気さで言ったらチルノと同じくらい」

 

下手すると知識すら偏ってるけど、と付け足しながら霊夢は続けた。

 

「魔理沙と仲が良いのが証拠かしら。あいつはそういう子供みたいなヤツに好かれやすい性質だから」

 

「それがどうもろいんですか?」

 

「討たなければいけない敵を倒せない。存在するだけで悪なものを攻撃出来ない。同情してしまう。エゴに近いもので、博麗の巫女としては致命的よ」

 

微笑みながら、続ける。

 

 

 

「きっと、彼は幻想郷の為に誰かを切り捨てられない。とても優しい人」

 

 

 

 

 

「じゃあな美鈴。お前の事は忘れない」

 

「これが博麗の巫女のやる事ですかぁ!?」

 

 

なお、その頃。霊魔は美鈴を見捨てていたりする。

 

 

「いいのかしら?重ねて依頼する事になるけれど……」

 

「気にすんな。魔理沙に気づかなかったコイツが悪い。給料は全部コイツが払う手筈だから、追加の依頼料も吹っかけるさ」

 

「ちょっと優しそうに見えてドス黒い!?」

 

「そう。じゃあお願いね」

 

「任せとけ」

 

「私を放置して会話を進めないでくださぁいッ!!ちょ、咲夜さん!?襟を持たないで…………!ぁぁぁぁ…………」

 

 

美鈴は咲夜に連れて行かれた。

 

霊魔は、呆れながら息をつく。

何が気配で分かるのか。素通りではないか。

 

聞けば、俺と美鈴が戦っている間に魔理沙が忍び込んで、いつものように盗みを働いたとか。

 

主に魔理沙のヤツがここで盗むのは、大図書館にある魔法関連の本だ。だが、大図書館にいた魔法使いのパチュリーが実験的な研究を丁度行なっていたらしい。

 

恐らく、「集中を乱された。本ま盗られた。アイツまぢアカン」とか、パチュリーが咲夜にでも言ったのだろう。

 

じゃあ通したのは誰だ、となり。

 

シワ寄せが美鈴に来て今に至る。

 

おかげで、話し相手から門番にジョブチェンジである。

暇つぶしの為に呼んだ人に暇をつぶさせるのはなかなかいい度胸である。

そこまで怒りがあるわけではないのだが、シバく所はシバかねばなるまい。

 

 

 

門番をしてしばらく、ロクに客も来ないので腕を組みながら壁にもたれる。

正面の道が拓けている上に、湖があるのが問題だろう。誰もいない事が安易に分かる。湖の上に妖精がいる事もあるが、不幸にも今はチルノや大妖精と言った俺と関わりのある妖精はいない。

探せば他の妖精はいそうだが、知らない妖精に近づくなんてもはや不審者である。

 

だが、そもそも門から離れてはいけない事に気付き、どちらにしろ無理だと諦めた。

 

思わずあくびをする。

日差しが暖かいが、決して暑すぎるわけでもない。昼寝には最適な天気だった。

 

「まさか、眠気と戦う事になるとは。さて、勝てるかどうか……」

 

人知れず、霊魔VSシエスタが始まった。

 

 

 

 

霊夢はチルノ達が帰った後、だらけながら何をしようか悩んでいた。

 

ヒマなのだ。

 

最近は妖怪退治の依頼もなく、どうせならと霊魔に任せっきりになっていた家事をやっていたが、料理をしくじったおかげで折れた。

あの時は自分で何が起きたか分かっていなかった。気付いたら芯が残るアルデンテな白米が出来て、気付いたら、石のように硬い握り飯が完成していた。霊魔の苦笑いをしながらのフォローが本当に心にキた。

いつも……というか、昔の一人暮らしの時はこんな事はなかったはずなのに。

 

神社の掃除も珍しく、チルノ達が来るまでに終わらせてしまっている。

他にやる事がないか考える。

 

横になっていた体勢から寝返りをうつ。うつ伏せになり、頰が畳に乗っかった。むにっ、とほっぺたが潰れる。

 

妙に空虚な何かが辺りに漂っていた。

最近、芽生えた小さな違和感。

 

 

寂しさが、そこにあった。

 

 

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

……うん。

 

「会いに行こう。紅魔館にいたわよね」

 

霊魔の予定を思い出す。邪魔になるかとも思ったが、偶には魔理沙のように茶々を入れに行くのもいいだろう。

小さなモヤモヤを無くすために、早急に準備を始めた。

 

 

「霊夢さーん、遊びに……って、どこか行くんですか?」

 

「早苗……。……あんたも来る?門番やってる霊魔をからかいに行くんだけど」

 

「最近、色んなところで働いてるとは思ってましたが、そんな所にまでいるんですね……」

 

「いいから。来るの?」

 

「もちろん。行きますよ」

 

 

 

 

霊魔は目を閉じたまま。世界を感じる。

 

僅かな風を体で感じ、夕日に染まる体を認識する。

 

鳥の囀りを耳で聞き、小さな葉と葉が擦れる音をも聴き取る。

 

土の匂いを嗅ぎ、大地と後方の建物に漂うものを判別する。

 

 

 

脳内に格子状の空間を作成。

 

記憶から引用したマップデータを写し込む。

 

視覚以外の感覚で感じた全ての情報も心象風景に流出させる。

 

透明な起伏、形状に色彩が加わり、一つの箱庭が形成された。

 

 

そっと、目を開ける。

 

 

体には大粒の汗が滲み出ていた。

 

「……ふぅ。あぁ、きっつ」

 

思わずそう零した。

 

やろうとしていた事は、視界が遮られた際の地理の把握と敵の動きの察知である。

頭の中に立体的な地図を作り出し、感覚を通してリアルタイムに更新していく。そんなイメージの元、実践していた。

 

「ダメだ。一つ一つの情報を整理しないといけないからラグが出てくるな。そもそも、紅魔館の中の咲夜も脳内に投影してみたが……なんだありゃ。頭の中の妄想と絡まってヘンテコな動きをする時があるな。誰かの動きを察するには近くないと駄目か……」

 

霊魔は考えをまとめる。

 

「このやり方は駄目だ。複雑すぎて、何かを削らないと役に立たないな」

 

「何やってたんですか?」

 

視界を遮断しての周辺の把握する練習を終えると共に、緑のチャイナ服を着た少女が帰ってきた。

 

「ん……。暇だから、目をつぶって周りを察する訓練をしてた」

 

「感覚を鋭敏に……ってヤツですか。どうでした?」

 

「全然。頭が痛くなった」

 

「そうなんですか」

 

「お前はどうだ?説教は終わったか?」

 

「はい。絞られちゃいました」

 

てへっ、と朗らかな表情を浮かべて、すいません代わりますよ、と交代を促した。

 

「全く。やれやれだ」

 

 

「ところで霊魔さん。さっきのアレ。いい方法がある、って言ったら気になります?」

 

 

「……気にはなるが……教えてくれるのか?」

 

「まぁ。理論派の霊魔さんにはコツが少し掴みにくいかも知れませんが。

聴勁(ちょうけい)って、知ってます?」

 

「なんだそれは?」

 

「聴勁の『聴』は『聴く』と書きます。でも、これは聴覚を使いません」

 

「……??」

 

「やって見せた方が早いですね。まず、私は目を瞑ります。同時に、この目の前に出した右手の甲に、貴方の右手の甲を合わせてください」

 

「こう、か……?」

 

少し戸惑いながらも手を出して手の甲に合わせる。

 

「そうです。では、好きに動いてみてください」

 

「分かった」

 

美鈴の方向へ歩く。すると、同じ速さで後ろに下がる。

後ろに回り込もうとすると、必ず霊魔の方に正確に向く。

 

あらゆる不規則な動きの尽くに、合わされてしまう。

 

その間、二人の手は接触したままである。

 

 

美鈴は目を開いた。

 

「どうですか?」

 

「凄いな、これは……!」

 

「体全体をアンテナのようにして、相手の動きを察知する。これが聴勁です。慣れるまでが長い道のりですが、今のように合わせるだけでなく攻撃も避けることが出来るようになります。きっと役に立ちますよ」

 

「ありがとう。使わせてもらう」

 

「では、給料も事前に言った通りの金額で……」

 

「二倍から一・五倍くらいにはなるほどの価値だな」

 

「増えてるのは変わらないじゃないですか!?怒ってると思って、折角教えたのにぃ……」

 

「冗談だ。契約通りで構わん」

 

「ほんとですか!?流石霊魔さん!やりましたよー!」

 

「分かったから。うるさいぞ」

 

 

「しかし、終わりまで後1時間ちょっとか。思ったよりも長いようで短い……か?少なくとも、俺は門番には向いてなさそうだ」

 

「そうですか?意外と似合ってると思いますが」

 

「やめてくれよ……」

 

「む」

 

「お」

 

同時に正面の人影に目を向ける。

その気配が強者のものであることに美鈴が。いつもの知己であることに霊魔が声を漏らした。

 

「霊夢さんと早苗さんじゃないですか。霊魔さん目当てですか?」

 

「そ。このバカ、ちゃんとやってる?」

 

「ひでぇこったな。早苗まで来ることはないだろうに」

 

「いいじゃないですか!楽しい事はみんなで共有ですよ!」

 

「楽しく見えるか?これ」

 

「はい。とても楽しく見えます!」

 

「お前たちにとって、だろうが」

 

霊夢と早苗が来た事により、会話が流れるようになった。

美鈴は凄い嬉しそうな顔で喋っていた。そんなに門番がつらいならやめればいいだろ。

 

そう言うと、やめたくない理由があるんですよ。と言われたので、好きにしろ、と返した。

 

 

 

 

「いつまでいることになってるの?」

 

「後、数分程度だ。どうせなら酒瓶でも買ってから帰るか?」

 

「良いわね。そうしましょう」

 

「やっぱり、この二人はいいですよね!分かりますか!?これが!」

 

「わ、分かりますから……!グイグイ来すぎですよ早苗さん!」

 

 

 

「……!おい美鈴」

 

「っ!はい!」

 

気付いたのは霊魔だった。呼びかけに応じると共に美鈴が。その言葉に反応するように二人も気付く。

 

「今日は紅魔館の中で花火大会でも予定があったのか?」

 

「いえ。むしろ、静かに優雅に過ごしましょうと言われたぐらいですよ」

 

「厄介なお前らのとこの妹さんか、それとも……」

 

「敵、ですね……!」

 

紅魔館の壁が破壊され、吹き飛び。

中から、異形の人型が現れた。

 

邪悪な爪。禍々しいツノ。そして、全てを魔に堕とすかのように真紅に輝く眼がこちらを覗いていた。

 

「デーモンを絵に描いたら、大体あんな感じじゃないか?」

「あんたはそんな画力ないでしょ」

 

「そう言えば、パチュリー様が召喚術の実験をするとかなんとか……」

「どう考えてもそれじゃないですか!?」

 

 

「「来る(ぞ)(わよ)!!」」

 

 

正面の門扉を破壊して強靭な爪が四人に襲い掛かる。

 

霊魔がデーモンの手首を全身を使って受け止め、霊夢が顔を横に蹴り抜く。

 

しかし、デーモンはにたりと笑い、目の前の霊夢を見て目の光を増幅させた。

 

すかさず、胴に向かって美鈴は掌底を、早苗が飛び蹴りを叩き込む。

踏ん張るデーモンに博麗の二人は手に霊力を込めてさらに押し込んだ。

 

「「くたばれ!」」

 

食らって堪え切れなくなったデーモンが横の雑木林に吹っ飛んでいった。

 

四人は警戒しながらデーモンの様子を伺う。

 

 

 

「頃合いか」

 

低い声が、三人の耳に届いた。

 

「何が、ですか?霊魔さん」

 

 

「なぁに、そろそろこの幻想郷でも手の内を見せようと思ってな」

 

 

それは三人を驚かせるに余りある言葉であった。

隠し続けていたものの一つを今明かすと言ったのだから。

 

 

「本気なの?霊魔」

 

「本気さ。霊夢。見せるなというならやめるが、あいつは本当の悪魔のようで全然堪えない様子だったからな。やるしかないだろう」

 

 

「勝てるんですか!?アレに!?」

 

「勝てるぞ。明日は疲れて寝込むかも知れんが」

 

 

「あなたは戦いを見せたくないのでは……」

 

「戦い方の知りたいと言ったのはお前だろう、美鈴。なぁに、一撃必殺には自信があると言った理由、ここで教えるとしよう」

 

 

 

「中々凶悪な相手だ。迅速に終わらせるとしよう。霊夢、10秒くれ。拘束か何かで隙を作ったら全員離れてろ。余波がどうなるか俺も分からんッ!」

 

と言って、霊魔は空へ飛ぶ。

 

霊魔には飛ぶ力は持っていない。そう霊夢が思っていたのも束の間。

 

 

 

霊魔は、空を駆けた。

 

 

 

見えない床を走るように。徐々に加速していき、やがて見えなくなった。

 

 

 

 

幻想郷の端まで来た霊魔は、見えない壁に着地した。見上げるはその先の悪魔。

 

霊力の強化を全身に施す。鎧のように。これから起こる事態に耐えうるように。

 

 

そろそろ、霊夢が隙を作る頃合いだろう。

 

 

空を駆ける。

一歩走る毎に速度が異様に上昇する。

 

加速。加速。加速。加速。加速。

 

 

既に体には限界が来ている。しかし、潤沢な霊力によって密度を高くすることにより、Gに耐える体を即席で作る。

 

 

加速。加速。加速。加速。加速。加速。加速。

 

視線の先に紅魔館が見えた。次の瞬間には。

 

()()()()()()()()()()

 

「戦力過多だが。許せ。貴様如きの悪魔に幻想郷を潰させるわけにはいかない。早々に退場願おう」

 

 

 

 

 

「瞬間時速、1光年。」

 

 

 

 

 

 

「『陽は昇り、流星になりて(ただの体当たりだ)』」

 

 

 

 

掠っただけであろう、対象は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一献注いで、少し口付けた後に一気に煽る。腕の痛さに思わず顔をしかめる。

少なくとも、さっさと寝たい気分だった。しかし、痛みが治まらずに酒の力を借りようとしている始末である。

 

 

デーモンを倒したのはいい。放置してはいけない存在だ。

 

 

しかし、やりすぎた。

デーモンは影も形もなく崩壊して爆砕し、三人は吹っ飛んで林の中で強打、打ち身がアザだらけで大変な事になった。自分自身も全身が重度の筋肉痛でまともに動けなかった。

さらにそれだけでは治まらず、湖と紅魔館の間にクレーターが出来るという面白おかしな状況にしてしまった。後日、改めて謝りに行く。

 

とりあえず、早苗と霊夢に肩を貸してもらいながら帰宅した後、三人で能力の説明をした。

 

『空を駆ける程度の能力』。それが俺の能力である。

 

詳細はまた後で話す、と言って、全員が急な戦闘で疲れたので早々に切り上げた。

 

 

途中、早苗に「霊夢さんと能力が似てますね」と言われた。

 

 

「そうだな」と返しておいた。

 

 

という訳で、夕飯も(霊夢が口に運んでくれる事で)済ませ、晩酌も霊夢が先に寝てしまったために一人で行っていた。

 

腕が動かすだけでもう痛い。さっさと寝よう。

 

 

 

結局、詳しい事情を明日以降に全部放り投げて、床についた。

 

 

 

やはりというか、全然眠れなかった事を日記に記しておく。

もうあんな無茶はしない、と、心に決めた霊魔だった。




徐々に秘密は明かしていくスタイル。
霊魔はタイミングを見て情報を開示していくところがありますね(読者感)。

結局、デーモンが現れたのは何故か?
霊魔の能力の詳細とは?
そんなこんなは次の話にぶっ込みますのでお楽しみに。

次回は「みんな大好きメイド長」でお送りします!
ゆめみんでした。またね!

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